2017年8月12日 12:00
「S.H.MonsterArts ゴジラ(2016)第4形態覚醒Ver.」、筆者はこのアクションフィギュアの発売を待ち望んでいた。本商品は映画「シン・ゴジラ」のゴジラをモチーフにしており、映画公開時に発売された「S.H.MonsterArts ゴジラ(2016)」のリペイントであり、パーツを追加することで映画の大きな山場となる「放射熱線を放つゴジラ」を再現できるアイテムとなっている。
「シン・ゴジラ」は筆者に強い衝撃を与えた。いかに筆者がこの映画が好きかを書き出せば止まらないが、「ゴジラがカッコ良かった」というのはこの映画の大きな魅力である。こちらが理解できるような意思を感じさせない、コミュニケーション不可能な、ただ破壊だけをもたらす存在……そのゴジラの異形さ、恐ろしさが最大となるシーンが放射熱線を放つ場面だ。そして、その姿が再現できる「S.H.MonsterArts ゴジラ(2016)第4形態覚醒Ver.」は、筆者の心をわしづかみにした。
本商品はプレミアムバンダイの受注販売商品であり、現在は入手できないが、その人気は凄まじく3次募集は抽選販売となった。今後の商品にも期待する意味も込めて、商品を写真とともに紹介していきたい。強大な力を持つゴジラを手に、様々な角度から眺め、動かす、その楽しさはたまらないものがある。制作者の強いこだわりも感じさせるアイテムだ。
なお、本商品は“ゴジラの秘めた力を明らかにしている”ために、映画のネタバレをしている。映画未見の方は注意して欲しい。
「究極の進化体」、恐ろしい映画のゴジラをアクションフィギュアに
「シン・ゴジラ」のゴジラは「人智を超えた完全生物」と言われる究極の生物である。生体原子炉ともいえるエネルギー機関を持ち、食事はせず水と空気の摂取でエネルギーを生み出していると推測される。進化を繰り返したその“第4形態”では、身長118.5m、全長は333mまで巨大化し、外皮は自衛隊の様々な攻撃も跳ね返すほど強靱なものとなっていた。
しかし米軍の爆撃機からの“地中貫通爆弾”によって初めて負傷、それが引き金になったか、ゴジラの背びれが紫色に発光、次の瞬間、口から黒煙と共に可燃性のガスのようなものを吐き出し、それが発火、どろどろとした火炎を放射したのだ。ゴジラはさらにその炎を“熱線”として収束、長距離ビームとして放射し続け、遙か上空の爆撃機を切断した。その後ゴジラは熱線を水平に発射して辺りをなぎ払い、東京を火の海に変えた。ゴジラがその秘めた力を一瞬にして解放したこのシーンは、映画を見ていた観客に衝撃と絶望を与えた。
「S.H.MonsterArts ゴジラ(2016)第4形態覚醒Ver.(以下、「第4形態覚醒Ver.」)」は、2016年11月に発売された「S.H.MonsterArts ゴジラ(2016)」の彩色を変更し、追加パーツを加えた商品だ。「S.H.MonsterArts ゴジラ(2016)」は映画で使われた3Dデータを元に、映画のゴジラの雛形製作を行なった原型師の竹谷隆之氏が、商品の原型を担当している。
リペイントでは全身から漏れ出した赤い光が、熱線を吐き出す瞬間の紫色に変化、そして熱線を吐くときの頭部形状を差し替えパーツで用意し、炎のエフェクトパーツを追加している。前作は映画製作の前に製作されていたため、熱線放射の情報は公開されていなかった。「第4形態覚醒Ver.」は映画公開により明らかになった情報で劇中のさらなる姿を再現できる“完全版”ともいえる商品なのである。
では商品のレビューに取りかかっていこう。まず、デカイ。全高約18cm、しっぽを入れた全長は約40cmだ。本体はもちろん、しっぽがデカイ。映画同様凄まじいボリュームと迫力だ。元々ゴジラはそのしっぽに特徴があるが、シン・ゴジラのしっぽは特に大きい。“進化”をテーマとしている本作のゴジラが、人間が進化の過程で切り捨てた“しっぽ”を強調してデザインされているところが面白い。
フィギュアではこのしっぽは、しっぽ先端のパーツを含んで29ものパーツで構成されている。各パーツはボールジョイントで接続されているので、かなりぐねぐねと曲がる上、保持力が高く、曲がったままで固定できる。映画ではまるで別の生きもののようにぐねぐねとしっぽが動くが、その雰囲気をきちんと再現できる。しっぽをいじってるときのフィギュアの重みも心地良いのだ。「あの強大なゴジラを手に持ってるんだ」という実感と、大型のアイテムを持っているという充実感は、楽しい。
そして顔である。急激な進化を遂げた生きものであることを強調する、左右非対称で歪な顔、人間の共感を拒否するような黒目の小さい、どこを見ているかわからない目、そして捕食などできなそうな口……今作のゴジラの不気味さがきちんと表現されている。特に横顔を見上げたときのアングルは映画のシーンそのままで、「おお、映画と同じだ!」と感心させられる。映画のゴジラと、目の前のゴジラがシンクロするのである。
口の開閉ギミックもスゴイ。顎を開くと頬の部分に当たるところのパーツが上顎の下から現われ、顎を動かす筋肉がむき出しになったようになる。伸縮しないパーツなのに“生物感”を感じさせる演出ができている。頭部パーツはクリア素材に彩色が施されているので、微妙な透明感があり、ここも雰囲気が良い。
クリアパーツは背びれにも使われていて、攻撃時の発光を思わせる色合いになっている。それにこの紫色の背びれを持つことで通常時よりも「ゴジラらしさ」が増しているところも面白いところだろう。複雑な形状の背びれだが、パーツの設計で体をひねっても違和感がない。そして背を丸めることで攻撃寸前のゴジラの姿も再現できるのだ。デザイン的に難しい可動も優秀で、パーツ分割によって“怪獣”をアクションフィギュアとして再現する「S.H.MonsterArts」シリーズの技術の蓄積を感じさせられる。
足の指の不揃いな生え方、手の異常な細さなどなど細部をチェックするのは本当に楽しい。そして何より、その“シルエット”こそがこの商品の最大の楽しさだろう。「ゴジラってかっこいいなあ」と嘆息させられる独特のたたずまいがある。それはこの商品のサイズから生まれるという所も間違いない。“大きいおもちゃ”は、やはり格別に良いのだ。
変化するゴジラの放射火炎を多彩なエフェクトパーツで! しっぽビームも!
そして「第4形態覚醒Ver.」ならではの追加要素である。放射火炎を放つ際、ゴジラの下あごは蛇が大きな獲物を飲み込むときのように割れる。このあごの形状、大きく開いた形は差し替えパーツによって再現できる。
さらに上あごと頭も全部交換する。上のパーツもわざわざ差し替えるのか、と思ったが、目がちゃんと銀色になっているのを見て納得した。ゴジラは放射火炎を放つ際や、頭部に攻撃を受けたとき、目を銀色の膜で覆うのだ。このゴジラにはまぶたがないのである。交換用のパーツはこのゴジラの“保護膜”をきちんと再現しているのだ。また、通常のパーツよりもさらに口を大きく開けたままの形で上あごと下あごががずれずに保持できると感じた。
放射火炎は最初どろどろした黒い物質が、発火することでオレンジ色の炎となり、そして収束して紫色のビームとなる。「第4形態覚醒Ver.」はエフェクトパーツでこの移り変わる炎の状態を再現しようとしている。制作者のこだわりは炎を口の中に接続しないところ。炎パーツは支柱で固定しゴジラの口からわずかに離して保持させる。これでビーム状の放射火炎を放つゴジラを、映画に近い雰囲気できちんと再現できる。
太い火炎のエフェクトパーツは、丸太のような、そして発火しきれない黒い物質が混ざったごつごつした造形となっている。こちらも台座で保持させ角度を調節できる。面白いのはここからさらにこの太いパーツを受け止める火炎状のエフェクトパーツが用意されているところ。地面に向かって火炎を吐き出すゴジラの姿を再現できるのだ。
映画のシーンを思い出して欲しい。爆撃を受け、大きく咆哮を上げたゴジラが背びれを光らせ、そして次の瞬間、真っ黒な何かを地面に大きく吐き出す。そしてその黒い物質は発火し、巨大な炎となって周囲を火の海へと変え、それだけでなく炎が収束し“ビーム”へと変わる。しかもビームで周囲をなぎ払った後再び収束が弱まり、もういちど炎へと変ってゴジラ周辺どころか、東京の中心部を炎に変えてしまう。その恐ろしさを、「第4形態覚醒Ver.」はエフェクトパーツとゴジラのポージングで再現できるのである。
さらに終盤の「ヤシオリ作戦」で見せたゴジラの“最終兵器”、しっぽからのビームも「第4形態覚醒Ver.」は再現できる。しっぽを差し替えることでクリアパーツにより紫色に光ったものにでき、こちらはエフェクトパーツを接続してビーム発射を再現できる。背びれからの広い範囲の発射から、ピンポイントに効率的に放射火炎をはけるようになったゴジラの進化スピードは、本当に恐ろしい。しかもこの時にはガスを吐き出す前準備すらなしに収束した熱線を吐けるようになっているのだ。
口としっぽのビームでゴジラが様々な場所を攻撃できる姿を再現できるのは楽しい。しっぽを動かし角度を変え暴れ回るゴジラをイメージする。ほんのちょっと残念なのはゴジラの口が垂直方向まで上を向けないことだろうか。また、無茶を言えば背びれからの熱線も何らかの形で再現して欲しかった。コストと造形を考えると難しいところだが、ここまで良いアイテムを提示されてしまうと、あえて贅沢を言いたくなってしまう。
「S.H.MonsterArts ゴジラ(2016)第4形態覚醒Ver.」は映画ファンが夢に見て、恐れ、そして憧れた映画の中のゴジラを再現した非常にクオリティの高いアクションフィギュアだ。高価な上に受注販売のため入手は難しいが、ファンに充実感を与えてくれるアイテムだ。「S.H.MonsterArts」シリーズは今後も進化していく。これからの商品にも大きく期待したい。
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