(2013/10/17 00:00)
「グランド・セフト・オートV(GTAV)」をたっぷりと楽しんでいるだろうか。3人の主人公によってストーリーが織りなされるというシリーズ初の試みは、これまで以上のストーリーの厚みをもたらし、「こいつらはいったいどうなってしまうんだ」とハラハラさせられた。
筆者は本作を手に入れてからのめり込みまくり、メインストーリーを一気にクリアしてしまった。本作がシリーズを受け継ぎながらも大きく進化した作品であることを実感し大きな満足感を得た。まだクリアしていない人も、本作のすごさは感じているだろう。クリアした上での面白かったところ、得た感触を語りたい。
男達の熱い戦い、つばを吐きかけたくなる陰湿な悪役、共感することが全くできない変人などなど、「GTAV」では様々な人間達のドラマが描かれる。そして“犯罪”をファンタジーとしてとらえたアンモラルで過激な大冒険が楽しめる。さらにスポーツやショッピングなど“生活”を楽しむ要素も盛りだくさんだ。本作をプレイしせずにゲームは語れないというところまで「GTAV」は進化している。ゲーム文化の1つの頂点がここにはある!なお、筆者はこのレビューを書くためにゲームをクリアしている。必然的に若干ネタバレになる情報も含んでいるので、ネタバレを嫌う人は、くれぐれもご注意頂きたい。
マイケルとトレバーの確執、FIBの影……変化する状況の中フランクリンは何を思う?
引退した元銀行強盗マイケルが復活し、若きフランクリンがド派手なことをやってのけた「宝石店襲撃」は、物語を大きく動かし始める。トレバーがマイケルを捜し当て、10年ぶりの再会を果たす。
マイケルは10年前の銀行強盗でたった1人証人保護プログラムによって報酬を受け取り、家族と悠々自適の生活を送ってきた。それに対して10年前、何とか逃げ切ったものの、ずっと警察に追われ続け、地方ですさんだ生活をしていたトレバー。マイケルはトレバーに無いものを全て持っている。10年前、マイケルが死んだと思ったトレバーの悲しみは何だったのか?
トレバーとマイケルの出会いはどんな凄惨なものになるのかと思っていたが、割とあっさりだったのが面白かった。出会った時トレバーは、マイケルの娘トレーシーがダンス番組に生出演し「下手なダンスを放送させて笑いものにされようとしている」ことを知ると、あっさりとマイケルと共に“救出”に向かってしまうのだ。幼い頃にあったことがあるかわいい娘の危機を救うため、突撃してしまうのである。
むちゃくちゃな人間だが、トレバーは“純粋”な男である。裏切ったマイケルには微妙な感情を持ちつつも、彼が様々な悪事に向かっていく中、“自分を取り戻していく”ことに対して喜ぶし、フランクリンに対しても敬意を見せる。刑務所に捕まったままのかつての仲間を助けたいとも本気で思っている。フランクリンは最初はトレバーの狂気にどん引きしながらも、徐々に信頼を寄せていく。ストーリーでは彼の“純愛”も描かれるのである。
フランクリンの“師匠”ともいうべきマイケルだが、こちらはFIB(連邦警察)が出てきてからちょっと怪しくなってくる。豪邸に何も仕事をしなくていい生活などという証人保護プログラムは、実は公に言えない秘密があったのだ。FIBのデイブとの繋がりによるものだったが、これをデイブの上司スティーブに知られ、利用されることになる。
マイケルはことあるごとに“家族のため”というのだが、家族は彼を見限り雲隠れしてしまう。マイケルはトレバーにきつく当たることがあるが、これはトレバーに対して何か秘密を抱えているような感じだ。マイケルの“保身”への執着は強過ぎるほどで、実際10年前、彼は我が身と家族のために仲間を裏切っている。信用したいが、ぎりぎりのところでわからないという面がどんどん強くなっていくのだ。
「GTAV」はマイケルの生き方だけでなく、ストーリーそのものが綱渡りのような展開を見せる。信用できないFIBとの関係、暴走して敵対組織と大事になっていくトレバー、そしてそのトレバーを疎ましく思う感情を持ち続けるマイケル……。なにより物語を牽引していくのは殺人を含めたありとあらゆる“犯罪”なのだ。その犯罪が失敗すれば、簡単に破滅してしまう。マイケルが“家族を守る”と叫ぶ度にその危うさが強調される。トレバーとマイケルの間で、成長していくフランクリンはどうしていくかにも強く興味が惹かれていく。
「犯罪や暴力行為ばかりのゲーム」、「銃を撃つだけのゲーム」というイメージを持たれる「GTA」シリーズだが、根底には「男達の生き様と友情」を描き続ける熱い魂のほとばしりがある。相手を利用し、つぶし合う犯罪者の中で、主人公達は絆を強くし、戦っていく。その熱いドラマにプレーヤーは感情移入していくのだ。
なによりも、お約束でセンチメンタルな“悲劇”に飛びつかないところにシナリオライターの力のすごさを感じさせる。今作でも熱さと爽快感は健在であり、そこに“未来への不安”というスパイスが、これまでより多めに振りかけられているのが面白い。ぜひラストまで突っ走って欲しい。しかもラストを向かえた後にプレーヤー全てを驚かせる“仕掛け”まで用意されている。こちらもぜひ楽しみにして欲しい。