インタビュー

ついにサービス開始! デジタルTCG「Shadowverse」インタビュー

原点はアナログTCG。メインプランナー宮下尚之氏が開発秘話を語る

6月17日サービス開始

利用料金:無料(アイテム課金制)

 Cygamesは、6月17日にiOS/Android用トレーディングカードゲーム(以下、TCG)「Shadowverse(シャドウバース)」の配信を開始した。本作は「神撃のバハムート」に使用されている美麗なビジュアルのイラストを使った本格的な競技TCGとなっているのが特徴だ。今回は、このゲームのメインプランナーである宮下尚之氏に「Shadowverse」の制作秘話を伺うことができた。

 宮下氏は、自身がTCGプレーヤーでありつつ、過去にはキャラクター系のアナログTCGを実際に制作していた経験もある。今回はその宮下氏に本作の制作の経緯、またその制作方針などについて伺ってきたので、TCGに興味がある方はぜひご一読いただきたい。

【「Shadowverse」公式PV第2弾】

独自の要素「進化」を盛り込んだTCGを作る

「Shadowverse」メインプランナーの宮下尚之氏
6月17日にサービス開始となった「Shadowverse」

――本日はよろしくお願いします。まずは宮下さんのご経歴などお伺いできますか?

宮下氏: 私は2014年の秋にCygamesに入社させていただいていて、ここでは1年半ほどという感じです。社会人になって最初に入った会社ではキャラクター系のアナログTCGを作っていまして、また前職ではおもにブラウザゲームやアプリをリリースしている会社でプランナー、ディレクターをしていました。

 その前職のときにCygamesに勤めていた友人から「宮下にお願いしたい企画がある」ということで話をいただきました。そこで「Shadowverse」プロデューサーの木村(Cygames取締役の木村唯人氏)と面談した際に、企画概要を伺いまして。その時点で「これはなかなか今までにはなかった企画だな」と思い、ぜひチャレンジしたいということで転職を決意しました。

――アナログゲームとデジタルゲームの経験を生かして今のお仕事をされているということですね。そうなりますと、今の「Shadowverse」はまさしく経歴に合致するゲームという感じですね。

宮下氏: そうですね、過去に作ったゲームの経験というのは、当然「Shadowverse」にも活きています。

――「今までにはなかった企画だ」と思ったということですが、もう少し詳しくお聞かせください。

宮下氏: すごく可能性のある企画だなと感じました。デジタル、とくにスマホで本格的なトレーディングカードゲームをやりたいなとは以前から思っていたのですが、実現するのはなかなか大変だとも思っていまして。

 理由としては、まずゲームをデザインするのが大変です。紙のゲームでしたらカードを印刷してルールを周知すれば、あとはプレーヤーが遊ぶだけなので複雑な効果も簡単に再現できますが、デジタルだと実機上で再現させるときに相互作用といった要素も多いので、そのぶん開発に時間がかかってしまう。

――そうですよね。想像するだけでも大変そうです。

宮下氏: もう1つは、TCGを作るにあたってカードイラストというのは非常に重要になってくると思いますが、しっかりした絵を揃えていくということはそれなりにコストもかかる。前職のデジタルゲームの会社にいたときも実現は難しいだろうなと思っていましたが、Cygamesの場合は「神撃のバハムート」のクオリティの高いイラストが使えるということで、プロジェクトの座組としてはかなり期待できるなと思いました。それで、ぜひ参加したいと。

――「Shadowverse」のルールに関しては、最初からある程度コンセプトがあったのでしょうか。それとも、宮下さんがゼロから組み上げていったということでしょうか?

宮下氏: 2014年当時、それまでアナログTCGをそのままデジタルで再現したというタイトルはありましたが、デジタルTCGならではの面白いゲームに昇華したタイトルもいくつか出てきました。それらを参考に、既存のアナログTCGの良さを残しつつ、切り捨てるところは切り捨ててカードゲームの面白さをデジタル上でより突き詰めていこうというコンセプトがありました。

――なるほど。

宮下氏: あとは、「神撃のバハムート」にはカードが4段階に進化するという要素があります。そのカードを使うということで、何らかの形で「進化」という独自のシステムも入れたものを、というオーダーをいただきました。それをベースにして作ったものが「Shadowverse」ということになります。

――ユーザーさんからも、他のデジタルTCGと比較してどうなんだといった話は出てくるかと思いますが、「Shadowverse」ならではの差別化できる部分は何でしょうか?

宮下氏: 1つは先程申し上げた「進化」というシステムです。ターン制のカードゲームの場合は先手にイニシアチブがあるので、普通に同じ条件でやると先手側が有利になるという構造上の問題があります。先手と後手のバランスを取るために、他のカードゲームでも、何らかの形で後手をフォローするというシステムがあり、さまざまな方法が採用されています。

 「Shadowverse」の場合は、そこを「進化」という独自の戦闘のシステムに後手の補正要素を組み合わせています。「進化」によって単純に自分のカードが強化されて演出面でも盛り上がりますし、実際のゲーム展開としてもインパクトを与えますので、ビジュアル的にもゲーム的にも「進化」がカギとなったゲーム体験ができる、というところが独自の要素として挙げられます。

――たしかに「進化」が可能になるタイミングや回数が先手と後手で異なっていました。

宮下氏: もう1つ「Shadowverse」はデッキ構築をいろいろ楽しんでいただけるようにとデザインしました。「クラス専用カード」というのが多く用意されていまして、そこで特色を濃く表しました。エルフのクラスであればフェアリーをたくさん手に入れて、それを生かしてコンボで勝つ、ウィッチのクラスであればスペルをたくさん使うことで手札の「スペルブースト」というカードを育てて後半一気に勝つといったように、クラスごとにコンセプチュアルなデッキを組めるようなカードを用意しています。

 それによってデッキ構築の体験がちがうというのと、ゲームをプレイしたときにクラスごとの体験も全然ちがうものになる、というところを意識してゲームデザインを進めてきました。

――確かに、プレイしてみると全然ちがいますよね。

宮下氏: クローズドベータテスト(以下、CBT)でいただいたご意見のなかでも、デッキを作る楽しみといったものを強く感じる、というものがありました。

イラスト前提で作られていったクラス

イラストが特徴的なカードの数々。クラスの能力はキャラクターの設定があらかじめあり、そこから決めていったのだという

――クラスはどのように考えだされたのですか?

宮下氏: もともとある「神撃のバハムート」のイラストをベースにして、うまく均等に分けられるようにクラスキャラクターの性格などが設定されていきました。なので、開発当初からエルフやヴァンパイアなど、7人のクラスキャラクターという設定だけはありました。

――「こういった能力が作りたい」ではなく、「7人いるからこういう能力にしていこう」ということだったんですか?

宮下氏: そうなります。なので、先にイラストがあって、それに合わせて「このキャラクターにはどういう特徴があって、どんな体験ができたらいいんだろう」というところから始まりました。例えばドラゴンでしたら、やはりほかのフォロワーのカードよりは強大でコストの重いカードであるべきなので、それをプレイするためにはプレイポイントを増やすような能力を中心にして、強大なフォロワーをどんどん出せるような、そういったプレイ体験をしてもらえるようにデザインしました。

 あるいは、ロイヤルのクラスでしたら兵士であったりお姫様みたいなカードがクラスに割り振られていましたので、これは兵士と指揮官がお互いに強化し合って、盤面にフォロワーをたくさん並べて強化して、展開力で相手を圧しつぶす、みたいなゲームプレイであったりデッキ構築が楽しめるように作ろう、といった感じですね。

 そういった形で、クラスのフレーバー的なテーマと割り振られたカードイラストを見ながら原案は私の方で考えて、あとはプロデューサーやテストプレーヤーの人とお話をしながら煮詰めていった、というところです。

――ちなみに「神撃のバハムート」のイラストのうち、何パーセントぐらいを今回の「Shadowverse」に使ったのですか?

宮下氏: 「神撃のバハムート」のイラストが1万7,000枚以上(進化差分ふくむ)あり、「Shadowverse」が700枚程度(進化差分ふくむ)となっていますので、大体4%強といったところでしょうか。現状では「Shadowverse」の新カードのリリースは3カ月に1度を予定しており、第2弾以降のカードでは「Shadowverse」の描きおろしカードを追加することも検討中です。

――各カードの能力を決めていく作業はスムーズに行きましたか?

宮下氏: 作りやすいクラスもあったのですが、二転三転してなかなか決まらなかったクラスもありますね。ドラゴンなどは先ほどお話をしたような感じで比較的楽に決まったんですが、ビショップというクラスの能力は色々と悩みました。

 最終的にはカウントダウンという能力を持ったアミュレットがありまして、数ターン後に大きなフォロワーが召喚され、そのカウントダウンを早めるシナジーがある……というものになりました。これは、ビショップというクラスキャラクターの宗教的なイメージと詠唱みたいなフレーバー、また機能的にこうしたいという要素からできたものです。ほかのカードゲームをプレイしているスタッフも多かったので、色々なところを参考にしながら面白いゲーム体験もできるようにと作っていった感じですね。

――ビショップは不思議な能力で、結構、扱いも難しいですよね。

宮下氏: ビショップは普通に作ってしまうと回復能力のカードが主になってしまってカードデザインのバリエーションが生まれないので、何らかのクラス独自のギミックを仕込みたいというところがありました。それで、先行投資をしておき、それがあとで回収される。それを早める手段やタイミングが重要になってくる、というクラス独特のゲーム体験になっているのかなと。

――ちなみに宮下さんは、どのクラスをメインで使っているんですか?

宮下氏: どれも好きなので難しいところですね。ただ、CBTの2回目や国内の反応を見ると「エルフが強くない」みたいなご意見もいくつかあったんですが、個人的には結構気に入ってまして、CBT中もよく使ったりしていました。あとは先日別の取材でTCGのプロプレーヤーと対戦させていただく、というものがあったんですけど、そこでもエルフを使いました。

――エルフですか。ちなみにエルフのプレイのコツは何でしょう?

宮下氏: フェアリーを増やすカードと、それをどういったタイミングで使うかというところでしょうか。非常にカード同士のシナジーが多いクラスなので、2枚使っていたら強くなるカードや小粒なフェアリーを並べてそれをほかのカードで強化するなど、1枚1枚はそんなに強くなくても組み合わせて色々なことができる。状況に応じて毎ターンのプレイの選択肢がたくさんあるので、そういったところを考えて押し引きをするのが楽しいかなと思ってます。

――プレイングが大事なんですね。

宮下氏: 手札がたくさん増えますし、普通にプレイすることもできるんですけども、「実はこうやったらすごいダメージが出ていた」ということもあります。そういった組み合わせて力を発揮するようなカードを意識して、どんなことができるのかな、と考えながらプレイするのがいいと思います。自分でも使っていて、こんなこともできたのかと発見することも多いので、かなりやり込みがいのあるクラスなんじゃないでしょうか。

CBTの結果を受けてバランス調整を実施

CBTのフィードバックを受けて、UIや触り心地は大きく改善したという

――先ほど少しCBTの話が出ましたが、そこではどのような反響がありましたか?

宮下氏: おおむね温かいご意見をいただき、非常にありがたく思っております。CBTの2回目に関しては、アメリカ、カナダ、オーストラリアでも実施されまして、海外のユーザーの方と日本のユーザーの方が対戦するということも自然にできました。その際に海外の方からも色々とフィードバックをいただきまして、そちらをもとにブラッシュアップをしています。

 ブラッシュアップについては、大きいところではゲームバランスの調整になります。「こういったデッキが強すぎるのではないか」といった意見をもとにしたり、CBTの2回目では対戦データやカードの使用率といったデータを取っていましたので、それらを分析しまして約70枚のカードに対し、パラメータの調整を行ないました。そうしてよりバランスの取れた、多様なデッキが活躍できるゲーム環境に調整しましたので、CBTに参加された方でも新鮮にリリース版でのプレイをお楽しみいただけるかと思います。

――調整に関しては、大幅に変えたものもあったのですか?

宮下氏: だいたいのカードはコストをはじめ、攻撃力、体力といった数値を若干調整した程度です。ごく一部のカードに関しては能力が変わったものもあります。でも、主には数値の調整ですね。サービス開始の前には、どのカードがどう変わったか、というものも発表していきます。

――ちなみに、CBT時と比較して強くなったクラス、弱くなったクラスなどあれば教えていただけますか?

宮下氏: CBTの2回目の段階ではロイヤルの人気が非常に高くて、同時にロイヤルが強いという意見もいただいていました。そこはしっかり分析して、バランスを取れるように調整しました。もう1つ、CBTからリリース版に向けて、ユーザーさんのゲーム体験の向上ということで、演出面の強化は色々な部分で行ないました。

 これは単純に演出を派手にするといったものではなく、よりストレスのない、テンポよく何度も遊べる形へのブラッシュアップになっていますので、CBTを体験いただいたユーザーさんはリリース版を遊んでいただくと「こんなに変わったんだな」と感じていただけると思います。

――体感してわかるぐらいになったということですね。

宮下氏: そうですね。動きが非常に軽快になりまして、UIもだいぶブラッシュアップしましたので、CBT時の画面からも変わり、遊びやすくなったのではないかなと思っています。

――そう言えば、CBTをプレイするときにゲーム内通貨をどんどん獲得できるようにしてほぼ全部のカードを入手できるようにしていたと思うのですが、そちらについてはどのような狙いがあったのでしょうか?

宮下氏: CBTは期間が2週間と短かったので、ユーザーさんが興味を持ったカードに触れるようにしようというプロデューサーの意向もあり、CBT限定施策として無料の通貨も配布させていただき好きなカードで好きなデッキを組んでもらえる環境をご提供したかった、というのがあります。CBTでは有償通貨の購入もできませんので、そこで興味あるカードに触れられない、ということをなくしたい思いがありました。

――サービス開始に向けて調整を行なう前提で遊んでもらってバランスを見る、みたいなことも考えておられたのでしょうか?

宮下氏: そうですね。初期のカードやレアリティの低いカードだけでなく、ユーザーさんが望むすべてのカードを使っていただくことで、人気のカードなどのデータを集めたかった、というのも当然あります。でも、1番大きな理由としては、単純に好きなカードを使えたほうが楽しいだろうということですね(笑)。

――CBTとはいえあんな大盤振る舞いでいいのかなとは思っていました(笑)。サービス開始となったときに、すでに作りたいデッキがあるにも関わらず作れない……つまり、フラットな状態で遊べなくなるのではないかという心配もあったのですが。

宮下氏: CBTに関しては限定された人数ということもありましたし、参加されたユーザーの方は熱心なユーザーさんでもあるので、色々と研究を進めていただく方がいいのかなと。サービス開始後はたくさんのユーザーさんが増えると思いますが、そういった方々はフラットな状態で遊べるとも思います。そのあたりはユーザーさんの熱意に応じて、といったところでしょうか。

アナログカードによるプレイの積み重ねでクオリティを高める

――「Shadowverse」の開発の方法についてお聞きします。以前、実際にカードを作って遊んでみる、といったお話も聞いたことがあるのですが、実際にはどのような形で作られていたのでしょうか?

宮下氏: チームとしましては、私がメインのゲームデザイナーで、そのほか10名ほどのスタッフと一緒にゲームデザインを行なっています。最初に私と数名でどのようなカードを作っていくのか、というところを話し合いまして、そのあと実際にカードを印刷して作りました。そうしてできたアナログのカード同士で対戦を行なってみて「この能力は本当に面白くできているのか」、「強すぎた」、「弱すぎた」みたいなことを話し合ってそれを修正したり、ボツにしたり、新しいカードを作ったり……ということをずっと繰り返していました。

――それはものすごく時間がかかりそうですね。

宮下氏: 時間はすごくかかりましたね。先ほども申し上げましたが、私が2014年の秋に入社して、同年の冬ぐらいまでにはそういった開発チームの体制ができはじめまして、それから今日まで1年半ぐらい経っています。まるまる1年ぐらいは基本ルールの設定や、各クラスの骨子となるカードの開発、そういったところに時間を割いて本当にじっくりと開発することができました。ありがたいことだと思います。

――最初にアナウンスしていた時期よりもリリースが後ろにズレこんだのは、カードの作成に時間がかかった、ということなのでしょうか?

宮下氏: 最初に「Shadowverse」をお披露目したのは、昨年11月の先行体験会というイベントだったんですけども、その時点では各クラスのカードコンセプトはもちろん、その他のカードもおおむねできあがっていて、ごく限られた来場者の方だけですが実機上で遊ぶことができました。なので、カードに関して言えば、今日までは数値やバランスの調整というのが主なところでした。

 延びた理由としてはアプリ側での演出や遊びやすさといった部分のブラッシュアップを繰り返し行なっていたというのがあります。また、競技性の高いTCGなので通信対戦の仕組みも堅牢でなくてはならず、そういう裏側の部分の開発をしっかりと進めさせていただいており、結果的にお待たせしてしまうことになってしまったというところです。

――総合的にクオリティを高めるための時間がかかったということなんですね。

宮下氏: はい。それは弊社のポリシーでもありますので、やはり最高の状態でお出ししたいというのがありました。社内でも何度もレビューをしてブラッシュアップを繰り返し、CBTも2回させていただいて、そこでいただいたご意見なども参考に改修を行ない、サービス開始へ……というところで時間がかかったということです。

場にカードが5枚しか出せない制約から生まれたゲームデザイン

――ルールについてお尋ねします。例えばエルフなど、カードを場に多く出すほど有利になるクラスもありますが、場に最大5枚しか出せないというのがちょっと狭いかな、と感じることがありました。この5枚というのは、どのようにして決められたのでしょうか?

宮下氏: 「Shadowverse」は開発当初からスマホで出すということが決まっていました。スマホの画面の大きさは大小さまざまではあるのですが、盤面にたくさんのカードが並ぶと操作性も視認性も落ちます。そこで色々な機種でテストバージョンを試して、場にお互い何枚まで並ぶのが1番遊びやすいかというのを検証しまして、お互いが5枚ずつ、場に10枚の状態というのが1番遊びやすいのかなということになりました。

 これ以上多くなりますと煩雑にもなりますし、自分や相手のカードを確認するのも手間になってしまいます。そういった技術的な制約といいますか、スマホというメインで遊んでいただきたいデバイスの特性上から5枚ということに決まりました。

 また、ゲームデザイン的には場に5枚しか出せないという制約があるからこそ、場に置いておくことで強力な能力が働きつづけるアミュレット(旧名称:フィールド)などが強くデザインできるようになります。エルフのクラステーマのような、フェアリーを手札に大量に加えるといった、通常のカードゲームで言えばいわゆるアドバンテージを取るすごく強力な手段でも、うまく使わないと強さを持て余してしまう、といったところでバランスが取れているのかなと思います。

――呪文を使うとほかのカードの能力が高まったり、墓場まで使ったりすることがありますが、これはデジタルだからこそできることを念頭に置いて考えていったということですか。

宮下氏: そうですね。特にウィッチのクラスのスペルブーストというのは、手札のカードが強くなるという、アナログのカードでは再現できないことなので、そういったデジタルならではのギミックで面白いもの、という部分はつねに考えていました。

 墓場に関しても、アナログのカードでテストプレイをしているときに「せっかく使い終わったカードがあるわけだから何らかの形で使えないか」というところから考えました。「Shadowverse」にはせっかくネクロマンサーという死者がテーマのクラスがあるから、それをうまく使えないかというところからゲームデザインが生まれました。

――何だかそういうものを作っている現場を想像すると楽しそうですね(笑)。

宮下氏: そうですね(笑)。2014年~2015年の最初の方までは、延々とそういった話し合いをしたり、テストカードを作って対戦をしたりという感じで。プロデューサーなども混ざってやっているときもあって、ほかの部署から「あそこでカードゲームしてる人たちなんなんだろう?」って不思議がられていたこともありましたね(笑)。当時はまだチーム全体の人数も少なくて、「なんでみんなして遊んでいるの」みたいな感じにはなっていました。プロデューサーは本当にカードゲームが好きで、未だに遊んでいますけど(笑)。

エンジニアにゲームを知ってもらうことでクオリティを高める

――開発で苦労した部分はどのようなところだったのでしょうか?

宮下氏: 最初にアナログのカードを作って実際に確認しながら、というお話をしましたが、それをデジタルに落とし込むときに、エンジニアさんとのやりとりが発生します。

 そのときに、アナログだと簡単に再現できるようなことがデジタルだと再現が難しく、それをいかに実現していくか、というのを話し合ったりしたことが大変でした。それでも、こちらが作りたいカードをしっかりとゲームのなかで再現してくれまして、ゲームデザイナーとしては本当にありがたいです。

――プログラマーも、カードゲームに精通していないとなかなか大変そうですよね。

宮下氏: そういうこともあったので、「紙のカードで『Shadowverse』を遊ぼう」といった会を開いて実際に遊んでいただきました。そこで初めて「このカードはこういうことがやりたかったのか」とわかってもらうことで「これはこうやってプログラムすればいいんじゃないか」という提案をいただいたりもしました。

 また、先行体験会バージョンやCBTバージョンも遊んでいただいて、ゲームに対する理解をより深めてもらうことで、カードや演出を実装する際により効率のいいプログラムを組んでいただけるようにもなりました。「Shadowverse」がここまでのゲームになったのも、エンジニアさんがたくさんプレイしてゲームを理解してくれたおかげだと思っています。

――プログラムの制約上で実装できなかったアイデアなどはあるのでしょうか?

宮下氏: ないですね。ただ、表現方法を変えたというものはあります。例としてはウィッチのクラスのスペルカードで「ファーストカース」というものがあります。このカードは3コストのスペルで相手フォロワー(場の攻撃力/体力を持つカードのこと)にダメージを与え、使い終わるとそれが6コストでダメージもアップする「セカンドカース」に変わり、それを使い終えると9コストでさらにダメージアップする「ファイナルカース」というカードに変化する、という能力になっています。これは、当初はコストとダメージが増えて手札に戻ってくる、というカードを考えていました。

 ただ、それだと実装が難しいということでいったんボツになったんですけど、1枚目を使ったら2枚目のカードをゲーム外から手札に加えてしまえばいいのではないか、ということを考えました。これで機能的にはほぼ同じことができたうえに、絵柄を変えることでカードが進化していく表現としても使うことができ、結果として良くなったことはありましたね。プログラム上の制約みたいなものがあったときも、表現方法を変えることで対応できましたので、実装できずにボツになって残念、というものはなかったです。

競技性の高い本格的なTCGを楽しんでほしい

サービス開始後より楽しめるようになるストーリーモード。こちらも注目の要素だ

――リリース版では「ストーリーモード」が遊べるようになると聞いています。

宮下氏: はい。「ストーリーモード」は7人のキャラクターそれぞれに用意されたストーリーを進めていくと「Shadowverse」の世界の謎に迫っていける、というものなのですが、それぞれのキャラクターのストーリーが連係しています。

 例えば、アリサがエリカと出会うみたいなことがあるんですけど、エリカ側のストーリーでも同じくエリカの視点でアリサと出会うストーリーが展開する、といった感じになっています。そのような形で、7人が出会ったり戦ったりしつつストーリーが進行していきます。

――「ストーリーモード」は、「Shadowverse」のなかでどのような位置づけのコンテンツとなるのでしょうか。

宮下氏: 「Shadowverse」は本格的に対戦ができるTCGとして作られてはいますが、色々な方に遊んでいただきたいというのがありまして、その際に「ストーリーモード」のような1人でも遊べるモードも充実させることでゲームに入りやすくなるのかな、という狙いがあります。

 また、1人用を遊ぶことでカードの使い方も学べますし、徐々に強い相手と練習しながら戦っていけるようにもなっています。本格的なTCGを「Shadowverse」で初めて経験するというようなユーザーの方でも、ストーリーを楽しみながら進めていくうちに、だんだんステップアップしてやがては対人戦へと進んでいけるようなコンテンツとなっています。

――サービス開始後の展開において、ユーザーさんにはどんなところを楽しんでほしいですか?

宮下氏: リリース版ではランクマッチが始まり、ストーリーも遊んでいただくことができるようになります。また、ランクマッチ以外の要素もオープンする予定となっていますので、そういったところでまた別の遊び方も楽しんでいただけるようになるかと思います。さらに、今後は競技性の高いコンテンツを待ち望んでいるユーザーの方のため、イベントや大会といった真剣勝負ができる舞台も準備しております。

――CBTでしっかりとした対戦ゲームになり得るという手応えもつかめた感じでしょうか?

宮下氏: そうですね。CBTの時点でも競技TCGをプレイされている方が多数参加してくださって、強いデッキの研究も進み、SNS上でも自分のデッキを公開するなどプレーヤー同士の交流が始まっている部分も拝見していますので、サービス開始後はそういったやりとりも活発になっていくと思います。

 また、ランクマッチが始まることでさらにユーザーさん同士の交流も広がることが予想されるので、大会もうまくやっていけるのではないかと考えています。さらに、アプリにはルームマッチ機能も収録されていますので、友人同士といった少人数の大会にも利用できるようになっています。

――それでは、最後に読者に向けてのコメントをお願いします。

宮下氏: 「Shadowverse」は、始めていただくと、7人のクラスキャラクターの最初のデッキは無料で入手できるようになっています。また、ストーリーを進めることで各クラスの強力なカードも解放されるという仕組みになっていますので、まずはストーリーモードを遊んでいただければと思います。

 やり込めばやり込むほど世界が広がるようなTCGになっていますので、ぜひ手に取って遊んでいただいて、お気に入りのクラスやカードが見つかったなら、さらに本作を楽しんでみてください。やり込むタイプのゲームが好きな方にお応えできるような、深く、長く遊べるようなゲームにしていこうと思っていますので、ぜひよろしくお願いします。

――本日はありがとうございました。