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【ChinaJoy 2013】中国モバイルゲーム最新事情 Ver 2013

世界で最も巨大でカオスな中国モバイルゲーム市場の実態をレポート

7月25日~28日開催(現地時間)

会場:上海新国際博覧中心(Shanghai New International Expo Centre)

 今年のChinaJoyのホットトピックは、なんといってもモバイルゲームだ。AndroidとiPhoneの2大ハードでGoogle PlayでもなくApp Storeでもないサードパーティー製の独自プラットフォームが幅をきかせていたり、ジェイルブレイクが当たり前だったり、悪徳業者による詐欺行為が日常茶飯事であるなど、日本では考えられないことが当たり前に発生しているユニークな市場である。

 今回は、中国のメーカーや中国に進出している日本のメーカー、それからショップへの取材を通じて明らかになった中国モバイルゲーム事情をご紹介したい。

【ChinaJoyはモバイルゲームが人気】
ChinaJoy 2013ではモバイルゲームの躍進が目立った。もともとモバイルが専業のキャリア系はもちろん、PCオンラインやコンシューマーメーカーも軒並みモバイルを出展していた

中国スマホユーザーの平均像とは?

電脳街(ITモール)の主役は完全にスマートフォン。PCやゲームは斜陽一方だ
街で見かけたポスター。自宅の専用線が4MBで、1年398元(約6,400円)。学生は6MBに増速し、さらに98元(約1,600円)追加することで20MBまで増速するという
ネットカフェもWiFiを導入し、利用者に開放している。彼らにとってはモバイルゲームは、PCオンラインゲームの延長線上にある雰囲気だ

まず一般的なモバイルゲームユーザーとはどのようなものか。彼らが利用している回線の多くはまだ2G、もしくは3Gで、北京、上海など大都市で4Gのテストも行なわれているというが、まだ利用者は限られるという。

 2Gがまだ現役なのに驚いた人もいると思うが、これは若干特殊なケースとなる。通信大手のChinaMobileのiPhoneでは3G回線が利用できないため、止む無く2G回線を使用しているケースや、あとはスマートフォンは使いたいが、通信費は可能な限り抑えたいという地方からの出稼ぎ者や低所得者が主に2Gを利用しているようだ。

 利用料金はキャリアや契約期間、キャンペーン利用の有無で多少異なるが、だいたい3Gで月160元で、容量制限は45MB。2Gで月10元、50MBとなる。もし、容量制限をオーバーしてしまうと、その先は従量制となり、いわゆる“パケ死”状態となる。

 このように中国ではかなり厳しい容量制限が課せられているため、アプリのダウンロードはWi-Fiを利用するのが一般的となっている。移動中は、一般的なレストランやカフェなどのWi-Fiを利用する。施設利用者なら無料で利用可能で、ユーザーは細かくWi-Fiに繋いで、スマホ回線の使用をできるだけ抑える。

 そして、自宅ではスマホをPCに繋いで、PC経由でアプリをダウンロードしたり、インストールしたりする。なお、多くのプラットフォームでは、パケ死が発生しないように、スマホ回線でダウンロードを行なう際に、注意を促すダイアログが表示されるという。

 彼らに好まれるゲームは、取り扱う通信量が少ないゲーム、リアルタイム通信しないゲーム、データサイズの小さなゲームと、ゲームジャンルやデザイン以前に、通信スタイルがどのようなものかに関心が集まる。

 日本のメーカー関係者は、こうした現状を受けて、「だから中国展開は難しい」という人もいれば、「ガラケーのノウハウが活かせるのですぐ適用できる」と豪語する人もいれば、「現状に合わせて作っても、状況が変わったら一気に陳腐化してしまう。通信の問題はいずれ解決するから、グローバルと同じ作り方をすべき」と一顧だにしない人もいて、このあたりはかなりメーカーによって戦略が異なる。

独自プラットフォームの実態

今年はChinaJoyと併設する形でモバイルゲームに特化したカンファレンス「World Mobile Game Conference」も開催された。スピーカーに国家新聞出版総署も名を連ねるなど、中国政府もモバイルゲームには力を入れている
Qihoo 360が展開している「360 Mobile Assistant」

 次に中国独自のプラットフォームについて。中国モバイルゲーム市場の最大の特徴はGoogleが部分的にしか中国参入が認められておらず、AndroidのアプリプラットフォームGooglePlayが機能していないため、GooglePlayの代わりとなるプラットフォームをメーカーが立ち上げていることだ。

 関係者によればAndroid上にゲームプラットフォームを立ち上げるのは非常に簡単で、そのため毎日のように増殖しているため、その総数は誰にもわからない。聞いた数で1番多かったものには、600というものがあったが、アクセスブライトは400のプラットフォームにアプリを提供するといっているため、このあたりが実稼働数というところか。

 独自プラットフォームの懸念点は、本来のプラットフォーマーであるGoogleの関与が限定的なものに留まるため、独自プラットフォームを監視する役割が存在しないことだ。

 管理者がいないため、ゲームプラットフォームとしてのクオリティはまさに玉石混交で、ランキング上位のタイトルを揃える丸や丸などの大手はまだ良い方で、酷い場合は、プラットフォーム固有のSDKを組み替えず、他社のSDKのままアプリを置いているプラットフォーマーもいるという。これではユーザーがゲームにお金を払っても自社に課金決済が発生せず、決済手数料を受け取ることができないが、ラインナップを充実させることでユーザーが増え、その結果、プラットフォームとしての魅力が増すから良いのだという。まさに無法地帯ならではのロジックである。

 そして最悪のケースでは、プラットフォームにトラップを埋め込み、利用者の個人情報を抜いて業者に販売したり、電話料金を押しつけられたりすることもあるということで、関係者は口を揃えて未知のプラットフォームは利用すべきではないという。

皆が利用している!? iOSのジェイルブレイク市場と偽物ハード

街で見かけた偽iPhone5。全体的に作りがチープでLEDフラッシュ等も未搭載だが2,800元(約45,000円)と高額。この売り子のおばさん自体が真贋がわかっておらず、本物との違いを説明したら本気で落ち込んでいた。中国人同士が騙しあいをする酷い状況になっている。くれぐれも利用は避けたい

 そしてAndroidの独自プラットフォーム乱立状態に対して、iOSではジェイルブレイク(脱獄)市場の存在がある。ジェイルブレイクは、ハードのセキュリティの穴を付いてユーザー権限をメーカーが意図しないレベルまで拡大する行為であり、国を問わず契約違反行為になるし、そこで行なわれるコピー行為等は違法行為にあたる。ゲーム専用機でいうところのハード本体に改造を施して海賊版を遊ぶ行為に近い。それでもやってしまうところが中国人であり、中国市場の凄まじさだ。

 ジェイルブレイクのメリットは単純明快で、有料アプリを無料で手に入れられたり、本来Appleが許可していないUIのカスタマイズや、SIMカードの2枚刺しなど、Appleの枠組みから脱獄して、完全に自分仕様のiPhoneに染められるところだ。

 かつてジェイルブレイクというとバージョンを落とさないと使えないということがあったが、現在は、AppleがジェイルブレイクをfixしたiOSの新バージョンをリリースしても、たちまちクラックし、新バージョンでのジェイルブレイクが可能になるため、常に最新バージョンで利用できるという。また、現在は、USBケーブルで繋いだPC上で簡単にワンキーでジェイルブレイクできるのでほとんどの人が利用しているのが実態だという。まあ聞けば聞くほど凄まじい市場である。

 そしてジェイルブレイク環境にも、Androidほどではないものの、何十ものプラットフォームが存在し、iOSには存在しない未承認アプリも含めて無数のアプリが無料で提供されている。大手の91やppなどがメジャーになる。逆に360などはジェイルブレイク向けのプラットフォームは提供しない方針を打ち出すなど、この部分に関してはメーカーでも見解がわかれている。

 ジェイルブレイク環境下でのプラットフォームでは、Androidの独自プラットフォームのように、プラットフォーマーの意思やゲームメーカーの希望に応じて、ページ内に広告を打ったり、セキュリティチェックを取り入れたりなど、プラットフォーマーがビジネスを展開することができる。

 また、AppStoreでは、悪評の高いAppleによる長期間の審査が必須で、内容によってはリジェクトされるが、独自プラットフォームでは、簡易審査で済み、Appleの審査がいらないのでいち早くサービスできる。このため、iOS版をリリースしようと考えた場合は、まずは独自プラットフォームに投入して、反応が良かったら改めてAppleに審査を出してApp Storeに置くという戦略を採るゲームメーカーも多いという。

 一方、偽物ハードはリスクが非常に高いので、どのメーカー担当者も利用を勧めなかった。偽物ハードは、ほとんどの場合ハードの性能が低いだけでなく、OSレベルでトラップが仕掛けられており、使用者の個人情報を盗んだり、他人の電話料を押し付けられたりするからだという。

 しかし、実態としては、ゲームに縁の無い層のみならず業界関係者でも、その危険性を理解しながら、「給料が安い」、あるいは「本物は高過ぎる」という身勝手な理由で偽物を使っている人が何人かいた。こうした考え方がある限り、詐欺被害に遭う人は今後も増え続けるだろうと思った。


 中国のモバイルゲーム市場は、インタビュー記事でも取り上げたように、元セキュリティベンダーのQihoo 360が急成長しているが、元々彼らはセキュリティソリューションを提供しており、その安心感ゆえではないかと思われる。

 彼らはハード、ソフト、ネットワークの各要素において、イリーガルな手段も含めて可能な限りお金は払わずにサービスを利用したいが、詐欺には遭いたくないという生々しい欲望がむき出しになっているような感じで、PCオンラインゲーム市場にダイナミックな市場だという印象を持った。清濁併せ持ちながらも急成長を遂げる中国モバイルゲーム市場、今後も引き続きマークしていきたい。

(中村聖司)