佐藤カフジのVR GAMING TODAY!
VRゲーマー的E3 2016振り返り!
圧倒的だったPS VR、未来への布石を打ったXbox、PC向けVRも独自の展開へ
2016年6月22日 14:48
6月14日から16日にかけて開催されたE3 2016。Oculus Rift、HTC Viveが発売されてから初めての大規模なゲーム見本市となったが、PlayStation VR(PS VR)の発売日が10月13日と発表され、MicrosoftがHi-Fi VRに対応した新型ゲーム機Project Scropioを発表するなど、昨年にも増してVRゲーミング関連の話題が多かったイベントとなった。
とはいえ、イベント全体でメインストリームの立場を示したのはノンVRゲーム。バンダイナムコエンターテインメント「鉄拳7」、Electronic Artsの「Battlefield 1」や、Ubisoftの「For Honor」、2Kの「Mafia III」などなど各パブリッシャーを代表する注目作が目白押しだったほか、Microsoftからは「Gears of War 4」、「Forza Horizon 3」、SIEからは「God of War」や「Horizon: Zero Dawn」などなど、プラットフォームを牽引する注目のタイトルが披露された。ゲームファンとして、VRは抜きにしてもどのゲームも早くプレイしたいものだ。
というわけで、まだまだゲームの中心はフラットスクリーンだなあ、と現状を再確認しつつも、VR関連にも注目すべきニュースは多かった。特に大きな存在感を示していたのはもちろんPS VR。発売をおよそ4カ月後に控え、ローンチタイトルのラインナップも充実しきりだ。
国内デベロッパーからだけでもカプコン「バイオハザード 7 レジデント イービル」や「ファイナルファンタジーXV: VRエクスペリエンス」など、ゲームファンが舌なめずりをするようなVRコンテンツの登場が確約(関連記事)されたことは、6月18日に始まったPS VRの国内予約が“瞬殺”(関連記事)となったことをさらに後押しする材料になったに違いない。また、E3会期に合わせて一昨年から注目を集めてきたバンダイナムコエンターテインメント「サマーレッスン」の発売が発表されたことも、PS VRの存在感をさらに際立たせるニュースだった(関連記事)。
さらにはMicrosoftのXboxプレスカンファレンス(関連記事)で発表された、上位版Xbox「Project Scorpio」の存在。現行のXbox OneやPS4を遥かに超えるマシンパワーを持つ新型Xboxでは“Hi-Fi VR”へのサポートが謳われ、新たなVRプラットフォーム競争の幕開けを予感させる。
PC向けを含むコンテンツ面に注目すると、今回のE3では「Fallout 4」、「Serious Sam」、「Killing Floor」など、多数の有力IPのVR対応が発表された。ゲームファンにとってなじみのあるタイトルがVRで遊べる、VRならではの遊びができる。これはVRの普及そのものに必要不可欠だったもうひとつのピースだ。
一方、3月末にOculus Riftを発売したOculusや、4月頭にHTC Viveの発売を済ませたHTCといったPC向けVRシステムのメーカーは、今回のE3では比較的おとなしめの出展内容にとどまった。ハードのローンチを終えて一段落ということだろうか、特にOculusは昨年のE3では開催したプライベートカンファレンスを今年は開催せず、プラットフォーマーとしての存在感はぐっと鳴りを潜めた印象がある。HTCに至ってはエキスポ会場での出展はゼロで、コンベンションセンターのエントランスホールや会場外の空きスペースに試遊ゾーンを設営し、既にSteamで発売済みのコンテンツを試遊させるという、きわめておとなしい活動にとどまっている。そこにMicrosoftやSIEのような大プラットフォーマー級のオーラはない。実におとなしい。が、そこにはPCというプラットフォームならではの事情がある。
また、昨年のE3では多数見られたVR関連のプリフェラル出展が、今回のE3ではほぼ見られなかったこともひとつの傾向として重要なポイントといえる。VR用のウォーキングギアとか1.5~2世代目を意識した新型HMDとか、その他のVRデバイスの出展をチラリと期待していた筆者にとっては完全に肩透かしであったが、これも、RiftやVive、PS VRといった主要システムに勢力が集約されてきた証といえるだろう。
今回はこういった話題を中心に、E3 2016で見られたVR関連の重要トピックについてまとめ、振り返ってみたい。
PlayStation VRが大きな存在感を発揮
新ハードのローンチがあればいつも大いに盛り上がるものだが、PS VRもその例に漏れず、イベント全体の中でも主役級の存在感を示していた。巨大なSIEブースのおよそ半分を使って設営されたPS VR関連コーナーでは10数のタイトルがプレイアブル展示され、終始大勢の来場者でごった返していた。ただ、事前に試遊予約用のアプリがしっかり用意されていたため、無駄に長い行列が発生することはなく、余計な混乱もなかったのはとても良かった。
試遊コーナーで特にイチオシとなっていたのはVR-FPSの2作品。「Farpoint」(関連記事)と「RIGS: Mechanized Combat League」(関連記事)だ。
E3は主に北米市場にアピールするための場であるため、FPS系VRコンテンツをイチオシとすることはよく理解できるが、特に驚きだったのは「Farpoint」をプレイするためのVR-FPS専用ガンコントローラー「PlayStation VR エイムコントローラー」がフワッと発表されたこと。“フワッと”というのは、E3会期前日に行なわれたPlayStationプレスカンファレンスでは全く触れられないまま、公式ブログ上でのアナウンスとなったためだ。そうはいっても、VRでFPSをプレイするためだけに専用のガンコントローラーを用意するというのは、SIEの北米向け展開の本気度を示すモノである。
なにしろプラットフォーマーによる周辺機器というのは1度出てしまえばデファクトとして使い続けることになるので、早い時期に出すことのリスクはかなり高い。特にVRゲームは開発手法やゲームデザインについてまだまだ研究の余地があるので、あとから“やっぱり別のデザインが良かった”となり、対応ソフトが「Farpoint」1本で終了するというリスクもある。それを圧してVR-FPS用コントローラーを早期に出してしまうというのは、それだけSIEがPS VRというVRプラットフォームを早く成熟市場にしたい、という考えの現われだと思う。
今回発売が決定した「サマーレッスン」は、海外向けの発売は見送る方向で調整が進められているため、E3会場での展示はなかったが、国内のPS4オーナーにとっては大注目のVRコンテンツになることは間違いない。日本・海外で文化の違いはあれど、それぞれに注目タイトルが存在するPS VRは、VR市場全体で大きなプレゼンスを発揮することになるはずだ。
新型XboxがVR対応へ、「Project Scorpio」
注目を浴びるPS VRを意識してか否かはわからないが、今回のE3でMicrosoftが本格的にVRゲーミング市場に乗り出す姿勢を見せたことは極めて大きなニュースだ。
Xboxプレスカンファレンスの最後にサプライズ発表された上位版Xbox“Project Scorpio”は、6TFlopsのシステム性能を持つとされ、“Hi-Fi VR(High Fidelity VR)”、すなわちPC向け並の高品位VRへの対応を謳う。
6TFlopsの性能というのは、Xbox Oneの4倍以上、ハイエンドGPUを搭載したゲーミングPCに匹敵する。Xbox Oneへの後方互換性を持つとされているので、アーキテクチャはXbox Oneやその新型Xbox One Sと同じ、AMDのカスタムAPUに基づくものになるはずだ。そして6TFlopsといえば、6月末から販売がスタートするAMDの新GPU「Radoen RX 480」(5.834TFlops)に相当する。2017年とみられる投入時期から察するに、Project ScorpioはこのRadeon RX 480相当のGPUをベースとするカスタムAPUを搭載することになりそうだ。
そして同じプレスカンファレンスでの発表によれば、Microsfotは、Xbox OneとWindows 10をシームレスなゲームプラットフォームとみなしていく「Xbox Play Anywhere」ロゴプログラムを推進していくつもりである(関連記事)。世界数億台の普及数を誇るWindows 10搭載PCとXbox Oneをひとかたまりのゲーム市場と化すことによって、Microsoftは自社のゲームサービス(Xbox Liveを中心とした各種サービス)を全てのゲーマーに拡大していきたい考えだ。
Project ScorpioにおけるVRゲーミングも、限りなくWindows 10のそれとシームレスに結合するものにしていきたいはず。となれば、両方で使えるXbox Oneコントローラーと同様に、VRヘッドセットも両方で使えるものにしたいはずだ。そこで考えられるのが、かねてよりパートナーシップを結んでいるOculusと連携し、Oculus RiftをProject Scorpioの標準HMDとするシナリオ。そうすれば、PC界隈で普及するOculus Riftのユーザーベースやコンテンツをそのまま取り込めることになり、両者にとってメリットが大きい。Microsoftが独自にVRヘッドセットを用意してさらに市場を細分化するよりも見込みは高そうだ。
有力IPのVR対応が進む
大手メーカーが多数参画するPS VRや、市場形成が先行するPC用VR界隈では、かねてより“キラータイトルが必要だ”、と論じられることが多かった。既にVRシステムを所有するRift/Viveのオーナーや、虎視眈々と導入を伺うゲームファンにとっても同じ思いであっただろう。今回のE3ではその点でも大きな進展を見ることができた。
まずPS VRでは、「バイオハザード 7 レジデント イービル」のフルVR対応が明らかになり、プレイアブルデモの一部披露も行なわれた(関連記事)。さらには「ファイナルファンタジーXV」のVRモードも、国内のゲームファンにとって見逃せない存在だ。海外向けを意識したところでは「BATMAN: Arkham VR」や、「Star Wars: Battlefront X-Wing VR Mission」と、最強クラスの有力IPがVRコンテンツ化するということでPS VRへの期待感を大いに高めてくれる(関連記事)。
PC用VRシステムにも有力IPが対応する。最注目はBethesda Softworksの「Fallout 4」のHTC Vive版(関連記事)である。BethesdaとOculusの間に法的な争いあることからHTC Viveのみへの対応となっているが、眼前に広がる「Fallout 4」の見慣れた風景、左手のViveコントローラーをPip-Boyにみなしてのプレイなど、ファンにはたまらない要素がいっぱいだ。2017年とされるリリースが楽しみである。またBethesdaでは5月に発売された「DOOM」のVR版もアナウンスしている。こんな感じで有力IPのVRスピンオフがガンガン進んでくれれば、VRゲーマーとして極めて望ましい展開だ。
E3に合わせて開催されたPCゲーマー向けのイベントPC Gaming Show(関連記事)では、サバイバルCOOPシューター「Killing Floor」のOculus Touch版となる「Killing Floor: Incursion」や、撃ちまくり系FPSの「Serious Sam」のVR版となる「Serious Sam VR」(Vive/Rift両対応)が発表された。PCゲーマーにとっては馴染みのある作品のVR対応、しかも、VRシューターとしてこれ以上ない題材の製品化だ。どちらも2016年内のリリースを予定しているので要チェックだ。
Oculus、HTCは新発表なし、試遊に注力
昨年はE3開幕直前にプライベートカンファレンスを開催して新たなVR新時代の幕開けを華々しく宣言したOculus。今回のE3ではプラットフォーマーとしての新発表はなく、試遊コーナーを中心としたブース出展のみにとどまり、昨年に比べるとやや落ちついた印象だった(関連記事)。もちろん、そのメインディッシュとなっていたのはOculus Touch対応コンテンツの出展。しかし、そのOculus Touchそのものの発売日・価格の発表がなかったのは、入手を待ち望むVRゲームファンにとっては非常に痛いところだった。
もうひとつ懸念点となっているのは、タイトルラインナップのアピール力に不足が感じられる点。豊富な資金力でOculus Store向けのエクスクルーシブ戦略を進めるOculusであるが、今回出展されていたラインナップを含め、現時点ではインディー系が中心で、AAAクラスのゲームデベロッパー・パブリッシャーによる注目タイトル、というものを提示できていないでいる。GearVR向けであればUbisoftが「アサシンクリード」のVR映像作品を出していたりするが、フルスペックのVRゲームとなると相当ハードルが高いようである。
対するHTC Viveを展開するHTC/Valveのほうは、PCにはエクスクルーシブ戦略はそぐわないと考えている。RiftやViveといったVRシステムは、あくまでも自由なPCプラットフォームの周辺機器に過ぎず、エクスクルーシブ戦略で市場を分断することに益はないという考えだ。その背景には、PC界隈でデファクトスタンダードのコンテンツ配信システムとなっているSteamの市場支配力に対する自信が見え隠れする。
そういった考えを反映してか、E3でのHTCはメインエキスポ会場への出展はなく、コバンザメ的に会場周辺で地味目のデモエリアを設営していたのみ。コンテンツもリリース済みのものが中心だ。Vive未体験のゲーム業界関係者にとりあえず体験させておけば、上述のように「Fallout 4」というトップレベルのIPも勝手に(?)対応してくれるという美味しい立場である。
また、Oculusに先んじてハンドジェスチャーによるコントロールが可能なViveコントローラーを市場投入済みというアドバンテージも大きく、エキスポ会場でのコンテンツデベロッパー各社によるVR出展はViveを使ったものがほとんどだった。HTC/ValveのE3会場での存在感そのものは極めて薄かったが、PC用VR界隈での存在感は極めて巨大だ。
モバイルVRがPC用ハイエンドVRに追いつく兆しが見えた!
エキスポ会場ではモバイルVR関連の出展もいくつか見られた。スマホをVRHMDアダプターにドッキングして使うタイプが中心で、コンテンツの出展内容もパノラマ/3D映像を見せるものが主流。RiftやViveを既に知っている立場としては、ゲーム用途としてはまだ弱い印象である。特に現在のスマホVRは位置トラッキング機能がなく、VR空間内にユーザーが主体的に入り込む経験ができない、というのが現時点では大きい。
とはいえ、ここは技術的な発展が非常に速い分野である。スマホVRが本格的なVRゲームに応用できる時期はかなり近づいているようだ。それを感じさせてくれたのが、カールツァイスのブース内でデモが行なわれていたDacudaの「Mobile RoomScale VR」という技術(関連記事)だ。
これはスマホのフロントカメラを使って周囲の環境をスキャンし、それを位置トラッキングに応用することで、Rift/Vive相当の機能をスマホVRで実現。さらにPC側にはOpenVRのカスタムドライバーを実装して、スマホをViveコンパチブルのVRシステムとして認識させ、SteamVR対応のルームスケールVRコンテンツを遊べるようにする、というものだ。Dacudaではこのソリューション全体を「vaiaVR」という名称で製品化する考えである。11万円以上もするHTC Viveを使わずにSteamVRを体験できるようになれば、ハイエンドVRのユーザー層をぐっと広げることになるに違いない。
この秋にはGoogleのスマホ向けVRプラットフォームであるDaydreamに対応したVR-Readyなスマホや対応VRHMDアダプターが多数登場する見込みであり、Google Tangoのような3Dスキャン技術を用いた位置トラッキングも急速に実用化されるだろう。ハイエンドなVR体験がさらに身近なものになる。
VRゲーミングの世界はまだはじまったばかり。しかしこれから予想を超えるほどの拡大を見せる。今回のE3ではそんな期待を大いに持つことができた。