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吉田修平氏、原田勝弘氏、Goroman氏。VRゲーミングの先駆者達は何を語ったか?

「黒川塾 第21回:バーチャルリアリティの未来へ」トークセッションレポート

11月12日開催

会場:御茶ノ水 デジタルハリウッド大学大学院 駿河台キャンパス

 11月12日、フリーランスのメディアコンテンツ研究家 黒川文雄氏が主催するゲーム業界関係者のフリートークイベント「黒川塾」の第21回が都内で開催され、「Oculus Rift」や「Project Morpheus」などで盛り上がるVRゲーミングの先駆者たちが集結。プラットフォーマー、ゲームデベロッパー、エバンジェリストと多様な立場かあらVRゲーミングの過去、現在、将来について語り合った。

 ゲストとして登壇したのはProject Morpheusを開発するSCEワールドワイドスタジオ プレジデントの吉田修平氏、Morpheus用デモ「サマーレッスン」の公開で業界の話題をさらったバンダイナムコゲームス第1事業本部チーフプロデューサーの原田勝弘氏、VRエバンジェリストとして“GOROman”のニックネームで有名なエクシヴィ代表取締役社長の近藤義仁氏、総勢3名。その模様をご報告しよう。

会場内はSCEよりMorpheusの試遊台の出展や、Oculus Festival in Japan代表の桜花一門氏によるOculus Rift DK2対応ゲームの出展、エピック・ゲームズ・ジャパンによる「Show Down」VRデモの出展など、ちょっとしたVR祭りの様相。中でもやはり普段触れることのできないMorpheusへの関心は高く、最後まで行列が途切れなかった

渦中の3者が一致──今度のVRブームは「本物」だ!

「Mikulus」等のアプリ開発やOculus Riftのエバンジェリスト活動で知られる近藤義仁“GOROman”氏
Morpheus用デモ「サマーレッスン」を公開して異様な注目を浴びるようになったバンダイナムコの原田勝弘氏。もちろん今も「鉄拳」シリーズのプロデュースが本業だ
Morpheusを開発するSCEワールドワイドスタジオを率いる吉田修平氏
「黒川塾」主催、フリーランスのゲーム業界人として幅広く活動中の黒川文雄氏

 Oculus Riftを開発するOculus VRが9月末に新型試作機Crescent Bayを発表し、国内でもニコニコ生放送で11月17日に小林幸子コンサートのVR生中継を予定するなど話題に事欠かないVR界隈。かたやSCEワールドワイドスタジオが開発するPS4向けVRシステムProject Morpheusも、バンダイナムコの原田氏が開発する「サマーレッスン」が発表直後から大きな反響を呼ぶなど、コンソール業界でもVRゲーミングがらみの大トピックが続出中だ。渦中の人物たちが語りあう「黒川塾」はそんな流れのまっただ中で開催されただけに、100人弱を収容する会場は超満員の盛況とあいなった。

 「サマーレッスン」については、あまりもの反響の大きさから東京ゲームショウ2014では出展中止の決断を下さざるを得なかったものの、今月末の11月29、30日に改めてユーザー体験会が予定されており、一般層への露出機会も順次確保されている状況だ。対するOculus Riftも、最新の開発機であるDK2が各種イベントや秋葉原のPC関係のショップに店頭展示されるなど、一般ユーザーが体験できる機会がますます増えてきている。

 今回、「黒川塾」が開催された会場にもMorpheus実機のプレイアブル展示があり、弊誌でも度々ご紹介してきた「The Castle」「The Deep」の2タイトルの試遊が可能となっていた。ゲームハードのプラットフォーマーが、開発機の一般向け体験機会をこれほど頻繁に用意するというのは、これまでは考えられなかった動きだ。例えばプレイステーション 4本体を、発売前に体験できる機会がどれほどあっただろうか? そこにSCEワールドワイドスタジオを率いる吉田修平氏の強いマインドが現れている。

吉田修平氏:今回はVRは本物が来たと、これは将来的に、スマホを使うのと同じくらいに絶対に一般化すると思っています。今はOculus VRさんと我々と、2つの会社がそろっていますが、タッチポイントを広げる意味でもいい状況だなと。ゲーム開発者は3Dを使ったエンターテイメントの開発に慣れていて、基本的にはVRも同じですから、ハードルを超えている人が業界にはいっぱい居るんですね。その人達に、VRを使えば楽しい体験がいっぱい作れるんだ、とわかってもらうために、まず体験してもらうのが一番だと思っています。

 今回のVRブームが「本物」であるという認識は、この場に集まった全員が大いに一致するところだ。

GOROman氏:本物が来たという直感を得ています。昔は業務用のシミュレーター向けなどで非常に高価だったものが手の届く価格になり、パーソナル化する良い機会になりました。2020年くらいには一家に一台くらい、サングラスくらいにカジュアルなものになって、手軽に「視覚」を持ち運べるようになるんじゃないかなと。

 「サマーレッスン」の話題で異様なほどの注目を浴び、様々な媒体に露出したせいで「暴力的なゲーム(鉄拳)を作っていることが実家にバレた」と冗談交じりに嘆く原田氏も、今回のVRのムーブメントが本物であることは認めた上で、コンテンツ開発者の立場からは慎重な意見を出している。

原田勝弘氏:意外に思われるかもしれませんが、僕は家で静かにゲームやってるのが好きなんですよ。といってもゲームセンターで集まってた頃とかを常に懐かしがる人なので、VRではカメラでみんなの動きをリンクさせたアバターを出して、一緒に集まって麻雀やるとか、集まって話をするとか、そういうインターネットの使い方をやってみたいです。最終的にはゲームをやりたいんですけど、その前の段階として、なんとか定年前までにそういうものができたらなと。VRは意外と1個目のハードルが高いなと思っていて、ひょっとするとどこかでピッと途切れてしまうんじゃないかとも思っていて。何かブレークスルーがないといけませんね。

 慎重な姿勢とはいえ、原田氏は今、VR向けのゲームコンテンツ制作という新しい流れにおいてコンソールゲーム業界の先陣を切っているのも確かだ。

 原田氏がMorpheusについて知り、「これはいつか来るので今やらないとダメだ」との思いでバンダイナムコ社内でVRコンテンツの企画を提案した当初は、「デモを見せると反応はいいのに、制作費の話をすると地蔵みたいな顔になる」、「部活でやれと言われた」などと理解を得るのに苦労したという。他の本業プロジェクトを進めつつ空き時間も駆使して開発をした「サマーレッスン」のプロジェクト。それが公開してみれば、本人も周りも驚くほどの反響を呼んでいる。

原田勝弘氏:「サマーレッスン」の開発には何億もかかってるわけではないんですが、それでもこのインパクトです。最初何を言われたかというと「部活でやれ」と言われました(笑)。HMDがいつ普及するのという話ですよね。いやいや先陣を切らないと!そういう意味で、Oculusみたいなやりかたをする会社は、日本ではきっと出てきにくいですよね。「サマーレッスン」に関しては、精巧には作っているけど、説得に8カ月、開発は2カ月くらいです。ほんとはこれにもっとお金がかかっていたら、もっとすごいことになっていたはずです。

VRの課題は一般化。“伝わりやすさ”へのこだわりが鍵に!

同じコンソールゲーム業界の立場からVRの“一般化”について語りあう吉田氏と原田氏

 1990年代にアミューズメント施設で始まったVRへの取り組みは、スマートフォン時代の技術革新を経てよりパーソナルに、より永続的な現象へ脱皮しつつある。しかし、本当の意味でVRがメインストリームの一角に入ってくるためには、より一般化を進めるための努力が必要である、というのがコンソール業界の渦中にいる吉田氏、原田氏の共通する見解だ。

吉田氏:環境としてはすべてがパーフェクトに集まってきています。ハイエンドなシステムで高いフレームレートを出して、というのが、今やっと個人が買えるシステムで可能になってきていますし、それを使うためのツールがすごく揃ってきています。さらにデジタルでディストリビューションができるので、全世界で流通させれば商売になるということでインディーズの潮流も出てきて、そこにVRが来たわけです。ここしかないところに流れが来たなと感じています。

原田氏:そこでファーストパーティの役目ってすごく重要だと思っています。確かに作る環境はすごく整っていますし、一般化していくのにOculusのほうが有利に聞こえるじゃないですか。でもOculusのようなオープンプラットフォームってすごく難しくて。僕自身もPCゲーマーで、PCあったらいいじゃんと思わないでもないですが、でも世の中の人はコンソールを買う理由は、一般化の方向性ですよね。DK2も高いPCスペックが必要ですし。それをPS4とか、コンソールでやってあげたほうが、一般の人は買ってくれるし、普及も早くなるのではないかと。自分としては作る環境、発信する環境、両方みているけれども、一般の立場で見た時に、まだすごい壁があるように感じています。

吉田氏:その通りで、コンソールマシンというのは誰が買っても、ソフトを入れてテレビにつなげば絶対動くと。開発者にとってもスペックが何年も同じになりますし、環境によって体験が変わることもありませんから、チューニングにかなり時間をかけて、内容を突き詰めることができますよね。プレイステーションとしてのVRのアプローチは同じで、買ってきて繋げれば遊べるんだ、ということです。その意味で簡単に使えるとか、酔わないというのは本当に気をつけて開発しています。一方で、PCは最先端の技術で今何ができるかというのを見せ続けられるのが良い所ですし、作る側にも回りやすい。もう1つはモバイルの動きですよね、あれこそ一般化ですよね。

 吉田氏がいう一般化、簡単に使えて酔わないVR体験というものをある種突き詰めたのが、今回の会場でも披露されていた「The Caslte」と「The Deep」だ。

吉田氏:「The Deep」に関しては、ゲーム性は全くありません。コントローラーを銃のように使えますが、それは単に安心するために持ってもらっているというものです。ゲーム性がないので、だれでもできると。そういう意味で、一般化を目指したものですね。インディーの人たちが入ってくる海外の場合はゲームらしいものがたくさん作られるだろうということで、あえて我々のほうでは、VRの楽しさとか広がりを見せたいねということで、だれでも楽しめるものを作りました。

GOROman氏作の「Miku Miku Akushu」の出展の様子。4月に開催されたイベント「Unite Japan」の模様より。

原田氏:キーワードは一般化ですよね。この感動をどうやって広めるか、共感できる仲間を増やすにはどうすればいいか、ということです。なので、あえてすごい技術的なところとかは、HMDに関してはクローズアップしないようにしています。伝え方をどうするかというのがいつも考えているテーマで、「サマーレッスン」はコアじゃんと言われることもありますが、違いますよ。GOROmanさんの初音ミクと握手できる「Miku Miku Akushu」アプリをみて、「すげえなあと、何年先に行くんだ」と。

GOROman氏:初音ミクに合うというのを、DK1が届く前からずっと作っていたんですが、公開した結果、いろんな人の頭がおかしくなってしまって(笑)。VRというのは実在感があって、自分のほうが照れてしまうほどですよね。それに多くの人が手を出して触ろうとするので、だったら触らしてやろうと思って作ったのが「Miku Miku Akushu」でした。「Novint Falcon」っていう、誰もしらないFPS用のデバイスを使って(笑)。

原田氏:ほんとぶっ飛んでますよね。産業の次元というのはいろいろありますが、第6次産業と言われるレベルになると、情緒的なもの、価値観的なものが主流になってきます。GOROmanさんはそういう意味で、すごい高次の産業のカッティングエッジをやっていて、だけどほとんどの人はついてこれないんだろうなと(笑)。VRと握手できる感覚というのは、先進国のものすごい情報があふれている人にしか理解できないレベルだと思っていて、そこにみんなが到達するのはしばらく時間がかかると思っています。それこそ僕の親レベルで「なんか騒がれてるね、女子高生の部屋に入れるんでしょ」みたいなのでもいいんです。アニメでも高次すぎると思っていて、もう少し理解しやすいレイヤーに下げていくことが必要だなと。GOROmanさんを見てると、エベレストの山頂から「ついて来い!」と言われてるような感じですよ(笑)。

カッティング・エッジと一般化。OculusとMorpheusという2つのアプローチ

吉田修平氏:OculusとFacebookとの提携は大きなニュースになりましたね。ライバルみたいに言われることもありますけれども、その点でOculusさんのやられていることはすごくありがたくて。もちろんエンジニアはウチのほうが良いと思っていますが、彼らは正直で、誰かが先にやっちゃうと素直に認めるんですよね。それはいいんですけれども、VRは昔から言葉としては存在しても、それが実際なんなのかというのを理解してもらうのが難しいところです。それがOculusのデモで体験してわかるようになっています。我々のような大きな企業がひとつひとつ確認して手堅くやっていくだけでは、なかなかそういう機会が作れなくてですね。Oculusは体験の機会がすごく広がっていて、いろんなものが作られていると。それによって、これはダメ、これは良いといった習熟がすごく速く進むメリットもありますね。

 吉田氏が「ありがたい」というOculus Riftの体験機会を国内で積極的に作ってきたのがまさにGOROman氏の功績だ。Oculus Riftにぞっこんのコミュニティが開催を続けている体験イベント「OcuFes(Oculus Festival in Japan)」がその筆頭で、草の根レベルでVR愛好者、VR開発者を増やしてきている。

GOROman氏:僕は自分のやりたいことを純粋にやっている感じですかね。UnityやUnreal Engine 4のような高性能で安価なツールが充実してきて、プログラマでなくてもVRができるようになってきましたし、今は作れるひとを増やそうと考えて活動しています。「OcuFes」にも出展側に200人近い人に集まっていただけるようになって、作る側にも興味を持ってもらえているというのが特に手応えを感じているところです。

「アニメでもレベルが高すぎる」と舌鋒鋭く一般化へのマインドを語る原田氏

 一方、GOROman氏の立ち位置を「チョモランマの頂にいる登山家」と表現する原田氏は、いかに一般の人にもわかりやすく、VRの楽しさを伝えるかという部分に注力を続けている。原田氏自身、コアなPCゲーマーとして「PayDay2」(一般にはマイナーだが非常によく出来たゲームだ)に1年以上ハマっているというだけに、この楽しさをもっと多くの人と共有したい、という渇望は日常生活の肌感覚レベルで持っているのだろう。「サマーレッスン」の中身ついてもそのこだわりが現れている。

原田氏:開発に関わっている20代の若い人たちはアニメが好きなので、VRもアニメでやりたいというんです。自社IPなら「アイマス」でやりたいと。でもそれはレベルが高すぎるんですよ。勘違いするなと。いわゆるアニメオタクの人って、自分が虐げられてるつもりで、アニメ系のコンテンツを低レベルだと思っているフシがありますよね。でも全然違くて、アニメというのはかなり高次の産業なんです。それこそ宗教に近いレベルの想像力が必要で。それを一番に持ってくるのでは、とうてい世界的なニュースにはならないわけです。そういうことを伝えているんですが、理屈だけでなく感情的なケアも必要なので大変ですね(笑)。という感じで、今やっているのはGOROmanさんみたいに慌てて進もうとしている人たちを引き止める役です(笑)。

 当の「サマーレッスン」について、司会の黒田氏から「ゲームとしてはどのように考えていますか?」と問われると、やはり一般層に向けた内容を強く意識しているようだ。

原田氏:ネタバレになるんであまり話したくないんですけど、もともとゲームとしての企画で考えています。人によっては歌手になりたいとか、受験を成功させたいとか、そういう目標にもとづいてほんとに感情移入していって、家に帰ったら生徒に会いに行こうかなと、10分とか15分の装着でそれが得られる、育成ゲームというのが第1段階ですね。それより先はチョモランマになってしまうので(笑)。別途考えているゲームはまた全然違うものです。

 続いて、話題はMorpheusの発売時期に関する質問に。エンドユーザーとしては一番気になるところだが……。

吉田氏:まだか、まだかと言われるのはすごくうれしいですね。まだ今の段階でお見せしているのは試作機で、開発機材としてPS4デベロッパー向けに提供しているものです。開発機としては十分なところに来たという判断にはなっているのですが、その上でコンテンツが必要なので、先にデベロッパーの皆さんに提供しています。コンシューマー向けにはもうう少し技術的に高める必要があるという点もありますが、もうちょっとです。ご期待いただいてありがとうございます。

トークセッションの終了後、挨拶を求める聴講者の列が途切れず、結局閉場まで捕まっていたスピーカーの皆さん

 VRを使えばゲーム業界人が求める新しい体験の提供ができる、そこを切り開けば3Dゲーム時代を作った「DOOM」や「リッジレーサー」、「バーチャファイター」のような先駆者になれる、と語る吉田氏。「この半年、1年で思い切り良いかどうかで、そうなれるかどうかが変わる」というメッセージをゲーム業界に向けて発した。

 これに対して原田氏も「今の段階で普及台数の話をしてたらいけませんよね」と答える。Oculus VRの国内コミュニティを盛り上げるGOROman氏は、「(原田氏曰く)チョモランマの頂」で在野の開発者をカッティング・エッジに導く。

 VRゲーミングの世界はまだ始まったばかりだ(保守的に見れば、本当に始まったかどうかもまだ怪しい)。GOROman氏などは「VR技術が五感全部をジャックする時代もそれほど遠くないのでないか」というほど楽観的だが、吉田氏、原田氏はじめコンソール業界のキーマンたちは、その体験を何らかの形で一般化する方向を目指し、それぞれ違ったアプローチで取り組みを続けていくだろう。

 Oculus Riftの製品版は来年に登場することが確実視されつつある。Morpheusの登場も、そう遠いものにはならないはずだ。2015年に向けてVRゲーミングの潮流はますます加速していく。そんなことを思わされた「黒田塾」トークセッションだった。

(佐藤カフジ)