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爽快な戦闘を促進する「オーバーウォッチ」の巧妙なサウンド設計

足音からボイスまで、「プレイしやすさ」は「音」にあり!

3月14日~18日開催



会場:San Francisco Moscone Convention Center

 ブリザード・エンターテイメントによって開発され、日本でもWindows版、プレイステーション 4版が5月24日に発売予定の「オーバーウォッチ(Overwatch)」。現在はβテスト中であり、弊誌でもCBTレポートを掲載したが、GDC 2016ではこの「オーバーウォッチ」のサウンドデザインについての講演があった。

 登壇したのはブリザードSenior Sound DesignerのScott Lawlor氏と、Senior Software EngineerのTomas Neumann氏。6対6の対戦型アクションシューターという特性上、プレーヤーが聞き取る「音」は対戦時の情報として非常に大きな役割を果たす。本講演では、「オーバーウォッチ」における「音」がどのようにデザインされたのかが話されていった。

ブリザードSenior Sound DesignerのScott Lawlor氏
ブリザードSenior Software EngineerのTomas Neumann氏

状況把握に役立つ「オーバーウォッチ」のサウンド

音の「HDR化」に挑戦したという
キャラクターに重要度を設け、重要度の高いキャラクターの音が聞こえやすいようになる

 「オーバーウォッチ」では、試合中のサウンドがクリアに聞こえることはもちろんのこと、それらの聞こえ方にも非常に気が配られている。6対6で敵味方が入り乱れる中で、誰が最も脅威なのか、自分は誰を見ていて、誰から見られているのか。近くにいるのは誰か、攻撃しているのは誰か、強力なアビリティを使用しているのは誰か……などの情報を把握できるようにする必要がある。

 そこでチームが考えだしたのが、キャラクターに状況に応じて「重要度」を付与し、重要度の高いキャラクターの音が大きく聞こえるようにする、というもの。例えば、近くに重要度20と40のキャラクターがいた場合、40のキャラクターの音が聞こえやすくるなる。そこに重要度120のキャラクターが近づいてきたら、そちらの音が大きくなる仕組みだ。

 実際の試合では重要度に応じて「高:1人」、「通常:2人」、「低(仲間含む):4-10人」といったグループ分けが行なわれる(残りはカット)。このシステムにより、乱戦でも、「誰に注目すべきか」がサウンドから把握できるようになっているというわけだ。

 またこの「音」の聞こえ方は、地形によっても変化する。例えば壁を隔てていた場合、足音などはその壁を回りこむように聞こえるし、狭い場所や開けた場所でも聞こえ方は変わる。屋内と屋外、距離、反響なども影響するとした。

 さらに「オーバーウォッチ」らしいのは、個性豊かなキャラクターごとにも独自の「音」が設計されているということ。足音1つとってみても、ロボットのバスティオンはガッチョンガッチョンと音を出すし、でっぷりとしたロードホッグはドタドタと歩く。それぞれに個性的な「足音」があるので、これによってキャラクターを判別することも可能だ。アビリティ発動時のSEも同様で、音を聞くだけで「誰が何をしたか」がわかるというのが、本作の設計の大事なポイントだろう。

左からバスティオンとロードホッグ。歩き方1つでもまったく音が違う
ルシオは、味方時に近づくと彼の聞く音楽が聞こえてくる。敵の時は聞こえない
回復能力を持つマーシー。このアビリティを受けると、独自のサウンドが聞こえ、画面にも変化が表われる

個性的「音」が戦闘速度を促進。「DOLBY ATMOS」にも対応決定

ファラの「BARRAGE」は、発動時のボイスが敵にも聞こえる

 もう1つ「オーバーウォッチ」の大事な要素として、キャラクターボイスがある。「オーバーウォッチ」ではポイントとなる行動時にキャラクターが発言するのだが、敵、味方、そして自分自身で聞こえるものが異なる。

 死亡時や攻撃アビリティの発動時など全体に聞こえるものがあれば、ラインハルトのシールド展開のように自分と味方だけに聞こえるものもある。一方で、ジャンプやクリティカルによるキル、攻撃アビリティ失敗などは自分自身だけが聞くボイスになる。

 この仕掛けも巧妙で、要は戦況を変えるほどの行動の場合はその声が周りに聞こえるようになり、それほどでもない場合は独り言になるということ。戦場では、敵の声が聞こえたら警戒すべきだし、味方の声が聞こえたら支援が待っている。ボイスはキャラクターの個性を楽しむものであると同時に、戦場で何をすべきかのヒントになっている。実際プレイしていると見過ごしがちなところだが、これは勝利を目指す上でもかなり大事なポイントではないかと思う。

ラインハルトのシールド展開は、自分と味方にだけ聞こえる
クリティカルキル時のボイスは、自分にだけ聞こえる

 そして全体を通してみれば、個性的な「音」がキャラクターに与えられていることで、それらに直感的に反応していくような、素早くも積極的、かつプレイしやすい攻防戦が展開できるようになっている。ボイスチャットがなくても熱い協力戦が成立する背景には、こうしたサウンドデザインが大きな役割を果たしているわけだ。

 なお本作は現在βテスト中であるが、次回のパッチでオーディオシステム「DOLBY ATMOS」に対応することが講演の最後に発表された。DOLBY ATMOSは頭上を含むあらゆる方向からサウンドが聞こえるオーディオシステムで、「オーバーウォッチ」ではこれをヘッドフォンで楽しめるようになる。立体的な戦闘が多く巻き起こり、サウンドデザインが戦略上重要である本作だからこそ、この対応は大きな意味を持つだろう。まずは直近のトピックスとして、パッチの配信を楽しみに待ちたい。

講演を通して、サウンドが戦闘に大きな役割を果たしていることがわかった。「DOLBY ATMOS」への対応でさらにどのように変化するのか、楽しみである

(安田俊亮)