インタビュー

PS4 VRデモ「サマーレッスン」“仮想空間に人を感じられる未来はじまる”

バンダイナムコゲームス原田氏インタビュー&プレイ体験レポート

10月20日収録

 プレイステーション 4(以下PS4)用のバーチャルリアリティシステム「Project Morpheus」を使い、“キャラクターとコミュニケーションができる”として、大きな話題を呼んだ「SUMMER LESSON」(サマーレッスン)。9月に行なわれた「SCEJA Press Conference 2014」にて発表されるやいなや、爆発的に注目され、東京ゲームショウ2014では出展が見合わされる事態にもなったほどだ。

 “バーチャルリアリティ世界でキャラクターとコミュニケーション”というと、なんだかあれやこれや想像&妄想してしまうところも話題が過熱した理由のひとつかもしれないが、実際のところは“もっと未来を見据えての計算に基づいたもの”だ。バンダイナムコゲームスにて体験させて頂いたので、「サマーレッスン」とはどんなものなのかを伝えていこう。

 また、当日には本作の開発を手がける「鉄拳」チームより、「鉄拳」シリーズでもお馴染み、バンダイナムコゲームス「サマーレッスン」ディレクター/プロデューサーの原田勝弘氏と、同ディレクター玉置 絢氏に同席頂いてインタビューも行なわせて頂いた。「サマーレッスン」について、「Morpheus」をはじめとする3Dバーチャルリアリティ分野について、そして“そこから始まる未来”について。そちらもぜひお読み頂きたい。

「サマーレッスン」プレイレポート

ソニー・コンピュータエンタテインメントが開発中のバーチャルリアリティシステムProject Morpheus」。「サマーレッスン」はこれを使った技術デモだ

 「サマーレッスン」は、バーチャルリアリティシステム「Project Morpheus」(以下Morpheus)と「PlayStation Camera」を使った、バーチャル世界での新体験をアピールする“技術デモ”だ。

 まずは「Morpheus」を被り、PlayStation Cameraの前に座る。当日はより精度を高めるためということで、照明も落として体験を行なった。なお、「Morpheus」そのものの装着感などは、このあたりの記事を参照頂きたい。

 それでは、「サマーレッスン」の体験模様に入っていこう。

 そこは部屋だった。こじんまりとした、少し手狭なぐらいの子供部屋のような場所。本棚、勉強机、そこかしこにあるぬいぐるみ、床に詰まれた本。窓からは明るい日差し、エアコンも設置されている生活感のある部屋だ。この部屋で過ごす人はおそらく学校に通っていて、なにか部活動もしているのかな、そんな風に感じられる。

 そこに自分は座っていた。部屋の中央にの椅子に座って。顔を向けてきょろきょろと見回していると、どこからか「先生!」という女性の声がした。自分のことだろうか? その子はどこにいるのだろうか? そんな風に思っていると、背後からひょいっと身を翻すように、制服姿の女性が現われた。髪をポニーテールに結んでいて、毛先や衣服が動きとともにふわりと揺れる。

 まっすぐに見つめてくる。こちらが顔を動かすと、女性も顔を向け、視線を動かして、こちらを追い、どこまでも見つめ続ける。そのまっすぐな眼差しがまぶしいぐらいに純粋さを伝えてきて、僕は目をそらしがちに。これから始まる何かに胸は高鳴っていた。

 とまぁ、物語風に書くと、デモはこんな感じに始まるのだが、人を驚かすのが好きなのだろうか、この女性の登場には、筆者も含めて誰でも驚くそうだ。視界外からふわっと、横の間近をすり抜けるようにして目の前に躍り出てくる。

 面白いのは、この登場シーンで、まるで女性ではない「別の何か」に遭遇したかのような驚き方をされた人もいたというお話。そのエピソードは、彼女の存在感の凄さを物語っているように思える。3D空間であり、平面映像ではなく空間として脳が認識しつつあって、その一方では「これはバーチャルなんだ」という理性も働いている。そうした軽い混乱状態の最中に動くものが突然現われると、それがたとえかわいい女性であれど、ものすごく驚く人がいても不思議ではないのかもしれない。

 自分の姿は、下を向くと影のように腕や膝が表示されている。彼女はそのギリギリをすり抜けるようにして、前に躍り出てくる。この登場はモーションキャプチャーを何度も繰り返して、距離感にこだわったところだという。

 ちなみに筆者の場合、不思議なことなのだが、その彼女に自然と返事をしていた。「サマーレッスン」には会話をする機能はないので、声を出す必要はないのだが。「先生!」と呼ばれれば「はい!?」と返事をしていたし、その後の彼女からの言葉にも、なんだか妙なに返事をしたくなっていた。これは、筆者の脳が“人に話しかけられたら返事をするのが自然”と反応していたのかもしれない。

 ……断っておくが、筆者は従来のゲーム中にキャラクターが画面外に向かって語りかけてきても返事したりしない。「サマーレッスン」のキャラクターはそれとは明らかに異なる存在感、実在感があったからだ。

椅子に座っている自分の前に躍り出てくる、制服姿の女性。まだ名前はないそうだ

 「サマーレッスン」というタイトルどおり、このデモでは、ある夏の日(女性の制服が夏服)に、プレーヤーこと家庭教師が英語の勉強を教えるというシチュエーションになっている。元気な女性は、プレーヤーこと先生にいろいろと話しかけてくる。

 話の中には、こちらが質問に答える場面もある。例えば「ちゃんと家庭教師してくださいよ? 」と女性が聞いてきたりするのだが、その時にはアイコンが空中に現われ、首を縦に振って「YES」、横に振って「NO」とジェスチャーで答えるようになっていた。

 こちらに対するキャラクターの反応も豊かだ。受け答えしつつも筆者は周りをきょろきょろ見回したり、体をぐーっと伸ばして彼女の顔を覗き込んだりしていたのだが、そうすると「先生、ちゃんと聞いてます?」とたしなめたり、近づいた時には「近すぎますよ〜!」と軽く怒られたりもする。こちらの動きをしっかり認識できていて、それに対する反応も用意されているのがわかる。

 キャラクターの眼や顔の向きがこちらを追って動いていることが、彼女の存在感を圧倒的に高めている。これまで平面ディスプレイでこちらを認識して追従するようなものはアミューズメントなのでちょいちょい見受けられたが、バーチャルリアリティ空間の中でそれをされると、本当にそこに存在している生き物のような(もしくは彼女を誰かが裏でリアルタイムに動かして反応させているのかな、というような)思いにかられる。

 動きの自然さもポイントだ。「サマーレッスン」を手がけているのはバンダイナムコゲームスの「鉄拳」チームであり、シリーズの開発初期から、人体の動きの基礎研究を続けている。それは同社の様々なタイトルに活かされてきたわけで、「サマーレッスン」のキャラクターも動きが柔らかで、仕草も自然。手を伸ばしたり、座ったり、手をぶらぶらさせたり。そうした流れのある動きも、とても上手くできていた。

 なぜ登場するのが制服姿の女性なのか、というのは、もちろんキャッチーさも狙っているだろうとは思うものの、髪やスカートなど翻ったり揺れたりするいわゆる「揺れ物」が多く、技術研究の側面からによるものだそうだ。動きに合わせてスカーフやスカートが不自然なく揺れ、ポニーテールもふわっと動く。

 表情も通常のゲーム以上に柔らかで豊か。ここは若々しい女性キャラだからこそというところがあって、元気に笑顔で語りかけてくれるので、体験としての魅力を増してくれている。

 そうした動きや反応が、このVR空間での彼女の存在感を高め、圧倒的な臨場感を感じさせてくれる。従来のゲームで動きがよくできているゲームはたくさんあったが、VR空間の中でのそれは“こちらの感じ方”が全く変わってくる。ディスプレイの映像なのか、VR空間の中のものなのか(厳密には「サマーレッスン」だって視界を覆っている映像なのだが、そういう認識になりづらい)。この違いが、未知の体験を作り上げている。

家庭教師のレッスンを始める前に、ノートを探す女性。人体の基礎研究を長年続けている「鉄拳」チームであり、その動きの自然さ、柔らかさ、女性ならではの髪や服の揺れ物が、実在感を高めている。制服姿の女性は技術を示すのに最適だったというわけだ

 生活感が溢れる部屋の様子もポイント。ノートやペンが広げられたままの机、電気スタンドと、そのコードがしっかりコンセントに刺さっているところ、本棚に入りきらなかったのか、床に詰まれている本、そこかしこにあるクマやサメのぬいぐるみ。真後ろを振り返ってみると、床には一際大きいサメのぬいぐるみがあった。クマのぬいぐるみはまぁ女性の定番としても、どうもサメが好きらしい(聞いてみると、デザイナーの女性の方がサメ好きだとか)。

 少し手狭な子供部屋ぐらいの広さがまた3D体験をリアルなものにしている。実は筆者の書斎兼寝室も、この部屋にそっくりの広さ。皆様もこれに近い日本のお家の部屋感を味わったことはあるだろう。自分が普段よく経験しているぐらいの広さだからこそ、3D空間をリアルなものに感じられるというわけだ。

 そんな場所で彼女は椅子に座って英語の授業を教わりはじめるのだが、互いの距離が実に近い! 互いの膝先は10cmぐらいしか離れていないぐらい。これが非常にドキドキする。人にはいわゆる「パーソナルスペース」という、他人が入り込むと本能的に意識が高まる距離感があるわけだが、「サマーレッスン」では、そこに彼女をわざと入り込ませているのだろう。「パーソナルスペースに入られてますよ!」と本能が感じるからこそ、彼女の存在感がより高まっていく。逆に、脳がそう感じるぐらいに錯覚を自然に起こさせている、とも言える。

英単語が分からず、こちらを見つめる女性。画像ではキャラクターがこちらを見ているというものにしか思わないかもしれないが、これはどこかで体験して“自分の動きを眼で追っている”というのを実感して頂くしかない

 音も、この体験を作るのに役立っている。BGMなどは特になく、彼女が動く足音だったり、床の音だったり、椅子などを動かした時の音などのいわゆる効果音のみだが、その響き方にも実在感がある。音について玉置氏に伺うと、サラウンドで聴かせていて、頭の向きに合わせて自然に変わるし、さらに“骨伝導”の具合(スピーカーレベルだけでなく人間にどう伝わるのか)も計算しているという。

 音回りに関しても、同社が兼ねてより技術研究していたものの、使いどころがなかったというものも盛り込まれることで実現されており、それができたのもPS4のスペックだからこそ実現できたそうで、このリアルタイムの立体音響処理にはCPUのコアを1個占有させているそうだ。

 後半の展開はネタバレになってしまうので記述を避けるが、後半には“皮膚感覚に錯覚を感じる”ような場面もある。自分の身体のそばを何かが通ったような感覚であったり、だ。個人差はあると思うが、バーチャルリアリティとして視覚と聴覚を自然に支配できると、ほかの感覚、特に皮膚感覚(触覚)にも錯覚を起こせるのだろう。これはぜひ、いずれ体験してもらいたいところだ。

ある夏の日に勉強を教える家庭教師の体験ができる「サマーレッスン」。実在感のあるキャラとパーソナルスペース内で接すると、“デジタルだけど本当に人と接しているような未知の体験”が味わえる

 こうして、「サマーレッスン」はだいたい5分ぐらいの体験で終了した。よく知る日常的な光景だからこそリアルな実在感が作れる、そこにキャラクターがいたらどれぐらいの存在感を発揮できるのか。そのコンセプトはもう見事なものだ。実在感と没入感の凄さをがっつり楽しめる。

 これを体験すると、いろんな夢や未来像が人それぞれに浮かぶと思う。筆者が思ったのは、「このデモの時点でもコミュニケーションのトレーニングになるのでは?」というものだ。知らない人がパーソナルスペースに入ってきて、じっとこちらを見つめて話しかけてくるというのは日常にはなかなか……というかほぼないわけで、人と接してもドギマギしないためのシミュレーションにでも使えそう、なんて思ったわけだ。ゲームではない方向にも、いろいろな活用や発展が見込めるように思える。

 「サマーレッスン」の存在はたくさんのクリエイターを刺激するだろうし、そこから新しい発想であったり発展系のものが、おそらく生まれてくる。「サマーレッスン」というきっかけが切り開いた可能性は、現時点での想像を超えるような、すさまじいものなのかもしれない。本稿の原田氏へのインタビューではそうした未来についてもお話頂いているので、そちらもお読み頂きたい。

(山村智美)