■ 謎の施設に集められた9人の男女が裏切りのゲームに挑む!
「極限脱出ADV 善人シボウデス」は2009年にニンテンドーDSで発売され、高い評価を受けた「極限脱出 9時間9人9の扉」の流れを汲むアドベンチャーゲーム。チュンソフトのお家芸であるノベルパートと、知的快感に満ちた謎解きに挑戦する脱出パートが融合した、サスペンス色の強い内容となっている。
シナリオには打越鋼太郎氏、キャラクターデザインには西村キヌ氏を迎え、ガスマスクをした謎の黒幕「ゼロ」や生き残りをかけた「ノナリーゲーム」、ゲーム参加者を管理するための「バングル」、さらにはゲームのテーマになっている「9」という数字など、「極限脱出 9時間9人9の扉」との共通点は多い。
また、ニンテンドーDSからニンテンドー3DS、PlayStation Vitaへとハードが変わって、格段に美しくなったグラフィックスや、人気声優を起用した臨場感溢れるフルボイスのドラマ、遊びやすくなったシステムなどの進化要素も満載。ここではまず、プロローグと登場キャラクターを紹介していこう。なお、本レビューにはPS Vita版を使用している。
【プロローグ】目覚めると、そこはエレベータの中だった。
かたわらには見知らぬ少女の姿があった。
しかし向こうはこちらのことを知っているらしく……。
「シグマ……」
なぜ……? どうして俺の名前を知っている?
激しく詰め寄るシグマだったが、その追及は、突如モニターに現われた1羽のウサギによって断ち切られ……。
「そのエレベータ、まもなく墜落するんだウサ」
謎の少女・ファイと共に、どうにかエレベータを脱出したシグマ。
やがて倉庫のような広い空間にたどりつき、そこで見覚えのない7人の男女と出会うことになった。
シグマたちを含めて合計で9人。
脱出するためには裏切りのゲーム【アンビデックスゲーム】を行なわなければならないという。
協力か、裏切りか?
敗者に与えられる罰は――死。
信頼とだましあいの先に待ち受けているものとは、はたして……。
不条理なゲームに参加させられることになった9人の男女。中には知り合い同士もいるようだ。脱出に必要なバングルのポイントを稼ぐため、「アンビデックスゲーム」でほかの参加者を信頼するか、それとも出し抜くかの選択を何度も迫られる |
シナリオの全体像を俯瞰できるフローチャートを採用。1度体験したシナリオであれば、好きな場面にさかのぼれる。これを活用してすべての結末をたどり、物語の全貌を見極めよう。また、シナリオが読み進められなくなる「シナリオロック」がかかる場合がある。そんなときはほかのシナリオやクリア済みのシナリオを遡ってプレイし、ヒントを探すこととなる |
プレーヤーはシグマとしてゲームに参加し、ほかの参加者と関わりながらノナリーゲームを進めていくことになる。ノナリーゲームに勝利するには、一定の条件を満たすと開始されるアンビデックスゲーム(以下、ABゲーム)によって、バングルポイント(以下、BP)を9以上にしなくてはならない。
なお、取った行動によってシナリオが分岐し、最終的に9つのエンディングに派生する(ゲームオーバーになるルートも含めるとその2倍以上の結末がある)。登場人物や世界観の基本設定はどのルートも共通しているが、ルートによって物語はさまざまな角度から描かれ、クローズアップされる人物や被害者、迎える結末はまったく異なるため、ルートが変われば新鮮な気持ちでプレイできる。
加えて、謎解きで訪れる部屋もルートごとに個別に用意されているため、かなりの遊び応えがある。1つのエンディングでは断片的にしかわからない、作品世界の全貌が少しずつ明らかになっていく過程は、パズルのピースが埋まっていくような心地よい快感がある。新たなエンディングを見ることで生まれる謎もあるため、プレイすればするほど残りのルートの内容が気になって、ゲームプレイにはどんどん熱がこもっていくことになるだろう。
■ 度胸と良心が試される!? 緊張感溢れるノベルパート
ルート分岐に関係する選択肢は「何色の扉へ進むか(誰を仲間にするか)」、「ABゲームで協力と裏切りのどちらを選ぶか」の2タイプに大別される。見逃した選択肢は、クリア後にフローチャートでフォローしよう |
ノベルパートはシナリオを読み進めながら、時おり出現する選択肢を選んで物語を進めるゲームパート。ちなみにシナリオの序盤で、ノナリーゲームを仕組んだ黒幕と思われる「ゼロ」は9人の参加者の誰かである、という事実(?)がゼロ3世から明かされる。100%信じていいものかはわからないが、これによって「誰がゼロなのか?」という不安と疑念が参加者の間に生まれる。そして実際、シナリオが進めば誰かが殺されたり、行方不明になったりという物騒な事件が起き、疑心暗鬼が強まっていくことになる。
また、ノナリーゲームの参加者は全員が左手にバングルを装着させられている。バングルには特定のカラーでBPが表示されており、そのほかにSOLO/PAIRという区分がある。「PAIR」の場合、同色の「PAIR」バングルを持つ人物が必ずもう1人おり、その相手とタッグを組んで2人一緒に行動しなくてはならない。
さらに、ゲームの進行に必要なカラードドア(以下、CD)と呼ばれる色つきのドアを通り抜けるには原則として3人で組むことが必要で、バングルカラーの組み合わせとCDの合成色を一致させなくてはならない。つまり、PAIR2人とSOLO1人が一時的にチームを組んで同じルートを進むことになる。これはほんの一例だが、このような基本ルールやその補足ルールが細かく設定されている。
結局のところ、こうしたルールはノナリーゲームへの参加に対して消極的な行動を許さないために設定されているものだ。誰とも組まずに行動を起こさなかったり、決められた制限時間をオーバーすると、重いペナルティが課せられてしまう。そのペナルティとは、バングルに内蔵された薬品の注入……わかりやすく言えば「死」である。数々の制約がある中で、プレーヤーはペナルティを回避して勝利するための決断を余儀なくされ、常に余談を許さない状況の中でゲームは進んでいく。
ゲームの勝利条件は、BPを9以上にして「9」と書かれたドアを開けて外に出ること。そして、BPを稼ぐために行なうのがABゲームであり、ここにも疑心暗鬼を生むルールが存在している。ABゲームは、一緒に行動したPAIR2名とSOLO1名が個室に分かれ、両者が「協力」か「裏切り」に投票することで完了する。「協力&協力」なら両者がBP+2、「協力&裏切り」なら協力側がBP-2で裏切り側がBP+3、「裏切り&裏切り」なら両者がBP±0となる。投票の締め切り時刻が過ぎるとゼロ3世から結果が発表され、バングルのカラーとPAIR/SOLOはランダムで変化する。
BPは全員3からスタートするため、理屈の上では全員が協力を選び続ければ、3回目のABゲームで全員のBPが9になる計算だ。しかし、裏切りを2回成功させれば2回目のABゲームでBP9に達する。とはいえ、1度でも裏切った参加者は信用されにくくなる危険をはらんでいる。
このルールの怖いところは、BPが0になった者は即座にペナルティを受けて薬殺されることだ。死者のバングルは自動的に外れて持ち運びが可能になるため、有効利用を考える参加者もいるかもしれない。というのも、ABゲームに参加しない者は自動的に協力が選ばれる。死亡してバングルのみになった相手と組めば、必ず協力を選択させられるわけだ。ちなみに、3人全員がABゲームで協力も裏切りも選択しなかった場合は、その3人全員に死が与えられる。
こうしたルールを考え合わせると、素直に「協力」を選ぶことがとてもリスキーに思えてくる。仮に「協力を出し合おう」という協定を結んだとしても、自分以外の参加者はこの日に初めて会う人物ばかり。いとも簡単に裏切られるかもしれないのだ。しかも、1回目のABゲームで裏切られてBPが1になると後がなくなり、ますます協力を選びにくくなる。
このようなノナリーゲームの基本ルールに加えて、シナリオの中で少しずつ明かされていく登場人物の正体や人間関係、積み上げられる伏線などが融合し、一時も目を離せない手に汗握る物語が展開していくのだ。
■ 良質の謎解きやパズルに挑戦する脱出パート
ノベルパートで同行する相手が決まり、対応するCDを開けて進むとその先にある部屋で脱出パートに突入する。脱出パートでは思考型パズルをプレイし、部屋を出るための脱出キー(パスワード)と、次のABゲームに参加するためのカードキーを探し出すことが目的だ。脱出キーを部屋にある金庫に正しく入力すれば、扉が開いて前述のアイテムが手に入り、脱出パートは晴れてクリアとなる。
脱出パートの操作はノベルパートとは打って変わって、画面タッチとフリックを駆使して、気になる物を調べたり、周囲を見回したりしながら謎を解いていく。このパートの謎解きに関しては総合的に見て、かなり歯ごたえがあるというのが正直な感想だ。インターネットで攻略情報を得やすい今という時代だからこそ、あえて難しめに作られているのかもしれない。とはいえ、パズルに手こずっていると同行するキャラクターがヒントをくれるし、メニューを開いて難易度を「EASY」に変更すれば、さらに詳しい解法のヒントをくれる。画面にメモを取ることもできるので、気になった言葉や記号はこまめに書き止めながら進めよう。
また、手に入れたアイテムは「組み合わせ」が可能。これは「極限脱出 9時間9人9の扉」にもあった仕組みで、複数のパーツからカギを作成したり、カクテルを作ったり、容器を液体で満たしたりできる。謎解きで詰まったときは、これを試してみると道が開けるかもしれない。
なお、探し出せるパスワードには脱出用のもののほかにアーカイブ用がある。アーカイブ用のパスワードは簡単には見つけられないが、これで金庫を開けると「SECRET」に登録される極秘資料が閲覧できるようになる。フローチャートからいつでも再挑戦が可能なので、ひとまずアーカイブ用は気にせず脱出キーの入手を目指すといいだろう。
■ スリリングな世界――極上の非日常を体験せよ!
謎の施設で目を覚ましたシグマは、理由もわからないまま命を賭けたゲームに参加させられる。こうした、限定状況下での極限状態を描いたシナリオは、近年になって「ソリッド・スリラー」と呼ばれるようになった構造である。
極めて不条理な状況でありながら、プレーヤーには冷静に向き合う心理的余裕はなく、追い立てられるように選択を迫られ続ける。その結果、生存本能をとことん刺激され、作品世界に強烈に引き込まれてしまうのだ。もちろん、本作で得られるスリリングなゲーム体験は、プレーヤーを心理的に追い込むギミックや制約、人間ドラマ……こうした舞台設定が巧みであるからこそ成功していると言えるだろう。
そして外せないのは、物語全体を貫く数々の謎である。シグマを含めた登場人物、施設の存在理由とノナリーゲームが開催された理由、ゼロの正体、各ルートで断片的に語られる外界、さまざまな解釈ができる伏線めいたシーンなどもふんだんに盛り込まれ、シナリオというよりも本作の世界そのものが高い求心力を持っている。「極限脱出 9時間9人9の扉」のファンには無条件でオススメできる作品であるし、そうでない人もサスペンス色の強い物語が好きならば、ぜひ体験してほしいタイトルである。
最後に3DS版についても触れておくと、脱出パートの操作感覚が大きく異なっている。PS Vita版に慣れたあとでは画面が小さく感じられるが、タッチペン操作は誤操作が少なく快適。両方のハードを所持している人は、画面の大きさと細かい操作のしやすさを天秤にかけ、遊ぶハードを決めるといいだろう。
(2012年 3月 27日)