ニュース
ニコニコ動画が考える遊びとは“一緒に何かをすること”だった
「闘会議」などから見る、これからのゲームとネット動画の関わり方
(2015/8/28 10:22)
「CEDEC 2015」の初日となる8月26日、ドワンゴの伊豫田旭彦氏による講演「古くて新しい”遊び”の世界 ゲーム実況とゲームイベントをニコニコ超会議・闘会議の事例から」が行なわれた。
伊豫田氏はniconicoにおいて、ユーザー文化およびゲームを担当。「闘会議2015」の担当でもある。今回はniconicoにおけるゲーム実況の現状と各種分析、「闘会議2015」の結果と今後の展開、さらに伊豫田氏が考える「遊びとは何か」というテーマについて語られた。
動画サイトはゲームとコミュニティを繋ぐ存在
最初は動画サイトとゲームに関連する各種のデータを紹介。動画サイトにおいてゲームは再生回数が多いジャンルであるとともに、「テラリア」の認知は動画サイトが最も高かったことなどを示した。また「DARK SOULS」や「Grand Theft Auto V」といったゲームでは、それぞれ約2,000本がニコニコ動画を経由して購入されている。
伊豫田氏は、最近のゲーム販売環境の変化を指摘。従来はパッケージ販売が主流だったが、現在はダウンロード販売もあれば、スマートフォンアプリ、F2Pなど形態も様々。それにより遊び方も変化し、「コミュニケーションのためにゲームをやる。誰かと繋がるために遊ぶという形になってきた」と分析した。
これは単純にゲームを遊ぶことだけを指しているのではない。格闘ゲームは家で1人で遊ぶ人もいれば、ネット対戦、ゲームセンターで遊ぶ人もいる。ゲームを離れて同人誌を書く人もいるし、グッズを購入する人もいる。消費がどこで起きるのかは様々で、1つのIPが多様な受け入れられ方をしている。伊豫田氏は「コンテンツとコミュニティとメディアをセットで考えなければいけない」と語った。
niconicoでは、動画を配信した人に奨励金を支払う「クリエイター奨励プログラム」を実施している。累計支払額は13億6,900万円にのぼり、2014年12月に任天堂が対応したこともあって約40%がゲーム動画なのだという。
奨励金は基本的に著作権がクリアなものに支払うスタンスだが、実況者はお金目当てよりも、権利がクリアになったことでやりやすくなったという側面が強いという。例えば「地球防衛軍」では、メーカーが発売前に「ゲーム実況はまだやらないで」と言っておき、あるタイミングで「この面までは実況していい」とアナウンスした。その瞬間、100の番組が立ったという。「配信者はゲームが好き、ゲームメーカーが好きなので、メーカーに言われたことを守る」と伊豫田氏は分析している。
niconicoのゲームユーザーは「日本の一般的なゲームファン」
次にニコニコ動画のゲーム番組からの誘導によるアンケートの結果から、niconicoのゲームユーザがどんな人たちかという分析が行なわれた。サンプル数は約11,000人で、17の番組からバランスよく誘導されている。男女比を見ると、女性がおよそ4割。年齢は女性が18歳から22歳に集中しているのに対し、男性は20歳前後を中心層としながらも30代の利用者も多いという結果に。
ゲームを遊ぶ頻度を尋ねる質問には、男性の88%、女性の75%が毎日ゲームで遊ぶと回答。過去1年に遊んだゲームでは、家庭用ゲームやスマートフォンアプリのほかに、ブラウザゲームやPCゲーム、さらには自作ゲームやTCGなど、複数のゲームをバランスよく触れている傾向が見られた。
「1年以内に長く遊んだゲームは?」という質問では、「マインクラフト」が1位となったが、その下も著名なタイトルが並んでいる。コミュニケーションの多いオンラインゲームにやや振れている傾向が見られる程度で、伊豫田氏は「日本の一般的なゲームユーザーが見ている」と結論付けた。
次に伊豫田氏は、新規IPでも動画サイトは有効なプロモーションになるかという点について語った。プロモーションコストが0の自作ゲームがニコニコ動画で数百万回再生され、小説化、映画化されたという実例を紹介。「誰にも知られていないものが、動画により誰かの目に触れて購買を促したということが、ある程度は見られる」とした。
またスマートフォンアプリに組み込むことで、ゲームを簡単に実況できる「ニコニコスマホSDK」も紹介。4月にリリースし、今のところ対応アプリは2つだけだが、1日あたりの放送数は134件、アプリストアへの誘導が714件と、利用度が高い。これらを踏まえて、「新規IPでも動画、生放送とも一定のプロモーション効果はあるのでは」と語った。
みんなで遊ぶゲームイベント「闘会議」
次はゲームイベント「闘会議」について。みんなで遊んで楽しめる、ネットとリアルを融合した「ゲーム実況」と「ゲーム大会」の祭典として開催されたこのイベントでは、新作ゲームのみならず、アナログゲームまで何でも扱う。
ここでこだわったのが、一緒に遊ぶという感覚。11人集めて「FIFA15」をプレイしたり、トッププレーヤーとのゲーム対戦を、横に実況者をつけて行なったりと、来場者が見る側ではなく一緒に参加する側として楽しめるようにした。アナログゲームの一環として麻雀を置いたが、「わざわざ幕張メッセまで来て麻雀をする人はいないだろう」と思っていたら、実際には大人気だったという話もある。
「闘会議」を開いたことで、ニコニコ動画でのアクティビティが活発化するという効果が見られたという。1カ月間で何日ログインしたかというデータを見ると、イベント前には月数回、ないし1日も来ていないという人のログイン日数が明らかに増えていた。伊豫田氏は「イベント結果を見たいだけならイベント後に数日アクセスすれば十分なはず。それ以上に見ているのは、ニコニコ動画が面白いと思って見てもらえている証拠」と語った。
今後の「闘会議」では、「ヒーローを作りたい」という。ゲーム大会のウメハラ氏、ゲーム実況のマックスむらい氏といった人を育てるため、賞金総額1億円以上のゲーム大会を開催しつつ、公式ゲーム実況番組を、毎日3時間、帯番組として放送するという。
みんなで同じことをするのが面白い
最後のテーマとして、伊豫田氏は「遊びとは何か」を語った。Wikipediaで遊びについて調べると、犬が遊んでいる写真がある。これを見ながら、「一緒に同じことをする、というのが原始的な遊び」と伊豫田氏は言う。
音楽のライブイベントでは、アーティストは遥か遠くにいて、その姿をモニターで見ながら歓声を上げている。それなら家で見ればよさそうなものだが、ライブはファンと共感するのが面白い。もしライブイベントで他の客がいなかったり、1万人分のSEが鳴っている中にいても、おそらく面白くない。伊豫田氏は「お客さんを躍らせる装置としてアーティストがいるだけ、というふうにも見える」とも言う。
ニコニコ生放送では、「8」を連続入力して拍手の代わりにするが、視聴者としては、他の視聴者と同じことを考えているのが嬉しさとして感じられる。また同じ曲で「歌ってみた」や「踊ってみた」の動画が投稿されることの根本には、「同じことをするのが面白いからだ」と分析。「あの場に加わりたい、同じことをしたいというのは自然な欲求。それがインターネットにおける遊びなのではないか」と語った。
これをゲームに置き換えると、あるゲームがあって、それを実況したり、イラストを描いたり、コスプレしたり、それを見る人がいたりする。そういう遊びに人々を巻き込むことで、好きな気持ちが感染していく。
伊豫田氏は、「niconicoはその輪の中心を拡充して、いろんな人が入れるようにしたい。ゲーム開発者は遊びを、真似したくなる何かを作っている。ゲームユーザーのための遊び場を一緒に作りませんか」と開発者達に呼びかけた。
ゲームと動画の関わり方というのは、著作権やネタバレなど難しい問題が立ちはだかるのは確か。しかしその関わり方というのは、動画を配信するという形だけではないということが、伊豫田氏の講演にあるメッセージの1つだと感じた。その具体例が「闘会議」ということになるが、他にもどんな策があるのか。この先の展開も期待して見ていきたい。