インタビュー
SIEJAプレジデント盛田厚氏インタビュー
「PS4」、「PS VR」、「PS Vita」の日本での今後の取り組みについて伺った
2017年6月8日 00:00
「E3 2017」の開催に合わせ、ソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジア(SIEJA)のプレジデントを務める盛田厚氏にメディア合同インタビューが行なわれたので、その模様をお伝えしていこう。プレイステーションプラットフォームの日本展開の今後、PlayStation VRの今後、PlayStation Vitaの今後などについてお答え頂いた。
――よろしくお願いいたします。まずは昨年からの全体的な国内展開のお話について伺えますでしょうか。
盛田氏:2016年のプレイステーション全体のお話をすると、トータルとして非常に好調に推移いたしました。同じように日本とアジア地域での展開も良い結果を出せました。
今日は日本国内での今後についてお話しますが、我々は“3つのステップ”でプレイステーションを拡大していこうと考えています。
最初のステップは私が着任した2年ちょっと前にさかのぼりますが、当時「日本向けのタイトルが足りない」、「遊びたいタイトルがないからPS4もまだ買わない」と言われてしまっていたんです。
そこで、国内メーカーからのビッグタイトル、日本のユーザーが遊びたいと思ってもらえるようなタイトルを出していくことに注力していきました。それは順次発表され発売され、昨年までにほぼ達成できたのではないかと思っています。
一方でハードウェアでは、PS4本体にスリムを出し、買いやすい価格帯にもし、PS4 Proのようなハイエンドモデルも発売することができて、ゲームファンと言われる人達へのアプローチは、基本的にはできたと思っています。
私たちが目標としていた第1ステップである「ゲームファンに向けてPS4を拡大していく」ということについては、2016年まででだいぶできたのではないかなと思っています。
――日本向けタイトルの充実が第1ステップだったわけですね。
盛田氏:はい。次は“第2ステップ”に入っていきたいというのが、今年考えていることなんですよ。
昔は、「子供のいる家庭には必ずと言っていいほどゲーム機があって、友達同士集まって一緒にプレイしたという時代」がありました。その頃の子供も今は大人になり、仕事が忙しくなり、家庭を持ったりして、ゲームをやらなくなっていった、所有しなくなったという状況があると思います。
それに対してもう1度、子供のいる家庭にはゲーム機があって、子供はゲームを遊んでいる、家庭用のゲームに慣れ親しんでいるという状況を作りたいと思っています。それが次の目標、第2ステップですね。
そのための施策のひとつが、今回のE3のタイミングに合わせて実施する「Days of Play(デイズ オブ プレイ)」というキャンペーンになります。
SIEでは毎月、世界中のスタッフがみんなで集まってグローバルで議論やレビューをしているのですが、せっかくこうしてグローバルに議論をしているのだから、ユーザーに向けても何かグローバルで展開ができないだろうか、と考えたところから始まっています。
従来のキャンペーンというのは地域ごとに行なうのが基本です。というのも、商戦期って国ごとに違いますからね。日本なら年末年始や入学・卒業シーズン、長期の休みの前とか、アメリカですとブラックフライデーやホリデーシーズンがそれですね。それらに合わせて地域ごとのプロモーションを行なってきたのですが、今回の「Days of Play」というキャンペーンは、グローバルで同時に展開するキャンペーンになっています。
E3というのはゲームファンにとって楽しみな大きなイベントです。そこで。それに合わせてグローバル展開するキャンペーンが「Days of Play」になります。インターネットがすごく普及してきた今の時代だからこそできる新しいチャレンジだと思いますね。
地域ごとにいろいろな商戦期がありますが、「プレイステーションがゲームファンに向けて作った商戦期」というものを実現できるかどうか、どこまで盛り上げられるかどうかをトライアルしてみようじゃないかというものなんですよ。
各国でラインナップは異なるのですが、日本のPS Storeですと、日本のゲームファンが好みそうなものを50タイトル以上ピックアップしてスペシャルディスカウントをしています。あるいは店頭ではこの機会にPS4とPS4本体との同時購入で「DUALSHOCK 4」を半額にしたり、キャンペーン対象のタイトルと一緒に「DUALSHOCK 4」購入頂くと1,000円ディスカウントされます。「DUALSHOCK 4」をもうひとつ購入頂くことで、友達や家族と一緒に遊んで頂ければと思います。
――プレイステーション独自の商戦期を作るというのは斬新な試みですね。単純にユーザーとしてもE3の時期がより楽しみになると思います。そうした施策も進めつつ、家庭内へのゲーム機普及をより進めるというものが第2ステップということですね。
盛田氏:次に、今年の年末に向けてなのですが、さきほどの“PS2の頃ぐらい”を目指して、我々は原点に立ち返えらなければとも思っています。
プレイステーションをロンチした頃や、誰もまだプレイステーションをよく知らなかった頃を思い出し、ゲームファンに向けてゲームタイトルをプロモートするだけではなく、今はゲームから離れてしまったという人に向けて、ゲームの楽しさや体験の素晴らしさを伝えていきたいんですよね。また、子供の頃にゲームで素晴らしい体験をすると、それがずっと心に残ると思います。そうしたブランディングキャンペーンをやっていきたいと考えています。
昔、「全てのゲームはここに集まる」というキャッチコピーを打ちだしていましたが、いろんなタイトルを出していくべきと考えています。ゲームファン待望のタイトルももちろんですが、「ドラゴンクエストXI」のように、誰でも名前だけは知っていたり、シリーズ作のナンバリングのどれかは遊んだことがあるというような、そういうタイトルを出していきます。
また、「New みんなのGOLF」みたいに友達や家族とカジュアルに楽しめるタイトル、さらに「グランツーリスモ」のような車好きの人にうってつけのものであったりと、より幅広くアプローチしていきたいと思っています。
リアルイベントの「PlayStation祭」も、今年はさらに強化していきたいと思います。「PlayStation祭」は、“子供たちが一緒にゲームを遊び、それを他の友達が後ろから見ていた”というものをさらに展開したものなのですが、どこかに集まりゲームをプレイする、チームを組んで戦う、見て応援するというイベントですね。
ゲームを遊ぶ人の裾野を広げるためのひとつに、“最高レベルのプレイを見て、それに憧れる”というものがあると思うんです。プロ野球があるからリトルリーグのチームがある、プロのリーグやワールドカップがあるからサッカー選手に憧れる、それと同じように、最高峰のプレイやチームがあるからこそ、ゲームも盛り上がるという形を作っていきたいと思います。それを「PlayStation祭」という形で盛り上げていきたいと考えています。
そうした取り組みのさらに先の話ですが、“みんなのプレイステーション、一家に一台プレイステーション”というものを目標にしています。
ゲームだけでなく映像サービス、音楽などの様々なエンターテイメントを、PS4を通じて楽しむことができる。または、PS4で楽しむのが最適という形にしていきたいと思っています。PS4さえあれば全てのエンターテイメントが楽しめるということ、そこから一家に一台プレイステーションがあるというのを目指しています。
いろんなサービスであったり、ソニーグループでの連携によるシナジー効果、アニメ、ゲーム、音楽、ひとつのIPやキャラクターをいろんな形で楽しんでいくし、それをPS4で全部楽しんでいけるという、総合的な楽しみ方をソニーグループならできるのではと思います。
そうした展開を日本からアジア全体にも広げつつ、“みんなのプレイステーション”というものを実現していきたいというのが、第3ステップであり、中期的な流れになります。
――わかりました。いくつか質問をさせて頂きたいのですが、PS4で楽しめるコンテンツを総合的に提供していくということですが、それはやはりPS Storeを通じてのデジタル配信が軸になるお話かと思います。将来的にはですが、ディスクメディアでの提供よりもデジタルデータでの提供が中心になると想定されているところはあるのでしょうか?
盛田氏:そこは、ユーザーさんがどう考えるかで決まっていくものだとは思うんです。我々としてできることは、映像配信ですとPS Storeで買いやすく、そしていろんなタイトルを楽しめるように充実させることになるのですが、ユーザーさんの中にはパッケージを持つという所有したいという人も確実にいらっしゃいますよね。そちらもPS4で楽しめるように、できる限りフォローしていこうと考えています。
ただ、デジタル配信だからこそできることもあって、スピーディーに配信できることもそのひとつですよね。せっかくそういう利点があるのだから、そこを活用できるようにしていきたいです。逆に、ディスク版を買うとデジタルダウンロードできるなど、連携するというやり方もありますから。いろいろな方法でユーザーさんが1番便利に楽しめる形を実現していきたいですね。
――“第1ステップ”の「国内からのタイトルの充実」というものは、昨年からの大型タイトルのリリースラッシュは素晴らしかったと思います。ただ、今はその大きなウェーブのあと、一段落したような印象もあります。このE3から先、今後についていかがでしょうか。先ほどの“PS2の頃のような”というお話や、“家族でも楽しめるものを”というものを考えると、かつてソニー・コンピュータエンタテインメントで出されていたような「良い意味での変わったタイトル」というものも出していきたいのでしょうか?
盛田氏:変わったタイトルというのも時代によるものもある思いますし、一概に昔と同じようなことをするとは言いにくいのですが、最近も「パラッパラッパー」を発売しましたし、「クラッシュ・バンディクー」などの昔にみんなが楽しんでいたタイトルを出していくという活動が始まってきていますね。
ゲームファンの人も含めて、「これを出して欲しい!」という声に対して、しっかりとそれを出してあげるというところへとフェイズはシフトしてきていると思います。「New みんなのGOLF」はまさにそのあたりだと思うのですが、昔のIPからリバイバルしてきて、みんなでカジュアルに楽しめたり。いろんなタイトルを楽しめるようにしていく段階だと思います。
PS4はいよいよ成熟期に入ったと思います。ソフトウェアの収穫期であり、そのピークを迎えていきます。E3でもたくさんのタイトルが発表されますので楽しみにお待ち頂きたいと思います。
――方向性として、スペックを活かしたリッチなゲーム、ある意味では大人向けという路線も目立ちましたが、今後はよりカジュアルなものも提供していきたいということでしょうか?
盛田氏:そうですね。PS4 Proも含めてリッチな体験というのは強みでもありますので、海外スタジオからのタイトルはその方向が強いです。一方で、今後はカジュアルなタイトルも出していきたいと思っています。
――その働きかけというのは、やはり国内メーカーさんへのアプローチが多いのでしょうか?
盛田氏:インディーズの流れも海外では強いので、そちらも入ってくると一概に言えないところですね。あとちょっと関連するお話ですと、アジア地域での展開も強化していきたいところで、東南アジアへはお店を整備しつつ販売活動をしていきます。もうひとつの中国地域では、センサーシップ(審査)というものがあってリリースまで時間がかかったりしています。
そこで「チャイナヒーロープロジェクト」という、ローカルのデベロッパーをサポートして、ローカルの内部からタイトルをリリースしてもらって、グローバルなPSプラットフォームに展開していくという試みを行なっています。現地と一緒にPSを成長させていくということですね。
そうした若い才能から、新たなタイトルが生まれるかもしれないです。そういった日本にも少し近いテイストを持つアジアのタイトルによっても、盛り上がっていくかもしれません。VRのタイトルも、中国や韓国が盛り上がっていますので同様ですね。
――なるほど。「PlayStation VR」のお話が上がりましたのでそちらについてもお伺いしたいのですが、昨年の発売からこれまでの印象はいかがでしょうか?
盛田氏:「PS VR」を発売するにあたって盛り上がりましたし、ユーザーの皆さんにもご注目頂けたと思います。ただ、我々は「VRというのはテレビ以来のイノベーション(技術革新)」だと考えていて“大事に育てていきたい”と話していたんですよね。そのため、「盛り上がっているから今のうちに1台でも多く売ろう!」という感覚ではなく、まずはちゃんと体験してもらって、理解してもらってから買ってもらおうと考えていたんです。盛り上がってるからとりあえず買ってみたけど使わなくなっちゃったということがないように、ですね。それで、体験できる店舗を少しずつ増やしたりなどをやっていきました。
ただそうした考えもありつつ、そして、需要が読みづらかったのもあって、供給が足りなくなってしまいました。それは非常に残念であり、購入を希望されているユーザーさんにも申し訳なかったです。
それが昨年のことでした。日本はまだ出荷された本体がその日のうちになくなるという状況が今もまだ続いているのですが、昨年末から供給体制は増強していて、その効果で欧米を中心に供給不足は少しずつ解消されつつあるという風に聞いております。日本でもいち早く解消していきたいと考えています。
そうして解消すると同時に体験できる場所も増やしたいということで、本日は「PlayStation VR」の国内販売店舗を拡大というリリースを出させて頂きました。
――スマートフォンとの棲み分け、取り組みというのはどのようにお考えでしょうか?
盛田氏:スマートフォンを持っている人が大半で、そこで手軽に遊べるゲームを楽しんでいるというのは、その市場は市場として、ゲームを楽しむ裾野が広がっているということでもあるので良いのではと思っています。
一方で、コンソール市場はスマホアプリにユーザーを取られているという考えはなく、コンソールゲームならではの楽しみ方をユーザーに伝えることが大事で、スマホアプリでは体験できないこと、PS4だからこそ体験できるものを実現することが大切だと思っています。それこそ「PS VR」も含めて、そういう体験を増やしていくことだと思います。
面白いスマホアプリもありますし、我々もスマートデバイス向けのゲームを作るフォワードワークスからPSのノウハウを活かしたアプリも提供していますので。ただ、コンソールゲーム機はまた別のものと考えていて、ゲーム機ならではの楽しさ、体験を提供することに注力しています。先ほどのユーザー拡大においてのお話でも、そこが大事なのではないかなと思っていますね。
――携帯ゲーム機の今後の展開についてですが、いかがでしょうか?
盛田氏:今後についてはお話できないのですが、PlayStation Vitaはこの2年間、子供にすごく受け入れられて、それがすごく重要だと思っています。子供の頃に楽器に触れているかどうかで大人になってからも触れるかに影響するように、子供の頃にコントローラーのあるゲーム機に触ってもらえたというのは嬉しく思っています。
今年度においてもPS Vitaは元気ですし、非常に大事なプラットフォームです。
――わかりました。ありがとうございました。