インタビュー

「シリーズの集大成!」を創造した
「信長の野望・創造」プロデューサー独占インタビュー

小笠原賢一氏「追求したのは戦国リアリティ!」

11月12日収録

【信長の野望・創造】

12月12日 発売予定

価格:
9,240円(PS3 パッケージ版)
8,000円(PS3 ダウンロード版)
13,440円(PS3 TREASURE BOX)
10,290円(Windows パッケージ版)
8,900円(Windows ダウンロード版)
14,490円(Windows TREASURE BOX)
CEROレーティング:A(全年齢対象)

「信長の野望・創造」でプロデュースを手がけたコーエーテクモゲームスの小笠原賢一氏

 コーエーテクモゲームスから、12月12日の発売が予定されているプレイステーション 3/Windows用歴史シミュレーションゲーム「信長の野望・創造(以下「創造」)」。すでに、既報のとおり、30年にもわたる長い歴史を持つ「信長の野望」シリーズの集大成と位置付けられた作品だ。14作目にあたる本作のプロデューサーを務めたのは小笠原賢一氏。氏はこれまで、同社において「無双」シリーズや「討鬼伝」を中心に活躍してきている。

 今回、「信長の野望・全国版」から全ての作品を楽しんでいる筆者(お気に入りは「覇王伝」。シリーズ5作目にあたる作品。従属大名システム、官位システムなどが初めて本格的に導入された作品。特に気に入っているのは論功行賞システム。隠しパラメーターになっている忠誠度を上げるために、切り取った土地を与えたり、名前の一字を与えたりするなど、戦国社会を表現した作品)に、小笠原氏との“ガチンコ”インタビューの機会をいただいた。

 GAME Watchのライターとしてではなく、熱烈な“いち「信長の野望」ファン”として、最新作についてあますことなく、お話を伺ったので、その模様をお伝えしよう。

発売1カ月前の突然の発売延期……その背景にあったものは?

「信長の野望・創造」のメインビジュアル。パッケージにも使われている

GAME Watch: いきなり、デリケートな話題から始めさせていただきたいんですが、当初予定されていた発売日を1カ月延期されました。その経緯を教えていただきたいのと、延期により納得のいく作品にできたのかをお聞かせください。

小笠原プロデューサー: 正直なところをお話すると、開発の進み具合としては、なんとか当初の発売日(11月14日)にギリギリ間に合わせることができるな、と思っていたんです。しかし、今回の「創造」は30周年の節目の作品で、力を入れて作っているものでした。

 そこで、ゼネラルプロデューサーのシブサワコウと協議した結果、ギリギリという完成度ではなく、万全なものをファンの皆さんにご提供すべきであるとの結論に至り、延期の決断をしました。その期間、大きな変更を加えたということはないのですが、久しぶりに「信長の野望」を遊ぶという方にもしっかりと楽しんでもらえるようプレイアビリティーの向上を中心に機能の追加を行ないました。

GAME Watch: なるほど。今回の作品は節目の作品だということで、「完璧に近い」という状態で出すのではなく、「完璧」なものを出すための決断だったわけですね。

小笠原プロデューサー: そうです。もちろん、結果的に時間もできたわけですからAIや戦闘バランスの調整などもしっかりと見直し、形にすることができました。

「信長の野望」が作りたくてコーエーに入った“信長愛”

GAME Watch: これまで、様々な作品が出ていますが、どの作品が小笠原プロデューサーを「信長の野望」を作ると決意させたのかお聞かせください。

小笠原プロデューサー: 強烈な印象だったのは「信長の野望・戦国群雄伝(シリーズ3作目。シリーズで初めて様々な個性をもったキャラクターとしての武将が登場した作品)」ですね。当時PCを持っていなかったのでファミコン版で遊んだんです。丁度その頃、私が大学に入って1人暮らしを始めた頃だったんですね。それまでは、部活などをやっていたのであまりゲームをする時間なんてなかったんです。

GAME Watch: 大学生になり、遊ぶ時間は大量にあると(笑)。

小笠原プロデューサー: そうです(笑)。それまでに「信長の野望・全国版(シリーズ2作目。1作目が中部地方をメインにした17カ国の国取りゲームだったが、ほぼ日本全国を舞台にした50カ国でのプレイが可能になった作品)」は遊んではいたのですが、部活の野球や勉強で、なかなか遊ぶ時間が取れなかったんです。

 ですが、大学に入り1人暮らしを始めたので、たっぷりと遊べる状況ができあがったんです。「戦国群雄伝」では武将という存在が初めて登場しました。もともと戦国時代が好きだったこともあり、こんなに面白いゲームがあるのかと、何度も徹夜で遊んでいましたね(笑)。しかも、あの頃はコントローラーを回しあってマルチプレイができたので、友達とコントローラーを回して徹夜でやっていました。

GAME Watch: 運命の出会いですね。

小笠原プロデューサー: 当時、ファミコン版は、PC版に比べて機能などスペックダウンしてリリースされていたので、「フルスペックならもっと面白いはずだ! PCを買わなければ!」と思いました。「信長の野望・武将風雲録(シリーズ4作目。文化と技術がテーマになっており、茶の湯などの文化、鉄砲や鉄甲船などの技術の要素が色濃くでている作品。なお、楽曲は本作から、6作目「信長の野望・天翔記」まで菅野よう子さんが担当した)」の発売が近かったので、一生懸命バイトしてPCを買い、間に合わせました。これもまた、すごい時間プレイしましたね(笑)。

GAME Watch: そうやって、遊んでいるうちに、コーエーで「信長の野望」を作りたいと思われたんですね。

小笠原プロデューサー: 今だから言えるのですが、「武将風雲録」を遊んでいるときに、プロテクトの関係かなにかで動かなくなってしまったんです。それで、コーエーのユーザーサポートに連絡したら、すぐに対応をしてくれました。なんか、良い会社だなって。その時、現実的にコーエーで働くことを考え始めましたね。

GAME Watch: 私も「僕の考えた『信長の野望』」を妄想してしまうくらいなので、すごくうらやましくもあり、夢を体現されたんだなと思います。

小笠原プロデューサー: 本当にコアなプレーヤーの方からみたら、うらやましい立場に居させてもらっているのかなって思います。

ガラリと色が変わった「創造」

発売延期からゲームの方針、細かいシステムにまで、丁寧に質問に答えていただいた

GAME Watch: 少し、ファン目線でお話を聞かせてください。今まで、シリーズ作を重ねるごとに、目を見張る要素を感じていたのですが、「信長の野望・革新(シリーズ12作目。内政・合戦が完全にリアルタイムに進んでいく。プレーヤーが内政で街作りをしている最中にも敵は有無を言わさず攻めてくる)」から、「信長の野望・天道(シリーズ13作目。リアルタイム制のゲームシステムは『革新』と同じく踏襲されている。そこに、国と国を結ぶ“道”を敷設するという要素が加わった作品)」になったとき、「アレ?」っていう感情を持ったんです。「もっと変化があってもいいんじゃないかな」という印象でした。正直、「信長の野望」シリーズは今後、リアルタイムの箱庭系シミュレーションで進んでいってしまうのかなという不安があったんです。

 ですが、今回「創造」の試遊版をプレイしたときに、明らかに前作とカラーが違う印象を受けました。もちろん、前作までの要素をすべてなくしたわけではないですが、前作、前々作で感じた箱庭ゲームという印象を受けなかったんです。「創造」という「信長の野望」の集大成となる作品で、ご自身のカラーを出すというのはすごく覚悟が必要だと思うのですが、どのような覚悟を持って本作に携わられたんでしょうか?

小笠原プロデューサー: 自分で一番やり込んだからというわけではないのですが、「戦国群雄伝」から「天翔記」までの作品で、シリーズとしての面白さのエッセンスはほぼ出揃っていると感じているのです。なので、箱庭の形はシリーズの特徴ではなく、タイトルごとの表現方法だと思っています。

 それ故、シリーズに期待される面白さを、今風な表現、インターフェイスでまとめあげようという感じの大枠からスタートして、色々な部分の具体化を進めていった結果、近作の箱庭型とは異なる形になりました。

 とはいえ、「革新」、「天道」といった近作のシステムも、おかげさまで、たくさんのプレーヤーの皆さんにご支持をいただいている状況ですし、シリーズの流れということを考えると、突然大きく変更し過ぎては戸惑ってしまうでしょう。そこで、表現や手触り感といったプレイ感覚については、ある程度前作までを残そうという制作方針で進めました。

GAME Watch: なるほど。

小笠原プロデューサー: ただ、「創造」を作るにあたり、複数の城から出陣させた軍勢を連携させる、という多方面作戦のテーマは割と最初の段階からありました。ですので、必然的に城の数が多くなるんです(今作では、シリーズ最多となる300以上の城が登場する)。でも、そんなたくさんある城の1つずつを箱庭ゲームのように管理することはできない。なので、内政面などを本当に試行錯誤を繰り返した上でできたのが「創造」なんです。

GAME Watch: 織田信長の様に、昔のものを全て壊して新たなものを作るというものではないと。

小笠原プロデューサー: そうですね。最終的に出来上がった形は、今までの「信長の野望」のいいところをしっかりと押さえた集大成になりましたね。

【スクリーンショット】
春日山城。今回は300を超える城が収録されている
島津領を引きで見たところ。四季が巡り、グラフィックスが変化する
清洲商業開発後期。商業を強化すると商業都市となり、農業を強化すれば都市もそれに併せて発展していく
拡張選択

戦国大名の目線・思考の変化を意識した戦略ゲーム

今回も」豪華な内容の「30周年記念TREASURE BOX」

GAME Watch: プレイしてもう1つ感じた印象なんですが、「創造」は外交や多面作戦など戦略要素の多い戦略ゲームになっている印象を受けました。ユニットごとを細かに動かす戦術性というのは薄いかなと。戦術性のボリュームを落として、戦略性をボリュームアップさせた理由を教えてください。

小笠原プロデューサー: 「創造」は、「信長の野望」が誕生して30年目に出る節目の作品です。そもそも「信長の野望」には、織田信長がどうやって生きたのかを、プレーヤーが成り代わって体験していくという根っこの部分がありました。そこを大事にしながら、織田信長がやってきたことをプレーヤー自身がしっかりとできる形にしたいと思ったんです。

 信長というのは小さな尾張から国を広げた大名です。信長自身も領国が増えるに従い、小大名の頃とは違う戦国大名としての視点を持っていったと思うのです。確かに、桶狭間の合戦の頃までは、信長自身が直接指揮を執ることが多かったでしょう。ですが、人生の大部分はもっと大きな視点で時代を見て支配力を伸ばしていった。その生きざまを、プレーヤーの皆さんに提供するのが1番望ましいと考えました。

 「創造」での信長も、最初は領国が小さくて余裕があるんですけど、領国が増えると本当に日本中の勢力に大局的に対応していかなければならないんです。事実、信長自身も方々で戦術の指揮をとっていたのではなく、方面軍司令官を配置して部下に指示を出して、ポイントとなるところでは自分が出て行くという戦い方をしました。ゲームの中でも、そのやり方をプレーヤーが体験できるような仕組みを取り入れています。

GAME Watch: なるほど。自分が大名としてどのように領国経営をしていくかというのがテーマになるんですね。

小笠原プロデューサー: そうですね。小さな領国から徐々に大国になっていくことにより、考えが変わっていく戦国大名の生き方を体験していただきたいと思います。ですので、支配領国の状況に応じて、考え方のチェンジが必要になっているので、過去のシリーズ作品から長く課題になっていた“大国になった後はやり応えがイマイチ”という状況は抑えることができていると思います。

GAME Watch: 思考の変化も考える作品になっているんですね。思考といえば、今回各武将ごとに思想が用意されているのですが、その思想の違い、目指す天下の違いも信長が感じた人間関係での悩みを表現されたくて入れたんですか?

小笠原プロデューサー: そういう面もあります。ただ、「設定上そういうものです」というだけでは面白くありませんので、集まっている武将達の性格によって、内政面でとれる政策(貨幣経済や農業経済など)が異なってくるような仕掛けを作っています。ほかにも、破壊からの創造を目指した織田家と、旧体制を守りながらも強国になった、保守的勢力の代表格である武田家と対決していく構図なども、宿命的で戦国らしい感じですよね。

【スクリーンショット】
六角家の織田に対する情報を表示させたところ
迫力満点の会戦シーン。川の対陣
前田慶次の戦法

人口・石高までも見直したリアリティの追求

収録は「信長の野望・創造」の完成披露発表会が行なわれた東京国際フォーラムの控え室で行なわれた

GAME Watch: 本作では複数のエンディングが用意されています。ゲームのクリア条件を複数設けた意図をおしえてください。

小笠原プロデューサー: 「信長の野望」はゲームですので、ゲームとして全ての大名を倒して統一するというのは残しているんですが、リアリティは大切な要素だと思っています。史実では、そういった形で天下は統一されていないんですね。そういった意味でも、史実に近い形でエンディングを迎えられるよう作っています。戦国時代が好きだという方がプレイして、自分の思っている戦国時代に近い形でゲームをプレイできれば、より楽しんでもらえると思いますので。

GAME Watch: ゲーム中、桶狭間の戦いや、河越夜戦はもちろん、前田利家の出奔など、歴史にまつわるイベントが多数用意されているとのことですけど、いくつくらい用意されているんですか?

小笠原プロデューサー: イベントは300以上用意されています。

GAME Watch: 織田信長や武田信玄といった有名大名に関するもの以外にも、歴史ファンが喜びそうなイベントも用意されているんですか?

小笠原プロデューサー: 今までの作品では収録されなかったレベルのものまで今回の作品では入れています。全ての大名とまではいきませんが、大分細かくフォローはできているんじゃないかなとは思います。イベントの中には発生が難しいものもありますし、年代的にも辻褄が合うように調整もしています。そこは相当こだわっているポイントですね。エピソードや逸話をしっかりと感じてもらいたいです。

GAME Watch: リアリティという点にとにかくこだわりを持って作られているんですね。

小笠原プロデューサー: 人口や石高という部分でも、今回はかなりこだわっています。たとえば、実際に信長が天下統一の足がかりにした尾張、美濃は非常に豊かな国なんです。「創造」でも、その当時の状況を再現しています。そこを抑えることができた織田信長が、どれだけ天下布武に有利だったのか、ゲームの中で体験していただけると思います。それに比べると、たとえば島津家は武将が強くて、地理的にも有利な状態なんですけど、九州を抑える頃には中央を抑えた大名家に迫られるという、正に島津家が味わった状況を感じていただけるゲームになっています。そこを外交でどう覆していくのか? というのが地方大名でのプレイのキモになると思います。武田家も強いのですが、領国が豊かなわけではない。街道も狭いし、兵を集中したくても地形的にやっかいな感じ……。さらに、北には強敵の上杉家がいる。武田信玄って凄い人だったんだなと実感できると思います。

GAME Watch: 最後に、今まで遊んできたプレーヤーはもちろん、しばらく遊ばなくなったプレーヤー、今作から始めてみようかと思うプレーヤーに一言お願いします。

小笠原プロデューサー: まず、今まで本シリーズを遊んでいただいているプレーヤーの方に。「創造」にはプレーヤーが手を入れることができる要素がたくさん詰まっているので相当やり応えのある作品になっています。先ほど、多面作戦と一言で言っているのですが、これが歯応え抜群で、なおかつ上級モードでは近畿を抑えた織田家たるや、ここ数作ないくらいの強さを誇っていますので、骨太で歯応えのある戦国時代を楽しんでもらえると思います。ぜひ、その深いところを楽しんでいただければと思います。

 また、少しシリーズを離れてしまっていた方には、延期の理由でも述べましたが、久しぶりに「信長の野望」を遊ぶという方にもしっかりと楽しんでもらえるようプレイアビリティーに力を入れており、難しそうなところは委任することで、昔プレイされていた「信長の野望」と同じような手数で十分楽しむことができますので、ぜひ、久々に楽しんでください。

 そして、初めてプレイをされる方には、今回様々なイベントに力を入れていますので、その流れに従ってイベントを進めていただければ、史実通りの大名家の興亡を感じてもらえますし、こんなこともあったのかという発見とともに戦国時代を満喫していただけると思います。また、難易度の調整をすることで、プレーヤーの進行に合わせた形でゲームも進行していきますので、じっくりと楽しんでいただけるようになっています。ドラマチックに展開される戦国絵巻を楽しみながら、ぜひ堪能してください。

GAME Watch: 「信長の野望」ファンとして本当に楽しみにしています! 今日はありがとうございました。……ちなみに、小笠原プロデューサーの好きな武将は?

小笠原プロデューサー: 武田好きなので、武将は山県昌景ですね。今回、山県昌景がちょっと強いかもしれないですが、大目に見てください(笑)。

【スクリーンショット】
2Dムービーイベント「川中島の戦い」
多数のイベントが収録されているという。これは「尾張の大うつけ」
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(たて りょうた)