インタビュー
マイコンソフト「XAC-1」特別インタビュー
アーケード筐体風デスクのできるまで
(2013/4/23 14:00)
マイコンソフトが、4月8日より先行予約者に向けて販売を開始したゲーム用コンピューターデスク「XAC-1」。4月23日より予約分のキャンセル待ち、再生産分の出荷が開始される。
XAC-1は、ゲームをとことん楽しみたいというニーズに向けて制作されたコンピューターデスク。32インチまで(推奨)の液晶テレビやパソコン用モニターを取り付けることができ、左右へのモニターの回転やエアシリンダーでの高さ調整、前後の位置調整が可能。さらに、交換可能なスライド式天板の採用により、アーケード用コントロールパネルを設置できるスペースを設けており、ゲームセンターの筐体のような感覚でゲームをプレイするにはもってこいの構造となっている。
知らない方のために説明しておくと、マイコンソフトは電波新聞社の100%子会社。電波新聞社は過去、「マイコンBASICマガジン」や「マイコン」などパソコン向けの雑誌を刊行しており、プログラムリストを掲載、当時のユーザーはこれを打ち込んでゲームやゲームサウンドなどを楽しんだり、自作プログラムを投稿していた。一方、マイコンソフトは、PC向けにアーケードゲームなどを移植し販売していた時期を経て、現在では、主にゲームユーザーに向けた映像関連機器を多数リリースしている。
今回、このデスクの企画、設計を担当したマイコンソフトの藤岡 忠氏と松下克弘氏にお話を伺う機会が得られたので、その模様をお届けしよう。
「妥協しない」ものづくり。XAC-1のコンセプトは“筐体スタイルで、モニターが回転できるもの”
――このXAC-1の開発に至ったきっかけからまずお話いただけますか?
藤岡氏:マイコンソフトでは、パソコンの周辺機器、とくに映像関係をメインに、今までハードを設計/開発してきました。僕ら2人は特にハードの設計/開発を中心に担当してきましたが、基本何をやってもいい部署ではあるんですね。
松下氏:私がこの企画の一応言いだしっぺですね。企画・立案という形で。普段はコンバーターなど画像関係の部品の選定から設計などを担当しているエンジニアですが、今回、XAC-1、ジャンル的には家具ですが、それをやってみようと。
――「何をやってもいい」ということは「何をやる?」となると意外に難しい話ですね。ゲームに絡むことという縛りのようなものもないわけですよね?
松下氏:そうですね。映像関係のOEMなども手がけていますが、特に縛りはなくて。
――このXAC-1に行き着くまではどのような流れだったんでしょうか?
松下氏:もともと、私がアーケードゲームが好きで、中学生のころ、弟と2人でアルバイトをしたりしてお金を貯めて、中古の筐体を買ってから、アーケード筐体との付き合いが始まりまして。当時は九州に住んでおりまして、その後大阪に引っ越した際、持って来れなくて実家に置きっぱなしになってしまったんですが……。やっぱりゲームをする時に、あの筐体の“感覚”が欲しくなったんですね。もちろんアーケードゲームはゲームセンターでプレイしていたんですが、家でゲームを遊ぶ時もあの感覚でプレイしたくて。その後、筐体の購入も考えましたし、オークションなどで安く取り扱っているので探したんですが、大阪の家の部屋が2階にありまして、運ぶことができないと。家族の了承も、ことゲーム専門ということで得られにくかった。引越しや処分に関してどうしよう? ということで導入できなかったんです。
そんな当時のことを思い出しているうち、「“どう見ても筐体に見えるけど、実は机”みたいなものを作ってみたらどうだろう?」というプランが浮かびまして、去年の春ぐらいですかね……藤岡をはじめ、社内と相談して、まずは試作からスタートしました。
――藤岡さんは、そのプランを聞いた時、どう思われました?
藤岡氏:そうですね。昔はソフトの移植などをずっとやっていましたから、(アーケード筐体に)なじみはあるんですね。実際に筐体を会社に置いてゲームをプレイしていた時期もありましたし。「アフターバーナー」の筐体があったりしたんですよ(笑)。なので、「何でもまずは試作をやってみよう」と。そんな違和感がない、といえば語弊はありますが、とっかかりは「何でもやってみよう」というところですよね。
松下氏:もう1つ、弊社でリリースしているコンバーターは、お客様の要望を取り入れて、ファームウェアのアップデートなどで機能をどんどん追加して、いい製品に仕上がって来ているんですが、そのお客様の要望の中で、1つできないことがありまして。それは、“画面の回転”なんですよ。もちろん、ハードウェアを作れば、画面の回転はできます。でも、今の技術では、回転するためには画面の情報を一旦蓄えて、回転処理したあとに出力することになるので、どうしても遅延が発生してしまうんですね。特に最新機種のFRAMEMEISTERは低遅延をウリにしているのに、回転処理で遅延してはダメだろうと。それを解決するには、物理的に画面を回してしまえばいいのではないかと。そのためのXAC-1なんですね。
藤岡氏:過去、X68000用の「ドラゴンスピリット」では、画面を回転させた「縦画面モード」を取り入れたことがあったんですが、シャープの鳥居部長(当時)(※1)に怒られましてね。「藤岡さん、モニターを縦にしたら修理が増えて困る」と(笑)。(※2)
※1 鳥居 勉氏。パーソナルワークステーション X68000の生みの親としてユーザーには有名。
※2ブラウン管を縦に回転させて設置すると、地磁気の影響を受けて色がずれるといったことがまれに起こる。消磁機でずれを直せる。
松下氏:そんなトラウマもありまして(笑)。今の液晶パネルならそれもできるだろうと。これなら縦(画面)シューティングを好まれる方にも納得できるものが作れるのではないかと思いまして。ですので、“筐体スタイルで、モニターが回転できるもの”。それが最初のコンセプトだったんですよ。
――アーケード基板を家庭で遊ぶ、ということだと、いわゆるコントロールパネルに電源や映像周りの出力をつけて……となりそうですが、画面の回転を主に考えてらっしゃったんですね。
松下氏:我々も昔からジョイスティックなどを手がけてきた会社ですので、今でも社内ではなんどかジョイスティックをリリースしたいという意見があったりするんですが、海外メーカーさんも含めて市場も活性化してますし、そことは違ったアプローチでやってみたいな、という考えがありまして。
――実際に試作される段階で、スムーズに事は運びましたか?
松下氏:最初は結構簡素なものを考えてまして。それだと雰囲気がでないということでいろいろ改良しまして。木を使った机と、回転スタンドというようなものを考えました。後に藤岡が高さを調節して回転するといった試作品を作りまして(と開発試作のイラストや写真を見せていただいた)。このあたりはすべて藤岡が1人で作りました。
――試作品として見てもすごいですね! 最初は家庭用のジョイスティックを置く机のスペースがあって、スタンドはモニターのスタンドを別途置く感じだったんですか?
松下氏:最初から専用のスタンドを作ろうということで、回転機構に対応したスタンドを作りました。そこは外せなかったんですね。
藤岡氏:最初は何をどう作っていいのかわからない状態からのスタートでしたから、とにかく「家に置いてゲームをするにはどんなものがいいだろう?」ということで。そこで回転機構を持たせたスタンドを作ってみて、皆で評価して。机のほうは強度もかなりしっかりしたものにしなければならないので、当初は画面を覆う形を考えていたんですが、このままでは画面を回転させるのも難しいし……。上は枠を取っ払って、と1つ1つ自分達で試作して進んで、また試作してと、地道に相当やりましたね。
――本当に、筐体1台を作っているようなものですね。業務用とは別に求められるものがあると思いますが……?
松下氏:これは手描きのスケッチなんですけれども、「こうやってみたらどうだろう?」というものができてきました。そこから、細かいところをブラッシュアップしていって、非常に今の形に近いものにしていきました。“インストラクションパネルのあたりは座って見る形になるから地面に対して垂直ではなく、角度をつけよう”だとか、そういった部分は後々修正されたんですが。
――素材は最初から木製ということだったんでしょうか?
藤岡氏:切った貼ったがしやすいということで、試作は木でやりましたが、とくに材質を決めていたわけではないです。
――イラストを拝見させていただくと、スピーカーを別途設置することも当初から想定に入っていたんですね。
松下氏:スピーカーに関しても、埋め込み式にするのか、上に取り付けるのか、賛否両論ありました。埋め込み式にするとどうしても電気配線が必要になってくるのと、音にこだわるユーザーさんも多いので、そこはお客さんに好きなものを設置していただこうと。それと、画面の上に設置するのは、回転機構と設置するモニターの大きさの自由度の問題がありまして。アーケード筐体のように上に設置して音が拡散するような形にする必要もないだろうということで、モニターの左右に自由なものを置いていただく形にしました。
――調整する箇所に関して、どこまでの自由度を持たせるのか、検討されたかと思うのですが?
松下氏:ゲームセンターに設置するものではないので、コインシューターなどの電気配線がありませんが、このXAC-1を家庭用ゲームなどで使っていただけることを想定して、いろいろ工夫した部分はあります。中央の棚ですが、仕切りの部分は何段階かに高さを調整できるようにしてありまして、ゲーム機からPCなどを置けるようにしてあります。さらに、AVラックなどでは背面は配線を逃がすための穴が空けられていますが、昨今のゲーム機やPCは廃熱がすごく、配線ケーブルも多くなってもいいように、ケーブルホールを限界まで大きくしました。
もう1つは、天板部分2枚は、雨戸のようにスライドして奥に収納できるようにしました。家庭用ジョイスティックを置いてプレイされる方も、1番手前の天板を収納することで、そこにジョイスティックを設置すれば高さも吸収できます。ここにアーケードパネルを設置できるようオプションも用意しました。2つの天板はマグネットでくっつくようにしてありますので、見た目もスッキリしていると思います。
――これだけの機能が付きながらも、強度も確保しなければならないとなると、相当工夫をされたのかな? と思うのですが。
藤岡氏:確かに、試作段階では、実際にゲームをプレイしてみて、横揺れなどが非常に気になるということで、かなり強度を持たせることを想定して、足の部分を相当しっかり作って、それを補強するパーツをどうつけるか、という部分に関しては、家具メーカーさんに協力を仰いでいろいろとアドバイスを頂きました。我々としては、どれぐらい強度がいるか、という部分は試作したからこそわかった部分であって、そこから先は、家具を作るノウハウのない我々が、家具メーカーさんと相談させていただきまして、2重~3重構造で枠を作っていけば強度が出せるというところが最終的にデザインできたところです。
松下氏:誰が見ても筐体っぽく見えるデザインを目指しましたが、強度を出すために金属を多用した部分もあります。モニタースタンド部分はフルに金型を起こしまして、相当な金額がかかっているんですけれども(笑)、市販のアーム式のモニタースタンドとは比べ物にならないほどしっかりしている部分です。
――縦画面にすることも想定されているモニタースタンドはあると思いますが、このXAC-1の場合、スムーズな回転機構と机本体とのバランスなど、苦労されてるのではないかと思っていました。実際のアーケード筐体ではモニター周辺が覆われていて、ちょっと事情が違う気がします。それと、ガスダンパーですよね。これもXAC-1だからこその機構かなと思います。
藤岡氏:ガスダンパーに関しては、モニターを軽く持ち上げるためのものです。
松下氏:最近の液晶パネルを使っているアーケード筐体は、ネジを外して枠を外して、モニターを回転させるので、昔のブラウン管筐体よりは手間がかからないのですが、XAC-1では10秒程度で回転させられることを狙って設計しています。重さをアシストするダンパーの採用は、両手でヒョイッと持ち上げていただいて、回転させられるようにと考えました。試作の段階でアームを使ったものでは、プレイしていると画面がガタガタ揺れてしまってプレイしにくかったので、なるべくなくすように留意しました。
――下の机に細かな振動が生じる分、その上に置くスタンドとモニターはしっかりしたものでないと、プレイしにくくなりそうです。
藤岡氏:多少のゆれはあるにせよ、プレイしている間に位置がずれてくるというのは1番困るので。
松下氏:横はまだいいんですが、モニターを立てると、スピーカーの位置の関係上、重心がずれてしまうものが多いんですね。プレイしていると重さで回転してしまったりもするので、そこはしっかり固定できるように作ってあります。調べてみると、PC用のモニターはほとんどが画面の中央が回転軸になっているんですが、家庭用の液晶テレビはスピーカーが横に付いていたり、下についていたりとバラバラなので、スタンドの取り付け位置が画面の中心にないものが多かったですね。ですので、ちょっと値は張りますが、アジャスターをつけて、細かく調整していただこうということで。
藤岡氏:アジャスターのおかげで、画面の中心が取れるようになって、スムーズに回転できるようにもなります。調整のためのパーツも豊富に用意しました。
松下氏:もちろん、これも金型を起こしました。開発当初の倍ぐらい(笑)。
藤岡氏:やりすぎなんですよね(笑)。
――やはり試作を重ねていく中で、「これは必要だ」という判断からパーツが次々と追加されていった形なんですか?
藤岡氏:そうですね。
――PCモニターだけを想定されていたなら、ここまでしなくてもよかったんですか?
藤岡氏:やっぱり、値段やサイズから考えると、TVが使えるのが1番いいわけですから。そのあたりを考えるとやっぱり……この人(松下氏)は妥協しないんですよ(笑)。
松下氏:(苦笑しながら)一部は違うと思うんですが、アーケード筐体の液晶パネルはハーフHDだったりするので、フルHDのTVは大分安くなりましたし、XAC-1は32インチの画面サイズを想定していますので、フルHDで32インチの大きさ、というのがこのスタンドで安定して設置できるものになります。
XAC-1は生産工場にも非常に協力していただいておりまして、普段は家具といってもTVスタンドなどを得意としている工場なんですけれども、社長さんが「こういうものは初めてだけど、頑張ろう」ということで、なかなかいいものに仕上がったと思います。
ゲーム映像協力:「UNDER DEFEAT HD」(グレフ)