★ PS Vitaゲームレビュー★
タッチ操作で描く墨汁アクション!
アーケードライクな手軽さと、やりこみの深さをプラスしたアクション作品
「墨鬼 SUMIONI」
ジャンル:
  • 墨筆アクション
発売元:
開発元:
プラットフォーム:
  • PS Vita
価格:
5,229円
発売日:
2012年2月9日
プレイ人数:
1人
レーティング:
CERO:B (12歳以上対象)

 個性的な和風タイトルを数多く手がけてきたアクワイアが放つPS Vita用新規タイトル「墨鬼 SUMIONI」は、邪悪な神と悪霊に満ちた平安時代の世界を、主人公“墨鬼”を操作して進んでいくアクションゲームだ。

 墨彩画タッチで描かれた独特な和テイストのグラフィックスや、タッチ操作で画面に線を描く“墨汁タッチアクション”など、タイトル通り“墨”をコンセプトにしているのが特徴。その個性に対して、ゲーム性はあえてアーケードライクな横スクロールアクションで、プレイに応じて変化するマルチルート・マルチエンディングも搭載。手軽に遊べるプレイ感ながら、やりこみがいのある作品となっている。

 発売から少し時間が経ってしまったが、無料アップデートによるモード追加や、3月22日に続き、4月5日にも同じく無料で追加ステージを配信するということで、これから手を出すのも充分にありな本作。タッチ操作+横スクロールアクションという新旧の魅力を併せ持ったアクションタイトルの魅力をレビューしていこう。



■ タッチ操作の墨筆アクションを駆使して突き進む、歯ごたえのある横スクロールアクション!

墨鬼ことアグラが、墨神であるシドウとヨミヒと共に魔都と化した京の都を目指す

 物語の舞台は平安時代の日本。墨神を召喚することのできる“墨水師”と呼ばれるたちがいる世界だ。朝廷の宰相「正倉院 道定」に仕えし墨水師「天眼」を疎ましく思う、「福条氏」と卑しき墨水師「星冥」の陰謀によって、道定は宰相から失脚し、天眼は流刑地へと追放されてしまう。

 その後「福条氏」と墨水師「星冥」は仲違いし、逆上した星冥は禁断の秘術である「悪霊の召喚」を行なってしまう。星冥は魔人と化し、福条氏を殺害。道定とその娘である「光姫」を操り、京を魔都へと変貌させた。

 流刑地で異変を知った天眼は墨神「獅導(シドウ)」を連れ、残された力を振り絞って力尽きながらも、一匹の鬼を封印から解き放った。だが、この鬼「阿九羅墨鬼(アグラノスミオニ)」は筋金入りの怠け鬼。シドウが京の異変を話すもアグラはうわの空。アグラが任務を遂行しなければ天眼の霊によって消滅させるということを聞いてやっと重い腰を上げたものの……。京都から舞い戻った鳳凰の墨神「詠妃(ヨミヒ)」を加え、3人の京を救う戦いが始まる。

 ストーリーの導入部はこのようになっており、京都から遠く離れたところからアグラ達の旅は始まる。ここから京都を目指していくわけだが、道中にはたくさんの困難が待っている。


左は禁断の秘術を使って悪霊を呼び出した墨水師「星冥」。右の男性が「正倉院 道定」とその娘「光姫」で、2人は星冥によって操られているという。京の都を、そして2人を救うため、遠く離れた京の都へと向かっていく

墨彩画タッチな独特のグラフィックスで描かれるステージを横スクロールで進んでいく、アーケードタイトルライクな構成
画面をタッチして発動する“墨筆アクション”が本作最大の特徴。画像のように、線を引けば道を作り出せる

 ステージは主人公アグラを操作して右方向にあるゴールを目指して進んでいく横スクロールアクション。2D風のアーケードライクなスタイルだ。方向キーか左アナログスティックで移動、画面タッチか□ボタンで長刀を振る攻撃、移動の上方向入力か×ボタンでジャンプと、操作にはキー入力以外にタッチ操作など複数操作もフォローしている。これらはデフォルトだと両対応になっているのだが、オプションでボタン操作のみやタッチ操作重視に切替ができるので、どちらかに絞ったアサインにしたほうが遊びやすかった。

 鎧武者や修行僧などの敵をズバズバと斬りながら進んでいく。動きは軽快でレスポンスもよく、アクションとしての手触りがいい。前方向2回入力での「突進」や、突進後に前を入れ続けての「乱舞攻撃」、空中から下方向へ2回入力しての「熊蜂」という落下攻撃もある。

 そうして進んでいくと、目の前からジャンプしても飛び越えられなさそうな大きな鉄の歯車が転がってきた。このままでは大ダメージなのだが、そこで活用するのが墨汁アクションのひとつ「道筆」だ。画面をタッチして線を引くと、墨で描かれた道ができあがった。この足場に乗って楽々と飛び越えていく。

 このタッチ操作をアクションのボタン操作をしながら行なっていくのが本作の肝になるわけだが、プレイ当初は手間取ってしまい難しいところがあった。だが遊びこんで慣れてくると、道を書いてジャンプ、アナログスティックで前へ移動しつつ、右手の指で次の道を描きすぐにジャンプというように、右手をボタンと画面へ交互に動かして連続して道筆を使っていくようなプレイもできるようになった。リズミカルに道を作りながら飛び移って、敵やトラップを楽々と回避していく。そんなプレイができるようになってくると、本作のプレイがガラッと変わってきて面白さが掴めてくる。


前方向2回入力での「突進」から、方向を入れっぱなしで出る「乱舞攻撃」、乱舞攻撃中に□ボタンで繰り出す「風車」(出さずに乱舞を続けているとアグラは疲れて動きを止めてしまう)。コンボを上手く使ってスピーディーに敵を倒していく

真下へと落下攻撃を放つ「熊蜂」。道筆で進むアグラを下から矢で攻撃する敵などに有効だ

墨神のシドウやヨミヒを召喚して強力な攻撃を放つ! 画像のヨミヒは空から弾を放ち、フィニッシュに画像のような巨大なレーザーを放つ
Lボタンを押すと画面がモノクロで時が止まる「術式画面」になる。墨神を召喚するには印の一筆書きを成功させなければいけない

 タッチ操作を使った攻撃方法もある。Lボタンを押すと「術式画面」となって時間が止まり、その間に画面に線を描けば、タッチしたところに炎が、術式画面中に長く押し続けると雷雲を作りだせる。炎は広範囲にまとめて描けるので、例えば地上を徘徊しているたくさんの敵たちをまとめて焼き尽くせる。雷雲は真下へと落雷で攻撃してくれる。

 道筆で描いた道や術式の炎は、「水筆」に切り替えてタッチ操作で消すこともできる。足場から下へと落ちたい時に使ったり、炎を水筆で消して水蒸気を発生させて攻撃したりと色々な使い道がある。だが、時々気づかない間に筆が水筆に切り替わっていて墨筆のつもりでタッチ操作したら水筆で慌てるなんていうこともあった。切替操作がたまに暴発するところがあるかもしれない。

 術式画面中に左下か右下にあるマークをタッチすれば、シドウやヨミヒの墨神を召喚できる。マークをタッチするとシンボルが画面中央に現われ、表示された順番で一筆書きすれば召喚成功。ほどなくして墨神が現われて一定時間強力な攻撃を放ってくれる。シドウは地上から、ヨミヒは空中から攻撃を放ち、最後にはド派手なレーザーのような攻撃を繰り出す。墨神は呼び出した後しばらくは召喚できなくなるので、どこで呼び出すのかがポイント。本作はタイムアタックが重要なのだが、ボスをスピーディーに倒すためにも墨神をうまく活用したい。

 こうした墨筆アクションを使うと、体力ゲージの下にある「墨力ゲージ」を消費する。ゲージを回復する時は、墨を擦るように背面タッチパッドをこするという操作だ。これがまた独特で、ボタン操作と画面を交互に触りながら、時折背面タッチパッドも擦っていく。なかなか忙しい手の動きになるのでこちらも慣れが必要だが、慣れてくるとボタン操作をしつつ画面で墨筆アクションを行ない、ゲージが減ってきたらジャンプで敵の攻撃や弾を避けつつ、背面側を一生懸命に擦るという動きやリズムができてくる。ただ、移動しながら道筆を描くのは、左利きの人だともしかしたらちょっとやりづらいのかもしれない。


術式画面で線を描けばそこに炎が現われ、長押しすれば雷雲を作り出せる。広範囲に攻撃できるうえに、術式でダメージを与えつつ同時にアグラの攻撃もできるので、うまく重ねていきたい
地上を突進して攻撃する墨神のシドウ。ヨミヒとは攻撃方法が異なるので、敵に合わせて召喚していく

ステージのラストには画面を覆い尽くすような巨大なボスが待っている。道筆で足場を作り、多彩な攻撃を駆使して戦おう
ボスが待っているステージの他に、背後に迫る巨大な敵に追いつかれないように進むというステージも。このステージでは道筆を上手く使ってスピーディーに進むのが特に重要となる

 ステージは基本的に短めで、だいたい2~3分ほどでゴールまでたどり着ける。そこに道筆で中間地点には大きな櫓に乗っている弓兵や、牛車、巨漢の鬼など、中ボス的な存在を倒さないと先へ進めないような箇所があったり、ステージのラストにはそびえ立つ塔や巨大なボスが待っている。

 大ボスとの戦いでは道筆で上空に足場を作って攻撃を避けるのがプレイのコツになってくるのだが、もうひとつ道筆を使うメリットに「達刃化」という要素がある。これは道筆で作った足場にいると徐々に攻撃力がアップしていくというもの。達刃化はダメージを受けたり地面に着地してしまうとリセットされるので、攻撃しつつ、ボスの攻撃を避けつつ、だんだん薄まって消えていく道筆の道を新たに作って、いかに“達刃化をキープできるか”という戦いになる。

 ボスとの戦闘が長時間になると墨力ゲージが不足してきて、背面タッチパッドを擦ってゲージ回復に集中するという時間も出てくるし、合間には墨神を召喚したり術式で雑魚敵を掃討したりと、するべきことがとても多いゲームだ。そこに、本作はタイムアタックが重要という要素もあるので、夢中になってあれこれと発動させていくプレイとなっている。それだけに最初は手間取ることが多いのだが、遊びこむと様々なアクションを駆使して驚くほどスピーディーにクリアできるようになる。上達を実感できるタイトルだ。

 ボスが待っているステージが基本だが、それ以外にも「背後から迫る巨大な敵からゴールまで逃げ続ける」というステージや、「タイムアップまで生き残る」というステージもあり、いずれも墨筆アクションをいかにうまく活用できるかがポイントになるが、活用の仕方が変わってくる。もう少しステージ目的のバリエーションが欲しかったところもあるが、それは今後に配信予定の追加ステージに期待したいところだ。

 アグラの体力と墨力の最大値をアップさせる成長要素もあって、中ボスや大ボスを倒すと最大値がアップするアイテムを落とす。アップした最大値はエンディングを迎えてもう1度最初からプレイする時にも引き継がれるので、遊びこむほどにアグラがパワーアップしていくという作りだ。能力が低いうちに苦戦しても、遊ぶうちに楽にクリアできるようになっていく。


道筆で作った足場の上にいると起きる「達刃化」で、攻撃力が徐々に高まっていく。ダメージを受けたり道筆以外の場所に降りると消えてしまうので、いかに「達刃化」状態を維持できるかが攻略のコツ

マルチルート、マルチエンディングを搭載している本作。分岐先のルートの難易度はかなりのもので、成長要素と合わせてやりこみもフォローしている

 そうして能力が高まり、プレイも上達してくると、本作の「マルチルート・マルチエンディング」への挑戦が始まる。本作はステージクリア時のタイムやプレイ評価で次に進むルートが分岐するようになっていて、ルート次第でエンディングが変わる。本作のストーリーは遠くの流刑地から京都を目指すというものだが、1番簡単なルートで迎えるエンディングは……という結果が待っている。よりスピーディーに進むことでルートが変わり、異なるボスとの戦い、異なるエンディングへと進めるというわけだ。

 この分岐した真エンディングへと向かうステージは、どんどん難易度が高まっていく。本作の横スクロールスタイルの画面構成を「アーケードライク」と冒頭で表現したが、難易度の高まり度合いもまた、昔のアーケードライクなところを感じさせる。非常に歯ごたえのある難易度だ。

 かくいう筆者も中盤からはかなり手こずって、ステージ途中でダメージをあまり喰らわないように道筆の使い方を考え、勝てないボスには「これをやろう、あれもやろう」と、タッチ操作やボタン操作のあらゆる要素を駆使しつつ、リトライしていた。歯ごたえのある難易度に、いつしかムキになってプレイしていて、夢中でトライするようになっていた。最も難易度の高い分岐にたどり着くには、相当な腕が必要だ。横スクロールのアーケードライクなアクションゲームというのは今となってはほとんど見られなくなってしまったが、本作はその頃のタイトルの良さを根底に持っている。


クリアタイムや受けたダメージ量などから、ステージクリア時にプレイ評価が出て、この評価次第でルートが変わっていく。光姫を救うにはより高難度のルートを目指さなければならない

 スコアアタック的な要素がルート分岐に関わっているタイトルなこともあり、3月9日の無料アップデートで「ランキングモード」が追加されたのが嬉しいところ。ストーリーでクリア済のステージだけを遊べるモードで、クリア時のスコアを送信し、全国のプレーヤーとランクを競える。「ランキングモード」を使用した公式大会も開催された。また、ギャラリーモードも追加され、イベント・ビジュアルやサウンドを観賞できるようになった。

 さらに、「DLCステージ」が3月22日の5ステージに続き、4月5日に5ステージが無料で配信される。こちらでは新たなボスや縦スクロールで進んでいくステージもあるとのこと。さらなる歯ごたえのあるステージや新機軸のステージとなっているのだろうか。こちらも楽しみにしたいところだ。


【3月9日に配信された無料アップデート】
3月9日に配信された無料アップデートでは、オンライン経由に全国のプレーヤーとスコアを争える「ランキングモード」と、本作のイベントビジュアルやサウンドを楽しめる「ギャラリーモード」が追加された


【3月22日に配信された無料配信ステージ】
EX1「修験道」EX2「空に夕暮れ」
EX3「山に牡丹」EX4「現世の境界」EX5「来るべき試練」

【4月5日に配信される無料配信ステージ】
EX6「再動」EX7「蒼碧なる幻影」
EX8「鋼鉄の獣道」EX9「地獄の攻防戦」EX10「邪悪な巨躯」

 最後に、1点だけ不満があったところを書くと、敵とアグラが重なってしまうと、こちらの攻撃が当たらず、こちらがダメージを喰らってしまうのが気になった。特にアグラに向かってまっすぐ迫ってくる動きの鎧武者が重なってしまいがちで、自分が移動してからでないと攻撃できない。敵が押し寄せる場面で敵と重なってしまい一方的にダメージを受け続けたりすると、プレイが嫌になってしまう人もいるかもしれない。全体に手触り良くできているアクションだけに、ここは少し残念なところだ。



■ 手軽かつやり込みもできるバランスのいい作品。アーケードライクなアクションのファンにオススメ

多彩なアクションがオーソドックスな横スクロールアクションに新しい魅力を加えている。1プレイを手軽に終えられる気軽さもありつつ、やり込み甲斐もあるというタイトルだ

 オーソドックスな横スクロールのアクションゲームながら、タッチ操作とボタン操作をフル活用したアクションの数々、ルート分岐で歯ごたえのある難易度に向かっていくプレイ感と、手軽な触り心地ながらもやりこみの深さがあるタイトルだ。

 スタートからエンディングまではだいたい約30分もあればたどり着けるのだが、真エンディングへと向かうルートを目指し始めると、いくらでもやりこめるゲームになる。1プレイの手軽さと、やりこめる内容量と難易度を両立した構成だ。昔のアーケードタイトルライクな良さを持ちつつ、タッチ操作も加えた独自のアクション、さらに無料DLCでランキングや追加ステージを提供するなど、今世代ならではの良さも抑えている。

 遊びこんでから魅力が増していく印象があり、早めに見切りを付けてしまうとちょっともったいないかもしれない。クラシックなアクションゲームが好きな人に基本的にオススメで、まずは本作で紹介したプレイのポイントを意識しつつ、体験版から触ってみてもらいたいと思う。


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(2012年 4月 2日)

[Reported by 山村智美 ]