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【特別企画】ローザンヌゲームショップレポート
中世の雰囲気を残した“オリンピックシティ”にゲーム文化は根付いていたのか?
(2016/5/2 00:00)
忘れた頃にやってくるゲームショップレポート。今回はスイスローザンヌである。国際オリンピック委員会(IOC)の本部と、オリンピックをテーマにした博物館オリンピック・ミュージアムがあることから“オリンピックシティ”とも言われる。スイスの西の玄関口であるジュネーヴから車や鉄道で1時間ほどで行けるこぢんまりとした古都である。今回はこのローザンヌでゲームショップを探し歩いてみた。
ヨーロッパの古都はゲームショップを見つけること自体が大変
ローザンヌは予想通り、かなり手強い街だった。米国におけるBestBuyやGameStopのようなわかりやすいショッピングセンターやゲームショップが存在しない上、Google Mapで上から覗いても、見事に中世の景色に街の機能が溶け込んでおり、どこに何があるかがわからない。観光で訪れる分には極めてロマンティックで素敵な雰囲気だが、ゲームショップレポート的には難攻不落感漂う街だ。
まず訪れたのは街の中心に位置するローザンヌ中央駅だ。今回は、Logitechスイス本社のあるスイス工科大学ローザンヌ校(EPFL)のすぐ近くに滞在していたため、構内にあるEPFLというそのものズバリの駅から地下鉄に乗り、30分も掛からずに着いた。
降り立ってみて驚いたのは、街自体の高低差の激しさだ。街全体がなだらかな丘の上に作られており、南方のレマン湖に向けて数kmに渡って長い下り坂が続く一方で、北側にある街のランドマークのローザンヌ大聖堂は、今の位置からかなり高い場所にある。まずは何はともあれ街を一望するためローザンヌ大聖堂のてっぺんまで上がってみた。
取材当日は雪交じりの雨で寒かったためか、雪の残る大聖堂の屋上には誰もいなかった。綺麗に街を見渡すことができ、繁華街の位置もわかった。向かったのはPlace de la Paludと呼ばれるショッピングエリアで、高級ブランド品から18世紀から続いているような個性的な個人経営店まで様々な店が軒を連ねている。中央の広場には噴水があり、「アルプスの少女ハイジ」や世界名作劇場のワンシーンそのままの風景だ。
その大通りの中心部にあったCOOP CITYを訪れてみた。COOPといえば日本では生協として馴染み深いが、もともとスイスを本拠としており、スイスでは日本でいうところの西友やイトーヨーカドーのようなスーパーとなっている。COOP CITYは都市型の大型店で、取り扱う商品カテゴリが多い。その中におもちゃも含まれている。さっそくおもちゃコーナーへ向かってみた。
しかし残念ながら日本のスーパーにあるようなゲームコーナーはなく、ぬいぐるみやLEGOなど子供向けのおもちゃが中心となっていた。一応ゲームもあることはあったが、大事にガラス棚に入れられ、ゲームソフトはニンテンドー3DSを中心にWii UやPS4タイトルなどが置かれていたが、あまりモノが動いている様子はない。試遊台もないため、お客さんは誰もいない。一応、手前に平積みされているのが比較的売れ筋のようで「FIFA」シリーズや「LEGO」シリーズ、「Minecraft PlayStation 4 Edition」が人気のようだ
COOPも不作だったかとガッカリしながら、最上階のフードコートで一息入れようとしたら、そのひとつ下の階に家電のテナントとしてInterDiscount XXLが入っていた。ダメ元で足を踏み入れてみたところ、これが大当たりだった。今回の取材では、このInterDiscount XXL以降も様々なショップを訪れてみたが、ゲームファンを満足させる品揃えを備えていたのはここだけだった。
ショップの入り口付近にはTVや冷蔵庫、洗濯機などの大型家電、奥がBlu-RayやDVDなどソフトウェアコンテンツを扱っていて、その中でも最大勢力がゲームだった。やはりスイスにもゲームを楽しむ層が存在するという当たり前のことが確認できた。
売り場にはPC、PS4、Xbox Oneが仲良く並んでいる。PCがマジョリティなのはヨーロッパ市場ならではという感じだが、その一方でWii Uやニンテンドー3DSはあまり置かれてなかった。これは任天堂のゲームが売れずシェアが低いからというわけではなく、XXLはターゲットセグメントを明確に定めて販売を行なっていて、それらハードにはあまり力を入れていないだけだろう。
ゲームソフトは満遍なくなんでもある感じだが、ペリフェラルについてはXbox One EliteやXbox Eliteワイヤレスコントローラーの扱いがないなど取り扱い自体がないものもあった。また、階下のCOOPとは逆にWii Uやニンテンドー3DSの扱いがほとんどなかった。人気タイトルはCOOPと同様、「LEGO」、「FIFA」、「Minecraft」あたりで、意外なところでは「NHL」、「NBA」など比較的シンプルなゲームやスポーツゲームを好む様子が伺える。
その一方でLogitechのお膝元のためか、そのデカさ、高額さから店頭ではなかなかお目にかかれないPS4/PS3向けドライビングホイール「G29」の店頭在庫があったり、数量限定の限定版の扱いが多かった。入荷量が多いとは考えられないため、スイスのゲームファンはあまり限定版に関心がないのか、そもそも限定版が売れ残るほどの数しか売れないのか、そのいずれかだろう。
プロモーションに関してかなり攻めているなと感じたのがXboxだ。ヨーロッパは歴史的にPCゲームが強く、任天堂やSCEEがその牙城を突き崩そうと努力してきたが、成就したとは言いがたい。コンソールゲームに限って言うと、サッカーの試合に必ずPlayStationの広告を入れるなど、ソニーの長年のブランディングが奏功し、PS4が圧倒的に強い。このためMicrosoftとしては、ヨーロッパは、“絶対防衛圏”の北米と並んでプライオリティの高い市場になっているようだ。
ソフトは「Halo 5: The Guardians」や「Forza Motorsport 6」といったファーストパーティータイトルを中心に40%オフのセールを敢行。ハードウェアも北米で継続されている(日本は終了)50ドルオフセールを実施していた。
スイス語のないスイス。ローカライズはどうなっている?
ところでローザンヌの市場調査で特に気になっていたのは言語周りだ。スイスで“スイス語”といえば“スイスで使われるドイツ語”のことを指し、純粋なスイス語は存在しない。また、使われる言葉もドイツ語だけでなく、フランス語、イタリア後、ロマンシュ語の4言語を地域によって使い分けている。スイス西部のローザンヌは、国境をフランスに接するジュネーヴと同様にフランス語が話されている。
また小国であるため独自のレーティングシステムも存在せず、レーティングはスイスも加盟しているEU諸国向けのレーティングシステムPEGI(Pan European Game Information)を採用している。
ローザンヌのゲームショップでは、地域的な影響、そして物理的な流通の影響から、フランス語版のみが置かれていた。正確に言うと、スイス向けにリパッケージしたものではなく、先述のPEGI管轄のフランス語パッケージ版がそのまま置かれている。
言語自体は多くのヨーロッパ向けバージョンがそうであるように、フランス語のほか、英語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語の計5言語に対応しているものがほとんどだ。パッケージの裏面にはゲーム本編と電子マニュアルの対応言語が書かれており、自分が話す言語にゲームが対応しているかどうかが一目で分かる仕組みになっている。
PEGI版はこうしたゲーム、電子マニュアルにおける二重の多言語対応が基本になっているため、スイス北東部に位置するドイツ語圏のチューリッヒのゲームファンが、ローザンヌでゲームを購入してもゲーム本編もマニュアルもドイツ語で利用できるためまったく問題なく利用できるわけだ。
もし仮にPEGIという枠組みがなかったらスイスのゲーム市場はどうなっていただろうか。スイスの人口は800万人程度で、スイス単独でゲームビジネスを立ち上げるには規模が小さすぎるため、おそらくスイス語版は用意されず、結局今のようにそれぞれの地域でフランスやドイツから並行輸入を行なう形になっていたはずだ。
しかしPEGIという枠組みがなかったらフランス版ならフランス語だけ、ドイツ版ならドイツ語だけという展開になり、4言語を扱うスイスでは、1つのゲームに複数の言語バージョンを店頭に並べるというゲームショップにとっては悪夢のような事態になっていたかもしれない。
PEGI対応は、実質的にパッケージとゲーム両方の多言語対応を意味し、日本を含むEU外の市場からは、他言語対応はコスト増に直結するため泣き所のひとつとなっているが、スイスのようにPEGIの枠組みがあるおかげで小さいながらもゲーム市場が成立できている国もあるため、悪い話ばかりでもないという印象だ。
ところで彼らはどういう風にゲームを楽しんでいるのだろうか。実際のゲームシーンを見ることはできないだろうか。そこでLogitechスイススタッフに聞いて彼らお勧めスポットを訪れてみた。
訪れたのはe-Sportsバーといういかにもe-Sportsが盛んなヨーロッパらしいスポット。実はもともとLogitechスイスプレミアの打ち上げ会場の候補になっていたものの、会場が狭すぎると判断され急遽取りやめになったという曰く付きのスポットだ。
QWERTZと呼ばれるe-Sportsバーは、ローザンヌ中央駅から歩いて5分ほどの距離にあった。東京にあるe-Sports SQUARE AKIHABARAに近いイメージを予想していたが、大通りから1本入った人気のないところにあるこじんまりとしたスポーツバーだった。
17時の開店に合わせて現地に到着し、若干ビビりながら扉を押し開けると、ヨーロッパの教会にあるような冷気を防ぐための厚みのあるカーテンに視界を塞がれた。ググッと左右に押し開いて、ようやく中に入ることができた。
店内は暖かく、寒い日でも防寒具は要らなそうで、半袖の客もいた。筆者は夜の寒さに備えてフル装備で入ってしまったため、おずおずと防寒具を脱いでいると奥のカウンターにいるオーナーが笑顔で迎えてくれた。店内を見渡すとカウンターにテーブルとイス、ソファがいくつかあるだけで、20人も入ればいっぱいぐらいの広さだった。すでにカウンターは常連らしい中年男性たちが占拠していて、オーナーはその対応に忙しそうだ。
壁には液晶モニターが複数かけられ、現地で中継しているe-Sports番組を流している。ドリンクを片手にesports番組を楽しんでもいいし、オーナーとゲーム話に華を咲かせてもいいし、さりげなく置かれたPCでゲーム情報をチェックするのもいいだろうし、窓際に積み上げられた年代物のゲーム雑誌をめくってもいいというゲーマーにとって居心地の良い空間が作られている。
それで肝心のゲームはというと、地下にあった。地下は1階よりも広く、ちょっとしたライブイベントが行なえるような広々とした空間になっていた。壁際には様々なゲーム機が繋がれたTVやモニター、プロジェクターが並べられ、地下のカウンターに並ぶゲームで自由に遊ぶことができる。
ゲームソフトはスーパーファミコン以降のメジャータイトルが雑に並べられており、PS4やXbox Oneタイトルは1つもなく見事にオールドゲームばかりだった。訪れた日は何かのライブイベントの後片付け中で、スピーカーやエフェクターなどライブ機材を片付けていて、遊んでいる人はいなかった。
このバーは第一線でバリバリ戦うe-Sportsゲーマーが集う場所というよりは、かつてはそういう時代もあった往年のゲーマーが酒を片手にゲーム話に花を咲かせるスポットという印象を受けた。ローザンヌへ訪れた際は訪問してみては如何だろうか。