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「LINE」成功の事業戦略を明かす「OGC 2013」基調講演レポート
リアルグラフを前提としたチャンネル展開と、そこから生まれるゲームプラットフォームの強み
(2013/3/15 17:39)
一般社団法人ブロードバンド推進協議会(BBA)は、「OGC 2013」を3月15日に開催した。場所は東京・ベルサール神田で、受講料は10,000円。
OGCは、BBAが年に1度開催するゲームカンファレンス。近年ではその時期のトレンドに合わせてコンセプトを変えながら開催しており、今年は「What's Open-platform, Game and Contents?」として、オープンプラットフォームにおけるゲームとコンテンツをテーマに据えた。
この記事では、NHN Japan代表取締役社長の森川亮氏による基調講演をお届けする。森川氏からは、スマートフォン用無料通話・メールアプリ「LINE」の展開の狙いや今後についてが話された。
また違うセッションではNHN Japanスマートフォン事業部事業部長の鎌田誠氏より、ゲームプラットフォームとしての「LINE」をテーマとした講演が実施されたので、併せてご紹介する。
スマートフォン利用者が“真に求めるもの”を追求したLINEの成功
森川氏は、まずNHN Japanの母体となる韓国NHNの名前の由来が「Next Human Network」であることを紹介し、同社のサービスの根本には人同士のコミュニケーションをどう発展させていくか、というコンセプトがあることを話した。
例えば、同社のゲーム部門である「ハンゲーム」は、「1(韓国語での発音はハン)ゲームやろうよ」という呼びかけが名前の由来になっており、ゲームから始まるコミュニケーションを意識している。また検索サービス「NAVER」についても、人と人が情報を教えあうという新しい検索の形を提示している。
森川氏は「LINEで急に出てきた会社のように思われるが、ゲームサービスや検索サービスなどで10年の蓄積がある」と苦笑しながら、そのような中でLINEは、スマートフォンに完全にフィットしたコミュニケーションの形を模索して誕生したと話した。
LINEのサービスが開始されたのは2011年6月。これには同年の3月に起きた東日本大震災が影響しており、社員らとの安全状況などの連絡を取る際に、他のサービスでは機能が不十分であることを感じたという。そこでNHN Japanなりの「スマートフォンでのコミュニケーション」を考え、急ピッチでアプリの制作を進めた。
アプリは、IPやブランド、既存のコンテンツを使わずに、スマートフォン利用者が真に求めているものを目指して制作された。情報発信の範囲はあえて知り合い同士のみと閉じた方向に振り切り、絵文字文化を応用したスタンプなどの機能の搭載が功を奏し、現在では世界230国以上で1億人以上に利用されるアプリへと発展した。
森川氏は、LINEが友人だけのコミュニケーションだけでなく、家族や仕事での利用状況も増えていることに注目し、今後さらに利用者が増えた時、「次はインフラとしてどう社会に貢献できるか?」を考えているという。
その1つの試みとして森川氏が紹介したのが「LINE@」というサービス。「LINE@」は、実際の店舗や施設を持つ企業を対象にした、クーポンや割引情報をLINEを通じてユーザーに提供できるもの。LINEユーザーを実際の店舗へと誘導することで、効果的にマーケティングが可能になっている。事業は評判もよく、セールの告知で売り上げが50%上がったファッションブランドなど、目に見えて効果が上がった例が増えてきているという。
森川氏はオンラインからオフラインへ促すという事業は「まだインターネット企業が実現できていないこと」として今後のさらなる発展を期待しているほか、LINEをグローバルに展開することで「アジア発の企業として、世界でナンバーワンを狙っていきたい」と今後の展望を語った。
コミュニケーションの1チャンネルとしてのゲームの在り方
森川氏は講演の中で、LINE GAMEの今後についても触れた。プラットフォームとしてのLINEは、あくまでコミュニケーションを発展させる目的が前提としてある。LINEがコンテンツのハブとなり、ユーザー同士のコミュニケーションを通じてコンテンツをマーケティング化していくもの、それがLINEにある「チャンネル」という考え方となる。
LINE GAMEは、あくまでそのチャンネルの1つとして展開している。そのためLINE GMAEには良質なゲームを並べる、というよりは、そのゲームによってLINEのリアルグラフがどう活かせるか、という意識が強い。
こういった前提を踏まえて、森川氏はLINE GAMEの今後を述べていった。森川氏の捉えるゲームの歴史とは、カジュアルからコアを1つのサイクルとして繰り返すことだという。これは、新しいプラットフォームが出れば、友達が隣に座って一緒にやり、それから段々とコアなゲームに向かう、というイメージだ。
しかし、オンラインが主流となった現在では、実名よりも匿名の友人が多くなり、匿名のユーザーが集まる場では、どうしてもゲームはコアに偏りがちになる。森川氏はこれがゲームのコア化に繋がり、一部の人しか遊べないような状況を作っている、と懸念を示す。
LINE GAMEでは、実名のわかるリアルグラフが強みであることから、身近な友達と一緒に遊ぶことがどういうことかが議論されていった。とにかく幅広い層が遊べることが大事だと考え、「LINE POP」のようなパズルゲームで勝負をかけることに決めた。誰でもルールがわかり、高度なテクニック習得や重度の課金をしなくても楽しめるようなバランスにすることで、若い女性や主婦層にも受け入れられるようにしている。
現在はもう少しだけゲームを発展させ、縦スクロールのシューティング「LINE ドラゴンフライト」を3月4日にリリースした。1人用のシンプルなゲーム、いわゆるアーケードゲームを導入し、パズルゲームよりはもう少しリッチだけど誰でも遊べる、というバランスで、点数を競ってもらうというものだ。
森川氏は「ゲームの裾野を広げるのは大事。知り合いと遊ぶ楽しさの価値をどう作っていくかをLINEで頑張っていきたい」と語った。なお3月末あたりからは、農園系のソーシャルゲームを重点的に配信し、春以降は日本企業によるゲームも配信予定となっているそうだ。
また違うセッション「LINEゲームプラットフォームについて」に登壇した鎌田氏は、LINE GAMEについてもう少し踏み込んだ構想を話した。
LINE GAMEのユーザー体験は3段階で考えられており、1段階ではランキング争いによるゲームを通じたコミュニケーション、2段階ではゲームそのものがコミュニケーションとなること、3段階ではゲーム世界での生活体験と順を追って深さを追求するという。
鎌田氏は中でも2段階である「ゲームの中でコミュニケーションが成立するもの」について、「これが難しい」と述べた。例えば農園系、育成系といったゲームは様々にあるが、ここにリアルグラフが影響することで、なんらかの感情が喚起されるようなものが必要なのだという。「どうすればゲーム自体をコミュニケーションとできるかは、真剣に考えているところ」と語った。
今後の世界展開について、会場から「世界規模で1億のユーザーがいるメッセージアプリは珍しくないが、その中でも強みは何か?」と質問されると、鎌田氏は「ゲームで言えば、リアルグラフを使ったゲームとは何か、を探る考え方にある」と改めて答えた。
「一時ZyngaがFacebookを利用して展開したが、スパム的になってしまって上手くいかなかった。では次にどうするかというと、LINE GAMEは、セミクローズドな友人関係と色々な開発会社と協力できるところに強みがある。日本のアーケード市場は世界でも飛び抜けているので、いいものを出して、それを世界に展開していけば、自然と結果はついてくるのでは」と語った。