Game Developers Conference 2009現地レポート

バーチャルワールドの今を伝える「World In Motion Summit」レポート
MMORPGの寿命を延ばす方法とは!? ヨーロッパ市場の現況やRMT事情なども紹介

 

3月23~27日開催(現地時間)

会場:サンフランシスコ Moscone Center

 

 昨年からスタートした新鋭のサミット「World In Motion Summit」は、無数のMMORPGタイトルに加えて、近年欧米で急成長を遂げた「セカンドライフ」や「Habbo Hotel」といった仮想世界におけるコミュニティサービスを含めた、いわゆるバーチャルワールド全般にフォーカスしたサミットだ。

 バーチャルワールドは、日本を含むアジアと欧米とではまったく違った発展を遂げつつあり、共通項はわずかに「World of Warcraft」のみというような状況になっている。その違いを端的に述べると、欧米はシンプルな土台の上に、充実したCO-OP(共同プレイ)に重きが置かれる一方で、アジアは贅沢な土台と、贅沢な1人遊び的要素が求められる。どちらが正しいという話ではなく、遊びの文化の違いであり、「HABBO HOTEL」や「パズルパイレーツ」といった欧米の大ヒットタイトルが日本でうまくいかないのは、まさにここに原因がある。

 「World In Motion Summit」は、オンラインコミュニティの伝道師であるラフ・コスター氏がアドバイザーを務めていることもあって今年も人気のサミットとなっていたが、前述のようなことも影響しているのか、日本人の参加者は驚くほど少なかった。欧米コンテンツに見るべきモノはないと判断しているとすればその見方は間違っており、残念なことだ。参加者の少なさは単純に日本人の参加者はプログラマが多いということと、オンラインコミュニティサービス関係者の参加がまだ限られることを証明しているに過ぎず、サミットがつまらないというわけではない。今後、日本人関係者の参加が増えることを期待して、「World In Motion Summit」レポートをお届けしたい。



■ 運営が長期化したオンラインゲームに活力を与える方法とは!? 「Controlling the Pace」

講師を務めた3人。Jonathan Caraker氏(Sony Online Entertainment)、Alan Krause(Trion World Network)
セッションはシンプルなスライドのみで進められたが、内容的には単純明快でわかりやすかった

 まず始めに紹介したいのは2日目の午前中に行なわれた「Controlling the Pace(ペースをコントロールする)」だ。Sony Online Entertainmentの「EverQuest II」開発スタッフらによるMMORPGの長寿化のための秘訣の紹介である。MMORPGを成功させるための秘訣ではなく、すでに成功状態にあるMMORPGが、運営の長期化により生じる様々な問題をいかに克服するかという非常にマニアックなセッションである。

 ポイントは3つ。オンラインゲームファン層を新規ユーザーとして取り込む方法、コアユーザーに対する製品の競争力を維持したままカジュアルゲーマーを呼び込む方法、遊び尽くされたゲームコンテンツに再び活力を与える方法である。いずれもオンラインゲームパブリッシャーの関係者は気になる情報ではないだろうか。

 回答の提示はいずれも具体的だった。まず、オンラインゲームファン層の取り込みについては、ベテランユーザーに素早く追いつくために、キャラクタ育成にボーナスを設けてレベルを上げやすくするだけでなく、多様化するコンテンツに対して新規ユーザーが戸惑わないように遊び方に柔軟性を与え、さらにサービス初期に比べゲーム世界が大きく変化していることからリワードの手直しを提言。具体例として、コミュニティ集団にとって魅力になる要素や、初心者ユーザーへのスピードブーストアイテムの提供や、経験値をシェアする方法、いわゆるPL的な方法を認めるなどを挙げた。

 次に競争力を維持する方法については、プレイタイムのチューニング、状況に合わせたリワードの再構築、古いコンテンツの難易度の緩和化、コンテンツの障壁の排除などを挙げた。必須アイテムを不要にしたり、移動時間を短縮化するなど、要するにユーザーが不快さやかったるさを感じる要素をできるだけ排除して、エンターテインメントコンテンツとして洗練させるべきという考え方だ。

 3つ目の、ユーザーに興味を維持してもらう方法については、やはり「最高のリワード」を第1に挙げ、通常のプレイではなかなか達成できない長期的な目標と、誰もが羨ましがる素晴らしい報酬を常に提示することで、コアユーザーを初めとした多くのユーザーの関心を集めることができるという。また、コンテンツのアップデートは4半期に1回程度の頻度が望ましく、その都度新しいリワードを入れるべきだとした。言われてみれば頷ける意見ばかりで特に目新しいものはないが、そこをあえて綺麗にまとめて説明するところにGDCの醍醐味がある。

 講演を終えてひとつ気づいたのは、これらの取り組みは、スクウェア・エニックスの「ファイナルファンタジー XI」の運営方針にそっくりだということだ。「FF XI」は「Ever Quest」に多くの影響を受けて誕生したと言われているが、メソッドまで忠実だったとは驚かされた。もちろん、この方法論は万能というわけでもなさそうだが、その根底にあるマーケットインでユーザーニーズにリアルタイムで応えていくという考えかたは、すべてのオンラインゲームに適用可能な普遍的なメソッドと言える。

 「World of Warcraft」以来、なかなか安定的なヒット作が現われない現況が続いている北米オンラインゲーム市場だが、その底力を見せつけられたセッションだった。



■ すでに勃興している? 停滞している? ヨーロッパオンラインゲーム市場

ICO Partners Thomas
ヨーロッパの地理の紹介に18世紀の地図を持ってくる。このあたりがヨーロッパ人である
EU加盟国を中心に32カ国で利用されているレーティングシステム「PEGI」。拘束力はなく、国ごとのカスタマイズも許容している

 続いて紹介したいのは初日の午後に行なわれたセッション「Online Games: Europe Challenges」。タイトル通り、ヨーロッパ市場におけるオンラインゲームの状況をレポートしたものだ。講師を務めたのはGOA.comやNCSOFT Europeといったヨーロッパではまだ少ないオンラインゲームパブリッシャーを通じて、ヨーロッパのオンラインゲーム市場を長年見てきたThomas Bidaux氏。

 Bidaux氏は、まずヨーロッパ市場の基本スペックとその文化的なモザイクぶりから紹介していった。ヨーロッパはまずその定義の仕方が問題になる。最小単位としてユーロ諸国(16カ国)があり、次いでヨーロッパ連合(27カ国)、シェンゲン協定(31カ国)、欧州評議会(47カ国)と続く。ここではもっとも一般的なヨーロッパ連合(EU)の単位で説明が行なわれた。

 EUはよく知られているように、米国と比較して面積、人口、人口密度の3点ですべて上回っている。インターネット利用者の数でも米国を上回っており、ゲームコンソールの売り上げでも米国に準ずる規模を達成している。日本では、お隣の中国市場の成長ばかりが語られがちで、ヨーロッパの市場規模はあまり注目されてこなかったが、すでに米国並みの市場が現時点で存在するというのは凄いことだ。

 次にBidaux氏は、「ヨーロッパには野球がなく、メートル法を採用し、意外にもクリケットが人気」とヨーロッパ人らしいユーモアを交えながら、米国との文化的な相違点を丁寧に紹介していった。中でも大きな相違点として、ヨーロッパの長い歴史を経て成立した民法が、ヨーロッパ諸国の法律のもっとも基本的かつ共通の枠組みとしてEU間で浸透している事を挙げた。こうした背景は日本のような国に住んでいるとなかなか実感がわかない部分だが、その枠組みにおけるゲーム分野の取り組みのひとつがEUを中心にヨーロッパ諸国で利用されているレーティングシステム「PEGI(Pan European Game Information)」である。

 「PEGI」は、EU加盟国を主体とした32カ国で適用されているコンピューターゲームのレーティングシステムで、各国の文化の違いを尊重し、強制力はなく、±1歳程度のカスタマイズを許容している。一部の例外としては、イギリスとドイツが挙げられる。イギリスはBBFC(British Board of Film Classification)という法的根拠のあるレーティングシステムを独自で持っているが、ゲームに関してはPEGIに審査の委託を行なっている。ドイツはEU議長国でありながらPEGIに非加盟で、USK(Unterhaltungssoftware Selbstkontrolle)という独自の審査機構でレーティングを行なっている。USKのレーティングの厳しさは世界的に有名で、時折、ヨーロッパでドイツのみ発売中止、延期の決定が行なわれるのは、USKが弾いているためだといわれる。

 セッションの後半では、ようやく本題であるオンラインゲームの紹介が行なわれたが、40カ国にも及ぶ言語への対応、多彩な決済システムへの対応、そしてなんといってもオンラインの分野に関しては市場規模的にまだまだこれからという実態が明らかにされ、やや腰砕けの印象は否めなかった。収穫としては、ビジネスモデルは基本プレイ無料がすでに8割に達していること、欧米タイトルが強くアジアの進出は限定的であること、ロシアでは意外にもPvPの人気が高いことなどだろうか。

 最後にBidaux氏は、ヨーロッパ展開を目指すメーカーへのアドバイスとして、複数の文化圏でサービスを行なうために、運営を複数に分けることは必須だとした上で、ビジネスモデルやロイヤリティ、IPマネジメント、ローカライズ、バグレポート、カスタマーサポート、ユーザーフィードバックといった様々な要素を挙げてくれた。ヨーロッパにもオンラインゲーム運営のノウハウを持つパブリッシャーが徐々に育ちつつあり、彼らと提携することで負担の過半を軽減できるとし、そのための有力なパートナーとしてBidaux氏が代表を務めるICO Partnersを紹介して講演を終えた。

 ヨーロッパのオンリラインゲーム市場は肥沃なのかどうなのか。そのあたりが見えてこなかったのは残念だが、日本からヨーロッパへの進出を目指すオンラインゲームパブリッシャーは多いだけに、また来年のアップデートにも期待したいところだ。


【ドイツのレーティングシステム「USK」】
ドイツのみ「USK」と呼ばれる独自のレーティングシステムで審査されている。ヨーロッパで流通されるタイトルの多くは、PEGIとUSKの両方のレーティングが表示されているが、双方でレーティングのズレがあるのがユニーク。下段は、ヨーロッパの多言語ぶりを示すスライド

【ヨーロッパのオンラインゲーム市場の概況】
マーケットデータの数字は、若干数字のマジックが入っている。アジアと米国との比較対象はEUではなくEMEA、つまりヨーロッパと中東とアフリカを全部足した数字になっている。「World of Warcraft」のグラフは、ユーザー数ではなくサーバー数。その数は北米を上回るが、リージョンごとにサーバーを分けているヨーロッパのほうが多くなりがちだ。下段のユーザーの傾向の違いを示すグラフは見応えがある



【Applied RMT Design(実用的なRMTデザイン)】
タイトルだけ見るとショッキングだが、ここでいうRMTとは少額決済システムを利用したアイテム課金システムのことを指している。日本では、RMTとアイテム課金は明確に分けられているが、米国では同じ扱いとなっている。ある意味非常に正直だ。ここで紹介されたタイトルは「GoPets」。内容的にはいまだに韓国での洗練されたアイテム課金ビジネスに衝撃を受けるレベルで、まだまだといった印象

【Pack Your Bags, We're Going To Audience Acquisition】
Rebel MonkeyのMargaret Wallace氏は、米国で人気を集めるキャンプ生活をモチーフにしたオンラインコミュニティゲーム「CampFu」の運営経験をベースに、いかにインターネットユーザーを獲得するかをレクチャーした。基本的にはGoogleとSNSを強く意識し、露出を増やしていくことが重要だという。広告の打ち方は、オンラインゲームとするよりCO-OP GAMEとした方が効果的だというのはおもしろい

(2009年 3月 25日)

[Reported by 中村聖司 ]