GDC 2011レポート
ミドルウェア戦略をさらに推し進めるAutodeskインタビュー
ゲーム産業への深いコミット。その先に目指すものとは?
3Dコンテンツ制作ツール企業として並ぶもののない存在になりつつあるAutodesk。Maya、3ds MAX、Softimage、Mudbox、Motionbuilderといった主要なツール類を提供し、ゲーム業界では知らぬ者がいないほどの存在感がある。
そのAutodeskは、近年新たにミドルウェア関連事業を急速に拡大している。ランタイムのアニメーションミドルウェアHumanIK、AIミドルウェアKynapseに始まり、最近ではグローバル・イルミネーションのミドルウェアBeasts、そしてこのGDCでUIミドルウェアScaleformの買収完了を発表している。
今回、そのAutodeskのゲームテクノロジー担当副社長であるMarc Stevens氏にインタビューを行なうことができた。ゲーム向けの開発プラットフォーム企業として、何を目指していくのか。Autodeskブースの模様と合わせてお届けしよう。
■ 例年通り多数の3Dコンテンツ制作ツールをデモしたAutodeskブース
Autodeskブース |
終日、コンテンツ制作ツール類のデモンストレーションが行なわれていた |
AutodeskはGDC 2011のエキスポにて中規模のブースを構え、大スクリーンで各種ツールのデモンストレーションを行なっていた。ちょうど隣にはUnityのブースが出展されており、開発ソリューションを求めるゲーム開発者が多く行き交っていた形になる。
ブース内ではAutodeskが提供する3Dコンテンツ制作ツール、Maya、3ds Max、SoftImage、Mudbox、Motionbuilderのそれぞれについて2012年版を紹介していたが、その他のニュースとしてはUIミドルウェアであるScaleformの買収、そしてMayaへの「Project Skyline」の実装、この2点が大きなものとなっている。
Scaleformは主要なゲームプラットフォームに対応した2D/3Dのミドルウェアで、この度発表されたバージョン4.0ではiOSやAndroid OSといった、モバイルプラットフォームへの対応が大きなトピック。3Dの凝ったUIが簡単に作れるだけでなく、2Dの完全なゲームを作れてしまうほどの柔軟性も併せ持つミドルウェアとなっており、大手からインディーズ系のデベロッパーまで、幅広い顧客が利用することになりそうだ。
そしてProject Skylineは、Autodeskが提供する3Dコンテンツ制作ツールにおける次の一手だ。これは現在Maya上で開発が進められているテクノロジーで、製作した3Dコンテンツをワンボタンでオーサリングし、リアルタイムに編集、パフォーマンス分析などを行なえるというもの。現在はアニメーションシステムに対して利用できる機能となっているが、今後さらに応用範囲を広げていくものになる。
ScaleformとProject Skyline、あるいは他のミドルウェア製品にについてはAutodeskブース内でデモンストレーションが行なわれていなかったため、インタビューではそのあたりを中心に詳しい話を聞いてみた。
Scaleform。こちらはAutodeskの隣にブースを構えていた。バージョン4.0でモバイルプラットフォームへの完全対応を果たしており、スマートフォンを使った展示が多数行なわれていた |
Project Skyline。現在はMaya上で実装が進められているテクノロジーで、製作したコンテンツをリアルタイムでオーサリングできるものだ |
■ ゲームテクノロジー担当副社長Marc Stevens氏インタビュー
Marc Stevens氏 |
──始めに、2011年におけるAutodeskのミドルウェア戦略の状況について教えてください。
Stevens氏:Autodeskでは単にコンテンツ制作のためのツールを提供するだけでなく、より完全なゲーム開発のソリューションを提供する会社になるべく、ミドルウェア、ランタイムライブラリを充実させる事業を進めています。
私たちは昨年、KynapseやHumanIKといったミドルウェア製品を本格的に提供するようになりました。また、その後夏にはIlluminate Labを買収してランタイムグローバル・イルミネーション(大局照明)のミドルウェアであるBeastsを獲得し、また今回のGDCではUIミドルウェアのScaleformを買収したことを発表しました。Scaleformはすでに700から800のゲームタイトルで利用されています。
──コンテンツ制作ツールについての変化はどうでしょうか?
Stevens氏:はい。特にエキサイティングなのは、Project Skylineというものです。これは私たちのコンテンツ制作ツールとミドルウェア製品を統合するためのツールで、作成したコンテンツを直接ターゲット上で実行し、編集し、統一されたUIでデバッグを行なったり、パフォーマンスを分析することができます。
Project Skylineは現在のところアニメーションシステムにフォーカスしていますが、今後はMayaの大きなアップデートとして、リアルタイムにコンテンツのオーサリングを可能にするということを目指しています。現在はアニメーションだけですが、今後はライティングやAI、その他のすべてのゲーム要素に拡張していくつもりです。
──これまでのミドルウェアの中で、UIシステムを作るScaleformは異質な存在に思えます。これを獲得したことにはどういった狙いがあるのでしょうか?
Stevens氏:Scaleformは非常に面白いものであると思っています。今回、Scaleform GFxのバージョン4.0を発表いたしましたが、これにはiOSやAndroidといったモバイルプラットフォームへのサポートが追加されています。現在モバイルにはたくさんのデバイスが出てきており、興味深い分野です。
また、2Dから3Dへ向かうモバイルコンテンツのデベロッパーとって、Scaleformは橋渡しができる存在になります。つまり、ScaleformはただのUIライブラリではなく、2Dゲームの完全なエンジンでもありますから、私たちのコンテンツ制作ツールを使った3Dのアセットを使い、Scaleformを通じて2Dゲームを作ることができるのです。
完璧なエンジンはない。様々なニーズに答えられる技術を柔軟に提供することが基本方針だと語る |
──Scaleformを使えばゲームそのものを構築できるということですね。そうすると、Autodeskとしては将来的にゲームエンジン企業としての事業を目指すのでしょうか?
Stevens氏:私たちはAutodeskをプラットフォームプロバイダーであると考えています。私たちの顧客はAAAタイトルのデベロッパーから、モバイルやカジュアルゲームのデベロッパーまで様々です。その両極にしっかりとスケールできるテクノロジーを提供することが我々の考えです。
そのためには適切なミドルウェアを選択し、あるいは各デベロッパー独自の、インハウスのエンジンと組み合わせられる柔軟性が大切ですから、完全なゲームエンジンを提供することは考えていませんね。ただ長期的に考えるなら、私たちのテクノロジーを組み合わせた総合的なシステムを、インハウスのエンジンを持たないデベロッパー向けに提供するといったこともあるかもしれません。
もちろん、全てのゲームに使える究極のゲームエンジンというものは無いと思います。多様なゲームが存在しますし、技術的に解決すべき問題も幅広くあります。その意味で、色々なエンジンと、色々な技術を組み合わせて、柔軟に問題を解決していけるような仕組み、選択肢を提供することが基本的な方針になると考えています。
──幅広い開発者に向けてということですが、近年増えている小規模、インディペンデント系の開発者向けに、リーズナブルな価格プランも整備されているのでしょうか?
Stevens氏:私たちのミドルウェア製品では、AAAタイトル、コンソール向けタイトル、オンラインゲーム、モバイルゲーム、カジュアルゲームといった違いに応じて異なる価格プランを提供しています。
──例えばScaleformはUnreal Engineに統合されています。またBeatsはUnityに統合されています。このほか、Autodeskのテクノロジーを他のエンジンに統合していく考えはありますか?
Stevens氏:そうですね、その面でも柔軟にやっていこうと考えています。EPIC GamesやCrytek、Unityなど各ゲームエンジンの企業とはコンテンツ制作ツールを通じて良い関係を築いていますし、ツールのほうでは積極的にインテグレーションを推し進めています。ランタイムミドルウェアについても常に各エンジン企業とオープンな話し合いを続けて、エンジンにバンドルしたいという話があれば前向きに考えていきたいと思っています。
──Webやモバイルなど、これまで2Dが主流であったプラットフォームで急速に3D化が進んでいるようです。これをAutodeskではどう捉えていますか?
Stevens氏:2Dから3Dへの移行は急速ではなく、ある程度段階的に進んでいくと考えています。開発の複雑さが大きく変わりますので、多くの開発者には3Dに慣れるための時間が必要です。完全に3Dに移行する前の段階としては、例えば2Dのゲームで3Dのアセットを使い、効率性を高めるというような移行の形があると思います。その点においては、弊社のコンテンツ制作ツールとScaleformの組み合わせは非常に強力に使えるはずです。
──ミドルウェア事業としてはこれまでアニメーション、AI、ライティング、UIときて、非常に幅広い技術を提供するようになってきました。今後これをさらに広げるとすれば、どのような技術を提供したいと考えていますか?
Stevens氏:現段階で具体的にお答えすることはできませんが、基本方針としては、ゲーム開発者が助けを必要としている分野、ゲーム開発に時間がかかっている部分に注目していきます。そしてゲーム開発全体のツールチェインを考えたときに、また重要な分野が出てくると思います。その意味ではぜひSkylineプロジェクトにご注目頂き、いかにワークフローを改善するかということに関心を持っていただきたいと思います。
ちなみに現在、SkylineはMaya上で動作するテクノロジーという段階で、利用者からフィードバックを貰っているという状態です。将来的にSkylineを製品化する際に、Mayaベースでいくのか、他のコンテンツ制作ツールでも使えるようにするか、あるいは組み合わせるような形を取るのか、そのあたりはまだ明確ではありません。
──ありがとうございました。
□Game Developers Conference(GDC)のホームページ(英語)
http://www.gdconf.com/
(2011年 3月 6日)