Game Developers Conference(GDC) 2010現地レポート

Game Developers Conference 2010が開幕
今年のキーワードは「ソーシャル&モバイル」。来場者の関心は“マネタイズ”か

3月9~13日開催(現地時間)

会場:サンフランシスコMoscone Center


 世界最大規模のゲーム開発者向けカンファレンスGame Developers Conference(GDC)が、現地時間の3月9日、米国サンフランシスコMoscone Centerにおいて開幕した。会期は3月13日まで。

 GDC初日の9日は、例年通り、特定のテーマを対象に1日ないし2日間かけて掘り下げていくチュートリアルとサミットが実施された。3日目の11日からは通常セッションとGDC Expoがスタートし、本格的に幕を開ける。期間中はGDC本体の各種イベントに加えて、出展メーカー主催のプレスカンファレンスやプレビューイベント等の開催も予定されている。現地レポートではそれらの模様を順次お届けしていくのでぜひご期待いただきたい。本稿では取り急ぎ、初日の模様をお伝えする。



■ GDCに異変あり! 基調講演のキャンセル、会場縮小、日本人講演者の減少等々

今年のメイン会場となったMoscone North
Moscone Northは地上に広大なカンファレンスエリアが存在する。
GDCの基調講演の場として利用されてきたMoscone Southは、今年はパテーションを区切ってセッション会場になっていた

 今年のGDCは良い意味でも悪い意味でもイレギュラーなことだらけだ。

 悪い方から話をすると、まず、毎年会期3日目の午前中に実施される基調講演が中止となった。今年の基調講演は会期4日目のSid Meier氏(Firaxis Games Director of Creative Development and Co-Founder)の「The Psychology of Game Design (Everything You Know Is Wrong)」のみとなる。GDCのハイライトイベントがひとつなくなったわけだ。

 特に3日目の基調講演は、過去5年をさかのぼってみても、2005年はMicrosoftのJ・アラード氏、2005年(4日目)、2006年、2009年は任天堂の岩田聡氏、2007年はSCEワールドワイドスタジオのフィル・ハリソン氏、2008年はMicrosoftのジョン・シャパート氏と、伝統的にプラットフォーマーの独壇場となっていたため、それがなくなったことの喪失感は非常に大きい。当初の予定には基調講演が入っていたため、開催直前にいわるゆドタキャンがあったものと見られるが真相はよくわからない。このことがGDCの悪しき前例とならないように願うばかりだ。

 次に会場が縮小化された。以前は、Moscone Centerの中でもカンファレンス会場としては最大規模のWestをメインに、Northをサブとして利用し、Southを基調講演専用ホールとして使用していたが、今年はWestを使用しなくなり、NorthとSouthをフル活用する形に変更された。同時開催セッション数は例年並みの26を確保しているが、個々のルームが狭くなり、人気セッションは入場規制が行なわれるほどになっている。また、若干余談だが、不景気の影響のためかランチが有料となった。業界関係者の間では「とてもマズい」と評判のランチだけに影響は小さそうだが、これも見逃せない変化のひとつだ。

 3点目として日本人講演者が半減した。2008年が9名、2009年が15名(いずれも通常セッションのみの数字)だったのに比べ、今年は7名(同)となっている。しかもそのうち3セッションは「ファイナルファンタジー XIII」(スクウェア・エニックス)関連で、数、バリエーション共にここ数年で最低の数字となっている。日本人の関係者に話を向けると「日本から世界にアピールできるコンテンツが減っているため」というのがもっとも多かった。事実関係はともかく、少なくとも日本の開発者にはそう捉えられている。日本のメーカーには2010年はより一層の奮起を期待したいところだ。


【チュートリアル&サミット】
GDC初日のセッションの模様。9日はチュートリアルとサミット合わせて15のセッションが開催された。個々の詳細については個別のレポートにてお伝えしたい



■ しかしながら初日から大盛況。今年のテーマは「ソーシャル&モバイル」。気になるのはやはりマネタイズか

GDCの基調講演にFacebookが登場。時代の変容を示す象徴的な出来事だ
GDCも「ソーシャル&モバイル」に対応。GDCでは毎年無料のWi-Fiサービスを完備していたものの接続性が悪いのが玉に瑕だったが、今年はほとんどの会場でしっかり繋がるようになっていた
世界最強のソーシャルゲームであり、Facebookを代表するソーシャルアプリケーションである「Farmville」(Zynga)のセッションも超満席。内容的にはFacebookへの実装ノウハウやサーバークライアントシステムなど、予想よりずいぶんベーシックな話だったが、それでも注目度の高さはセッション終了まで途切れなかった

 さて、一方、良くなった部分としては、チュートリアルとサミットが空前の盛り上がりを見せていることが挙げられる。チュートリアルとサミットは、GDCにおけるいわば前座として位置づけられてきたが、ここ数年は“むしろこちらがメイン”という雰囲気になりつつある。また、これは良いかどうかはともかく実態として、チュートリアル&サミットの前半2日間と、コンシューマーゲーム優勢の後半3日間の内容が大きく乖離しつつある。

 チュートリアル/サミットは、参加したからといってすぐ効果が出るような即効性のある話ではなく、幅広いテーマごとの現在のトレンドや将来的なビジョンが語られることが多い。カンファレンスの主役である開発者たちは、前後含めて1週間の休暇はなかなか取れないため、やむなくチュートリアルとサミットをパスして、3日目から参加するという人も多い。だから初日と2日目の参加者は少ない傾向があるわけだ。

 ところが今年は初日から、3日目以降のような混雑ぶりで驚かされた。理由は今年新設された「Social & Online Game Summit」と「iPhone Game Summit」の存在だ。この2つのサミットは、GDCのモバイル部門であるGDC Mobileと、カジュアルゲーム部門であるCasual Game Summit、そして2008年に新設された新しいオンライントレンドを取り上げるWorld in Motion Summitの3つのサミットを、時代の変化に合わせて再編成したものだ。

 これらのほかにも、今年はさらにスマートフォン大手のBlackberryと、SNS大手のMySpaceが丸1日のチュートリアルを開催するほか、検索最大手のGoogleと、通信大手のQualcommといった“巨大な伏兵”もGDC Mobileに名を連ねるなど、今年のGDC前半は「ソーシャル&モバイル」と言い切ってしまっても良い状況になっている。GDCでは毎年、集中して語られるキーワードが存在し、それがその年のトレンドになることが多い。たとえば近年だと、次世代機、プロシージャル(コンテンツ)、アジャイル(開発)、デジタルディストリビューション、カジュアルゲーム、バーチャルワールド、iPhoneなどである。

 2009年はまさにiPhone一色だったが、今年はGoogleのandroid、MicrosoftのWindows Phone、RIMのBlackberryといったモバイル勢が新たなゲームプラットフォームとして名乗りを上げ、その一方で、ピュアなSNSを出発点に、カジュアルオンラインゲームを筆頭としたアプリケーションの受け皿となることで“21世紀の新たなゲームプラットフォーム”として爆発的にシェアを伸ばしたSNSサービス群をひっくるめた「ソーシャル&モバイル」というキーワードは、近年まれに見る圧倒的な吸引力を見せてくれた。

 そのソーシャル&モバイル系のサミットの中でももっとも人気が高かった「Social & Online Game Summit」の基調講演はなんとFacebook。日本でいうところのmixiに相当する、世界でもっとも人気の高いSNSサービスである。語られた内容は、Facebookの会員数(4億人)や平均プレイ時間(55分)などすでに内外で語り尽くされたものばかりで、ゲーム分野に関しても取り立てて新しい情報はなかったが、「プレイステーション 3からニンテンドーDSまですべてのゲームプラットフォームに対応したことで、あらゆるゲームユーザーを取り込むことに成功した」というSNS独特の論理展開は、数年前に流行った“ソフトウェアプラットフォーム”という言葉を想起させてくれた。既存のゲームプラットフォーマーは、こうした動きにどう向き合っていくのか注目したいところだ。

 そうした中、意外とおとなしめだったかなと思われるのがiPhoneだろうか。今年も依然としてモバイルゲームプラットフォームの中心的地位に存在し、Epic GamesがiPhone版「Unreal Engine 3.0」を実機でデモをしたり、新規タイトルのプレゼンテーションが披露されるなど話題性には事欠かなかったが、ソーシャルゲームの活況ぶりには一歩譲る印象だった。

 理由として挙げられそうなのは、プラットフォーマーであるAppleの不参加と、Apple不参加に付随する話として、iPhoneのデベロッパーがもっとも関心のある“マネタイズ”に関するセッションがなかったことだ。さらに言えば、来月に発売を控えているiPad関連のセッションがないことも遠因のひとつに数えてもいいだろう。ちなみに、マネタイズ関連のセッションは「Social & Online Game Summit」でも人気が高く、中でもそのものずばりのセッション「Monetization and Business Models for Social Games」(Rock You)は、GDC初日としては極めて珍しい入場規制が行なわれたほどの人気ぶりだった。

 いずれにしてもiPhoneに関しては、すでに「バスに乗り遅れるな」的な盛り上がりはとっくの昔に醒めきっており、革新的なアイデアや素晴らしいゲーム性をムダにしない手堅いビジネスモデルの提案、方法論の提示が求められていることを強く感じた。「iPhone Game Summit」は引き続き明日も開催され、3日目以降も関連セッションがいくつか予定されている。今年のGDCで、デベロッパーのニーズになんらかの回答が出せるのか、明日以降のセッションにも引き続き注目したいところだ。


【賑わう会場】
GDC初日とは思えないほど多くの参加者で賑わっていた。3日目以降はさらなる混雑が予想される。セッションルームに至る通路にはIntelやMicrosoftといった大手スポンサーがブースを出展していた。珍しいところでは電子決済サービスを展開するPayPal。同社の出展もまたソーシャルゲームの盛り上がりの影響のひとつだろう

【「Social & Online Game Summit」基調講演】
基調講演を行なうFacebookでゲーム部門のプラットフォームマネージャーを務めるGareth Davis氏。累計会員数4億人、1日の接続者数2億人というめまいがするような数字を挙げながら、あらゆるゲームプラットフォームに対応したソーシャルゲームプラットフォームだと宣言。一種の黒船を見たような感覚に近いが、今後はFacebookのようなソフトウェアプラットフォームと、ゲーム機を擁するハードウェアプラットフォームという新たな構図がクローズアップされてきそうだ

(2010年 3月 10日)

[Reported by 中村聖司 ]