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【Unite Japan 2014】超日本びいきのOculus VR創設者Palmer Luckey氏インタビュー
日本の開発者に大期待。Facebook買収による大メリット、そして自身と「Morpheus」を語る
(2014/4/8 02:34)
4月7日から8日にかけて開催されているUnityゲーム開発者のためのカンファレンス「Unite Japan 2014」に合わせ、VRヘッドセット「Oculus RIFT」を開発するOculus VRから創設者のPalmer Luckey氏が来日、基調講演にて日本オフィスの立ち上げや「Developer Kit 2」の日本向け出荷を最優先する意向を表明した(関連記事)。
今回、弊誌ではLuckey氏に対するインタビューを行なうことができたのでご報告しよう。生粋のVR崇拝者として日本のサイバー&メタバース系の創作「攻殻機動隊」、「.hack」、「ソード・アート・オンライン」も大好きだというLuckey氏。それにつけても過剰に思える日本びいきの真相、そしてFacebookによる買収の影響、謎の多い人物像まで、VRゲーミングの実現に向けて渦中にある本人に、気になるあれこれを聞いてみた。
Oculus VR創設者、開発キット優先出荷など超日本びいきの本当のワケ
──今回、日本へ来てみた感想はいかがですか?
Palmer Luckey氏:日本は初めてなんですよ!本当に素晴らしいですね。日本ではたくさんの開発者がアメージングなVRアプリケーションを開発していて本当に目を見張るばかりですよ。あなたも試しましたか?
──ええ、日本にしかありえないものが多いというか(笑)。こういった日本のゲーム開発者の文化についてどう考えますか?
Palmer Luckey氏:とても気に入っています。VRゲームをどう作るべきかをよく理解していて、まさにVRのためにコンテンツを設計していますからね。海外では単純に既存ゲームを移植する試みが多いのですが、日本の開発者コミュニティは、まさに他国に先駆けて、もっと進んだことをしていると思いますよ。
──基調講演では「Development Kit 2(DK2)」の日本向け出荷を優先する、と宣言していましたが、それが理由なんでしょうか?
Palmer Luckey氏:ええ、少し前までは日本の市場を少し過小評価していたんです。先に韓国に現地オフィスを開設していましたし。もっともそっちはゲーム産業のためではなくてハード生産のためですけどね。でも、日本にオフィスもない、日本の開発者と話もしていないという中で、それでもたくさんの日本の開発者たちが「RIFT」のためにとても面白く素晴らしいものを作り出していることに気がついたんです。他のどんな国よりもね。米国や欧州ではたくさんの人が開発キットを買ったんですが、ほとんどが今あるデモを遊ぶためだけに使われてたんですよ。
それはそれでいいとして、では日本ではどうか。たった数千個しか開発キットを売ってないのに、何百もの開発者が何百ものデモを作ってくれたんです。つまり、日本の開発キット所有者のほとんどが、何かしらを開発してるんですよ。だから、「DK2」の最初の数千個はほとんど日本に出荷しようと思っています。そうすれば、実際にコンテンツを作ってくれる人に行き渡らせることができて、沢山の新しいコンテンツを生み出すことになるはずですからね。
──日本の現地オフィスについても話していましたね。
Palmer Luckey氏:ええ、日本の開発者とのやりとりを支援するためにオフィスをつくろうと考えています。必要とされるサポートを提供して、コンテンツへの投資も行なうつもりです。Facebookの資源を利用してね。
──「Oculus VR」自身でのゲームパブリッシュも予定しているそうですね。
Palmer Luckey氏:はい、日本のゲームもパブリッシュできたらいいと思っています。今はごく少数の開発者と話を進めているところですよ。
──日本のVRコンテンツで特に独特なのは、バーチャルキャラクターを使ったものですよね。
Palmer Luckey氏:「初音ミク」みたいなね。知ってますよ(笑)。実は私はミクの大ファンなんです。数年前にロサンゼルスでミクの巨大ホログラムを使ったコンサートがありましたが、もちろん行きました!
──ほんとに好きなんですね(笑)。そしてユニティ・ジャパンは「Unity-Chan」を作りました、これもお気に入りに?
Palmer Luckey氏:もちろん!今日の基調講演では言わなかったけど、私達の方には「Oculus-Chan」が必要かもですね(笑)、「Ocu-Chan」のほうがいいかな?
──(笑)。その講演では、「ソード・アート・オンライン(SAO)」のような日本のアニメカルチャーへの関心も語っていましたね。
Palmer Luckey氏:ええ、「SAO」は大好きですよ。日本語わからないのに、英語版が出る前から視聴してたほどです。それに「SAO」だけじゃなくて、「.hack」や「攻殻機動隊」も好きで。他にも日本のアニメは「デスノート」や「コードギアス」もお気に入りです。私はアニメ専門家ではないので詳しくは語れないのですが、日本のアニメはより“ストーリーを語れる“ものであることが気に入っています。
御存知の通りアメリカには沢山のテレビ番組がありますが、これがリアルな日常をベースにしたものばかりなんですよね。犯罪ショーに、軍事ショー。でもアニメでは、想像できる限りのファンタジーが詰め込まれていて、だから非常に素晴らしいSFもたくさん生まれています。それらが示す世界観は、私がVRに追い求める“体験”にすごく近いんですよ。
──つまり、「RIFT」で目指す未来に、「SAO」のような巨大なメタバース世界を見ているのでしょうか?
Palmer Luckey氏:それがゴールです。そこから見れば、現在、私達のテクノロジーは非常に原始的なものでしかありません。初期の携帯電話を考えてみてください。巨大で、重くて、肩に担ぐようなものでとても快適に使えるものじゃありませんでした。でも技術の進歩で良いものになったんです。昔は皆が「大きい、不便」と言っていたものが、改良されたら、皆が皆使うものになりました。VRも同じ道を歩みます。今は性能が不足し、かさばって、とても高価ですが、いずれ安く、高品質で、そして生活にもっと密着できるものになりますよ。いずれ誰もが、何かのためにVRを利用する時代が必ず来ます。
「Oculus RIFT」から始まるVRゲーミングの実現に向けて
──本当のメタバースに向けて、「RIFT」は始まりに過ぎないんですね。
Palmer Luckey氏:その通り、「RIFT」はいま、ただのヘッドセットです。しかし本当にVRが成功するためには、現実世界と同じように仮想世界に“手が届く”ようにしなければなりません。それが実際に十分なものになるためには何年もがかかると思いますが、いずれ実現することは確実です。
──基調講演でも新しい入力装置の必要性に触れていましたが、具体的にもう研究や開発がスタートしているのでしょうか?
Palmer Luckey氏:はい、私達は入力デバイスについてたくさんの労力を注ぎ込んでいます。というのも、それがVR体験にとって極めて重要な位置を占めると考えているからです。そこでの哲学は、VRではただ入力するだけでなく、アウトプットも、つまりフィードバックが重要であるということです。
例えばHMDは、ヘッドトラッカーだから入力デバイスですが、視野に応じたイメージをフィードバックする機能を持っています。それと同様に、コントローラーも、例えば手を動かしたら、その世界の感触(ハプティクス)をフィードバックする機構が必要です。それによって実際に何かに触れている感覚が得られる。例えばKINECTの問題はそこで、入力はできても出力は帰ってきません。そこで、私達は完璧ではないにしても何種類かの感触をシミュレートする試みを始めています。
──「RIFT」の製品版はどのようなものになりますか?
Palmer Luckey氏:まだ詳しい仕様は開かせませんが、多くの点で「Development Kit 2」と共通点を持つことになるのは確かです。ですが、さらに高い解像度と、さらに高いフレームレートを目指していて、具体的には90Hzを目指しています。それからOLEDディスプレイで水平100度以上の視野角を確保しようとしています。
──さらに視野角を広げようと?
Palmer Luckey氏:現状は90度ですが、ひとまず100度を少し超えるくらいが目標です。でも本当は、いつかは200度以上の視野角が欲しいんですよ。ところが実際的な制約として、より広い視野角を確保しようとすればより大きな解像度が必要で、現状では最先端のコンピューターにも重荷になっていまうんです。ただこれは技術の進化で解消できる問題です。5年後には水平200度、垂直120度の、現実世界と同様の視野角を実現できるはずです。
──その実現のため、Oculus VRにはたくさんのタレントが参加していますね。特にJohn CarmackとMichael Abrashという、「Quake」でFPSジャンルを創造した2人の参加には驚きました。
Palmer Luckey氏:そうですね、「Quake」はFPSを創始しましたが、しかし違う捉え方をしてみましょう。初めてのマルチプレーヤー化された3D環境としてです。人々が同じ3D環境の中で繋がり、遊べるものです。だから「Quake」は「SAO」的な、メタバースの始まりなんです。技術的にまだ原始的であったため、そのポテンシャルをフルに伝えるには至りませんでしたが。だからこそ彼らは「Oculus VR」に、私達と一緒に新しいメタバースを作るために“戻ってきた”んだと思います。
──ワクワクしちゃいますね。
Palmer Luckey氏:まったくです。彼らのようなゲーム業界全体で最も賢い、当然私よりはるかに賢いような(笑)人々と一緒に働けるのは超興奮ものですよ。
──実際のところ彼らが「Oculus VR」に参加した理由はどういうものだったのでしょうか?
Palmer Luckey氏:それについて詳しく話しあったことはないのですが、聞いた範囲で考えるなら、彼らの本来の仕事を継続するため、ということのようです。メタバースを作る、ひいては人々が体験を共有できる3Dの仮想世界を作るためのね。それに1番近いものを私達の事業の中に見つけたのだと思います。
──Michael AbrashはValveでウェアラブルデバイスの研究をしていたと聞きますが、「Oculus VR」でもその仕事を継続しているのでしょうか?
Palmer Luckey氏:そうですね、その意味でMichaelは仕事を継続しています。ですが違う部分もありますよ。最大の違いは、Valveでは製品化を具体的に予定しない中で研究をしていたわけですが、今は「Oculus VR」で実際に出荷される消費者向け製品のための開発に取り組んでいる、ということです。“いつか実現する”ものではなく、“今実現する”ことに変わったわけです。
Facebookによる買収は、「Oculus VR」の野望に巨大な力を与えた!
──ちなみに、Facebookに買われたことで何か変化はありましたか?
Palmer Luckey氏:独立した企業体として活動を続けていくことには変わりありません。実際のところFacebookは、InstagramやWhatsappのように買収した企業を買ったあとは基本的に放置してまして、それと同じですね。
ただ、決定的に違うのは、InstagramやWhatsappのサービスはFacebookに簡単に統合できる一方で、Oculusはそうではありません。彼らは現時点でOculusをFacebookに組み込む計画は全く持っていなくて、より遠大な戦略を考えているようです。というのも、Facebookは5年とか10年の後にVR世界が現実のコミュニケーションの場になると予想していて、そのために長い目で私達に手を貸そうというわけです。
──なるほど。それで巨額の資金を。
Palmer Luckey氏:本当に驚くべき点が他にあるんです。Facebookは資金を持っているだけでなくて、世界でもベストなサーバーインフラを持っています。Carmackが話していたのですが、Facebookの運用スケール、10億人単位というサービスは、我々がまさに将来のVRに求めるスケールなんです。10億人単位の人々がVR世界で繋がり、メタバースを作る。1つのサービス、1つのサーバーインフラでそんなに巨大な接続性を用意できるのは世界でも有数の企業だけ。中でもFacebookはベスト。だからFacebookは一緒にやっていく相手として最高なんですよ。
──それは興奮しちゃいますね。しかしFacebookについては、たくさんの報道で、インディーズやKickstarterコミュニティのネガティブな反応を伝えていましたね。
Palmer Luckey氏:多少の人たちがネガティブに反応することは驚きませんでしたが、実際驚いたのは、ネガティブすぎるということです(笑)。彼らの立場に立ってみれば、私も同じことを思うでしょうから心配の中身についてはよく理解できます。でも実際には、私達はたくさんのソフトウェア、ハードウェアのパートナーたちと仕事を進めていますから、まだ発表できないことが舞台裏でたくさん進行しいるんですよね。もし彼らが私達と同等にそれを知ることができたら、心配は霧散すると確信します。ですが、ひとまず私達は言葉ではなく、行動でそれを示していきたいと思っています。
──最高のVRゲーミングソリューションを目指す、というビジョンには1点の曇りもないと。
Palmer Luckey氏:そうです。VRゲーミングに対する追求に変わりは全くありません。近い将来において、ゲームこそがVRを牽引していく産業だからです。そして非常に長い間、ゲーム産業だけが本格的なVRの仕組みを備える産業であり続けるでしょう。だからゲーミングこそがメインフォーカスであることをFacebookも承知していて、私達がVRコンテンツの開発者のため投資を行なうことも許してくれているんですよ。やがてVRゲーミングは巨大産業になります。その他の分野を取り込んでいくのはその先のことになるでしょうね。
それから、Facebookのビジネスについて思うことは、近視眼的にハードを売って儲けようとは思ってないってことです。そもそもFacebookの戦略は、少数から沢山稼ぐのではなくて、数十億人からちょっとづつ稼ぐというものですからね。ですから彼らは、私達がヘッドセットで大きな利ざやを取ることを望んでいません。望んでいるのは、いつかヘッドセットをわずか数ドルで売れるようになって、非常に多くの人が使うようになることです。そのためには、技術的な不備を許してくれないようなノンゲーマー層にも受け入れてもらえる製品を実現しなければなりません。だからまず、VR技術を牽引するゲーミング分野で最高のものを追求することが必要になるわけです。
奇跡のめぐり合わせによる創業秘話、そして意外な「Project Morpheus」との因縁
──ときに、Palmerさん自身のバックグラウンド、経歴について教えてもらってもいいですか?
Palmer Luckey氏:私は独学のエンジニアで、もともとはジャーナリズムを志して大学に入ったんですよ。攻めの姿勢のゲームジャーナリストになりたくて(笑)。そして3年間大学で取り組んだあと、Oculusをやるために辞めました。なぜかって? VRを追求するための技術が出揃ってきたことに気がついたからです。それで大学を辞めた2カ月後には仲間を集めてOculusを立ち上げ、Kickstarterに掛けたんです。
──そりゃスゴイ!
Palmer Luckey氏:もちろんこれが恐ろしくリスキーな道だってわかってますよ(笑)。いつか一段落したら、大学に戻ってまたゲームジャーナリストを目指したいなとも考えています。
──失礼ですがいまお幾つで?
Palmer Luckey氏:21歳です。19歳でOculusを始めました。
──ワオ……。その若さで、John Carmack氏とはどのように知り合ったんでしょう?
Palmer Luckey氏:それまでVR研究のために作ったものはすべてインターネットに公開していたんですが、それをCarmackが見つけて、声をかけてくれたんですよ。それからVRについて話し合うようになりました。あと、その数カ月前、実はValveに就職しようと面接に行ってたんですよ。残念ながら採用されませんでしたが。その時にVRの話をしてて、それで、Kickstarterを始めるときに連絡をとったら、Gabe Newellから「プロモビデオにでてもいいよ」と同意をもらえました。
特に面白いのはタイミングですね。Carmackはちょうど最後に手がけたゲーム「RAGE」の仕事が終わって、VRについてリサーチを再開してた頃でしたし、Valveも、VRのリサーチをはじめたと聞いたから私は仕事が得られると思って訪ねたんです。皆それぞれに、確信を持つようになってきたタイミングだったんですよ。VRのための技術がほとんど準備できてきた、っていうことにね。同じころソニー・コンピュータエンタテインメント(SCEI)もそれに気づいてて、実際、Carmackは「Palmerを雇ってやれ」って言ってたんですよ。その申し出は断られて(笑)、だから私が始めることができたわけです。
── なんと、SCEIとも因縁があったんですねえ!では、先日発表されたPS4の「Project Morpheus」についてはどう思いますか?
Palmer Luckey氏:もしSCEIが十分に力を注ぐなら、現時点において非常に良いソリューションになると思います。PlayStation Moveのような装置もありますし、今PS4は強力なコンピューターですからね。ただ、長いタームで考えると懸念があります。
というのも、2年か3年で、ほとんどすべての人がPS4よりパワフルなコンピューターを持つでしょうし、5年から7年も経てばモバイル端末ですらPS4を凌駕します。PS3世代はもう8年経ちますが、いまだ現役です。そしてPS4は非常に長い世代になると言われているので、将来のPCやモバイルのVRに追従できるかどうかわかりません。
それでも、SCEIやValveのように大きな企業がVRに力を入れ、消費者に強力なものを届けてくれることを本当に歓迎しています。皆がそうやってVRの世界を高めていけば、VRがただのギミックから本物のものへ脱皮することができますからね。
──VRゲーミングの未来は本当に明るそうですねえ。貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。
Palmer Luckey氏:こちらこそ、ありがとう!