インタビュー

「S.H.MonsterArts輝響曲 ゴジラ(1989)」担当者インタビュー

クリエイター達の魂のこもった、原型、可動、ギミック

「S.H.MonsterArts輝響曲 ゴジラ」

10月27日発売予定

価格:19,980円(税込)

「S.H.MonsterArts ゴジラ(2016)」

11月発売予定

価格:12,960円(税込)

 アクションフィギュア「S.H.MonsterArts輝響曲 ゴジラ(1989)」がいよいよ10月27日に発売となる。「輝響曲」は、「こうきょうきょく」と読む。本商品はゴジラファンの心を震わせる商品となっている。背びれを光らせ、口の中も発光、さらにサウンドギミックも搭載。咆哮を上げ、放射熱線の音も収録、さらに伊福部昭氏の楽曲まで収録しているのだ。

 もちろん「S.H.MonsterArts」の技術を活かし可動も良好、原型製作は酒井ゆうじ氏。モチーフは人気の高い「ゴジラvsビオランテ」のゴジラとなっている。今回は本商品の試作品を触ることができ、担当である光岡祐希氏にそのこだわりを聞いた。

 さらに大きな話題となった映画「シン・ゴジラ」のアクションフィギュア「S.H.MonsterArts ゴジラ(2016)」も11月に発売となる。こちらのへの想いも聞いた。

【S.H.MonsterArts輝響曲 ゴジラ(1989) スペシャルムービー】

マッシブな体躯、凶暴な表情が特徴の「ビオゴジ」を立体化!

 まずは「S.H.MonsterArts輝響曲 ゴジラ(1989)」(以下、「輝響曲 ゴジラ」)の“感触”から語っていきたい。「輝響曲 ゴジラ」は全高約20cm。これまでの「S.H.MonsterArts」シリーズが15cm前後だったのと比べると、1周り大きい。手に持つと内部メカの重みもあってずしりと重い。ゴジラ特有の独特の皮膚表現が“手触り”として感じられるのも楽しいところだ。

「S.H.MonsterArts輝響曲 ゴジラ(1989)」の企画担当の光岡祐希氏
「輝響曲 ゴジラ」はスタイリングを追及しつつギミックを盛り込んでいる
頭部のアップ。表情が印象的な造形だ
背中にはLEDが基盤で仕込まれている。黄色い部分がLEDだ

 デザインは1989年の映画「ゴジラvsビオランテ」のゴジラをモチーフとしている。1954年(昭和29年)から始まった“ゴジラ映画”は日本国内版だけで29作。作品ごとにゴジラは姿を変えている。「ゴジラvsビオランテ」のゴジラ、通称「ビオゴジ」は、特に足の筋肉がものすごい。顔はどことなく“猫科”の生き物を連想させるところがある。眉間にしわを寄せて相手を威嚇するような表情があるように感じさせられる造形だ。

 そして見事なのは関節の造形だろう。「S.H.MonsterArts」シリーズはその独特の関節構造で原型の怪獣フィギュアを様々な表情付けの可能なアクションフィギュアへと“昇華”させている。腕や足は細かく関節が仕込まれているし、首も基部を含め3つの関節で動く。そして何よりもしっぽだ。長いしっぽは20を越えるパーツに分割されており自由に可動する。このしっぽの分割と可動こそが「S.H.MonsterArts」の技術の蓄積と言えるだろう。動かしてもその曲線が自然なのだ。

 そして発光と音響ギミックである。背びれは背中の横に3つ、縦に4つの計12個の背びれが光る。発光は背中の基板に設置された12個のLEDによって行なわれる。光岡氏はこの基板から背びれまで光を導くシステムにかなり苦労したと語った。背びれパーツはクリア素材で成形し、塗装によりゴジラらしい背びれの質感を実現している。上部の小さな背びれまで12個がきちんと発光するようになっているのは、現物を見て改めて驚かされる。

 さらにのどの奥からの発光もある。放射熱線をイメージした発光は背中のLEDユニットからコードを延ばしのどで発光させているのだが、口の中の内側はクリア成型のパーツに彩色することで、口の中で光が溢れる演出を可能としている。これらの発光システムは動画で確認して欲しい。

 そしてサウンドギミックである。「咆哮音」が3種、「放射熱線音」、「ゴジラの足音」に加え、伊福部昭氏の楽曲である「ゴジラ・タイトル」、「ゴジラ対特車隊」を収録している。伊福部氏のBGMを流しながらゴジラのフィギュアを見る。これほどテンションの上がる行為があるだろうか、いや、ない。ファンならばもうニヤニヤが止まらないシチュエーションである。

 ここで楽しいのが本商品はリモコンを使わず、あえて作動スイッチを背びれ1つだけにしているところ。「他の作業をさせたくなかった。フィギュアを触って、動かして、そしてポチッとスイッチを押してギミックを作動させたかったんです。フィギュアを触り、動かす遊びにギミックを組み込みたかったんです」と光岡氏は語った。

 背びれスイッチのギミックは、1度押すと「咆哮を上げる」、「足音がする」、「背びれが光り、放射熱戦を発射する」など数パターンからランダムで作動する。スイッチを長押しすると「ゴジラ・タイトル」、「ゴジラ対特車隊」のどちらかがかかる仕組みだ。ポーズを決めてからスイッチを押すもよし、BGMを鳴らしながら各部を動かすのも良いだろう。

 「伊福部氏のBGM」、「しっぽの可動へのこだわり」、「放射熱線の演出の追求」……「輝響曲 ゴジラ」が追求したテーマはユーザーが感じる“ゴジラ”へのイメージを抽出した要素と言える。そしてそれは、映画「シン・ゴジラ」でも追求され、強調されたものだ。ファンが、そして制作者が求めた“ゴジラ”を、「輝響曲 ゴジラ」はうまく再現した商品と言える。手に入れて、遊ぶことで、自分の中のゴジラへの思いを再確認できるアイテムだと言える。「ゴジラはこうでなくては」と、思わずつぶやいてしまうかもしれない。

【輝響曲 ゴジラ】
背びれは12本が光る。光を通すようにクリアパーツに塗装されている
フレキシブルに動くしっぽは技術の蓄積の成果だ
首の付け根が音声ギミックの作動スイッチとなる
大きな特徴のマッシブな足
喉にLEDが仕込まれていても首の可動を実現
口の中。上あごの裏はクリアパーツの上に塗装することで、口の中で光があふれる演出を実現している

光と音で“怪獣”のイメージが大きく膨らむ。「輝響曲 ゴジラ」の提示した方向性

 「ゴジラのかっこいいところは、やっぱり背びれが光って放射熱線を吐くところだと思うんです。『輝響曲 ゴジラ』はやはりそこを追求したいと思いました。造形は酒井さんのものが素晴らしく、そして関節の設計も専門の方が追求してくれる。アクションフィギュアとしては、僕らは足すものがないんです。だからこそ何ができるかを考えていきました」と光岡氏は語った。

光った様子のイメージ写真。劇中の雰囲気を追求している。
口の中に光があふれ出す
このしっぽの迫力がゴジラの魅力だ

 「S.H.MonsterArts」でスタイリングと可動を追求し、ブランド化していった中、バンダイとしては“次”を模索していた。「輝響曲 ゴジラ」はその新たな方向性を示すアイテムとして提示したものだという。放射熱線を吐くための光はどうなのか、音はどうなのか、ゴジラの叫びは、足音は? 光岡氏達スタッフは何度も原作を見直し、もちろん他のゴジラ映画も見直し発光ギミック、音声ギミックを練り上げていった。東宝側からもたくさん資料を提供してもらい高いクオリティを実現できたという。

 基盤にLEDを仕込み、クリアパーツで作った背びれに光を通すギミックや、のどの奥にLEDを仕込んでもきちんと首を動かすことができる設計、遊びながらスイッチが入れられるギミックなど、コンセプトを実現させるために様々な技術的チャレンジも行なっている。「どうすれば楽しく遊んでもらえるか」を追求してのアプローチだという。

 造形に関してのこだわりの1つが「歯の表現」。原作では「ビオゴジ」からは上あごの歯がサメのように2列になっており、「輝響曲 ゴジラ」もきちんと再現しているとのこと。造形に関しては、バンダイ側も様々な資料を集めているが、やはり酒井ゆうじ氏の“長年の研究”が本商品の素晴らしい造形を生み出しているという。

 「酒井さんは登場シーンでゴジラは全て違うんだ、とおっしゃってるんですよ。『ゴジラvsキングギドラ』だったら“北海道出現バージョン”といった細かい分類のものも作られています。撮影ごとに同じ着ぐるみでもコンディションが違うし、撮影状態も違う。この時のゴジラ、このシーンのゴジラ、というように、酒井さんはこだわりを持って下さっています。もちろん水中撮影用の頭部や、着ぐるみなど撮影用の様々なゴジラが用意されているのはわかりますが、それでも造形できちんと違いを出せるのは、酒井さんならではの部分だと思いますね」と光岡氏は語った。

 光岡氏は「ゴジラの違い」を見比べるのが特に好きだという。「S.H.MonsterArts」では様々なゴジラが立体化されている。手足のバランス、しっぽの長さ、背びれ、皮膚の質感、そして顔……どの作品のゴジラも比べるとその違いがはっきりする。酒井ゆうじ氏は原型に取りかかる際は2、3日徹夜して集中して作り上げるとのこと、そのすさまじい集中力がゴジラのフィギュア原型に迫力を生み出しているのだ。

 原型はまず無彩色のものを酒井ゆうじ氏が作り、原型ができてから関節の分割をバンダイ側が提示し、酒井ゆうじ氏と話を詰めていく。光岡氏は映画のスチルを何枚も用意し、「このポーズは絶対お客さんがとらせたいと思います!」といった形で提示し、関節構造での可動を決めていく。原型のラインをいかに崩さず関節を加えるかも高い技術と経験が求められるところだ。

 「関節の分割も、実はシリーズごとに全く違うんです。こちらの設計も専門の方がいるのですが、そのアプローチにもいつも驚かされます。しっぽの分割もゴジラごとに全然違う。また、当時の着ぐるみではできなかった動きもできるようになっています」。

 ギミックに関して苦労したのはやはり基盤のセットの仕方だったという。内部メカを入れつつも、可動にも力を入れなくてはいけない。ここに関しては試行錯誤を繰り返した。特に首は喉の部分にLEDを仕込みケーブルで背中の部分と接続しているのだが、ケーブルを保護するストッパーは入れているが可動も良好なところがアピールポイントだという。また、これまでの「S.H.MonsterArts」に比べ、サイズが大きくなったことで、迫力が増し、ポーズをつけるのも一層楽しくなっていると光岡氏は語った。

 光岡氏は次回作のアイディアも練っている。光ったり、音楽が変わることで魅力が増す怪獣は他にもある。今後の発表にも期待して欲しいとのこと。「輝響曲 ゴジラ」は“夢”を膨らましてくれた商品だ。「怪獣にギミックを盛り込むと怪獣の魅力がさらに増す。『輝響曲 ゴジラ』はそれを僕に教えてくれた商品です。だからこそ今後もどのようなギミックが仕込めるか考えていきたいと思います。お客様には期待して欲しいです」と光岡氏は語った。

【輝響曲 ゴジラ】
開発スタッフ達の強いこだわりが込められた商品となる

過去最大のしっぽを可動で再現! 「S.H.MonsterArts ゴジラ(2016)」

 そして11月発売の「S.H.MonsterArts ゴジラ(2016)」の話も聞くことができた。製作は映画の上映前に行なわれているので、資料は非常に限られており、製作はかなり苦労したという。

話題を集めた「シン・ゴジラ」のゴジラが、「S.H.MonsterArts」に登場

 しかし原型は映画のゴジラの雛形製作を行なった竹谷隆之氏らによって行なわれているので、映画のゴジラをきちんと表現できているという。今回のゴジラは着ぐるみは使用されず、CGでの表現だったが、「S.H.MonsterArts ゴジラ(2016)」は、映画で使用した3Dデータを元にして製作されているとのことだ。

 「今回のゴジラは過去最大のしっぽを持つゴジラです。『S.H.MonsterArts ゴジラ(2016)』はそのしっぽのうねうねと動く様子を再現できます。この関節構造と動きはぜひ見て欲しいです」と光岡氏は語った。「すごく動くしっぽ」と光岡氏は何度も繰り返した。商品で最も力の入った部分だという。

 「シン・ゴジラ」のゴジラはこれまでのゴジラとは大きく異なる。歯や足の爪の不均質な生え方、内部に見える赤い部分、しっぽの造形など細かいところも、「S.H.MonsterArts ゴジラ(2016)」ならばチェックできる。この確認をきちんとできるところが最大のセールスポイントだと光岡氏は語った。

 ちなみに、10月28日から30日に秋葉原UDXで開催されるバンダイコレクターズ事業部のイベント「TAMASHII NATION2016」では、「S.H.MonsterArts ゴジラ(2016)」の“第2形態”、“第3形態”も参考展示予定だという。これからの展開にも注目したい。

 最後に光岡氏は「酒井さんを始め、関節設計、ギミック設計の皆さんも、魂を込めて製作していただきました。私達はその想いを活かした商品を作り出しました。ぜひその手にとって、私達の想いを受け取り、ギミックを思う存分楽しんで下さい。よろしくお願いします」とユーザーにメッセージを送った。

 筆者は「シン・ゴジラ」を見たとき、「ああ、これがゴジラだ」と痛感した。異形の、は虫類とも異なる、見方によっては人にも見えるフォルム、その圧倒的な威圧感、ゴジラの恐ろしさ、そして神々しさ。ゴジラの存在感を強調する伊福部マーチ……極めつけの放射熱線。ゴジラのエッセンスはこれなのだと強く感じた。常識をはるかに超える謎の大怪獣。「S.H.MonsterArts ゴジラ(2016)」は映画のゴジラを細かくチェックできる。これは、欲しい、と強く思った。目で、指で、その造形を細かくチェックしたい。

 そして「S.H.MonsterArts輝響曲 ゴジラ(1989)」だ。「ビオゴジ」はそのどう猛な面構えを含め、これまでのゴジラファンを納得させる造形だと思う。そしてそのギミックこそ、「シン・ゴジラ」でも提示された、「ファンがゴジラに求めるもの」であり、このアイテムはホビーメーカーならではのゴジラの魅力の“結晶化”といえる。

 造形と可動と、ギミック。進化した技術と関節設計、そして酒井ゆうじ氏の“研究の成果”が、この素晴らしいアイテムを生み出している。手に取り、背びれのボタンを押して音を鳴らしながら、思う存分ゴジラを眺めていたい。この“愉悦”をたっぷり味わいたい。「怪獣ファンで良かった」と、このアイテムを手にしたすべてのユーザーが自分の幸せを痛感するに違いない。

【S.H.MonsterArts ゴジラ(2016)】
まさに“異形”という言葉がふさわしい姿を忠実に立体化している