ゲーミングノートPCレビュー

初の3D立体視可能なモバイルゲーミング環境!
PCゲーミングの未来はここにある? -後編-

「ASUS G51Jx 3D」



 前編に引き続き、ASUSTeKのゲーミングノートPC「G51 Jx 3D」についての情報をお届けしよう。前編では本製品のハードウェアや性能面について詳しくご紹介した。後編となる今回は、本製品の目玉機能である3D立体視について深く掘り下げてみたい。

 「NVIDIA 3D Vision」によるアクティブシャッター方式のステレオスコピック3D(立体視と同義)は、最近ではデスクトップPCでも容易に導入できるソリューションだ。LGエレクトロニクス、サムスン、ACER、ASUS、DELLなどから発売されている120Hz対応液晶モニターと「NVIDIA 3D Vision」、そしてGeForce搭載のPCさえあれば、すぐにでも立体視を楽しめる。

 しかし、本製品「G51 Jx 3D」は全てがオールインワンのノートPCだ。デスクトップPCと違って気軽に持ち運びが可能、個室からリビングへ、あるいは旅のお供にと、最新の3D立体視ソリューションを好きな場所に持ち込める。つまり、可搬性のある3Dゲーミングプラットフォームとして、デスクトップにはない使い出のある存在であることは間違いない。それではまずは本製品のモニター周りから話を進めていこう。



■ 3Dでゲームを楽しむということと、120Hzモニターの価値

本製品のモニターはネイティブ120Hz。シャッタースピード1/60秒で撮影すると、このように2フレーム分の映像がブレて見える
元映像がこの輝度だとすると……
シャッターグラスを通すとこの程度の明るさに見える

 ゲーマーにとってモニターの性能は非常に重要なポイントだ。よく一般的なモニター評で「動画性能」という言い方をするが、ゲームではこれがもっと顕著で、単に残像が少ないとか、動きがなめらかに見えるだけでは不十分だ。何より高い反応速度がゲームをプレイする上で快適さに影響するためだ。

 その点本製品のモニターは、ネイティブで120Hzを出力できる。一般的な60Hz モニターの倍速で映像が入力され、出力されてくるわけである。したがって、単純計算で言うとリフレッシュレート由来の遅延も半分、ということになる(60Hzでは約16ms、120Hzでは約8ms)。

 また、通常の倍のフレームレートで映像が更新される故の動きのなめらかさにも注目したい。筆者は現在、LGエレクトロニクスの120Hz液晶モニターであるW2363Dをゲーム用に使用しているが、デスクトップでのマウスカーソルの動きはもとより、120fpsで動作するゲームでの「ヌルヌル」ぶりは感動に値する。個人的にはもう60Hzモニターには戻れないと考えているぐらいだ。

 こう考えると、「G51 Jx 3D」のウリはもちろん3D立体視への対応なのだが、120Hzモニターを搭載しているという1点だけでもゲーミングノートPCとして見逃せない製品なのだ。もし店頭などで「G51 Jx 3D」を触れる機会があれば、ぜひデスクトップ上でマウスカーソルをグリグリと動かしてみよう。従来のモニターとは違った滑らかさを感じられるはずだ。

 その120Hzモニターが「NVIDIA 3D Vision」によるステレオ映像表示を可能にしているわけだが、このアクティブシャッター方式の立体視には少々弱点もある。まず、グラフィックスの描画量が単純に言って倍になるため、フレームレートが下がること。これについては前編で触れた通りだ。もうひとつの弱点は、シャッターグラスを通して見るために、映像の輝度が下がるということだ。

 「NVIDIA 3D Vision」のアクティブシャッターは、USB接続のエミッターを通してモニターのリフレッシュと同期を取り、非常に正確なシャッタータイミングを実現している。とはいえ、モニターから放射されている光を遮蔽していることは変わらず、目に入る映像輝度はモニター出力の半分以下となる(右図参照)。

 このため「BIOHAZARD 5」のようなゲームをプレイする際は、ゲーム側のグラフィックスオプションや、常駐系のグラフィックス調整ツールなどで、映像のガンマ値を多少上げておいたほうが見やすい画面を実現できる。また、画面を明るくすることで、液晶パネル由来の「クロストーク」と呼ばれるステレオ映像の残像効果の影響を低減するという効果も狙える。

 クロストークというのは、120Hzで右目と左目用の映像を高速に切替える際、モニター側で発生する残像のことを言う。クロストークが多いと、それぞれの目に届く映像にゴースト的な乱れが感じられるのだ。各社から発売されている120Hzモニターで3D映像を鑑賞した経験から言うと、「G51 Jx 3D」のクロストークは比較的良好なレベル。正確な数値はASUSTeKから発表されていないが、W2363Dに迫るクオリティだ。


映像をより明るく見るために部屋を暗くするという方法もアリ。その点「G51 Jx 3D」のキーボードはバックライト搭載で、暗くてもキートップがしっかり視認できるのが嬉しい


■ 3Dゲームの立体視とは? 本製品プリインストールの「Avatar the Game」で体験

「G51 Jx 3D」にプリインストールされている「Avatar the Game」
惑星パンドラの緻密な自然は、立体視で楽しむうってつけの素材だ
翼竜に乗って空を飛ぶシーン。奥行のある立体感が堪能できる

 ユーザー視点で言うならば、3Dのコンテンツをどれだけ楽しむかが、本製品のコストパフォーマンスに直結する。その点、「G51 Jx 3D」はCPUにIntel Core i7 720M、GPUにGeForce GTS 360Mを搭載しており、現時点で発売されているほとんどのゲームを良好なクオリティで動作させることができる。3Dモードでも快適かどうかとなると、「Crysis Warhead」のようなヘビー級ゲームは例外として、30fps以上で動作できるゲームがほとんどだ。

 しかし、現行のゲームは「NVIDIA 3D Vision」に最適化されていないものも多く、タイトルによって見え方が大幅に異なる現状だ。昨年発売された「BIOHAZARD 5」以降、立体視のために最適化されたタイトルが徐々に増えつつはある。ゲーマーとしては自分の好きなジャンルのゲームが対応しているかどうかが気に掛かることだろう。

 海外PCゲームを中心とした対応状況についてはNVIDIAのサイト(http://www.nvidia.co.jp/object/3D_Vision_3D_Games_jp.html)にリストがある。このリストに表記がないのが不思議なのだが、本製品「G51 Jx 3D」に同梱されているUbisoftの「James Cameron's Avatar: The Game」もまた、「NVIDIA 3D Vision」に最適化されたゲームのひとつだ。

 「Avatar: The Game」は、3Dシアターで上映されて興行記録を打ち立てた映画「アバター」のゲーム版だ。映画が3Dをウリにしていたということもあり、本作では様々な3D立体視方式に対応する、いわば立体視のテクノロジーショウケースのようなゲームになっている。ゲームそのものについては弊誌レビュー「海外ゲームレビュー『James Cameron's Avatar: The Game』」にてお伝えしているので、ご覧になると良いだろう。

 お店で買えば5,000円ほどするフルバージョンのゲームがプリインストールというのも豪気な話だが、このゲームをプレイすると「立体視に最適化されているゲーム」の見え方というのがよくわかるというのが1番のポイント。「G51 Jx 3D」は箱出しの状態に「NVIDIA 3D Vision」を接続すると自動的にステレオスコピックモードがONになるので、ゲームを起動すればそのまま立体視で楽しめる。

 その見え方というのは、立体視についてよく言われる「飛び出す映像」というものではなく、「奥行のある映像」に調整されていることだ。というのも、立体視の派手さを強調する「飛び出す映像」は、人間が「より目」になる視差のつけ方が必要で、焦点をあわせるのに眼筋が異様に疲れてしまう。それに引換え、「奥行のある映像」は遠くにある物体を見る時と同じで、両目がより自然な状態で映像を捉えることができるのがメリットだ。

 「Avatar the Game」の実装では、プレーヤーキャラクターがちょうど画面のちょっとだけ奥に立っているような形で視差が調整されている。このためゲームに登場する様々な風景は奥行きのある立体映像として表現され、キャラクターより手前に来る背景パーツやパーティクルエフェクトなどが時折「飛び出して見える」というメリハリが実現されている。ずっと飛び出していると目が疲れてしまうということを、よくわかっている調整だ。

 また、このゲームでは背景となる衛星パンドラの自然を高詳細な3Dモデルで表現しているため、立体視の持つ別の効果にも気づくことができる。ジオメトリーで表現された細かな凸凹の構造が、手にとるようにわかるのだ。特に細かい構造を持つ草木や、複雑な樹木の表面構造、キャラクターの衣服や装備類。通常のモードでは平面に埋もれてしまう情報が、文字通り浮き上がってくる印象だ。

 いわば、従来の2D画面上の3Dゲームは「片目で世界を見ている状態」。それが立体視では「両目で世界を見ている状態」に格上げとなる。最新ゲームの3Dグラフィックスを100%楽しむためには、立体視は外せない選択肢になりそうだ。

 現在の情報によると、映画「アバター」のBru-Ray 3D版の発売は2011年以降になりそうということで、映像ソフトで3Dを楽しむのは当分先のことになりそう。それだけに、先行して3D立体視を楽しめるPCゲーム版「Avatar the Game」は、映画ファンならずとも1度はプレイしておいて欲しいものだ。


「James Cameron's Avatar the Game」PC版は「NVIDIA 3D Vision」以外の3D表示方式にも多数対応しているため、立体視マニアなユーザーならリファレンスとして手元に置いておきたい1本。膨大なアートアセットを贅沢に投入した、ハリウッドスタイルのゲームの典型のようなゲームでもある



■ その他のゲームでの立体視体験

「3D Vision」最適化1号である「BIOHAZARD 5」は外せないゲームだ
「Colin McRae DiRT 2」は立体視で楽しみたいコンテンツの代表例。是非ドライバー視点で!
FPS系のゲームも立体視の効果を確認しやすい。現在ではSourceエンジン、Unrealエンジン系のゲームで問題なくプレイできる

 「Avatar the Game」はメーカー自ら立体視をウリにした例外的なゲームだが、その他のゲームでも立体視が効果的なものは多い。もちろん、「BIOHAZARD 5」は開発段階から「NVIDIA 3D Vision」を念頭に作られているので完璧。その内容については弊誌連載「PCゲーミング道場 第14回」にてお伝えしているので、そちらも合わせて参照してみて欲しい。

 筆者の経験上、3D立体視がより活きるゲームジャンルとしてFPS、レースゲームといった自分視点のものを挙げることができる。特にレースゲームは、車内視点をヘッドトラッキングセンサーと併用することで「まさに車内にいる臨場感」を味わえる。一方、FPSに関しては臨場感よりも、「敵や地形との距離感を正確に把握できる」という、プレイ感覚上の利便性が強い。

 今回「G51 Jx 3D」の評価にあたって各ジャンルいくつかのゲームをプレイしてみたが、その中で最も立体視のご利益を感じられたのがレースゲームである「Colin McRae DiRT 2」だ。本作は「NVIDIA 3D Vision」には最適化されていないものの、立体の見え方はごく自然で、車内視点でのプレイがいっそう盛り上がる。

 問題点としては、右目、左目用の映像で影の表示がずれてしまうという現象がある。これが原因で影部分に明滅感があり、これさえ無ければ完璧なのに、と感じられた。これは他の同世代のゲームでも同様の現象が見られることがある(例としてカプコンの『デビル・メイ・クライ 4』など)。シャドウマップの手法(カメラ座標をもとに影を計算)に原因があるようだ。

 FPS系ゲームではValve Softwareの「Team Fortress 2」を立体視でプレイしてみた。「G51 Jx 3D」で軽々と動くタイトルであるだけに、フレームレートも実用レベルで快適に遊べる。本作のベースとなっているSourceエンジンは総じて立体の見え方がごく自然で、「Avatar the Game」に近い感覚で遊べるのが良いところだ。NVIDIAによる「3D Vision」対応度評価でも、Sourceエンジンのゲームは総じて「最適」となっている。

 「Team Fortress 2」が良い感じで立体視で遊べたので、よりプレーヤー数の多いオンライン系FPSはどうかと気になり、代表的なタイトルで動作を検証してみた。全てのゲームで試すというわけにはいかなかったが、結果は以下の通り。



×「サドンアタック」(ゲームヤロウ)
 ステレオスコピックモードにならず、立体視不可。

△「スペシャルフォース」(NHN Japan)
 ステレオスコピックモードで動作。NVIDIAによるレーティングは「Not Rated(未評価)」。立体が飛び出し気味に表示され、かなり寄り目にならないと焦点を合わせられなかった。

×「クロスファイア」(アラリオ)
 ユーザーインターフェイスが画面からハミ出し、うまく動作せず。

○「STING」(WeMade Online)
 ステレオスコピックモードで完璧に動作。NVIDIAレーティングは「GOOD(良好)」。立体視状態で完璧にゲームプレイができる。Sourceエンジンベースのゲームなので当然といえば当然か。

○「Alliance of Valiant Arms(AVA)」(ゲームオン)
 ステレオスコピックモードでうまく動作。NVIDIAレーティングは「Not Rated」だが、立体の見え方はやや飛び出し気味ながら良好。照準が分離して見えやすかった点を除けば問題なくプレイできる。さすがUnrealエンジン。

×「カウンターストライクオンライン」(ネクソン)
 動作せず。是非「ゾンビモード」を立体視でプレイしてみたかったのだが……。



 というわけで、オンラインFPSでは動作する、動作しないものの両方が見られた。エンジンが比較的新しい「STING」や「AVA」については全く問題なく、立体視でのプレイを楽しめる。「3D Vision」を全く想定していないエンジンのゲームについては、今後のアップデートなどで対応が図られることを期待したいところだ。




■ 将来的には3D立体視を外部モニタでも楽しめるように

「NVIDIA 3DTV Play」
富士フィルム「FinePix REAL 3D W1」のサイト。現時点で最も手頃な3Dカメラだ

 120Hzモニターでのゲームプレイ、3D立体視での新しい体験、2つの面で「G51 Jx 3D」は画期的なゲーミングノートPCだ。それに加え、今後は本製品に装備されているHDMIポートがさらに活用の範囲を広げてくれるはずだ。

 というのは、NVIDIAが近々投入予定としている「NVIDIA 3DTV Play」というソフトウェアの存在だ(弊誌関連記事)。このソフトウェアは、ステレオスコピック映像出力が可能なGeForce GPUのHDMI端子から、HDMI1.4相当の信号を出力することにより外部モニターでも立体視を可能にするというもの。これを利用すれば「G51 Jx 3D」から120Hz対応のPCモニターや大画面の3DTVに立体映像を出力できるというわけだ。

 「NVIDIA 3DTV Play」が利用できるようになれば本製品を「移動可能な3Dコンテンツ再生機」としても使えるようになり、活用の場が大いに広がってくるだろう。何しろ、デスクトップPCを書斎からリビングに移動するのは骨が折れるが、ノートPCなら容易だ。NVIDIAのサイトでは、「NVIDIA 3D Vision」利用者には無償で提供されるとしているため、追加の投資も必要ない。

 富士フィルムの「FinePix REAL 3D W1」(製品サイト)のような3Dカメラで3D撮影をする際にも「G51 Jx 3D」が役に立ちそうだ。出先でプレビュー機として利用してもいいし、リビングに置いても違和感のないノートPCならでは、家族皆で3D映像記録を楽しむというシーンも無理なく想像できる。

 家電とPCの双方で3D化が進む昨今、いちはやく手軽に3Dエンターテイメントが楽しめるノートPCに先行投資すると考えれば、「G51 Jx 3D」のコストパフォーマンスは非常に高いと言える。まずは120Hzモニターの高速性を活かして純粋ゲーミングPCとして活用しつつ、今後登場するであろう様々な3Dコンテンツを待っても良いだろう。

 その意味で、ゲーミングPCとして、3D再生機として、「G51 Jx 3D」には2面的な魅力があるように思える。もちろん、これを見て「3Dに投資するのはまだ早い」と考える皆さんも多勢を占めるだろう。なにしろ本製品は、その「まだ早い」をいちはやく実現した未来のゲーミングPCなのだから。




(2010年5月26日)

[Reported by 佐藤カフジ ]