Game Developers Conference 2009現地レポート

大手パブリッシャーによる「Localization Summit」レポート
各社が実施する多国語への対応のノウハウや手法を公開

3月23~27日開催(現地時間)

会場:サンフランシスコ Moscone Center

 

サミットアドバイザー Englobe Inc. Tom Edwards氏
トーハンプトン大学 The Didactics of Audiovisual Translation, Miguel A. Bernal-Merino氏

 GDCの初日である3月23日に行なわれたLocalization Summitでは、グローバル戦略におけるローカライズの大切さや各国のカルチャーに合わせたローカライズの手法などが語られていた。サミットアドバイザーには、過去に米Microsoft Game Studiosで10年間以上ローカライズ戦略などを担当したEnglobe Inc.のTom Edwards氏、ロンドンにあるトーハンプトン大学でThe Didactics of Audiovisual Translationを専攻するMiguel A. Bernal-Merino氏の両氏がいくつかのTrackで登壇し、進行を務めていた。

 Tom氏はまず、監査法人Pricewaterhousecooperによる2011年までのゲーム業界の市場上昇価値傾向を提示し、2011年までは、アジアとEMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ)が上昇傾向にある半面、米国は不景気の影響もあり、伸び悩むといったデータを提示。また、インドや中国は最も速い速度で成長曲線を描いていることを説明した。

 ローカライゼーションでの問題点として、アメリカのESRB、ヨーロッパのPEGI、日本のCEROなどを代表する各国で行なわれているレーティング機構は、ゲーム中の旗や地図などをはじめ、世界的または地域社会における歴史問題を含んだシナリオ、宗教や民族など政治上の描写や類似性、スラングといった部分は審査の中に含まれていないといった内容などが語られていた。

 

 また、ゲームを展開する各国に合わせたカルチャライズを行なうことにより、より親しみやすい作品へと変化させることもできるが、そのためには、開発がカルチャライズを前提としてゲームデザインを行なう必要があるという。

Tom氏によると2011年までのゲーム業界の市場上昇価値傾向は、アジアとEMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ)が上昇傾向にある半面、アメリカは不景気の影響化もあり、伸び悩むらしい



■ EUおけるSCEEのローカライズ工程を披露
「Localization-Aware Game Development」

Sony Computer Entertainment Europe Localization Services Manager, Vanessa Wood氏

 「Localization-Aware Game Development」と題されたトラックでは、Sony Computer Entertainment Europe Localization Services ManagerのVanessa Wood氏によるローカライズ事例が発表された。

 ここではサンプルゲームと題されたプロジェクトを例にあげ、登録単語数30,000個の単語があると仮定した場合、そのうちの10,000個はゲーム中で使用、20,000個はインターフェイスをはじめとするダイアログに使用されるという説明が行なわれていた。

 また各言語への吹替えでは、2,000個の音声データが存在すると仮定した場合、主要登場キャラクターは12人(それぞれ100個のセリフ)、20人のわき役キャラクターにも各音声を割り当てるごとができ、そのほかにもムービーシーンでは400個のセリフを割り当てることができるようだ。なお、これらのセリフは英語をはじめ、FIGS(フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語)にローカライズを行なう場合となるとのこと。

 Wood氏は、このサンプルゲームでのローカライズをもとに、人月をはじめとする見積もりなども例にあげており、サンプルゲームを各言語へとローカライズした場合だとしてもかなりの日数が必要となることなどが説明された。またSCEEで使用されているローカライズツールも大まかではあるが説明しており、ツールを使うことで、膨大な量になるデータの管理を円滑にすることも大事だと述べた。

Vanessa Wood氏はSCEEにおけるローカライズの手法を解説。仮想プロジェクトにどれだけの人員が割り当てられるかなどを説明した。登録単語数30,000個、2,000個の音声データのゲームではローカライズに必要な人数は69人となるといった事例が語られていた



■ 3社によるローカライズの違いを比較する
「Risk and Rewards of New Territories」

Linden Labs, Director of International Initiatives and Localization, Danica Brinton氏多数の国で展開する「Second life」では、段階的にローカライズを行なっているという

 続いてのセッションとなる「Risk and Rewards of New Territories」では、「Secound Life」のLinden Labs Director of International Initiatives and LocalizationのDanica Brinton氏、Microsoft Group Program ManagerのTacey Miller氏、そしてセガのLocalization Producer 長谷川亮一(aka Rio Hasegawa)氏によるパネルディスカッションが行なわれた。

 Brinton氏からはLinden Labにおける開発事例として、各国語に合わせたローカライズを階層化して行なっているといった内容の紹介が行なわれ、社内開発のローカライズツールを使って、ユーザー層の多い言語から段階的に言語を実装していく行程やそのバランスを解説していた。





セガのLocalization Producer 長谷川亮一氏。スライドにペンライトを当ててわかりやすく説明して、Localization Summitでは好評だった

 続いての長谷川氏は、日本産タイトルにおける海外向けローカライズの事例を説明。日本産タイトルは言語が日本語から英語へと変更されるため、タイトルによってはメニュー画面などのユーザーインターフェイスの変更が行なわれるといった説明からはじまり、ゴアやカルチャーの違いなどレーティング部分の説明を行なっていた。ゲーム中のキャラクターの表現では、昨今はPS3/Xbox 360では西洋風のキャラクターが増えてきているが、日本ではまだ保守的なユーザーが多いといった内容も語られた。

 こういったカルチャーの違いも踏まえたうえで、長谷川氏はプロデューサーにローカライズにおいて重要なこととは?言語なのか?難しさなのか?市場の大きさなのか?と聞いたところ「データ容量」だと答えられたという。スライドではナスにたとえ、小さいナスは日本語で、英語では巨大なナスになってしまうといった内容で会場を笑わせていた。

レーティング部分ではバンダイナムコゲームス「DUEL LOVE 恋する乙女は勝利の女神」を例にあげ、「このゲームでは男の子の汗をうまく拭いていくと彼は天国へ昇るような気持ちになる」と説明し、会場ではレーティングはどうなっているんだという疑問も上がっていた。またキャラクターデザインの部分では、前者のモデリングはユーザーにも好評だが、後者はカルチャーの違いなどについても説明している

Microsoft Group Program Manager, Tacey Miller氏。Microsoftにおけるローカライズは、フルローカライズ、字幕などの一部翻訳、マニュアルのみといったタイプに分かれているという

 このパネルディスカッションで最後に登壇したTacey Miller氏は、マイクロソフトにおけるローカライズのカテゴリなどを説明。Xbox 360におけるローカライズには、リージョンタイトルとグローバルタイトルというカテゴリがあり、リージョンタイトルでは一部のローカライズのみを行なったもので、グローバルタイトルでは音声などをはじめとしたフルローカライズを行なっているという。例としてあげられたのが日本産のゲームを北米、欧州向けにローカライズする場合、テキスト、音声をはじめ、グラフィックス、操作方法、難度などゲームシステム部分までもローカライズをする必要があることが説明された。

 この中でMiller氏が非常に印象深かったと語ったのは、「NINJA GAIDEN」を欧米向けにローカライズする際、当時のプロデューサーである板垣伴信氏に、「欧米のユーザー層では難しすぎるため難度を下げる方向で調整してほしい」とお願いをしたが、中々聞き入れてもらえなかったとというエピソードなども語られていた。


(編注:写真のタイトルは海外における一部ローカライズという意味です)



■ EU諸国への完全対応を唱う
「Localization:The Pathway to Truly Global Game Development」

Electronic Arts, International Development Services Vice President, Jamie Gine氏。EAにおけるヨーロッパ圏へのローカライズを手法を解説

 ローカライズサミットのキーノートとなる「Localization:The Pathway to Truly Global Game Development」では、Electronic Arts(EA) International Development Services Vice PresidentのJamie Gine氏によって講演が行なわれた。

 講演では、ヨーロッパ圏でのローカライズの例が挙げられ、映像コンテンツと他社ゲームタイトル、そしてEAのゲームとのローカライズ比較を解説。EAはヨーロッパ圏でのローカライズをほぼ網羅しているといった内容があげられていた。

 EAがEU各地域の言語に対応したローカライズを行なうメリットとしては、先の講演にもあったとおり、地域に基づいた言語での親しみやすさなどが挙げられおり、その結果としてイタリア語のローカライズを行なったことで非常に良いセールスを獲得できたという。また北米版の発売からロシア語版を出すまでのローカライズによる遅延を極力減らし、2日遅れで発売した「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」は、9倍の売り上げ効果が現われたことが示された。

 また「FIFA08」を例にあげ、発売地域によってパッケージのデザインを変え、それぞれの地域に人気のある選手をパッケージの前面に押し出すことも必要だと語っていた。

 EAでのローカライズの工程は、現在プレアルファバージョンの段階から行なわれており、βバージョンからゴールドまでに3段階の工程を経てデバッグなどを重ね行なわれている。これによりなるべく早い段階でのローカライズを行なうことが可能だと語った。




■ 15カ国の言語をサポートする「FABLE II Localization Case」

Microsoft Games Studios,Audio Produce, Jason Shirley氏
Lionhead Studios,Design Producer, Will Braham氏
Binari Sonori,Production Coordinator, Palma Cedele氏

 「FABLE II」の開発スタジオであるLionheadのローカライズセッション「FABLE II Localization Case」では、Microsoft Games Studios,Audio ProduceのJason Shirley氏、Lionhead Studios,Design ProducerのWill Braham氏、Binari Sonori,Production CoordinatorのPalma Cedele氏の3名が登壇。

 Microsoftの翻訳チームは、各国で10社の翻訳会社ならびにレーコーディング会社と提携しており、これまでに「Gears os War2」、「Halo 3」、「Halo Wars」、「Mass Effect」、そしてトラックにある「Fable II」などが翻訳されている。

 「Falble II」のローカライズ事例では、登壇者のWill Braham氏を筆頭に、Microsoft Game Studiosからプロダクトマネージャーなど数名が担当、翻訳会社のBinari Sonori、Logrusが全般的な翻訳を担当したことがShirley氏より語られていた。

 「Falble II」は、15カ国の言語でローカライズされおり、そのうち7カ国語はフルローカライズ、5つはPartial+(部分翻訳)、3つは一部翻訳(マニュアルのみなど)という構成で制作されている。ゲーム内には1つの言語に対し、420,000単語のテキスト、4,800の音声ファイル、54人の声優が使用されており、これは50個のクエストを翻訳した場合、238時間(8時間労働で30日)の検証が必要となるといった例が挙げられた。


翻訳された各データはセリフごとに管理され、データベースへと格納される。管理部分をブラッシュアップすることで、各言語のビルドが容易に行なえるという

 Microsoftでは、これらのローカライズデータの管理を行なうために、いくつかのデータベースを作成し、テキストデータではXML形式で格納し、最適化を行なうといった手法が挙げられていた。また「Fable II」は、主人公には男性と女性という性別もあるため、各テキストにはMaleの「M」、Felameの「F」といったわかりやすい単語を元にしたスクリプトを埋め込み、国により異なる固有名詞や言い回しなどを分けるという処理を行なっている。

 翻訳部分では、データベース化された各テキスト郡を「Splitter tool」と呼ばれる分割ツールを使い、10MB程度のファイルに分け、担当者がそれぞれ手を加えていくといった手法を行なっているといった内容が明らかにされた。

 翻訳担当したBinari SonoriのCedele氏は、同作の膨大な翻訳量を130名を超えるスタッフを動員し、国別に異なる固有名詞の違いを加味したテキスト、音声データなどローカライズを行なったといった内容が語られた。

Cedele氏によると「Fable II」での翻訳スタッフはアクターを除いて130人を超えるという



 今回のローカライズセッションでは、それぞれパブリッシャーの立場からの翻訳管理などの手法解説が多かったのと、内部管理によるものなどが多い印象が強かった。またQ&A部分では、日本語から英語へ、英語から日本語へといったローカライズ部分の質問なども多々見受けられたが、残念ながら登壇者からの明確な回答は得られていなかったように見受けられる。とはいえ、少なくとも日本市場には関心を寄せているスタッフがいることは多い印象であったため、今後の良作のローカライズによるタイトルの発売には期待したいところだ。

 そのほかにもローカライズに密接な関係にあるカルチャライズ部分など、もっと深い内容で紹介されると非常によいサミットになるのではないかと感じられた。今後は、翻訳会社(チーム)によるゲーム内のテキストに対しての言い回し違いの検索方法や、セリフに含まれる冗談などをいかに対象国の言葉に変換させていくかといった内容などもあると面白いかもしれない。



(2009年 3月 26日)

[Reported by 鬼頭世浪 ]