インタビュー
「グルーヴコースター(アーケード版)」短期集中特集インタビュー・第3話
~予想を超えたさらなる試練、そして……~
(2014/1/27 14:10)
「グルーヴコースター(アーケード版)」(GCAC)の開発エピソードを特集する「GCAC」短期集中特集。前回、前々回に引き続きプロデューサーの白石雅也氏、ディレクターの花形琢真氏、筐体デザインを担当された藤川 剛氏の3人のお話を伺う第3話は、いよいよ製品化に向けての「GCAC」の動きを中心にお届けする。前回に続き、アップデート等々さまざまな事情があり、ここまで遅くなってしまい、大変お待たせして申し訳ありません……でも、まだまだ開発エピソードがありました! これまでにも増してボリュームがありますが、最後までぜひご覧いただければ幸いです。
1カ月におよぶ店舗調査。上層部が意図したこととは一体!?
社内の組織変更に伴い、それまで動いていたAM事業部のプロジェクトは一旦ストップということになってしまった。「BOOST」プロジェクトもその影響を受け、コンセプトベースから見直しとなり、プリプロ(ダクション)キックオフの会の席上、白石氏はプロジェクトのストップをメンバーに告知することとなった。そして、上層部から言い渡された「まず8月いっぱいかけていいので、とにかく市場を見てきてください」というメッセージ。これは一体何を意味し、どんな影響を与えたのだろうか?
――「BOOST」プロジェクトが再び一旦ストップになり、「市場を見にいこう」という話になって、みなさんどんなお店に行かれたんですか?
白石氏:繁華街店、郊外型店と、国道16線沿いに様々な業態の店舗があるということで、「車で回りましょう」ということになりました。本当に、近場の町田とか相模原から始まって東京都内、八王子とか埼玉まで行って。夏の暑い時期でした。
ここにいる3人プラス、グラフィックス担当の女性社員という構成で。たまに石田さん(☆1)も一緒に。基本は3人ですね。とにかく店舗を見まくりましたね。
☆1……石田礼輔氏。iPhone版「グルーヴコースター」のゲームデザイナー、かつ「BOOST」プロジェクトから「GCAC」に本格的に参加(それまでは監修の立場)。
――ロケ(ーション:店舗)を見に行くことは大事だと思いますが、1カ月という長期間と、ここまで時間をかけて見ることはそうそうなかったと思います。この中で得られたものは何ですか?
藤川氏:「グルーヴコースター(アーケード版)」のお客様となるであろうユーザーさんのバックボーンを知ることができたのはかなり大きいです。「そこにそういう(行動をとる)人がいたんです」ということを自身の目で確認できたのが大きかったですね。今までは「~だろう」といったおぼろげなものでしかなったので。
花形氏:普通は、店舗を見るとしても30分~1時間程度だと思うんですよね。この調査の時は、丸1日同じお店を見るんです。それこそ、「このゲームをやっているお客さまが次にどのゲームを遊ぶのか?」とか。1歩間違えればストーカーみたいなものです(笑)。
白石氏:その時の資料がこれ(※1)です。「誰がどんなゲームをやっていた」、「こんな気持ちになった」とか。この時に「結構中高生が多いね」とか。夏休みなのもあったんですけれども。それまで漠然と「高校生、大学生かな」というターゲット設定だったんですが、全然違っていた。
――さすがに、調査中その都度インタビューしたわけじゃないんですよね?
藤川氏:後半だけ少ししました。最初の方は見ているだけでしたね。
――データを拝見させていただくと、結構細かくチェックしてますね、遊んでいるゲームはもちろん、どの曲を選んでいるとか、どんな遊び方をしていたとか。
花形氏:職質(職務質問)には遭いませんでしたが、確実に周囲には「変な奴がうろうろしている」と思われていたでしょうね(笑)。
藤川氏:不自然にならないようにゲームをプレイしないといけないので、お金も使いましたね。ゲームプレイして、合間に携帯をいじってる、みたいな。
――徹底的にお客さんを見て、それをデータとして記録してますね。ここまでやれば、本当に意味のあるものになりますよね。
藤川氏:そうですね。
――でも、見ているだけだから、遊んでいるお客さんの年齢確認からして難しかったんじゃないですか?
花形氏:お客さんの制服を良く見たら「Junior High School」と服に入っていたり。
白石氏:ただ、夏休みなので、たまに部活帰りの人がいるくらいで、ほとんど私服なんですよね。
藤川氏:「あの靴は中学生だよね?」とか(笑)。
花形氏:「高校生はちょっとおしゃれなシャツ1枚羽織ってるけど、中学生はTシャツ1枚だよね」とか。
――だんだんプロファイリングに詳しくなってくる(笑)。
白石氏:こうして見ると、ものすごく詳しく書いているよね。
――誰かに頼んで簡単にできる資料ではないですね、これは。
白石氏:自分たちで見なきゃいけなかったので。とにかくこの時はこれをやるしかなかった。
――ちょっと話がずれているかもしれないんですが、こういうお仕事をさせていただいていて、ゲームの調整に対してなど、メーカーさんと意見を個人的に尋ねられることが何度かあって、お話していると、「開発の方々は今、遊んでいる人たちのリアルな気持ちがわかっていないのかな?」と思うことが結構あったんですよ。そういうとき、実際お店に行っているのかを必ず聞くんですけど、皆さん「行ってます」と言うんですよね。でも、こちらの言っていることがあまり伝わっている感じがしなくて。「なんでかな?」って考えたりしたんですが、行っている時間や頻度が違っていたり、実際どれだけ自分でお金を突っ込んで遊んでいるのか、というところが根本的に違っているんだな、と。
白石氏:待っている間もお金いっぱい入れましたね(笑)。
花形氏:普段、会社帰りにゲーセンを見ると、夜だから大学生と社会人ばかりなんですね。学校帰りの中高生は、彼らが来ているその時間に行かないとその姿を見られない。若い子が実際にどのように楽しんでいるのか、初めてわかって、自分たちの想像していたことと違いがあったりとか、気付きがありましたね。
――(資料を見ながら)動画を撮影されていたり、いろんなお客さんがいるんですね。
花形氏:自分のプレイをビデオで撮影していて。後でYoutubeでプレーヤーネームで検索したらアップしてるお客様がいることとかもわかって。
白石氏:中学生で、失敗したらゲームを捨てちゃって。フルコン動画を撮影しているんですね。中学生はもっとライトな人ばかりかと思ったら結構ガチな人がいたんです。
――実際に足を運んだからこそのデータですね。これを1カ月近くかけてやったわけですね。
白石氏:この資料を基にレポートを作成していったんですが、まずターゲットを見直したので、ゲームのコンセプトを記述した書類が大分変わっていったんですね。ターゲットがこれまで高校生、大学生と幅広く漠然としたものだったんですが、「中学生くらいからも新規層を取り込めるんじゃないか」などの気づきがありました。「これこれこういう人たちが、本当にいました」と。8月28日に提出したんですが。調査で得たのは、これまでの音楽ゲームのラインナップだと、「中学生はメインのターゲットには置いていなく、もっと高めである」と思うところもあって。「ここに私たちの目指すべきお客様がいるのではないか?」と。
※これについて補足すると、「GCAC」のターゲットは、他の音ゲーのラインナップでいうところの「間」を突いたものとして設定されている。2013年5月に行なわれた新製品商談会でこのレポートの一端が紹介されていたが、この店舗調査で現在「音ゲーをゲームセンターで楽しんでいる」ユーザーと、「楽しめていない」ユーザーがいることに注目。さらに音ゲーに触れてきているユーザーを年代別に区分し、それぞれがどんな音ゲーを触れてきたのかの体験史を調査し、ユーザー像を深堀りし、それらを元に、ユーザーがどんな欲求を持っているのかを絞り込み、それに応える形の製品コンセプトを立案したという経緯がある。
――この1カ月を経たことで、ターゲットがものすごく具体的になってますね。グループとかまで書いてありますし。
白石氏:「市場(店舗)を見にいこう」と言う指示の背景には、「高校生、大学生という漠然としたターゲット設定は曖昧すぎる」というものがあったんです。「もっとお客様を観察して、1人のペルソナ(架空の顧客像)まで絞り込もう」と。この観察を経てコンセプトを固めていきました。こういう人に向けたものを作りますと。この時点ではまだ筐体イメージは検討中でしたが。
このコンセプト書類を提出する段になって、前回お話した、新たにチームに加わった東山さん(☆2)が登場するんです。「グルーヴコースター」というゲームを構造分解したのが東山さんなんですよ。
☆2……東山朝日氏。「グルーヴコースター」がなぜ面白いのか、どういった仕組みでグルーヴコースター特有の体験を生み出しているのか を構造的に分析、分解し、アーケード向けにコンセプトを再構築した。
石田さんがナチュラルに感性で作っていて、自分で言語にできなくて、「やってみたら面白いのがわかる」という人なんですが(編注:インタビュー1話を参照)、東山さんは「グルーヴコースター」のどこがどう面白いのかを全部言語化してくれたんですね。
「画面上を譜面が流れてくるでしょ。そこは他の音楽ゲームと同様。でも『グルーヴコースター』の場合、単に流れてくるだけでなく、『3Dの空間内に敷かれたレール上を流れてくる』よね。なので、『音楽の波に乗っているかのような気持ちが強く味わえる』と思うんだ。さらにその『レールの見え方が変化して、時には奥行きの情報が加わることで譜面と譜面の間が詰まって見えたりする』じゃない? だから時には目押しじゃなく、自分のリズム感を信じて対応する局面がやってくる。で、それをうまくこなすと『自分自身のリズム感を信じてうまくプレイできた!という高揚感』が楽しめる。ここに『グルーヴコースター特有のベネフィット』があると思うんだ。ロマンチックな言い方をすると、『見たままプレイするゲームじゃなく、感じたままプレイするゲーム』なのかもしれない。逆にそれがうまくいって音楽にノレるとものすごく気持ちがいい」と。
その説明をされた時に「そうだそうだ、わかるわかる」みたいなことを言ったら、すごく怒られたんですよ。「自分たちで作っているものに関して『どのようなアイデアが入っていることで、どのような楽しい体験につながっているか』を整理して言葉にできないなんて、それで今後順調に開発していける? 良さがお客様に伝わると思える?」みたいな。それが東山さんとの出会いですね。それまでは部門に新しく来た人、ぐらいの認識だったので。
藤川氏:その話題が会議中に挙がったとき、温和な東山さんが周囲の人が振り向く様な大声で「(特有のベネフィットは)そこだろ!」と言われて驚きました。それからしばらくは、「そこだろ!」の人でしたね(笑)。
――「グルーヴコースター」自体が石田さんの発想から出来ていて、実際にiPhone版でもう動いていたから、それまで、改めてアーケード版に向けてこのゲームを分析する必要もなかったんですかね?
白石氏:言語化したというのは東山さんが初めてで、私らからしたら衝撃的でしたね。東山さんが言ってたんですが、「石田さんは天才肌で、感覚でわかっちゃう人なので、ロジックで説明するのが少々苦手かも。プロトタイプならそれでもいいかもしれないが、言語化を進めてチーム内で共有できないと、開発面では継続的な品質の向上や改善が望めないし、プロモーション面ではお客様に製品の良さを伝える際に非常に苦労する。といっても言語化は万能の必殺技、というわけではなくて、イメージの海から「直観」で価値あるなにかを拾い出す力と、それを「論理」で言語化、一般化していく力の両方がクリエイティブには必要なんだ」と。そういったわけで東山さんがそれをひとつひとつ言語化してくれて。
――この「言語化」したことでプロジェクト的に腰が据わってきた感じですね。言葉にすることで、みなさんの意識が共有できたということなんでしょうか。大事なことはこれを振り返ることですぐわかるし。
画面を大型化! 没入感をさらに高める
長期にわたる店舗での「音ゲー」プレーヤーの観察、そして東山氏による「グルーヴコースター」の魅力の言語化などを経ることで、「GCAC」は「どんなお客さんに、どういったゲームをアピールすべきなのか?」が言葉で明確にされた。迷ったらこのレポートを振り返ればいい。立ち返るべき場所を得て、「BOOST」プロジェクトはついに息を吹き返した、といえるだろう。
――レポートでコンセプトやターゲットが本当に明確になったんですね。
白石氏:この1カ月あまりで目指すべき道が決まって。そこから、「いろいろなアイディアを出そう」と。「とにかく絵を描こう」となったんですね。
花形氏:コンセプトが固まって、それを実現するための筐体を検討しましょうという状況ですね。
白石氏:これが2デバイスにして浮遊感を大切にした筐体のデザインですね。(※2)
藤川氏:この時に「BOOSTER」の形が初めてできたんですね。この「2つの玉を操作する感覚って他のゲームにはないよね」と。
――まだ、筐体自体はそれほど大きくする予定はなかったんですね。
藤川氏:そうですね。
――ライブモニターのある案もありますね。
花形氏:やっぱり中高生のお客さまってグループで遊ぶんですね。みんなで1つの画面を見てわいわい遊ぶのは、小さい筐体ではやりづらいだろうと。ライブモニターを見ながら「面白いね」となって、一緒にゲームを遊んでもらえたら、と考えたんですね。
――(フルスペック冶具を見ながら)だいたいあれくらいの大きさだと、実際店舗に設置するとなると、狭いエリアに固めて設置されちゃうから、隣でプレイしている人や、他のゲームが気になっちゃうかなと。
花形氏:そうすると、本当に1人で遊ぶ用の配置になっちゃうじゃないですか。
白石氏:2in1筐体、3画面(観音開き)とかのアイデアも出てましたね。
花形氏:3画面は没入感を高めたかったからですね。
――画面の額縁を細くして、画面が浮いている仕様とか。
花形氏:この時は店舗を見た後でみんなでいろんなプランを出しましたね。(※3)
白石氏:とにかく縛りをとっぱらって考えようと。
――こうしてみると、ずっと関わっているわりに発想が柔軟だな、と感心します。
白石氏:これなんかもはや音ゲーなのかとか。ガンツのバイクみたいに乗るものとか。
藤川氏:きましたね、これ。着る筐体。筐体に包まれるんですね。(※4)
花形氏:服が光ってるみたいなものですね。
白石氏:ミラーボールとかレトロな筐体とか。
花形氏:昔の「インベーダー」を意識したものとか。
――かなりのパターンありますね。
白石氏:これは光と水で音の表現を行なう筐体です。
花形氏:水がぼこぼこするんですね。
――ちょっとオシャレな飲み屋の席の後ろにあったアレですね。わかりやすいですね(笑)。
白石氏:実際試しましたね(笑)。そしてこの中から絞りこんでいったんですね。何もない空間にスクリーンがあるようなものも検討しました。技術的にはいけるようで、これも良いね、となったんですが……。
――これは周りのエフェクトが。
藤川氏:譜面ぽくなっているんですね。
白石氏:これも「『グルーヴ』っぽくていいね」って言ってたんですよね。
――しかも色まで変えられると。
白石氏:筐体全体が光るとか。こうやって何十案か出ました。8月末のミッションを越えて、コンセプトが決まったので、「筐体デザインさえ決まれば進める!」と。
――この頃は勢いがありますね。
花形氏:勢いなのか投げやりなのか(笑)。「とにかく何か出さないとなくなるぞ」くらいの。
藤川氏:不可能でもある程度、それを目指していけば実現できたりするので、「そこは柔軟にいきましょう」と言っていました。
――またいろいろ見たり聞いたり考えたりと。
白石氏:このころ、「画面を大きくしよう」というプランが出てきましたね。
――あれ? このころのプランではすでに少しモニターが大きくなってますね。(※5)
白石氏:これでも32インチですね。アイディアの中でもなんとなく「大型にしたらいいんじゃないか?」という話が出ていたんですが、試作の32インチのモニターを藤川さんが付けてみようと言ったんですね。「頭で想像するより試してみた方がいいよね」と。そうしたら、「おー! これいいね!」となったんですね。「32インチ、これでいける!」と。
あくる日に藤川さんが「もっと大きいのがいいんじゃないか」とだいたい60インチのやつを立てた形で付けてみようと。「さすがにそれはないでしょ」と言って、試したら、「これじゃないのか!」(笑)と。
花形氏:1、2カ月、ずーっと追い求めたものがここにあった。
白石氏:「これが答えだ!」と。「60インチでしょ」と。それで58インチのモニターで使っていないのがあって試作筐体を作ったんです。それでプレイしてみたら「面白かった」んです。
藤川氏:没入感が半端なかったんですね。
白石氏:今まで横に光を入れて、どれだけ派手にグルーヴ感を出すか、という感じだったんですが、これだったら横に余計な装飾はいらないと。
花形氏:横に光をつけて試したんですよ。そしたら光が邪魔して没入感を邪魔して現実に戻されてしまう。
藤川氏:その頃、筐体デザインを考えていて、Perfumeのステージなどを参考に見てみたりしていたんです。周りをステージっぽくしたくて……。最近はプロジェクションマッピングなどを使って映像を使って映していたりするんですよね。それを見ていて、「何でそうしているのか?」と。物質的にやろうと思うと機器をひとつひとつ用意しなきゃいけないんですが、ビジュアルを投影するならソフトで作ってしまえば、他のものがいらなくなる。筐体でも同じなのかな? というところで、それなら「画面を大きくしてみたらどうか?」と。
白石氏:「GENE」のフルスペック冶具筐体(※第1話に登場した21.5インチのタッチパネル筐体)からケーブルをひっぱって、58インチモニターの前に「BOOSTER試作弐号機(編注:第2話に登場した2デバイスの試作型)」を置いて試したものですね。これがその時の写真です。(※6)
藤川氏:うまく固定できていないので、「触るな!! 危険!」と貼ってありますね。
――そもそも重心がおかしいですもんね。
白石氏:かなりむちゃくちゃですね。
――これだったら画面でプレーヤーさんの視界が埋まると。
白石氏:答えは「大画面」と、かなりシンプルなんですけどね。最初にやったときの写真を撮ったんですよ。その時に同時に筐体と画面の間に入って遊ぶのも楽しいね、と気付いたんです。ここ、まだプロジェクト的には「BOOST」ですね(笑)。
――再検討期間は本当にいろいろやったんですね。
藤川氏:そうですね。
白石氏:これだ。コンセプト書類に画像が載ってる。(※7)今のものと細部こそ違いますが、大きな考え方は変わってないですね。現行に近いですね。
――本当に半年くらいでここまで来たんですね。そして商品企画の資料を見ると、筐体イメージ、遂にきましたね。超シンプルになったんですね。
白石氏:下にまだウーハーがあったりとかしますけど、製品版とだいたい同じですね。