インタビュー

PS4 VRデモ「サマーレッスン」“仮想空間に人を感じられる未来はじまる”

今後には、ゲームのアイデアが水面下に!

今後には、ゲームのアイデアが水面下に! デモレベルでもたくさんのアイデアが存在

「これをVRヘッドセット用のゲームにすればイケる!」というアイデアが既にあるという原田氏。研究を重ねてきただけに、向き不向きの考察も深い

――存在を知らしめるという第1目標は達成できたと思いますが、今後はどうしたいですか?

原田氏:いろいろあって言いたいんですけど、あんまり言えないんだよなー(笑)。そもそも「Morpheus」の発売日とかも発表されていませんし、スペックも今後変わるかもしれないし。

 そういう状況なので、まだこちらも具体的なことを計画はできないんですけど、いくつか考えていることはあります。具体的なゲームの内容として。

――やっぱりゲームという形にはまとめたい?

原田氏:それも一足飛びだと思っているんですけど、「これは絶対やった方がいいな」っていうゲームはひとつあって。それはもう「やろう」と話していて、技術研究もしています。早い内に発表できれば、それを聞いた人は「サマーレッスン」への期待を持った上で飛びついてもらえそうと思うんですけど。早いうちに発表できれば……。

 あと、やはり技術デモぐらいになっちゃうかもしれないですが、360度カメラをグランドキャニオンやビルの上から落とす映像を撮ってきて、バンジージャンプ体験ができるとかもやりたいですね。その映像をそのまま体験してもらうのもいいんですけど、落ちる直前に体験中のバケットシートを傾ける機構にしたりね。

 小さいラジコンにカメラを付けて、ゴ○ブリ体験みたいなものとか。クアッドコプターっていうヘリコプターのラジコンも最近ありますよね。あれにカメラつけて飛行体験とか。ゲームじゃない形式のインスタントなアイデアは以前からたくさん考えてました。

 ただ「サマーレッスン」が思いの外、反響があって知名度も高まったので、想定していた段階を飛ばして、いわゆるちゃんとしたゲーム作りの段階にも早めに行きたいかなっていう欲も出てきました(笑)。

――既存のゲームをそのまま持ってきてもダメだったというお話もありましたし、どんなゲームか気になりますね?

原田氏:結構、ゲームで活かすのは工夫が必要なんですよ。例えば「エースコンバット」を……とか思うじゃないですか? でも、ミサイル避けまくってると間違いなく吐くことになる(笑)。

――あー……。それ込みで、ある意味リアルなパイロット体験かもしれないですけど……(笑)。

原田氏:自分の身体ごと逆さまになれば、ある程度は大丈夫になるかもしれないですが、脳と感覚にズレがあると、三半規管に一気に来るんですよ。そういうのをいろいろと考えていくと、「VRヘッドセットでやれること」と、「やらない方がいいこと」というのがあって。僕らはいろいろ試してだいぶ見えてきましたので、その中でも「これはイケるぞ!」というゲームのアイデアはどうしても形にしたいですね。

――楽しみですね。「サマーレッスン」効果で、周囲からもアイデアが聞けるようになったということのはありますか?

原田氏:ありますあります。相談されることも増えました。ただ、「既存のゲームジャンルをVRヘッドセット用に持っていこう」っていう考えがやっぱり多いですね。ポリゴン時代の初期に、「なんでもポリゴン化してしまえ」的な流れがあったじゃないですか? あれに似たものを感じますね。

 特に「FPSを……」っていう話をよく聞くんですけど、実は「現行のFPSのメカニズムをそのまま」というのはオススメできませんね。FPSって基本的に画面の中央を撃つじゃないですか? 視点操作で照準を動かして。その操作系がもう「Morpheus」にはあってないですよね。実際のリアリティを考えるなら、顔と腕を別々に向けたりもしますし。例えばそこにPlayStation Moveを持ったとしても、銃の反動とかが手に来ないから、体感が足りなくて。さらに、視界内に「かなり精度が高く連動する自分の腕と銃」を表示してあげないといけない。少しでもそこをすっ飛ばしちゃうと、一気に実在感が薄くなっちゃう。試す前に想像していた感じにはならないんですよね。もっと機材が必要になってしまうし、視線トラッキングの仕組みも必要になります。ゲームのメカニズムとしても、カスタマイズする必要が出てくるんです。

 VRヘッドセットって、まだ携帯電話で言うならスマートフォンとかでは全然無くて、最初の段階だと思うんです。まだまだ伸びる余地があると思うんですけど、最初からいろいろやろうと思ったらもっと機材が必要で。それは一般化しづらいものになっちゃう。なので「サマーレッスン」から、と僕らは落ち着いたんですよね。

 例えば、「サマーレッスン」は、声での会話ぐらいなら、プラグインを入れていけばできると思います。声で対話したり、操作したりとか、最初はそれをやってみるのがいいかなと。

 10年先のシステムはどうなるのか、非常に楽しみなんですよね。10年後には今のものを「これで凄いって言ってたのか!」って言えるぐらいに進化しているかもしれない。VRヘッドセットならもっと機能が増えていって、小型化して、映像は網膜照射とかになっているでしょうし。もっとリアルに、いろんな体験ができるデバイスになっていくはず。

 多分、僕が死んだ後、孫の世代ぐらいなら「マトリックス」みたいになってるはずなんですけど(笑)。

――(笑)。100年後とかですかね。自分の身の安全が確保された状態で、世界中の危険な場所も体験できるような?

原田氏:何年先になるかはわからないですねー。でも「マトリックス」は笑い事じゃなくなると思いますよ。僕はできると思うので。ああいうプラグみたいなのが必要かはおいといて。「マトリックス」や「.hack」みたいなものの実現が夢ですよね。松山洋(※)が喜びそうです。

※松山洋氏……「.hack」シリーズも手がけたサイバーコネクトツーの代表取締役社長。

もっともっと広がるVR! “仮想ゲーセン”や“脳内バトルが再現できるカードバトル”も?

――「サマーレッスン」の方向性をもっと拡大する、伸ばしていくというのはいかがですか?

原田氏:それはもちろん考えていて。失敗談で話しましたけど、「鉄拳」や「アイマス」のキャラを出すことはできますし。先ほどのボイス対話ができるようにする、というのも考えられます。

 あと、ユーザーさんから頂いた意見で面白かったものなんですけど。昔は対戦ゲームってアーケードに行ってその場所で楽しんでいて、最近はオンライン対戦が増えてきました。次は、これをVRで友達のアバターをロビーに呼んで対戦するっていうものですね。VR空間の存在感で会えるわけですから、それでカードゲームとかやるとめっちゃ面白いと思うんですよ。

 ただ、そのユーザーさんの要望はバーチャルの中で「『鉄拳』がやりたい」っていうものだったんです(笑)。それについては、「今でも単体で60フレーム保つの大変なのに、バーチャル空間の中で筐体再現するんかい!」ってツッコミたいんですけども。その人は、「最近みんなで集まったり、人の多いゲーセンで盛り上がったりすることが少なくなってきたので、それをしたいんです」って。

――バーチャルゲームセンターですね。それもゲーム好きの長年の夢です。

原田氏:そうそう。観戦してる人もプレイしている人の後ろに立っていて、存在感があって。ボイスチャットで雑談してたり、プレイを応援したり、よそ見している奴がいたりとかね。「んーなるほど!」と思ったり。実在感あるバーチャル空間に集まれるっていうのがキーワードですよね。

 もっとできそうなものだと、バーチャル空間に何人かアバターの姿で集まってのカードゲーム。カードを出してバトルになると魔物やキャラが出てきて、目の前で戦ったり。背景も自分の立っている足下ごとガラッと変わったり。

――アニメのカードバトルものとかにある脳内バトル映像が、バーチャルならできるというわけですね?

原田氏:それなら実際できるので。そこに重要なのも、他人のアバターの存在感ですよね。バトル演出もそうだけど、友達が隣にいるとか、知らない人が目の前に立っていてこっちを見ているとか。そういう実在感。MMORPGの世界で走り回ってる奴がいても、今ではなんとも思わないけど、バーチャルリアリティの世界で自分の顔を覗き込んでくる奴がいたら怖いよ!?

――めっちゃ怖い(笑)。

原田氏:ポーカーとか麻雀とかもね、相手プレーヤーの顔の動きやクセから、なんとなく強い手なのかわかったりね。

――なるほど。バーチャル空間で相手の動きつきで見えるなら「こいつはテンパイすると、1回上を見る」とか、動きや表情にクセを再現できるかもしれない。

原田氏:そうなんです。「サマーレッスン」はそういう事の第1歩として、必要不可欠な“他人の実在感”をやってみたものなんですよ。コミュニケーションシステムの基礎として繋げていきたいなと思いますね。

「緊張した」という感想もあったとか。それも納得なほどに実在感があった

――先の広がりのための基礎ですね。ちなみに自分は「サマーレッスン」ぐらいに実在感があれば、人と接するのが苦手な人のコミュニケーション練習にも使えるのでは、と思いました。

原田氏:本当にそうなんですよ。結構出てくる感想に「緊張した」っていう声があるんです。終わったあと「あー緊張した」って言うんです。でもそれって、キャラの存在をちゃんと感じたっていうことですよね。そういう意味では面接の練習にも使えるかもしれない。極端な話、この技術を使えば入院している人でもね、外に出て他人と触れあった気分になれるかもしれない。

 人を出すっていうことには、そういういろんな用途があると思っていて。基礎技術の一歩ですね。

 昔、「鉄拳」が生まれた時も、最初は「格闘ゲームを作ろう」っていう空気だけではなかったんですよ。人体の制御、人体アニメーションの研究だったんです。人体はいろんな技術の集合体ですよね、スキニングだったり、骨格の再現であったり。で、どんなゲームにもキャラクターは出てくるじゃないですか。だから、絶対役立つはずだと。それが後にいろんなゲームに活きているんですよね。今回もその形から入って良かったなと思っています。

 最初は、玉置はじめ同じ世代のスタッフはアニメが大好きなので。「アニメ! アニメ!」ってうるさくて。「アニメじゃなきゃやらない!」とか言いだして。それを説得するのが大変だった。

玉置氏:ストライキですよ、ストライキ。

――(一同笑)

原田氏:それはそれでいいんですけど、そういう夢を叶えるのは1つ先(のステージ)なんだ、と。「俺だって、『アイドルマスター』が好きだから、水瀬伊織を出したい! と。出したい、出したいが……それは次の段階だ。今世代のVRヘッドセットに必要なのは一般化だ。一般を巻き込む大きなニュースなんだよ。もっと身近なものにして一般化させて、その後でやろうぜ」って。そしたら「後で絶対やらせてくれるんですね!?」とか言うもんだから、「わかったよ! やってやるよ!!」とかなっちゃって。

玉置氏:確約書を書いてもらおうと思ってます。

――(一同笑)

原田氏:テストで「アイマス」のキャラとか出してみましたけど、離れて見てる分にはかわいいんだけど、近寄ると頭がでかいんですよね。かわいいものって頭でかいんですよ。ドラえもんしかり、アンパンマンしかり。そういう2次元キャラに近寄って見ると、頭のでかさが迫ってきてかわいくならないし、異質感がすごいというか。「おわーなんだこれ!?」ってなる。

――魚眼レンズで見たように、頭の大きさがぐわっと迫って来ちゃうわけですね?

原田氏:そうそう。あと、眼も大きいし、視線もしっかり感じないところがあって、今回の検証テーマの「臨場感」が得にくかったんですよね。こっちを見ている、というのはなんとなくわかるんだけど、人の眼とはやっぱり違うから、こっちは緊張しない。それに微妙な表情とかも出せないので。

 ただ、ファングッズとして最高なのはわかるんです。極端な話、僕が「アイマス」のステージに入っていって、一緒に踊るなんてこともできちゃう。そういう体験ができるのを見せるのも凄いんですけど、それは第2段階、第3段階だなーと。

未来はもっともっと進化していく(はず)! ハマり過ぎてしまうぐらいの新体験がやってくる


「未来を語りたくなる久々の期待感」と、自身のゲームハマり体験を交えつつ未来像も語ってもらえた

――自分は「アイマス」のライブの取材もさせていただいているのですが、ライブビューイング(ライブを映画館などで観る)以上の、臨場感たっぷりのアリーナ席体験が家でもできそうですよね?

原田氏:そうですよね。それはある意味、(「アイマス」に限らずライブ全般に対応させるという意味で)一般化させていく方法のひとつだと思います。

 それが、先ほどの話じゃないけれども、僕が気持ちが先行しすぎちゃって、ステージ上や観客席で「アイマス」の伊織と一緒に歌って踊っているデモを作っても、「こいつ、どんだけイっちゃってるんだ!?」とか、「未来に行きすぎてる!」っていう、理解できないっていうところになっちゃったと思うんです。そういう意味でもまずは「サマーレッスン」の形にして良かったなと思いますよ。

――一部の人は喜ぶかもしれないですけど、世間からは、「そういうファンの人達だけのものなんだ」って思われちゃうかも。

原田氏:情報をいろいろ知っていて、技術もわかる人だと、「ついにこの時代が来た!」って言ってもらえると思うんですけど。それは人口分布ピラミッドの頂点の一部の人だけなわけで。もっと大きい下の人たちは引いちゃうかもしれない。

 そういうアプローチよりもね、誰でも共感してもらえるような「バーチャル体験できるんだね」って思ってもらえるものから入った方がいい。

 あれ(「サマーレッスン」のキャラ)が他人だったら、なお面白いですよね。映画の「アバター」じゃないですけど、それに近いこと。隣にいるのが友達だったり、カップルだったりで、仮想空間で同じ体験を楽しむ。遊園地とかのアトラクションには、乗り物に乗っていろんな映像をぐわーっと楽しめるものとか、あるじゃないですか。ああいうのはできると思うんです。

 そこにプラスアルファして、ふと横を見ると、友達や恋人の顔がゾンビ化してたりとか。実は自分の顔もゾンビ化していて、お互い「うわー!」とかなったりして。それと、乗り物はやりやすいですよね。ドライブゲームはすんなりいけそうです。

――シミュレーター系は違和感なくいけそうですよね。「サマーレッスン」はある意味、人とのコミュニケーションシミュレーターとも言えるかもしれませんが。

原田氏:シミュレーターとかでも、例えば「ガンダム」のコクピットとかは「機動戦士ガンダム 戦場の絆」の方が合っていますね。視界を覆うドーム型モニターの。なんでかというと、いわゆるあのコクピットの中って、外の光景が「平面のモニター」で映る世界なので。バーチャルゲーセンでの「鉄拳」と同じで、“バーチャルの中で平面のものを見る”状態になっちゃうんです。

 VRヘッドセットでコクピットを再現するのではなく、戦場を肉眼で見てるかのように再現しちゃうと、「自分がガンダムの視点」になってしまうんです。

 より活かすのなら自分がプレーヤーの視界をガンダムそのものの目線にした方がいいってなるんです。ガンダムの等身でビルの隙間からひょいっと覗き込んだりするんだけど、それならもうそういうゲームを普通に遊んだ方がいいかもしれない。でも、体験というならアムロ・レイになりたいわけで、自分がガンダムになってもよくわからないんですよ。求められているのはそこじゃない。

 わかります? つまりそれならリアルでモニターを沢山配置したコクピット筐体で遊べたほうがいいに決まってる。操作するレバーなんかもちゃんと再現してね。つまり現行の「機動戦士ガンダム 戦場の絆」のドーム筐体の体験はかなりそれに近いので、そういう意味ではドーム筐体体験のほうが臨場感がある……といった感じで、実は向き不向きは結構ありますね。

――3D空間が活かせて、実在感を感じられる題材じゃないと、入り込めない感じがあるんですね。他にも、ゲームという観点だと考えどころなものはありますか?

原田氏:厄介なのは、エフェクトだとかポストエフェクトの付け方ですね。2Dでは半透明の板にアニメーションをつければそれっぽくなるんだけど、3D空間では見る角度を変えると「板だっ」ってすぐバレる。ちゃんと全方位のエフェクトを作らないといけない。ポストエフェクトも、画面手前だけに何か処理しとけばいい、ってことにはならないし。

 あと、フレームレートが途中で落ちると、一瞬にして現実に引き戻されちゃう。

――SCEワールドワイドスタジオの吉田さんがVRコンテンツに関して、「60フレームは必須」と発言されていましたが、同じ感想をお持ちですか?

原田氏:VRヘッドセットに限って言えば、本当は90とか120フレームぐらい欲しいんですよ。実在感が全然変わって来ちゃうんです。

――人間の肉眼の見え方に近くないと、実在感が弱くなるわけですね?

原田氏:そうそう、60フレームって人間の眼には現実と判別できないぐらいに滑らかなんですよ、とか昔は言ってたけど。今となってはもう……という話で。PCゲームとかは対応しているモニターなら120フレームとかで遊んでいるし。それによって体験はガラッと変わってきますよね。

――それこそ100年後とかは肉眼とほぼ同じというか、400フレームが普通みたいな。そうなると本当の実在感が出るかも?

原田氏:いやいや、100年後はもっとすごいんじゃないですか!? というか、フレームとかもう言ってないでしょう、多分。今「鉄拳7」のキャラを見て、「これ何ポリゴン使ってるの?」って聞く人はいない。昔は言ってたでしょ? 「なんと1キャラに800ポリゴン使ってます!」とか。それに対してみんなも「800ポリゴンってスゲー!」って言ってた。でも今は、「鉄拳7」で「1キャラあたり○万ポリゴンですよ!?」って言っても、みんな「ふーん」としか思ってくれない(笑)。もうみんな気にしてないんですよね。

 それと一緒で、何フレームっていうのは未来だと「400フレームとか言わないよ、今は肉眼と一緒がデフォルトだよ!」って言われちゃうようになってるかもしれないですよ。

――今はもうそんな単位は誰も気にしてないよ、というようになりそうですね。

原田氏:「サマーレッスン」をやってもらうと、こういう未来話にみんな話が飛んじゃうんです。それぐらい、未来を感じられるデバイスなんですよ。「将来どうなりますかね?」とか、「もっとこうなるんじゃないですかね!」とか。誰しも頭に未来予想が広がっていきます。

――“未来への第1歩が来たな”っていう感じが確かにありますね。

原田氏:今でもね、リアルな街のマップをちゃんと作って、ジャンプしたらビルの頂点まで行けちゃうみたいなデモを作ったとして、それだけで「うわーーー!」って言ってもらえると思いますよ。将来はもっとすごいことになっていくんじゃないですかね。

 ……まぁもし将来自分の子供が24時間延々とバーチャル空間にいたら、多少心配ではありますが。

――ハマりすぎるな、危ないぞ、と(笑)。

原田氏:いやホントね。僕らって、20年ぐらい前にネットワークゲームが出始めた頃は既に大人だったので、「セーフ」って思いますけど。大学生とかは危なかったでしょう。留年しますよ、あれ。僕は当時でもMMORPGにハマりすぎちゃって、「(現実に)戻って来られないんじゃないか!?」ってぐらいになってましたから。

――当時、原田さんに連絡を取ろうとしたら「『ウルティマオンライン』の家が腐っちゃうから帰るわ!」って帰っちゃったって話を聞いたりしてましたからね(笑)。

原田氏:あったあった(笑)。定期的に行かないと家が腐って無くなっちゃうっていう仕様があったので、「ちょっとUOの家の玄関開けてきます」と帰ってた。実生活に影響があるぐらいハマりましたね。

 それぐらいにハマれるものが生まれそうな時代が、また来ましたよ。ほら、最近って体感筐体のゲームって少ないでしょう? 僕らはあれで大興奮してたので、あれを今の学生の方にも味わってもらいたいとは思うんです。ゲームで未知を体験するっていうものですよね。

 筐体はコストが高いし、個人のところまで行かないけど、「Morpheus」なら、当時以上のすごい体験が楽しめちゃう可能性がある。若い人にどんどん見せて「うわーすごい」って言ってもらいたいですよ。単に映像がキレイなだけじゃあ、みんなもう慣れちゃってるけど、実在感があるとなると、全然違ってきます。久々じゃないですか? これだけのデバイスって。

――表現というか、伝わるレベルが変わってきますよね。例えば今までのMMORPGで、キレイなグラフィックスの中でテキストチャットを使って、人とコミュニケーションできますよって言われても、本当の対話とはやはり違いますよね。別の文化というか。でも、仮想とは言え、他人の実在感をリアルに感じながらのボイスチャットとかなら、生のコミュニケーションにグッと近づくように思います。

原田氏(写真右)と玉置氏(写真左)。「サマーレッスン」を皮切りに、お2人をはじめとしたチームが作る未来に期待していきたい

原田氏:3Dバーチャルのファンタジー世界の中で、みんなで焚き火を囲んでのリアルキャンプできるわけですよ。友達のアバターの隣に座ってね。でもその頭の上にはマナメーター(マジックポイント的なメーター)が見えるんですよ。「疲れてるね」、「今日はリアルでも疲れてるから」みたいな会話をしてね。

 僕は「エバークエスト」を先輩と一緒に遊んでいて、先輩のキャラがクマに襲われているのを目の前で見て、当時でも「うわあああ、俺は助けられねー!」みたいに大騒ぎしてたんですけど、それが「Morpheus」で実在感ありありの世界になると、すごいことになりますよ。誰かを助けた時とか、でかいドラゴンを倒した時とか。全部に実在感が加わるんです。

 きっとね、楽しい事が待っていますよ。

――キャラの実在感があるという未知の体験ですね。それによっていろんなことがものすごく変わる。自分は先ほど「サマーレッスン」をやらせて頂いた時に、普通に声で返事をしたぐらいです。今日だけでも未知の経験をした気持ちです。ちなみに彼女はまだ名前は決まっていないのでしょうか?

原田氏:まだ決まってないんですよ。ボイス対話ができるようにはしていきたいですね。そうしたら、またプレイしてもらいたいです。

――あのキャラクターは、「リッジレーサー」の永瀬麗子のような、いろんなゲームに登場する看板になっていくかもしれないですね?

原田氏:それもいいですね。彼女だけでなく、いろんなキャラも出していきたいですし。キャラクターの人気を高めるためのツールにもいいかしれない。アニメの手法ですが、キャラクターに親近感を持たせるテクニックとして、「ご飯を食べている様子を見せる」というのがあるんです。

 このシステムを使って、そうだな……なかなか人気が出ない“「鉄拳」の巌竜とちゃんこ鍋を食べる”みたいなのを作って。巌竜が「俺は人気が出ないんだよ……」とか愚痴っているのを相手したら、多分みんな好きになると思うんですよ。新しいキャラクター人気の高め方です(笑)。

――キャラクターとの接し方が、これまでとひとつ次元が変わってきますね。

原田氏:この先はもっと進化するでしょうし。この時代に生まれた人はラッキーですよね。僕ももうちょっと若ければ、もっと先の未来が見られたのに。残念です。

――自分も似た考え方をする性格で。こういう話を聞けば聞くほど「100年後に生まれたかったー」なんて思います

原田氏:思いますよね。100年と言わずとも、50年後、今生まれるのでもいいぐらいですよ。VRヘッドセットの未来を見たいのと、「ゴルゴ13」の最終回が読みたいっていうのが、僕の人生の目標なんですけど。それに間に合わない可能性もあるんですよね。

――「ゴルゴ13」はさておき、VRの未来はひょっとしたら結構早く進むかもしれないですよね。加速度的に進むかもしれないなと思えます。

原田氏:今回、1歩踏み出して良かったなと思います。VRヘッドセットへの興味・関心の伸びを、1年か2年は早められたんじゃないかなと。この勢いを他のメーカーさんも交えて続けて行けたらいいですね。

――未来を楽しみにしています。今日はありがとうございました。

(山村智美)