インタビュー

「日本市場は諦めない!」Head of Xboxフィル・スペンサー氏インタビュー

「Halo」と「Gears of War」の新作を開発中! 「Scalebound」開発中止の理由とは!?

6月12日収録(米国時間)

 「Xbox E3 2017 Briefing」では、コードネーム“Project Scorpio”が遂に秘密のヴェールを脱ぎ、Xbox One Xとして11月7日(日本では発売未定)にローンチすることが発表された。ゲームコンソール史上最高の性能を備えたマシンということで、非常に発売が待ち遠しい1台だ。

 今年は新型プラットフォームのローンチということで、Head of Xboxを務めるフィル・スペンサー(Phil Spencer)氏に数年ぶりにインタビューする機会に恵まれた。限られた時間だったのと、Spencer氏自身が熟考しながらたっぷり語るタイプであるため、あれこれ深く掘り下げた質問はできなかったが、Xbox One Xを新たなXboxファミリーに加えた上での、新たなXboxの戦略や、我々日本のゲームファンとしてはもっとも気になる日本市場の扱いについてなどいくつか質問することができた。

 個人的にもっともしたかった質問は、なぜ「Scalebound」は開発中止にしなければならなかったのかということだ。Spencer氏は、日本のメディアから「Scalebound」という単語が出た瞬間、すべてを覚悟した表情になり、Spencer氏も残念な出来事だったようで、絞り出すように発言していたのが印象的だった。ぜひ最後まで一読頂きたい。

Xbox One Xのネーミングの意図とは?

Head of Xbox Phil Spencer氏
アジアのメディアからは「ドラゴンボールファイターZ」を推す声が聞かれた
Xbox One X
「FFXV」はXbox One Xで4K対応する

Phil Spencer氏:皆さんの顔はよく覚えている。また会えて嬉しいよ。昨日のブリーフィングはどうだった? 良かった? 素晴らしい? それは良かった。

――格闘ゲームの「ドラゴンボール」が特に良かった。

Spencer氏:「ドラゴンボール」! 前回、日本に行った時に、実際にプレイしたんだが、「ハイッ、ハイッ、ハイッ」ってとてもクレイジーなゲームだったよ(笑)。今回お見せすることができてとても嬉しい。それから、「ファイナルファンタジーXV」の田畑さんと彼のチームにも会うことができ、新しいコンソールで4Kの「ファイナルファンタジーXV」を見ることができた。ほかにも「バイオハザード7」など、様々なタイトルに巡り会うことができてとてもよい旅だったよ。日本の開発者コミュニティを支援することは私にとってとても重要なことなんだ。

 今年のブリーフィングでは、42タイトルのゲームをお見せした。そのうち22タイトルはXbox Oneのエクスクルーシブだ。そして、世界でもっともパワフルなゲームコンソールXbox One Xをお披露目できた。大きな4Kディスプレイで、真の4Kゲーミング、4Kストリーミングが楽しめるコンソールを我々は作り上げた。ゲームファンは家庭で手軽に4Kエンターテインメントを楽しむことができるようになることが発表できて、とても良い日だよ(笑)。ファンイベントでは、ユーザーコミュニティから強いエネルギーを感じることができて、オリジナルXboxの後方互換性について大歓迎されたよ。さあ、皆さんからの質問を受け付けよう。

――Xbox One Xのアジアマーケットにおける基本ストラテジーについて教えて欲しい。

Spencer氏:あなたもご存じのように、アジアはとても1つのストラテジーでは捌ききれない複雑なマーケットだ。明らかにマーケットが異なるし、異なるテイストのゲームが好まれる。今回、日本のゲームや韓国、中国のゲームをラインナップに加えることができてとても光栄に思っている。

 現在は多くのアジア諸国にゲームデベロッパーが存在している。彼らはアジアの好みを知悉している。我々は、彼らに対して、XboxやWindowsを通じてグローバルで成功するノウハウを提供することができる。今回発表したXbox One版「黒い砂漠」もそのひとつだ。

――「黒い砂漠」の発表には驚かされた。もともと伝統的なPC向けのMMORPGが、ゲームコンソールに来るとは思わなかったから。

Spencer氏:それは良かった。

――ネーミングの意図について聞きたい。なぜ“One”を継承したのか、そして何故“X”なのか?

Spencer氏:まず、Oneを継承した理由は、Xbox One Xが、Xbox Oneファミリーの一員であることを明確にしたかったからだ。これまでに購入したすべてのゲーム、あらゆる周辺機器が、Xbox Oneでもそのまま利用できることを伝えたかった。

 Xを採用した理由は、それが初代Xboxからのスローガンだからだ。Xとは力の象徴であり、Xという単語は、我々のXboxビジネスにおいて重要であり続けていた。Xbox One Xというネーミングは、我々の原点を想起させるに十分だと考えたんだ。

 その一方でファミリーの一員であるXbox One Sは、今年多くのゲームファンが手にすると思う。249ドルという、ファミリー向けのエンターテインメント端末としてアピールできるプライスポイントに設定している。

 それに対してXbox One Xは、もっともプレミアムなゲームコンソールとして、比類のない真の4Kゲーミング体験が堪能できる。ただし、万人向けのゲームコンソールではない。Xbox One SとXbox One XというXboxファミリー全体でアピールしていけたらと考えている。

――今回バラエティに富んだタイトルが発表されたが、その一方で、「Halo」や「Gears of War」に匹敵するようなブロックバスタータイトルに欠けているという印象も受けたが、Xbox One Xのローンチタイトルについてはどのように考えているか?

一部の発売済みタイトルもXbox One Xに対応する

Spencer氏:タフな質問だな(笑)。じゃあ、「Halo」と「Gears of War」についてから話そう。私はCoalition(編注:「Gears of War」シリーズの開発元)と343 Industries(編注:「Halo」シリーズの開発元)に先月訪れたばかりなんだ。今回お見せしたように、「Gear of War 4」は、Xbox One Xで4Kに対応するし、すでに両方のスタジオで、未来のプロジェクトが動き出している。

 私としては、過去最長の時間を使って42タイトルを紹介できたことをとても誇りに思っているし、「Halo」や「Gears of War」の新作を発表しなくてもXboxの多彩なラインナップをアピールできたと思っている。「Halo」や「Gears of War」はいずれ来るし、個人的には「Crackdown 3(邦題「Riotact」)」や「Sea of Thieves」にも注目して欲しいし、新規IPとなる「Super Lucky's Tale」や、「Ori」シリーズの次回作「Ori and the Will of the Wisps」にも注目して貰いたい。最大のゲームと言えば「Minecraft」だ。あの「Minecraft」がついに4Kに対応する。「Halo」や「Gears of War」の新作については将来話せる機会が来ると思う。

――今回VR/ARについての発表がなかったが、Xbox One XではVR/ARは積極的に展開していく意図はないのか?

Spencer氏:今WindowsでMR(Mixed Reality)にフォーカスして取り組んでいて、多くのゲーマーやメーカーが関心を示している。Windowsが進めているMRは、ゲームコンソールも大きなテレビも、部屋中に延びるケーブルも必要ない。我々は年内にWindows MR向けにMRタイトルのリリースの準備を進めている。同時にWindows MRデバイスも非常にリーズナブルな価格で発売する準備を進めている。

 それに対して我々は今回は、コンソールゲームやPCゲーム、そしてゲームコンソールにフォーカスした発表を行なった。私が言いたいのは、我々のカスタマーはVR/MRを求めているとは感じられなかった。だから我々としても時期尚早だと思い、VR/MRをプッシュしなかった。この点について興味があるので逆に質問したい。日本にVR/MRに関心のあるゲーマーは多いのか?

――ゲームファンは確かに関心を持っている人はそれほど多くないが、ゲームクリエイターには多いと思う。

Spencer氏:バンダイナムコのガンダムのVRエクスペリエンスはとてもいいと思った。バンダイナムコの受付に置いてあってルームタイプで中に入って楽しめるものだ。体験まではしなかったんだが、とても印象に残っている。それはそうと、確かにクリエイターはVR/MRに関心を持つべきだと思う。なぜなら、ワールドクラスのVR/MRタイトルを開発するためには多くの学ぶことが必要なためだ。今はまだ出ていない。その点においてWindowsプラットフォームはMRを学ぶために最適な環境が整っていると言える。それはゲームにおいても同様で、PCにおいて切磋琢磨する環境が生まれている。ただ、それもまだ過渡期の段階だと思う。

――今回発表したラインナップの中で、個人的にもっとも注目しているタイトルは何か?

Spencer氏:3つある。1つは、本日PC Gaming Showでアナウンスした「Age of Empires Definitive Edition」。オリジナルの「Age of Empires」が帰ってくるんだ。ビジュアルをアップグレードして、Xbox LIVEをサポートする形で。「Age of Empires」は、Xboxタイトルではないが、我々Microsoftにとって重要なフランチャイズだ。日本やアジアでも人気のタイトルだった。

【Age of Empires Definitive Edition - E3 2017 Announce Trailer】

会場でも歓声が挙がった「クリムゾンスカイ」
ピアノの生演奏とともに紹介された「Ori and the Will of the Wisps」

 Xboxタイトルでは「クリムゾンスカイ」だ。このタイトル以外にもオリジナルXboxから後方互換機能でサポートされるタイトルはあるが、「クリムゾンスカイ」は初代Xboxにとって特別のタイトルだ。ストーリー、設定、世界観、ビジュアルまで、現代のタイトルに勝るとも劣らない。

 3つ目は、「Ori and the Will of the Wisps」だ。「Ori」は常に私の心の中で大事な位置を占め続けているタイトルだ。今回もピアノ奏者を呼んで楽曲を弾いて貰った。彼は「Ori」のコンポーザーでもあるんだ。初回作、そして今回発表した次回作も彼が作曲を担当している。「Ori」は私にとって完璧な真の意味でのゲームだ。サウンドもビジュアル、操作性、プレイフィール、どれをとっても格別で、私の心に残り続けているタイトルだ。

――Xbox One Xの日本での発売日はアナウンスされなかったが、同日発売は期待していいのか?

Spencer氏:日本のような特定のマーケットは、発売日が異なる場合がある。11月7日より順次発売する方針で、日本のようなメジャーなゲームマーケットは、できるだけ11月7日に近いタイミングで発売したいと考えている。日本は、巨大な市場ではないのは事実だが、私にとって非常に重要な市場であり続けている。質問だが、日本のXboxユーザーは、今回の発表についてどのような反応を見せているか?

――やはりできるだけ早く発売して欲しいという声がもっとも多い。

Spencer氏:そうか、良かった。良いことを聞いた。できるだけそうなるように頑張るよ。私にとって日本市場は特別で、何度も繰り返し訪れているし、友人もたくさんいる。日本を訪れることは非常に楽しみで、クリエイターからゲーム開発について多くのことを学んでいる。日本にはゲーム開発に情熱を持ったクリエイターや、誇るべきゲーム文化、そしてゲームコミュニティがあることを理解してる。私は日本市場を諦めないよ。

「Scalebound」開発中止の真相とは!?

純国産のXbox One独占タイトルとして期待されていた「Scalebound」。2016年に開発中止が正式に発表された
「Scalebound」開発中止はSpencer氏自身としても苦渋の決断だったことが伝わってきた

――「Scalebound」の発売中止は、非常に残念なニュースだった。なぜ「Scalebound」は延期ではなく中止にしなければならなかったのか?

Spencer氏:その落胆はわかっている。まず、私のフレンドの神谷さんが所属しているプラチナゲームズの皆さんに対しては、大きなリスペクトと信頼を置いている。我々は「Scalebound」において長期間にわたって共同作業を行なってきて、その中で我々はお互いにゲーム制作についてたくさんのことを学んだ。彼らは極めてユニークなタレントであり、ゲーム産業において重要な役割を担ってきた神谷さんのチームと再び仕事ができればと思っている。

 私から言えるのは、たぶん、いや、たぶんではなく間違いなく、アナウンスが早すぎたということだ。プラチナゲームズは、既存のゲームと比較して比べものにならないぐらい巨大なゲームを作ろうとしており、それはゲームのサイズだったり、マルチプレーヤーの規模だったり、扱う範囲だったり。

 しかし、我々の発表が早すぎたために、それがプレッシャーとなり、開発に影響を与え、ゴールへのハードルを高めてしまった。結果として、両社にとってゲームファンが望むゲームを提供できるかどうかが危ぶまれる事態になってしまった。最終的に開発を継続しないという決断を下した。プラチナゲームズはリスペクトしているし、ゲームファンやXboxのカスタマーがどれだけ失望しているかということも理解している。私にとって大きな学びになった。これが質問の答えになっているといいが。

――Xboxにおけるeスポーツについてどのように考えているか?

Spencer氏:Xboxはeスポーツについていくつかのアプローチでアクティブに活動している。ファーストパーティーで言えば「Halo Wars Championship」、「Gears e-Sports Championship」などを開催していて、先週もラスベガスで大会が行なわれたばかりだ。TwitchやMixerともパートナーシップを結んで配信も行なっている。我々にとってeスポーツは非常に重要な要素だ。我々はMixerを買収して、XboxとWindowsに、誰でも簡単にストリーミング映像が楽しめるようにしたのもそのひとつだ。

 将来的には「アリーナ」という機能をXbox LIVEに組み込み、ホーム画面から手軽にマッチメイキングが可能になるシステムをプラットフォームの標準機能のひとつとして搭載しようとしている。現在ファーストパーティーチームでは、「ルマン24」に向けて、ポルシェを使った「Forza」のチャンピオンシップを準備している。eスポーツレーシングも成長しているので、「Forza」シリーズも強力なレースゲームフランチャイズとして、積極的に展開していきたい。

ブリーフィングでの大役を終え、終始上機嫌だったSpencer氏

――日本のゲームファンに向けてメッセージを。

Spencer氏:Xboxは16年を迎えるが、日本のゲームコミュニティは、ゲーム産業にとって重要であり続けてきた。現在は、モバイルをはじめ、様々なプラットフォームにゲームを提供する時代になってきているが、日本のデベロッパーはもっと世界に打って出るべきだと考えている。田畑さん率いる「ファイナルファンタジーXV」のチームなどは良い例だと思うが、私はコンソールへの開発を辞めて、モバイルゲームなどを開発している皆さんに対して「帰って来て欲しい」と言いたい。矢野さんや水口さんのように帰って来てくださるクリエイターも増えてきている。

 同時に日本のゲーマーもコンソールゲームへの関心が高まってきている。任天堂はNintendo Switchのローンチを成功させたし、モバイルでも成功を収めたし、我々とも「Minecraft」で強力なパートナーシップを交わしている。日本のゲーム開発コミュニティも引き続き様々なイノベーションを起こし、ゲーム開発においてワールドクラスのリーダーであり続けている。ユーザーも大きなパッションを持っている。

 我々はアメリカの会社だが、ゲームプラットフォーマーとしてコアの部分は、日本のゲームファンと繋がっていると信じている。フィードバックをぜひ我々に届けて欲しいし、我々はその改善に努めていくことがXboxチームの成功に繋がると思っている。