インタビュー

「サメフライ」、「考えない人」……。“へんてこりんなガチャ”誕生の秘密は?

「パンダの穴」クリエイター飯田雅実氏、佐藤涼子氏インタビュー

12月11日~15日開催

場所:下北 アート スペース ギャラリー Space A

入場料:無料

 弊誌がニュースで取り上げたサメに衣をつけたミニフィギュア「サメフライ」は、大きな反響を呼んだ。続いて動物が仰向けで寝るというかわいらしくちょっと奇妙なフィギュア「ZooZooZoo 第1弾:もうしら寝」や、ロダンの「考える人」がものすごいポーズをとるフィギュア「考えない人」も同じように話題を集めた。

 これらは、謎のクリエイター集団とタカラトミーアーツのコラボレーションブランド「パンダの穴」の作品である。現在、下北 アート スペース ギャラリーで開催されている「新・ガチャブランド パンダの穴展」にてこれまで秘密だった作り手が、電通テッククリエーティブディレクターの飯田雅実氏をリーダーとするクリエイター達であることが公開された。

 今回、飯田氏と、プロジェクトリーダーを務めるタカラトミーアーツの佐藤涼子氏にインタビューを行なった。本作のようなユニークな企画はいかにして生まれたのか、どんな苦労があったかなどの質問をぶつけてみた。

 「新・ガチャブランド パンダの穴展」は12月15日まで開催されている。「どうぶつクレヨン」、「フルーツゾンビ」といった今後の新作や、自由の女神が思いっきりくつろいでいるという「自由すぎる女神」といった企画中の作品も見ることができる。入場は無料なので足を運んでみてはいかがだろうか。

【新・ガチャブランド パンダの穴展】
下北 アート スペース ギャラリー Space Aで12月11~15日まで開催されているイベント。「パンダの穴」を見るだけでなく、その場でガチャも回せる

広告メーカーの150もの企画から生まれた新しいガチャ「パンダの穴」

電通テッククリエーティブディレクターの飯田雅実氏
プロジェクトリーダーを務めるタカラトミーアーツの佐藤涼子氏
きちんとしたサメのフィギュアを作ってから衣に包んだサメフライ。口の中の造形などもわかる
考えない人のラフスケッチ。「新・ガチャブランド パンダの穴展」では開発資料も見れる

――まず、「パンダの穴」がスタートした経緯を教えてください。

飯田氏: 最初に私達電通テックの方から「ガチャのプレゼンをしたい」と申し込んだんです。そうしたらタカラトミーアーツさんはすぐ「いいですよ」と言ってくださって、実はそこから6~7カ月企画を練ってプレゼンテーションを行ないました。

 クリエイターが15人くらい参加し、50のアイディアを提示するというプレゼンテーションを行ないました。実は150くらい案は出ていたのですが、そこから50に絞ったんです。プレゼンテーションを行なったのは11月くらいでした。

 これまでの仕事ではあまり前例のない、とても特殊なプレゼンでした。広い会議室で、アイディアを書いた企画書を机の上に並べ、担当者がついて、タカラトミーアーツさんに企画書の所まで歩きながらそれぞれの場所で15名のスタッフが説明するという形でした。

佐藤氏: 最初私達はこういうプレゼンテーションだと全く聞かされてなくて、実際に目の前にしてみたらスゴイ企画が大量に目の前にあって「お? おお?」という感じで、「すごいことが始まったな」と思いましたね。

 ここでアイディアを提示していただいてから3カ月くらいで試作品を作り、2月のワンダーフェスティバルに出展していますから、かなり早く形にしたことになります。

――飯田さんにお聞きしたいのですが、なぜガチャの企画を出そうとなさったんでしょうか?

飯田氏: 電通テックは広告を主体とした会社です。私自身はソフトバンクの「お父さん」グッズとか、サントリーのコーヒー「BOSS」などの広告を手がけていまして、ものを作り、ヒットをさせるというノウハウは持っているのですが、ここを「オリジナルキャラクター」に活かせないかな、と考えたんです。やり方の1つとして「ガチャ」を考えました。

 社内でガチャの企画をするんだと言った時の反応もすごく良かったんです。ガチャって嫌いな人がいないじゃないですか。元々クリエイターってフィギュアとか好きだし、机の上に飾ったりしているんですよね。

――タカラトミーアーツ側ではこういったコラボレーションはあったのでしょうか?

佐藤氏: 最初から「ガチャの企画を直接持ってきてもらう」という形では初めてでした。通常は「一緒にガチャにするために考えましょう」という感じなんです。キャラクターなりアイディアがあって、どういった形で“ガチャにするか”をこちらも考えていく。そうではなく、「パンダの穴」に関しては「こういうガチャを作りたい」という形の提案で、これまでにはなかったものでした。他でもないんじゃないでしょうか。

 プレゼンで提示された50の案の中に、すぐにガチャにしたいものや、もっと考えるべきものがあり、さらに新しいアイディアもいただき、今もどんどん企画は進行中です。「Zoo Zoo Zoo」も第1弾は「もうしら寝」でしたが、第2弾を制作中です。これまでの続編にも期待してください。現在は月に1回発売ですが、ひょっとしたらもっと増えるかもしれません。

――「パンダの穴」は9月からスタートしました。反響は非常に大きかったですが、ここまでの反応は予想なさっていましたか?

飯田氏: 正直予想していませんでした。ワンダーフェスティバルに展示した時点でネットユーザーの反応が大きかったですが、ここまでの反響を得られるとは思っていませんでした。そういえばGAME Watchさんの記事のリツイートがとても多いのは、ありがたいですよ(笑)。

 第1弾のサメフライは、女性の方が「カワイイ!」ってリツイートしてくれて、「えっ? カワイイの?」という感じでした。そういう認識は全く持っていませんでした。

――サメフライはまずきちんとしたサメのフィギュアを作ってから、それを衣に包んだ、というお話を聞きました。

佐藤氏: そうです。ちゃんとした造形を作って、それから衣に包まないと、不具合というか、細部のできあがりがおかしくなると考えたんです。

飯田氏: 衣に包まれる前のサメも見ました。僕らが出す企画書は2次元で、タカラトミーアーツさんはそれを3次元にする。サメの原型を見た時、これからどうやって企画書の「サメフライ」にするのかと思いました。それからフライになった姿を見た時「なるほどな」と感心しました。

 原型をしっかり作っているから、フライの造形として活きてくる。ホオジロザメとか、ちゃんと口の中の歯なども確認できますよ。ディテールがしっかりしてるのがわかります。

――「考えない人」のポーズも全て電通テックさん側で出しているのでしょうか?

飯田氏: 最初のアイディアはこちらですが、一緒に考えるものも多いです。「Zoo Zoo Zoo」のラインナップなどは一緒に考えています。なにより「カプセルに入るようにする」という視点は私達にはないので、ここはタカラトミーアーツさんのノウハウを生かしてもらっています。

佐藤氏: 「考えない人」は最初の企画の段階で形は決まっていましたね。「サメフライ」はカプセルに入る限界の大きさを狙った部分があります。「どうぶつクレヨン」はクレヨンが欠けないように、スポンジが入っています。

――「どうぶつクレヨン」はかなり商品化に苦労なさったようですね。

佐藤氏: 多分業界初だと思います。先週ようやくサンプルが完成して、「パンダの穴展」に出展できました。

飯田氏: ちゃんとクレヨンとして使える様にするために何度も何度も工場とやりとりして、造形と機能性を両立させています。佐藤さんがホントに色々手を尽くしてくれました。

――クレヨンですから、使うと造形がつぶれていってしまいますが、どうでしょうか、作り手側として使って欲しいか、それとも飾っていて欲しいものでしょうか?

佐藤氏: ガチャなので、どんどん使っていただき新しいものを買ってもらう、というのも良いかもです(笑)。ダブっても無駄にならないかと。ただ、動物の造形が8種類でそれぞれ8色揃っているので全部で64種類になっています。

 クレヨンはこれまでで一番難しかったです。まず200円でできるのか、金型もどうするのかと、全くノウハウがないところからのスタートでした。本当にクレヨンの造形って、弊社が初だと思うんですよ。また、安全を考えて、発売はどうしても冬にしたかったです。熱で溶けてしまうかもしれないですから。色々な意味で新技術への挑戦でした。

【どうぶつクレヨン】
2014年1月発売の「どうぶつクレヨン」。クレヨンで造形するというのは業界初ではないか、とのこと

【フルーツゾンビ】
2014年2月発売の「フルーツゾンビ」。かわいらしさと不気味さを併せ持っている

200円という価格を守る。コストにこだわるからこそ生まれる創造性

飯田氏が選んだ企画を、佐藤氏が商品化していく。2人の独特の感性で「パンダの穴」は生まれる
左が「Zoo Zoo Zoo」のポスター。文字のフォントや写真にも電通テックの広告テクニックが投入されている
会場限定の缶バッジのガチャ。こちらのPOPのデザインも注目だ

――「チラリーダー」、「メイドM」はちょっとセクシー路線で、ほかとは毛色が違う感じがあります。

飯田氏: ただ、これは女性の企画なんですよ。こういったラインナップの選択、商品化の順番はタカラトミーアーツさん側の判断です。僕ら自身何が当たるのかという部分や、業界で似通った商品が出ているのではないか、といった判断はできない所があります。タカラトミーアーツさん側のチョイスを見ると、こちらとして反論する部分もあまりなく、割とすんなり商品化できています。

 最初の商品が「サメフライ」だったのは正直驚きました。しかし次がかわいらしくてわかりやすい「Zoo Zoo Zoo」で、次がまたちょっとシュールな「考えない人」で……カテゴリーがかぶらないように考えているんだろうなと。

――飯田さんが最初にプレゼンしたときに、150から50に絞っていく中ではボツになったアイディアもたくさんありましたよね。どういった選考基準でしょうか。

飯田氏: まず僕自身が1消費者として面白いと感じるものを選びました。僕らは広告を担当していたり、グッズ、それに付帯するキャンペーンを担当しているので、1枚の企画書、コンセプトを形にしたものを得意としているんです。

 実はガチャの販売機の見本部分である“盤面POP”も僕らが手がけているんです。他の会社のガチャにはないものになっていると思います。ブランディングなども全てこちらが担当しています。ガチャの商品を作る、という部分以外の所では“勝算”がありました。ガチャの商品見本写真である盤面POPを作るのはこちらが担当できると。

 僕らはガチャの企画に加えこのPOPも作れる。POPは通常は外部に発注するなどの方法をとっていると思うんですが、ノウハウを持っている企画者がそのままPOPを作ることができる。撮る写真に関しても広告を作っているプロカメラマンが担当しているので、ここでも差別化ができていると思います。広告の技術を投入しています。

――それだけの力を投入していても、比較的プロモーションは地味な印象を受けます。今回のパンダの穴展開催の意図はどういった所でしょうか。

飯田氏: ひっそりとやっていく予定だったんですよ。宣伝も行なわなかったんですが、どこかのタイミングでクリエイターは公開したかったし、インタビューなどもしていただきたかった。

佐藤氏: 来月発売の「どうぶつクレヨン」も商品化のめどが立つかが見えなかったので、これまで紹介できてなかったんですね。今回は良い機会になりました。

――今後、今回発表していないものでのどういったものがでるか、ヒントなどがあれば。

佐藤氏: 来年に開催されるワンダーフェスティバルに期待してください。現在その場で発表するべく準備を進めています。今回出展した「メイドM」や「自由すぎる女神」以上に自信のある、インパクトのある商品を発表します。ちょっと「ドヤ!」という感じです。話題を集められるかなと。

飯田氏: なんだかへんてこりんなものでして……スベってしまうんじゃないかと心配なところもあります。

佐藤氏: 「メイドM」や「自由すぎる女神」はこれまでのラインナップの延長ですが、ワンフェスで発表する新商品にはそういうものがない。本心を言えば私も心配なところもありますが(笑)。

――「パンダの穴」のプロジェクトは9月からですが、いつまで、というのはあるのでしょうか。

飯田氏: 終わりは決めていません。社内でのフィードバックの反響はかなり良くて応援して貰っている実感があります。広告業界は通常はクライアントがいて受注して進めていくものですが、これはこちらからアイディアを出して実現していくので、スタッフも皆楽しんでやっています。

佐藤氏: 変化も出していきたいし、新しいものに挑戦していきたいです。

――タカラトミーアーツさん側も、ここまで引き出しを試されるプロジェクトってないんじゃないでしょうか。

佐藤氏: まさかクレヨンを造形するとは……。採用したのはこちら側なんですけど。ただ、電通テックさんとの仕事を通じて、私達が持っている“妥協点”、ここまではやらなくてはいけない、ここまでやればお客様に喜んでもらえるというポイントから、さらにもう一歩先に行けているという実感はあります。もう一歩お客さんに向かっている気持ちがあります。

飯田氏: ぶっちゃけてしまえば、私達はフィギュアメーカーさんのような造形に極限までこだわる方法はとれない。そうではなくアイディアで勝負をしていきます。企画を楽しんでもらえるために必要なクオリティを求めています。

佐藤氏: コスト、と言う部分では涙を飲んでボツにしてしまうアイディアもありますね。

飯田氏: それでも「200円」という価格にはこだわっていきたいと思っているんですよ。これはタカラトミーアーツさん側のこだわりという部分ですが、僕はそれが良いと思っています。200円ならば1,000円手元にあればガチャが5回回せる。300円だとそうはいかない。ガチャならではの手軽さは200円だからこそだと思うんです。僕らはクリエイターなのでどんどん追い求めていく。しかしそれではコストが上がってしまう。それではガチャではなくなってしまうと僕は思っているんです。

 広告だって打ちたいけど、そんな予算はない。こういったメディアに取り上げていただいたり、Twitterなどの口コミで広げていく、何もしていないけど話題になっているというのは、こちらとしても新鮮ですね。広告業としてはあり得ないところもあります。

佐藤氏: ガチャで広告を出さないと売れないような商品は、つまり売れない商品ということです。広告屋さんに広告なしの企画を作ってもらっているというのは奇妙な感じではあります。ただ今後の夢としては大規模な何かをできれば良いと思いますよね。

――今後の広がり、と言うところではガチャだけでなく、大きな製品とか、プライズとかの展開もあるのでしょうか?

飯田氏: そういったものも考えていますけど、しかしビジネスライクにしてはダメだと思います。個人的には少数のお客さんに目を向け続けていきたいんです。広げすぎてしまうのはよろしくないんじゃないかと。

 200円のガチャでというところにはこだわっていきたい。もっともキャラクターのストーリーを知ってもらいたい、と言った場合は出版と組ませていただいたりとかそういった方向は考えています。ゲームやアパレルとタイアップして世界観を深めるという方向もおもしろいかなと思います。

――最後に、「パンダの穴」ファンへのメッセージをお願いします。

飯田氏: 我々はひっそりと“変なもの”を作ると言うことをやっています。現在の日本はちょっと全体がへんてこりんなことになっている。だからこそ“変なもの”にリアリティが生まれているのではないかと思っています。これからもへんてこりんなものを生み出していきたいと思いますので、応援よろしくお願いします。

佐藤氏: 真剣に、まじめに、“ふざけたもの”に取り組んでいきます。おつきあいいただければと。4月から消費税が上がってしまいますが、私達は200円という価格を“侠気(おとこぎ)”を持って守っていきたいと思っています。……ただ、価格が上がったときは、「何かあったんだろうな」と思っていただければと。それでもできるだけ200円にこだわります。

――ありがとうございました。

(勝田哲也)