【第20幕】
Report / manga:ジョン・カミナリ
logo design:フランチェスコ・アッカッターティス

電遊。辞書に載っていない造語である。電気的な遊び。いわゆる、テレビゲーム。道。その道を、自分の価値観だけを信じて最後まで歩むのが、侍精神である。電遊道は、妥協を許さないサムライゲーマーが歩むべき道。他人に影響されることなく、自分のゲーマーとしての信念を貫き通せばいい。たとえ、ゲームが別の道に進んでも、自分の好きな道をずっと信じ続けるのみ。たとえ、“これこそがゲームの未来形だ!”と言われても、自分の好きなゲームライフを思う存分楽しむのみ。

 この連載記事では、毎月1回、僕のゲーマーとしての物語、そしてゲーマーとしての哲学や信念を独特なスタイルで紹介していきたいと思う。日本のゲームに大きく影響を受けた僕のゲーマー人生を、イタリア人としての個性を生かして面白く語りたいと思う。あるときは、話題沸騰中のニュースについて掲載ギリギリのところまで正直な感想を書いたり、またあるときは、今でも心に大切にしまっている過去の作品を振り返ってみたいと思う。

 1番注目して欲しいのは、「イタヲタのレトロなゲームライフ」というコーナー。僕のオタクとしての青春を文章と漫画を交えて懐かしく振り返りたいと思う。連載の途中で新しいコーナーも生まれるのかもしれない。回を追う毎に中身が変わったり増えたりするのかもしれない。とにかく、サプライズたっぷりの連載を目指しているので、末永くこのページの中で付き合って欲しい!

ジョン・カミナリ(芸名)
国籍:イタリア 年齢:36歳
職業:俳優、声優、タレント、テレビゲーム評論家
趣味:テレビゲーム、映画鑑賞、読書(山田悠介)、カラオケ
主な出演作品:銀幕版スシ王子!(ペぺロンチーノ役、デビュー作)、大好き!五つ子(アンソニー・ジャクソン役)、侍戦隊シンケンジャー(リチャード・ブラウン役)、ピラメキーノ(テレビ東京、月曜~金曜 18時30分~19時放送中)
ブログ:ジョン・カミナリの、秘密の撮影日記
Twitter:http://twitter.com/John_Kaminari
 イタリアで6年間テレビゲーム雑誌の編集部員として働いたあと、新しい刺激を求めて2005年に大好きな日本へ。子供の頃から夢見ていた役者の仕事を本格的に始める。堤幸彦監督の「銀幕版スシ王子!」で個性的なマフィアのボス、ぺぺロンチーノを熱演。現在もTVドラマやTVゲームなどで、俳優・声優として活躍中。日本語を勉強し始めたのは23歳のとき。理由は「ファイナルファンタジーVII」や「ゼノギアス」などのRPGの文章を理解するため。好きなジャンルはRPGと音楽ゲーム。「リモココロン」のような個性的なゲームも大歓迎。お気に入りのゲームは「ゲームセンターCX」と「ワンダと巨像」。芸名はイタリア人の友達に、本人が雷のように予想不可能なタイミングで現われるからという理由で付けられた。将来の夢は、「侍戦隊シンケンジャー」に出演した時から大好きになった戦隊モノにまた出演すること



【もくじ】
一刀両断~話題のゲームニュースについて鋭くコメントしちゃうぞ!~
傑作の如く~期待している新作TOP5~
過去の宝物~こよなく愛した過去の思い出の作品をピックアップ!~
イタヲタのレトロなゲームライフ~ハプニング満載のオタク人生~



■ 一刀両断 ~話題のゲームニュースについて鋭くコメントしちゃうぞ!~

話題のニュースや注目のテーマをピックアップして僕の率直なコメントを載せたいと思う。また、現在のゲームが抱えている問題を解決するアイデアや提案も、このコーナーを通じて考えてみたいと思う。ゲーマーの皆が納得できる未来の為に!

其ノ一:過去の魅力を取り戻そう! 日本のゲームシリーズは日本で作ろう!

 日本のゲームメーカーが、海外チームに看板シリーズの開発を任せるケースが増えてきた。しかし、数少ない例を除けば、その多くが低い評価を受けている。僕はいつも思っているが、日本人の感性で生まれたゲームが何故、ヨーロッパやアメリカのチームによって開発されるという現状に至ってしまったのだろうか。日本と欧米の価値観や感性は大きく違うので、グラフィックスを再現できても、ゲームの魂といったものは再現できないだろう。

 最近、海外チームに開発された「バイオハザード」のスピンオフ作品や「サイレントヒル」の続編について、日本人の開発してきた作品とは、クオリティやフィーリングが微妙に違うというのは、欧米のプレーヤーも不満に思っているようだ。どうしても海外チームに委ねるのであれば、もっと慎重にターゲットを選択するべきというのが、主な意見だ。

 過去の例を振り返ってみよう。良い例として挙げられるのが、「メトロイドプライム」シリーズだと思う。開発チームのRetro Studiosが任天堂から厳しい教育・監修を受けたのか、FPS要素が濃くなったとはいえ、主人公の特徴が見事に再現されていたし、探索要素も大切にされていた。3Dになったが、その魂は完全に「メトロイド」だっだといえる。

 小島プロダクションが監修した、スペイン出身のMercury Steam Entertainment開発の「キャッスルヴァニア ロード オブ シャドウ」も、シリーズのファンを満足させた。演出が派手になり、「God of War」的な要素の濃いゲーム性になっていたが、この作品は従来の作品の主な特徴を捉えており、成功例として挙げられるだろう。


「メトロイドプライム」は、日本の任天堂が開発したかのような雰囲気を醸し出していたと思う「キャッスルヴァニア ロード オブ シャドウ」は、過去の作品になかった数々のアスレチックな新アクションも導入した

 欧米で最も批判されているのが、「サイレントヒル」シリーズの海外開発チームによる作品だ。僕は「サイレントヒル」のファンとして、海外チームに開発を任せる必要はなかったと今でも思っている。「サイレントヒル」のあの独特な雰囲気とゲーム性のバランスが、海外開発チームによって微妙に変わってきた。まず、日本人の携わった作品の、固定カメラによる演出から生まれる恐怖感が減り、主人公が複数の武器を同時に使えるようになったため、ゲーム性自体が変わったような気がする。

 また、「バイオハザード」シリーズのスピンオフ作品「バイオハザード オペレーションラクーンシティ」も海外チームによって開発された。ゲームジャンルは海外チームの得意な、サードパーソンシューターになっているが、パッケージにロゴがなければ、「バイオハザード」シリーズに属していることがわからないだろう。スピンオフ作品とはいえ、メインシリーズの特徴をもっと受け継ぐべきだったと思う。


「サイレントヒル」の生みの親がもうコナミに在籍していないことも、シリーズが従来の強さを失った理由の1つとして考えられる(写真は「SILENT HILL:DOWNPOUR」)TPSファンを、「バイオハザード」というフランチャイズに近付ける為の戦略的なスピンオフ作品として考えれば、納得できるだろう

レースゲームのあらゆるファンにおススメできるが、「Ridge Racer」要素が薄くなったことは確実に言えるだろう

 逆に、海外開発によってまったく違うゲームになっているのに、欧米の雑誌で高評価に繋がったケースもある。

 例えば、欧米で発売されたばかりの「Ridge Racer Unbounded」がそうだ。このゲームも正直に言って、「RIDGE RACER」のロゴがなければ「RIDGE RACER」シリーズの新作であることはわからないだろう。なぜなら、ジャンルが欧米で大人気の“交通事故シミュレーター”になっているからだ。僕も興味を抱き遊んでみたが、日本の開発チームによる昨今の「RIDGE RACER」作品よりも、楽しいレース体験になっていると感じた。

 とはいえ、レースしている間、これは「RIDGE RACER」ではないとずっと思っていた。ゲーム性が、正当なレースから、法律の効かない車がぶつかり合う強烈かつ過酷な世界へと変わったのだ。楽しい気分を味わいながらも、ここまでシリーズの文法を覆す必要があったのだろうかという疑問を強く感じた。もう少しメインシリーズの特徴を守るべきだったのではないだろうか。スピンオフとはいえ、バランスをもっと考えるべきだったと思う。

 僕の疑問は、世界中でヒットした数々の名作を作ってきた日本の有名なメーカーが、海外のプレーヤーから受け入れられるような続編を作れなくなったのかということだ。日本のゲームメーカーが海外チームに開発を任せるのは、世界の作品に匹敵する続編、あるいは欧米ユーザーにも通じる続編を自力で作れるという自信が足りなくなってきたからだろうか?

 1つだけ確実に言えることがある。欧米で最も注目されるゲームは(悲しいことに)戦争や無法地帯を舞台にしていることが多い。レースゲームだったら、ルールが厳しいシミュレーションよりも、現実の世界だったら誰もが悲しむような、交差点での悲劇的な交通事故が連続するレースゲームのほうが、注目を集めている。

 僕はこう思う。日本人の優しさが邪魔になっているのではないだろうか。欧米で大人気の“無法なゲーム”を再現できないのではないだろうか。だからこそ、“無法なゲーム”の開発を海外チームに任せていると思う。

 もちろん、海外プレーヤーのニーズをよくわかるようになった日本の開発メーカーもある。例えば、グラスホッパー・マニファクチュアがそうだ。欧米で絶大な人気を誇る須田剛一氏による作品で、発売日が迫ってきた「LOLLIPOP CHAINSAW」のようなゲームが、今、欧米プレーヤーが、日本から求めているゲームの鑑だと思う。

 「BAYONETTA」や「VANQUISH」で注目を浴びたプラチナゲームス開発の作品も、日本ならではの個性を持ちながらも、海外のゲーマー人口を喜ばせるような作品ばかりだ。「MAX ANARCHY」という最新作も、よく考えれば、タイトルが、“最高の無法律状態”という意味になっている。僕は現在のゲームマーケットの傾向に賛成しているわけではないが、確かに、今の流行は“無法律の世界”だといえるだろう。


バイオレンス、皮肉さ、ユーモア、強烈さといった要素が凝縮されたこのような作品こそが、今、欧米のプレーヤーに最も注目されていると思う世界で通用するゲームを作るのはとても難しくなってきたと思う。プラチナゲームスは、“日本的と外国的”のちょうど良いレシピを見つけたのではないだろうか

 果たして、日本のゲームシリーズが世界でヒットさせる為には、今の流行に従うしかないのだろうか? 作ってきたシリーズをあるスタンダードに合わせるべく、個性というパラメーターを減らしていき、グローバル化させるべきなのだろうか?

 理想主義者として、その解決策は別の方法にあると思いたい。完全に海外チームに任せるのではなく、海外チームとのコラボレーションにあると思う。日本と欧米のお互いの長所を生かしつつ、世界で大ヒットする続編を開発できるようになると確信している。ゲームシリーズを形作る材料の1つひとつを大切にしつつ、国際化させていくのだ。これで日本出身のゲームはずっと魅力的なタイトルでいられるだろう。


「メトロイドプライム」
(c)2002,2003 Nintendo
「キャッスルヴァニア ロード オブ シャドウ」
(C)2010 Konami Digital Entertainment Developed by Mercury Steam Entertainment
「SILENT HILL:DOWNPOUR」
(C)Konami Digital Entertainment
「バイオハザード オペレーション ラクーンシティ」
(C)CAPCOM CO., LTD. 2012 ALL RIGHTS RESERVED.
「RIDGE RACER Unbounded」
RIDGE RACER UNBOUNDED 2011 (C) NAMCO BANDAI Games Inc.
「LOLLIPOP CHAINSAW」
(C) KADOKAWA GAMES / GRASSHOPPER MANUFACTURE
「MAX ANARCHY」
(C) SEGA

□「Wiiであそぶ メトロイドプライム」のページ
http://www.nintendo.co.jp/wii/r3ij/
□「キャッスルヴァニア ロード オブ シャドウ」のページ
http://www.konami.jp/castlevania/jp/
□「サイレントヒル」のページ
http://www.konami.jp/gs/game/vx131/
□「RIDGE RACER Unbounded」のページ
http://www.ridgeracer.com/
□「LOLLIPOP CHAINSAW」のページ
http://www.lolli.jp/
□「MAX ANARCHY」のページ(SEGA SIDE)
http://maxanarchy.jp/
□「MAX ANARCHY」のページ(PLATINUM SIDE)
http://www.platinumgames.co.jp/max_anarchy/
□「バイオハザード オペレーション・ラクーンシティ」のページ
http://www.capcom.co.jp/bhorc/
□関連情報
【2012年4月28日】セガ、PS3/Xbox 360「MAX ANARCHY」
一族随一の殺し屋三姉妹が登場
http://game.watch.impress.co.jp/docs/news/20120428_530002.html
【2012年4月27日】角川ゲームス、PS3/Xbox 360「LOLLIPOP CHAINSAW」
体験会おすすめポイントを、先行プレイで体験した筆者が紹介!
http://game.watch.impress.co.jp/docs/news/20120427_529654.html
【2012年】「バイオハザード オペレーション・ラクーンシティ」記事リンク集
http://game.watch.impress.co.jp/backno/bhor/index_c375.html
【2010年12月15日】PS3/Xbox 360ファーストインプレッション「キャッスルヴァニア ロード オブ シャドウ」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/review/20101215_414434.html
【2003年3月8日】「Game Developers Choice Awards」授賞式開催
特別功労賞に故横井軍平氏。大賞はメトロイドプライム
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20030308/gdc2.htm




其ノ二:「ドラゴンズドグマ」は全世界で発売間近。欧米ユーザーの声とは?

 RPGの分野で新たな歴史を築こうとしている「ドラゴンズドグマ」の発売日が迫ってきた。欧米での発売は5月25日が予定されている。王道ファンタジーとオープンワールドという2つのキーワードを持った、世界中のプレーヤーを夢中にさせるような人気作品になる可能性が非常に高いと思う。

 僕も早速、体験版をダウンロードし、その世界観の濃厚さや、バトルシステムの柔軟さを堪能できた。これまで何回も主張したように、僕はシングルプレーヤーなので、MMORPGよりもストーリーや世界観に1人でじっくり集中できるような作品を好む。だからこそ、「ドラゴンズドグマ」は僕のようなプレーヤーのニーズに完全に応えていると思う。


キャラクターエディットでは、プレーヤーキャラクターの特徴が細かく設定できるようになっているファンタジー系のクラシックなキャラクターやモンスターデザインも、あらゆるゲーマーに受け入れられるだろう戦闘の代表的な特徴は、大きなモンスターに掴まったまま、攻撃を仕掛けることができることだ。これは同ジャンルのタイトルで見られなかった付加価値の1つだ

 しかし、もう1つのRPGユーザーが存在する。それはオンラインで他のユーザーと力を合わせて遊ぶのが好きなゲーマーだ。これらのユーザーが抱く「ドラゴンズドグマ」への不安はわからないでもない。欧米のゲームサイトのコメント欄を見ると、MMORPGの支持者は「モンスターハンター」シリーズのような4人協力モードがないことを嘆いているようだ。

 本作のオフィシャルサイトを見ても、確かに、オンラインの項目ではポーン(プレーヤーの育てたキャラクター)の借り貸しができるというシステムが紹介されているが、それ以外はまだ何も正式に公開されていない。現段階ではMMORPG的な大人数参加型のネットワークモードがないことは確実に言えるだろう。

 とはいえ、シングルプレイの体験版をプレイした欧米ユーザーの意見はポジティブな内容ばかりだった。不具合の多いジャンルとして知られるMMORPGよりも、最初から安定したシステムを持ったシングルプレイのオープンワールドRPGのほうがいいのではないだろうか、という声が多かった。

 僕もその声に賛同している。「ドラゴンズドグマ」で楽しみたいのは、類を見ない洗練された世界、不具合のないゲームシステム、完璧という形容詞に合うような素晴らしいRPG体験だ。僕の推測だが、カプコンがMMORPG的な要素を導入しなかったのは、ゲームシステムの安定さを優先したかったからなのではないだろうか。すぐに協力型のオンラインモードがなくても、ダウンロードコンテンツとしてネットワークモードが増えるかもしれない。あるいは、本作が世界中で普及したあと、続編で大人数参加型のオンラインモードが実現するという見方もできるだろう。

 よく考えれば、オープンワールド系のRPGとして知られオンライン要素が1つもない「ゼノブレイド」も、欧米で多くのファンを魅了しており、傑作として評価され素晴らしいRPGとして認められている。「ドラゴンズドグマ」も、その部類に入っていると思う。ネットワークモードを持っていなくても、それを欠点として考える必要はないだろう。「ファイナルファンタジー」や「ドラゴンクエスト」シリーズも、オンライン要素がなくても長く愛されてきたように、「ドラゴンズドグマ」も万人に愛されるポテンシャルを持っていると確信している。


(c)CAPCOM CO., LTD. 2012 ALL RIGHTS RESERVED.

□「ドラゴンズ ドグマ」のページ
http://www.capcom.co.jp/DD/
□関連情報
【2012年4月28日】カプコン、PS3/Xbox 360「ドラゴンズドグマ」
最新映像「コカトリス戦」、「5thトレーラー」を公開
http://game.watch.impress.co.jp/docs/news/20120427_529908.html




其ノ三:任天堂のデジタル販売で、ゲームマーケットはどう変わる!?

 他のメーカーの方針から距離を置いていた任天堂も、この夏から念願のデジタル配信のソフト販売を開始することになった。3DSで初めてデジタル販売されるのが、「New スーパーマリオブラザース2」だ。Wii Uに関しても、発売と同時にデジタル販売が開始されることが明らかにされた。

 しかも、皆を驚かせたニュースが、デジタル版も店舗によって価格が変動することだ。任天堂の発表によると、値付けはパッケージ版と同様、店側に任せるという、前例のないシステムになっている。

 同社の発表によると、ユーザーはゲームショップのオンライショッピングサイトで、ゲームショップが設定した価格でソフトの選択・購入・決済を行ない、そこで16桁のソフト引き替え番号を取得する。それをニンテンドーeショップに入力することで、SDカードへのソフトのダウンロードが行なわれる。つまり、デジタル販売については過去と違い、小売価格の決定に一切関与しないビジネス形態へと変わることになる。

 このビジネス形態が採用されることで、ユーザーは好きなゲームショップのオンラインショッピングサイトで定価より安い価格でデジタル版を購入できるようになる。この柔軟なシステムのおかげで、1番得するのは、これまでより安い値段でソフトを購入できるユーザーだと思う。よく考えれば、発売日から何週間か経過すると、都内のゲームショップでパッケージソフトが半額ぐらいになるケースもあるので、デジタル版ソフトも、同じ扱いを受けると考えると、時間が経てば経つほど、ゲームが安くなるという利点がある。

 また、ゲームのシリーズ作品をセットで購入すると、さらに安くなるような機会を設ければ、デジタル版のさらなる普及を目指せると思う。任天堂の提案した、この自由な販売システムは、ゲームショップ間の競合をこれまでより激化させ、ゲーム市場の潤滑油になるとを予測している。

 デジタル版の販売のニュースと同時に、岩田社長は有料追加コンテンツについて次のように述べた。

 「追加コンテンツ販売を意識するあまり、パッケージとして未完成と受け止められるような商品を任天堂としてご提案するつもりはない」。

 もちろん、有料追加コンテンツのある商品の発売が予定されているが、その販売形態はある意味、最初から完成度の高いソフトの提案を大切にしてきた任天堂のポリシーに反対していると思う。追加コンテンツを、ソフトを完成させる要素としてでなく、おまけとして考えるべきという考え方に僕も賛成している。


デジタル版も提供される最初のタイトルは「New スーパーマリオブラザース2」だ。その価格がパッケージ版より安くなるかどうかは、まだ不明だ

(C) Nintendo

□関連情報
【2012年4月27日】任天堂、2012年3月期決算短信を発表
3DSのソフトデジタル版販売は小売店で値付けが可能に!
http://game.watch.impress.co.jp/docs/news/20120427_529952.html





■ 傑作の如く ~期待している新作TOP5~

僕が期待している発売前後の新作TOP5。さまざまな情報をもとに、各ゲームのシステムやグラフィックスといった要素の中で僕が魅力的に感じたところを紹介していく。必ずしもメジャーなタイトルではなくて、逆に注目して欲しいマイナーな作品をピックアップすることもある。

(C)CAPCOM CO., LTD. 2012 ALL RIGHTS RESERVED.

1位:ドラゴンズドグマ
   プラットフォーム:PS3/Xbox 360
   ジャンル:オープンワールドアクション
   発売元:カプコン
   発売日:5月24日
   価格:各7,990円
   CEROレーティング:D
   プレイ人数:1人(多人数ネットワーク)

 配信中の体験版をプレイし、期待度がさらに上がった。見事な統一感を誇るファンタジー世界での戦闘は、爽快感抜群で気持ちいい。キャラクターエディットの豊富な項目にもびっくりした。そのおかげで、作れないキャラクターは存在しない! ポーンの育成要素はまだ体験できなかったが、製品版でじっくり楽しみたいと思う。

□カプコンのホームページ
http://www.capcom.co.jp/
□関連情報
【2012年4月27日】カプコン、PS3/Xbox 360「ドラゴンズドグマ」
最新映像「コカトリス戦」、「5thトレーラー」を公開
http://game.watch.impress.co.jp/docs/news/20120427_529908.html





(C) KADOKAWA GAMES / GRASSHOPPER MANUFACTURE

2位:LOLLIPOP CHAINSAW
   プラットフォーム:PS3/Xbox 360
   ジャンル:ハッピーゾンビエンターテインメント
   発売元:角川ゲームス
   発売日:6月14日
   価格:各7,990円
   CEROレーティング:D(通常版)
   CEROレーティング:Z(PREMIUM EDITION)
   プレイ人数:1人

 欧米でも熱狂的なファンを持つ、須田剛一氏の最新作がいよいよ発売される。チアリーダーの主人公、ジュリエットが、チェーンソーでゾンビの群れと戦っていく。内容はグロテスクなのに、須田氏ならではのポップでキュートな演出のおかげで、バイオレンスが苦手な人も受け入れられると思う。要所に挿入されたミニゲームも、過去のゲームへのオマージュばかりだ。

□角川ゲームスのホームページ
http://www.kadokawagames.co.jp/
□関連情報
【2012年4月27日】角川ゲームス、PS3/Xbox 360「LOLLIPOP CHAINSAW」
体験会おすすめポイントを、先行プレイで体験した筆者が紹介!
http://game.watch.impress.co.jp/docs/news/20120427_529654.html





(C)Sony Computer Entertainment Inc.

3位:TOKYO JUNGLE
   プラットフォーム:PS3
   ジャンル:サバイバルアクション
   発売元:SCEJ
   発売日:6月7日
   価格:4,980円(パッケージ版)
      3,800円(ダウンロード版)
   CEROレーティング:C
   プレイ人数:1~2人

 動物達だけが生き残った未来の東京。プレーヤーは50種類以上の動物を操作して、東京というジャングルで生き延びる為の過酷な戦いを始める。本作の独特なテイストに魅了された。構造も面白い。サバイバルモードで拾ったアーカイブでストーリーモードのエピソードがプレイできるようになっていく。なぜ人類が滅んでしまったのか、早く知りたい!

□プレイステーションのホームページ
http://www.jp.playstation.com/
□関連情報
【2012年5月7日】SCEJ、PS3「TOKYO JUNGLE」
全国で店頭体験会を実施
http://game.watch.impress.co.jp/docs/news/20120507_531103.html





(C)LEVEL-5 Inc. (C)GRASSHOPPER MANUFACTURE INC. (C)VIVARIUM Inc.

4位:GUILD01
   プラットフォーム:3DS
   ジャンル:ゲームオムニバス
   発売元:レベルファイブ
   発売日:5月31日
   価格:3,980円
   CEROレーティング:B

 4人のクリエーターが独自の発想で作ったゲームが詰まった、レベルファイブの革新的ともいえる新プロジェクト「GUILD01」がもうすぐ発売される。僕が特に魅力的に感じたのは、数々のヒット作を手がけた松野泰己氏の「クリムゾンシュラウド」だ。ドラマはサウンドノベル形式で表現され、そして、バトルなどハプニングの行方はテーブルトークRPGならではの懐かしいダイスロールで決められる。

□レベルファイブのホームページ
http://www.level5.co.jp/
□関連情報
【2012年4月19日】レベルファイブ、3DS「GUILD01」
「タイムトラベラーズ」の特別編を収録
http://game.watch.impress.co.jp/docs/news/20120419_527665.html





(C) WorkJam / ARC SYSTEM WORKS

5位:探偵 神宮寺三郎 復讐の輪舞
   プラットフォーム:3DS
   ジャンル:推理アドベンチャー
   発売元:アークシステムワークス
   発売日:6月28日
   価格:5,040円
   CEROレーティング:B
   プレイ人数:1人

 新宿をベースにする日本のゲームで最も有名な探偵が帰ってきた! 25周年だけあって、本作はグラフィックス面でも過去の作品を超える完成度になっている。今回の神宮寺はなんと殺人容疑で逮捕される。警察からもヤクザからも追われている、逃走中の神宮寺は容疑を晴らす為に事件を解決できるのか? 3Dで表現された探索パートが本作の見どころの1つだ。

□アークシステムワークスのホームページ
http://www.arcsystemworks.jp/
□関連情報
【2012年4月13日】アーク、3DS「探偵 神宮寺三郎 復讐の輪舞」
シリーズ25周年記念タイトルが3DSに初登場
http://game.watch.impress.co.jp/docs/news/20120413_526271.html





■ 過去の宝物 ~こよなく愛した過去の思い出の作品をピックアップ!~

ゲームは技術的に進化する。グラフィックスが綺麗になる。ポリゴンの数が増える。ゲーム内の景色が実写と見間違えるほどリアルなものになってきている。しかし、時代が変わっても必ずしも進化しないものもある。それはゲームの面白さだ。昔のゲームはグラフィックスはシンプルだが、面白さでは今のゲームに負けていない。いや、それに勝る特別な何かを持っている作品もあると思う。秋葉原のゲームショップや家庭用ゲーム機のオンラインストアで安く購入できる過去の傑作は山ほどある。このコーナーでは、僕が愛した昔のゲームをピックアップしていきたいと思う。具体的なゲーム内容よりも、僕のその作品に対しての気持ちを伝えることができればと願っている。

【リズム天国 ゴールド】

プラットフォーム:DS
ジャンル:ノリ感ゲーム♪
発売元:任天堂
発売年:2008年
価格:3,800円
CEROレーティング:A
プレイ人数:1人


 会社で上司に怒られる日がある。学校で先生に叱られる日がある。しかし、どんなに落ち込んでいても、嫌な思いが一瞬で吹き飛ぶ方法がある。それは、帰りの電車で「リズム天国 ゴールド」で遊ぶことだ。その陽気さで、幸せな気持ちになることは間違いない!

 2006年に誕生(ゲームボーイアドバンス版)したシリーズだが、作品の中で特に面白いと思うのは、2008年に発売されたDS版の「リズム天国 ゴールド」だ。前作同様、本作はリズム感を要求する様々なリズムゲームで構成されている。それに加え本作では、DSの特徴を生かし、タッチペンによる操作が導入され快適さが増した。ゲームをクリアする為に、ボタンではなく、タッチペンを使ってタッチスクリーンをリズミカルにタッチしていく。


新たに導入されたアクション「はじく」。最初のリズムゲーム「組み立て」では、音楽に乗って板をはじき、部品を組み立てていく

 「リズム天国 ゴールド」が、これだけゲーマー達に親近感を抱かせるのには理由がある。1つは良い意味で、子供が描いたようなグラフィックスだと思う。子供の頃、電話しながらノートに描いた訳のわからないキャラクター。夢に見そうな、曖昧な面白おかしいシチュエーション。このゲームのリズムゲームやキャラクター達にはそういう独特な魅力があると思う。


懐かしいシューティングゲームを彷彿とさせるリズムゲームも用意されている「ピンポン」では、テレビのような四角い頭を持ったキャラクターたちが、音楽のリズムに従ってピンポンをやっている「モアイソング」では、相手のモアイが喋った言葉を、タッチペンで押すことで繰り返していく

 例えば、「リフティング」というリズムゲームでは、曲のリズムに乗りながらサッカーボールを操るが、主人公はサッカーの選手ではなく、宇宙を浮遊する台の上に乗った変わった生き物となっている。

 また、「ラブソング」というリズムゲームは、トカゲの背中をリズムに乗ってタッチペンでなで、愛情を伝えるという内容になっている。開発者達が夢から覚めてすぐ、夢の内容をそのまま表現したかのような非現実的なシチュエーションの連続に驚くばかりだ。

 僕は、いくつかのゲームが日本という社会をパロディーにしていると思う。例を挙げると、「アイドル」というステージがそうだ。アイドルの歌に乗って拍手するというリズムゲームで、面白いと思ったのは観客達の表現方法だ。プレーヤーがリズムを間違えると、隣の猿がプレーヤーのほうに振り返り、怒った顔を見せる。何度見ても本当に面白い演出だ。

 アイドルの歌も、ジャンルの特徴を凝縮していると思う。「スキスキスキ」、「昨日よりも」のあとに、それまでの歌詞に曖昧さを与える「…かもね」という言葉が加わる。「はい」、「いいえ」をはっきり言えない、日本人の常識を示唆しているのではないだろうか。

 「コーラスメン」でも、面白いリアクションが見られる。プレーヤーが、口を開けたり、閉めたりするタイミングを少しでも間違えると、隣のキャラクターが迷惑をかけられたという、いかにも日本人的な表情を見せる。


「ラブソング」のトカゲたちは、言葉で言い表せないぐらいキュートだ。他のリズムゲームと合唱するリミックスステージではさらに魅力的になるどんな些細なことでも無視できないという、日本社会の厳しさを表現しているのではないだろうか

 「リズム天国 ゴールド」は、芸術面でも優れているゲームだと思う。最も感動を覚えたのは、紛れもなく「ウラオモテ」というリズムゲームだ。画面を埋め尽くす白黒のキャラクター達が、所々にテンポを変えながら踊る。僕は、このリズムゲームがリズム的に1番難しいと感じた。映像に注意を払いすぎると、逆に音を聞き逃してしまう恐れがある。目を閉じたままプレイしたほうが、最後までリズムを取り続けることができた。

 映像と音楽の融合が最も強く感じられるのは、それまでのリズムゲームを交互に使った“リミックス”だ。ゲームというのは何回も遊べば、いつか飽きてしまうものだが、“リミックス”は、クリアした直後にまたクリアしてみたいという気持ちにさせてくれる。シチュエーションの面白さもその気持ちを煽るし、明るい音楽もプレーヤーの親近感を高めていると思う。

 演出が面白いからもったいない気もするが、その気になればすべてのリズムゲームは画面を見なくてもクリアできるのだ。個人的には、目を閉じたまま挑んだほうが成功率が上がるものもある。なぜなら、本作は映像ではなく、音を中心にした体験を提供するゲームだからだ。リズム感を養うという教育的な要素も持っているのだ。

 やり込み要素も豊富だ。ハイレベルで各ゲームをクリアするとメダルがもらえる。集めたメダルで、リズムゲームやギターレッスンなどの追加要素をプレイできるようになる。さらにゲームをパーフェクトでクリアすると、キャラクター達のストーリーを深める読み物が閲覧できる。

 ゲームは、面白ければ面白いほど短時間でクリアしてしまう。「リズム天国 ゴールド」もその部類に入る。しかし、クリアした後も、必ずと言っていいほどまた遊びたくなる日が来る。上司に怒られる日がずっとあるように、本作に癒されたい日が必ずあるのだ。


各ゲームをクリアすると、プレイ内容が評価される。ここで、リズム感の優れたプレーヤーはオマケ要素を購入する為に使われるメダルを獲得できる読みモノをすべて集めるには、すべてのゲームをミスせずにクリアする必要がある。難易度の高い、最後の試練だ


【グッジョブ!】【異議あり!】
キャラクター達が面白い短時間でクリアできる
音楽が陽気 
やり込み要素が多い 
幸せになれる 

(C) 2008 Nintendo (C) 2008 つんく♂ Co-developed by TNX

□任天堂のホームページ
http://www.nintendo.co.jp/





■ イタヲタのレトロなゲームライフ ~ハプニング満載のオタク人生~

僕のゲーマーとしての人生を懐かしさたっぷりで語っていきたい。毎回、特定の時代をセレクトして、自分の記憶への冒険をしたいと思う。最終的には1つのストーリーになる。僕というオタクのストーリー。僕という和ゲー好きゲーマーのストーリー。文章だけでなく、クライマックスのシーンをもっとダイレクトに伝える為に漫画も使うことにした。ちなみに漫画は、今イタリアで注目の若手漫画家に描いてもらった。とにかく、日本ではありえないシチュエーションについてたっぷり語っていくので、本当に面白いコーナーになると思うぞ!

今回の時代設定:1995年
イベント:「DAYTONA USA」のセガサターン版が発売!
ハプニング:所持金が足りない!購入する為に他の方法はないか!?

 ゲームセンターが、家庭用ゲーム機の性能を遥かに超えていた時代。業務用ゲームが、新しいグラフィックス技術でゲーマーの度肝を抜いていた。特にイタリアで確固たる認知度と人気を誇っていたのが、セガのゲームだった。「バーチャレーシング」と「バーチャファイター」でポリゴンという概念を積極的にゲームの世界に取り入れた草分け的な存在でもあった。

 僕はゲーム友達のエマちゃんと、週末に家から遠いゲームセンター、「エキストラボール」に行っていた。ローマのゲーマー達が集う、有名なゲームセンターだった。どのゲームセンターよりも早く、豪華な新作を導入していた。

 「バーチャレーシング」の大ファンだった僕たちはある日、「エキストラボール」でセガの新作レースゲームを発見した。店内から聞こえてきた独特なサウンドで、その存在をすぐ確認できた。「デイトーーナァーー」という印象的なBGM。そう。ローマのゲームセンターにも、世界中のゲーマーを夢中にさせようとしていた、あの名作レースゲーム、「DAYTONA USA」が届いていたのだ!

 画面を見た時の感動は、まだ鮮明に残っている。「バーチャレーシング」のすごいと思っていたグラフィックスは、一瞬にして忘れてしまった。1/60秒=60フレームだったし、背景と車のポリゴン数も圧倒的に増えていた。そして、ポリゴンには、リアルなテクスチャーマッピングが施されていた。ゲーム性も感動するほどよかった。高速に走る車をうまく操縦する為にどれだけのコインを投入したのだろう。本当に素晴らしい体験だった。

 エマちゃんも「DAYTONA USA」の大ファンになった。僕もエマちゃんも、いつか家でも忠実な移植版がプレイできたらいいなと強く願った。当時、僕たちはセガサターンを持っていた。キラーソフトの「バーチャファイター」も購入しており、毎日のように2人で楽しく遊んでいた。しかし、「DAYTONA USA」はテクスチャーマッピングがあり、果たしてセガサターンでもそれが実現できるのだろうかと、2人で同じ心配をしていた。

 そして、ずっと待ち望んでいた日が来た。1995年4月1日にセガサターン用の「DAYTONA USA」が発売された。早速、その3日後に日本のゲームソフトを扱っていたゲームショップに電話した。果たして、既に入荷しているのだろうか?

 「あの、セガサターン用の『DAYTONA USA』を探しているんですが……」
 「今朝、届いたばかりです」

 店員のセリフが終わった直後に僕とエマちゃんはバス停の前にテレポートしていた。ローマの中心にある、例のゲームショップに向かう為に……。

 「エマちゃん、信じられる? 今から2時間後に、家で最愛の『DAYTONA USA』で遊べるよ。まさか、この日が来るとは!」

 エマちゃんは感動で言葉を失っている。バス早く着いてと、頭の中で思っているに違いない。バスに揺られること45分。ゲームショップの近くのバス停で降りた。あと5分歩けば、「DAYTONA USA」に出会えるのだ。

 この店は初めてではなかった。スーパーファミコン時代からよく一緒に来ていた。価格は他の店よりやや高かったが、品揃えが豊富で、新作の入荷がどこよりも早いと評判だった。店の入り口の前に到着。早速入って、店員に聞こう。

 「一時間前に電話したものですが、『DAYTONA USA』を下さい」

 前置きが短すぎ。単刀直入というのは、こういうことだろう。

 「はい、お客さんの探しているゲームはこれですね」。店員は、後ろの棚からピカピカのパッケージを取り出した。「DAYTONA USA」のカッコいいロゴが顔を出した。

 「はい、2つ下さい。僕とエマちゃんの分ね」。エマちゃんは信じられないというような表情で完全に無口になっている。

 「新作なので、ちょっと高めのこの価格になっていますが、大丈夫ですか?」

 マンマミーア!!

 確かに高い。こんなに高いとは思わなかった。今、ポケットに入っている、僕の貴重な所持金の全てだ。ちょっともったいない気もするが、『DAYTONA USA』だから、買わないわけにはいかない。その時、エマちゃんは後ろから僕の袖を引っ張ってくる。

 「どうしたの?」

 「ちょっと、いい?」と言って、エマちゃんは僕を店の外まで連れ出した。

 「お金が足りない」
 「えっ?」
 「あと1万リラ(500円ぐらい)あれば、買えるけどね」
 「僕貸せないよ。僕のぶんでギリギリだ」
 「そっか……」

 エマちゃんは肩を落としている。人生が終わったかのように落胆している。他に方法がないか、考え始める。その時、エマちゃんは再度、財布の中身を確認した。

 「1万リラ分のテレフォンカードなら持っているけど、払えないよね、それじゃあ」
 「無理だろう」

 その時、ある考えが頭の中で浮かび始めた。今、僕たちが置かれているのは推理アドベンチャーゲームのようなシチュエーションだ。持っているアイテムをうまく活用すれば、この状況を打開できる可能性が十分にある。

 「エマちゃん、そのテレフォンカードは君を救えると思う」
 「ほ、本当?」

 エマちゃんの心配顔は一気に驚きへと変わった。

 「でも、どうやって?」
 「テレフォンカードを必要としている者が、この周辺にいるかもしれない」 
 「なるほど……」

 早速、周辺にテレフォンボックスがないか探し始める。道の奥にそれらしき物体がありそうな気がしたから、さっそく行ってみた。「DAYTONA USA」の在庫がなくなる前に、この任務を遂行しなければならないのだ。

 見間違いではなかった。確かにそれはテレフォンボックスだった。しかも、今、ある女性が電話をしている。元恋人との電話なのか、会話の内容はとても熱いものになっている。仲直りしたかと思ったら、次の瞬間、また泣き始めるではないか。電話が長くなりそうだ。ちょっと待って! 長い電話、イコール、コインが必要になる。この女性にはテレフォンカードが必要なのかもしれない。

 「エマちゃん、売るのだ! この女性にテレフォンカードを売るのだ!!」
 「でも……」。自信のなさが特徴のエマちゃんが、小さい声で言う。

 「今しかない! 早く!!」



 と言って、エマちゃんの背中を押す。その勢いでエマちゃんはテレフォンボックスのドアにぶつかる。中の女性が彼の存在に気づき、振り返る。ドアを開けて、エマちゃんにこう言った。

 「ごめんね、あと少しで終わるから」
 「いいえいいえ、ごゆっくり!」

 なにそれ? ほらエマちゃん、アイテムを使え!

 「あの、もし必要でしたらテレフォンカードを売りますよ」

 言えた! 果たして、女性はどの反応を見せるのだろうか?

 「……?」。一瞬、女性はエマちゃんのことを疑っているかのように思えた。しかし、次の瞬間、口を開きこう言った。

 「あなた、ちょうどいいところに来たわ! 硬貨がなくて困っていたのよ。はい、1万リラです」

 純粋なゲーマー達を神様が無視するわけがない。エマちゃんは女性に礼を言い、僕と同時にゲームショップに向かって走り出した。これで、エマちゃんも「DAYTONA USA」を購入できるのだ!

 その日の夕方。エマちゃんと家に戻った。ミッションは無事にクリアした。セガサターン用の「DAYTONA USA」のイタリア人ユーザーが2人増えた。正直に言って、業務用版のフレームレート数とポリゴン数は再現できていなかったが、それでも追加要素のお陰で十分に楽しめた。そして、あの印象的な「デイトーーナァーー」を家で聞けるとは、本当に嬉しかった! その日は、大切なことも教わった。“人生は推理アドベンチャーゲームなのだ”。所持アイテムと脳細胞を活用すれば、突破できない状況はないという教訓だった。


【番外編】

 学生の頃遊んでいた、ローマの有名なゲームセンター「エキストラボール」に行ってみた。悲しいことに、新作が少なくゲームのスペースが減っていた。その代わり、スロットマシンのホールが新設されていた。しかし、「DAYTONA USA」はまだあった。昔のままで、あのコーナーだけは何も変わっていなかった。涙が出そうになった。昔、学校の後、エマちゃん達とここによく遊びに来ていた。ローマでもゲームセンターの時代がまた来ることを願っている!





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(2012年5月11日)

[Reported by ジョン・カミナリ ]