【第5幕】
Reported by:ジョン・カミナリ
logo design:フランチェスコ・アッカッターティス
manga:ベッティちゃん

 電遊。辞書に載っていない造語である。電気的な遊び。いわゆる、テレビゲーム。道。その道を、自分の価値観だけを信じて最後まで歩むのが、侍精神である。電遊道は、妥協を許さないサムライゲーマーが歩むべき道。他人に影響されることなく、自分のゲーマーとしての信念を貫き通せばいい。たとえ、ゲームが別の道に進んでも、自分の好きな道をずっと信じ続けるのみ。たとえ、“これこそがゲームの未来形だ!”と言われても、自分の好きなゲームライフを思う存分楽しむのみ。

 この連載記事では、毎月1回、僕のゲーマーとしての物語、そしてゲーマーとしての哲学や信念を独特なスタイルで紹介していきたいと思う。日本のゲームに大きく影響を受けた僕のゲーマー人生を、イタリア人としての個性を生かして面白く語りたいと思う。あるときは、話題沸騰中のニュースについて掲載ギリギリのところまで正直な感想を書いたり、またあるときは、今でも心に大切にしまっている過去の作品を振り返ってみたいと思う。

 1番注目して欲しいのは、「イタヲタのレトロなゲームライフ」というコーナー。僕のオタクとしての青春を文章と漫画を交えて懐かしく振り返りたいと思う。連載の途中で新しいコーナーも生まれるのかもしれない。回を追う毎に中身が変わったり増えたりするのかもしれない。とにかく、サプライズたっぷりの連載を目指しているので、末永くこのページの中で付き合って欲しい!

ジョン・カミナリ(芸名)
国籍:イタリア 年齢:35歳
職業:俳優、声優、タレント、テレビゲーム評論家
趣味:テレビゲーム、映画鑑賞、読書(山田悠介)、カラオケ
主な出演作品:銀幕版スシ王子!(ペぺロンチーノ役、デビュー作)、大好き!五つ子(アンソニー・ジャクソン役)、侍戦隊シンケンジャー(リチャード・ブラウン役)、ピラメキーノ(テレビ東京、月曜~金曜 18時30分~19時放送中)
ブログ:ジョン・カミナリの、秘密の撮影日記
 イタリアで6年間テレビゲーム雑誌の編集部員として働いたあと、新しい刺激を求めて2005年に大好きな日本へ。子供の頃から夢見ていた役者の仕事を本格的に始める。堤幸彦監督の「銀幕版スシ王子!」で個性的なマフィアのボス、ぺぺロンチーノを熱演。現在もTVドラマやTVゲームなどで、俳優・声優として活躍中。日本語を勉強し始めたのは23歳のとき。理由は「ファイナルファンタジーVII」や「ゼノギアス」などのRPGの文章を理解するため。好きなジャンルはRPGと音楽ゲーム。「リモココロン」のような個性的なゲームも大歓迎。お気に入りのゲームは「ゲームセンターCX」と「ワンダと巨像」。芸名はイタリア人の友達に、本人が雷のように予想不可能なタイミングで現われるからという理由で付けられた。将来の夢は、「侍戦隊シンケンジャー」に出演した時から大好きになった戦隊モノにまた出演すること



【もくじ】
一刀両断~話題のゲームニュースについて鋭くコメントしちゃうぞ!~
傑作の如く~期待している新作TOP5~
過去の宝物~こよなく愛した過去の思い出の作品をピックアップ!~
イタヲタのレトロなゲームライフ~ハプニング満載のオタク人生~


 

■ 一刀両断 ~話題のゲームニュースについて鋭くコメントしちゃうぞ!~

 話題のニュースや注目のテーマをピックアップして僕の率直なコメントを載せたいと思う。また、現在のゲームが抱えている問題を解決するアイデアや提案も、このコーナーを通じて考えてみたいと思う。ゲーマーの皆が納得できる未来の為に!

・今回のテーマは……
初めての“極上3D悪魔城ドラキュラ”が、果たして誕生するのか?

 2Dと3D。ドットとポリゴン。映画と同じように、ゲームも時代が進むとともにグラフィックスが進化していった。四角いドットで作られたキャラクターから、リアルなポリゴンでできたキャラクターへ、ゲームの世界も平面的なステージから360度自由に歩き回れる環境へと姿を変えていった。ある意味、昔のゲームっぽさを失い、現実世界の模写になりつつあるとも言える。

 2Dで生まれたシリーズが3Dになることによって、さまざまな結果が生み出された。2Dだったからこそ楽しめたゲーム、3Dになったことで従来の良さをうまく表現できなかったゲーム。逆に、3Dになったお陰で、新たな可能性を提供できたゲームもあった。

FC・ディスクシステム版「悪魔城ドラキュラ」

 今回、注目して欲しいのは、KONAMIの「悪魔城ドラキュラ」シリーズだ。

 ファミコンで1986年に生まれた「悪魔城ドラキュラ」は、吸血鬼ドラキュラを討伐するために、数々のモンスターが徘徊する城(とその周辺)を探索していく、バンパイアキラーの主人公の冒険を描写している。横&縦スクロールで進行するステージで、トラップを突破しながら、ムチでモンスターを倒していく絶品アクションゲームだ。

 「悪魔城ドラキュラ」シリーズは、スーパーファミコン版でも同じような形式で続いた。そして、PCエンジンのSUPER CD-ROM2用に開発された「悪魔城ドラキュラX 血の輪廻」が、新たな進化を遂げた。アニメを使ったイントロ、CD-ROMのパワーをフルに活かしたサウンド、それから「悪魔城伝説」で初めて採用された「ステージ内の分岐点」という要素を、さらに充実させた続編でもあった。

PS版「悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲」

 1997年。ドットがポリゴンに移り変わっていく中で、KONAMIは2Dの世界に残ることを決断する。そして、プレイステーション用の「悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲」(悪魔城ドラキュラX)が生まれる。アメリカやヨーロッパのプレーヤーたちは、本作の素晴らしさに感激した。

 任天堂の「メトロイド」シリーズからインスピレーションを受けたのか(アメリカ人が『月下の夜想曲』のことを“Metroidvania”という愛称で呼ぶ)、探索という要素に拍車がかる。

 広大な城には、多くの隠しエリアが用意されていたし、主人公が武器や装備を変えられるRPGのような要素も初めて導入された。「悪魔城ドラキュラX」は、欧米のプレーヤーたちに「悪魔城ドラキュラ」シリーズの最高傑作として崇められた。まさに伝説の誕生だ。

N64版「悪魔城ドラキュラ黙示録」

 ところが、その2年後(1999年)に暗雲が漂い始める。プラットフォームの転換期を迎え、ニンテンドー64版「悪魔城ドラキュラ黙示録」はポリゴンの世界に突入する。「スーパーマリオ64」が始めた“流行”に従い、ほかのメーカーも自らのシリーズを2Dから3Dへと進化させるという結論に至る。KONAMIもそうだった。

 しかし、世界中の多くのプレーヤーが本作をプレイして、2Dならではの面白さや快適さが失われたと嘆いた。“3D悪魔城”の制作は難しい。そういう空気が、プレーヤーたちの間で流れ始めていた。

 やはり、「悪魔城ドラキュラX」は最高傑作だ。プレーヤーたちの気持ちはその言葉でまとまっていた。最高傑作と言われるようになった頃から、開発者たちは“息子”へのコンプレックスを感じ始めたのではないだろうか。

 もうこれ以上、「悪魔城ドラキュラ」の世界を進化させることは不可能なのか?「悪魔城ドラキュラX」以上のクオリティを持つ続編を制作することは不可能なのだろうか?開発者たちのプレッシャーは大きかったと思う。

 大胆なアレンジをして失敗するよりは、取りあえず同じ形式を繰り返したほうが得策ではないかと。その決断から「悪魔城ドラキュラX」の“チルドレン”が誕生していく。GBA版、そしてニンテンドーDS版と、数々の続編が発売されていく。安定したクオリティで提供していたが、これといった驚きも見られなかった。

 それと(ほぼ)同時に、PS2用の“3D実験”が進められていた。2003年の「キャッスルヴァニア」と、2005年の「悪魔城ドラキュラ 闇の呪印」がそうだ。だが、残念ながら両作品とも良い意味で印象に残るような出来栄えではなかったと思う。開発チームは、シリーズの醍醐味を3Dで表現できなかったという印象を受けた。

 グラフィックスは合格点だったが、ゲームの内容としては、同じ部屋をずっと探索しているような感じだった。2Dの作品で面白かったギミックやマップ構造は、3Dの作品では見つけることができなかったという声が多かった。これは、僕自身の意見であったが、当時の欧米のプレーヤーの主な意見でもあった。

 「悪魔城ドラキュラ」ならではのバラエティ、スリル感、面白さはどこに?という悲しい結果になってしまった。個人的には、3D化は「悪魔城ドラキュラ」シリーズには向いていないのではないかと思い始めた時期でもあった。ずっと2Dの作品を発売して欲しいとその時は強く願った。

PS3/Xbox 360版「Castlevania -Lords of Shadow-」

 それから5年が経過した。シリーズを再構築するために、KONAMIは沢山の歳月を要した。そして、今年その成果が現われた。PS3/Xbox 360版「Castlevania -Lords of Shadow-」。KONAMIいわく「シリーズのリボーン」。つまり“再生”。

 ほぼすべての要素をゼロから考え直し、シリーズにとっての新たなスタートとなった。僕も、今年の東京ゲームショーで体験版をプレイし、その魅力と新たな可能性に圧倒された。最高水準の豪華なグラフィックス、3Dなのに2Dのような遊びやすさ、そして、スタイリッシュなアクションから生まれる爽快感。少なくとも、このリボーンは個人的に大正解だと思った。

 ちなみに本作は、欧米では発売済み。雑誌やユーザーのレビューに目を通してみると、評判は上々であることがわかった。しかし、いくつかの指摘もあった。「これはもう『悪魔城ドラキュラ』ではない」。「『悪魔城ドラキュラ』の続編を期待していたユーザーは、落胆するかもしれない」。「従来の特徴は見つけられない」。「これは、まさに『悪魔城ドラキュラ』の“GOD OF WAR”バージョンなのではないか」という声もあった。

 それは、僕も東京ゲームショウで体験した時に、確かに同じようなことを感じた。「悪魔城ドラキュラ」シリーズ本来の特徴が失われたのではないかと思った。

 しかし、失われたものばかりではない。爽快感溢れるアクションや豪華なグラフィックスなど、現在の若いユーザーに受け入れられるような要素もたくさん盛り込まれている。よって、本作は正当な続編というよりも、新たな作品として生まれ変わったと解釈したほうが妥当だと思う。2Dの作品と同時に歩んでいくような、新たな「悪魔城ドラキュラ」。どちらも共存できると思う。そして、どちらもファンを獲得していくだろう。

 話は変わるが、有名なシリーズの成功確率を上げるための手段の1つとして「グローバル化」があると思う。「あのゲームがすごく売れた。じゃあ、あのゲームに似せたゲームを作ろうじゃないか」という会話は、昨今のゲームメーカーの会議室で連発されているのではないだろうか。2Dと3Dという課題を乗り越え、売れる形にしようと。これできっと、我が社のゲームも支持されるだろう。

 もちろん、考え方は正しいと思う。しかし、グローバル化が進み過ぎると、各作品の持つ個性がだんだん薄れていく可能性もある。問題は、絶対的な手段がないということだろう。2Dに適したシリーズもあれば、3Dになると長所が増えるシリーズも存在する。

 そして、グローバル化によって、成功する確率が飛躍的に上がるゲームもあるだろう。ただし、グローバル化というのは、世界中の常識や流行に絶対的に従うのではなく、試行錯誤しながら(アイデンティティを保ちながら)進めていくのがいいのかもしれない。

 もちろん「悪魔城ドラキュラ」シリーズも、100%“GOD OF WAR”になるべきだとは全然思わない。生まれた時の伝統的な特徴を守りながら、欧米でも受け入れられるような要素も盛り込めばいいと思う。だからこそ、今回の「Castlevania -Lords of Shadow-」は、久しぶりの大成功として認められると信じている。

「Castlevania -Lords of Shadow-」は、スペインのMercury Steamが開発した。国内の名シリーズを海外の開発チームに委託するという決断は、勇気が要ると思った。過去には失敗例もあったので、海外メーカーとの相性が良くないと、良い成果が出せないという見方もできる。しかし今回は、小島プロダクションの監修があったお陰で、制作は良い方向に向かったと思う。やはり、国内メーカーと海外メーカーが、お互いの長所を活かしてゲームを開発することが現在のゲーム市場をもっと豊かにするために必要ではないだろうか?

(C)2010 Konami Digital Entertainment

□KONAMIのホームページ
http://www.konami.jp/
□小島プロダクションのホームページ
http://www.konami.jp/kojima_pro/japanese/
□「悪魔城ドラキュラ」シリーズ総合サイト
http://www.konami.jp/gs/game/dracula/
□「Castlevania -Lords of Shadow-」のページ
http://www.konami.jp/castlevania/jp/
□関連情報
【2003年12月22日】「キャッスルヴァニア」のルーツ
「悪魔城ドラキュラ」シリーズを振り返って
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20031222/cv_3.htm


■ 傑作の如く ~期待している新作TOP5~

 僕が期待している発売前後の新作TOP5。さまざまな情報をもとに、各ゲームのシステムやグラフィックスといった要素の中で僕が魅力的に感じたところを紹介していく。必ずしもメジャーなタイトルではなくて、逆に注目して欲しいマイナーな作品をピックアップすることもある。

(C)2010 Nintendo / MISTWALKER

1位:ラストストーリー
   プラットフォーム:Wii
   ジャンル:RPG
   発売元:任天堂
   発売日:2011年1月27日
   価格:未定
   CEROレーティング:B

 「Nintendo Conference」で実際に遊んだ瞬間から新たな傑作RPGが誕生すると思った。ステルス、アクション、ストラテジーの3つの要素が絶妙なバランスで織り成された戦闘パートに注目して欲しい。仲間への指示はコントロールスティックで行なうが、ヌンチャクを左右に振るなどもっと直感的なコマンド選択が実現すればさらに快適になるのではないかと思う。

□任天堂のホームページ
http://www.nintendo.co.jp/
□関連情報
【2010年7月8日】任天堂、Wii「THE LAST STORY(ラストストーリー)」
プレイシーンを含むムービーを初公開!!
http://game.watch.impress.co.jp/docs/news/20100708_379343.html

(C) 2010 Konami Digital Entertainment. Developed by Mercury Steam Entertainment

2位:Castlevania -Lords of Shadow-
   プラットフォーム:PS3/Xbox 360
   ジャンル:アクション
   発売元:KONAMI
   発売日:12月16日
   価格:7,980円
   CEROレーティング:D

 シリーズのファンを本当に納得させられる3Dの続編が、とうとうやってきた。製品版をクリアしたわけではないが、体験版を遊んでみたところ、皆が待ち望んでいた爽快感溢れる“3D悪魔城ドラキュラ”が実現したようだ。アメリカ発のあの大作からいくつかのアイディアを借りたと思われるが、面白いならそれを指摘する必要はないと思う。

□KONAMIのホームページ
http://www.konami.jp/
□関連情報
【2010年10月26日】KONAMI、PS3/Xbox 360「Castlevania -Lords of Shadow-」
PS3本体と「MGS4 PS3 the Best」を同梱したパッケージを同時発売
http://game.watch.impress.co.jp/docs/news/20101026_402643.html

(C)LEVEL-5 Inc.
※画像は開発中のものです。

3位:二ノ国 漆黒の魔道士
   プラットフォーム:DS
   ジャンル:ファンタジーRPG
   発売元:レベルファイブ
   発売日:12月9日
   価格:6,800円
   CEROレーティング:A

 レベルファイブとスタジオジブリの夢の共演による作品。特に凄いと思ったのは、同梱の「マジックマスター」という指南書。352ページで、しかも挿絵も沢山載っているそうだ。この本の情報をヒントにしてゲーム内の謎をクリアしていくという前代未聞の遊び。唯一の疑問点は……電車の中でも本を見る必要がある?

□レベルファイブのホームページ
http://www.level5.co.jp/
□関連情報
【2010年9月17日】レベルファイブブースレポート
「ニノ国 白き聖灰の女王」と「ダンボール戦機」の試遊台を初出展
http://game.watch.impress.co.jp/docs/news/20100917_394730.html

(C)2010 CHUNSOFT
※画面写真は開発中のものです。

4位:不思議のダンジョン 風来のシレン5 フォーチュンタワーと運命のダイス
   プラットフォーム:DS
   ジャンル:ダンジョンRPG
   発売元:チュンソフト
   発売日:12月9日
   価格:6,090円
   CEROレーティング:B

 1,000回遊べる人気シリーズ。実は僕も「風来のシレン」の大ファンの1人だ。今回、シレンは不治の病にかかった恋人を助けたい新キャラクターのジロきちと共に、フォーチュンタワーを探索する。最も期待しているのは、モンスターを仲間にできる新システム。過去・現在・未来という言葉も出るので、まさかタイムトラベルも待っているのか?

□チュンソフトのホームページ
http://www.chunsoft.jp/
□関連情報
【2010年10月19日】チュンソフト、DS「不思議のダンジョン 風来のシレン5」
登場キャラクターや道具「仲良しの証」の情報を公開
http://game.watch.impress.co.jp/docs/news/20101019_401009.html

(C)SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
CHARACTER DESIGN:TETSUYA NOMURA

5位:The 3rd Birthday
   プラットフォーム:PSP
   ジャンル:シネマティック・アクションRPG
   発売元:スクウェア・エニックス
   発売日:12月22日
   価格:6,090円

 特に欧米で大人気を博した「Parasite Eve」が、久しぶりに帰ってきた!ジャンルは、従来の“シネマティックRPG”からシネマティック・アクションRPGへと変わったようだが、斬新なシステムが話題を呼ぶだろう。ミッション中にあらゆるキャラクターにダイブできるシステムはとても魅力的に感じた。余談だが、アヤ・ブレアのCG動画のセクシーさは世界一!

□スクウェア・エニックスのホームページ
http://www.square-enix.com/jp/
□関連情報
【2010年9月17日】スクウェア・エニックスブースレポート その2
DS「サガ3時空の覇者 Shadow or Light」
PSP「The 3rd Birthday」、DS「キングダム ハーツ Re:コーデッド」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/news/20100917_394756.html


■ 過去の宝物 ~こよなく愛した過去の思い出の作品をピックアップ!~

 ゲームは技術的に進化する。グラフィックスが綺麗になる。ポリゴンの数が増える。ゲーム内の景色が実写と見間違えるほどリアルなものになってきている。しかし、時代が変わっても必ずしも進化しないものもある。それはゲームの面白さだ。昔のゲームはグラフィックスはシンプルだが、面白さでは今のゲームに負けていない。いや、それに勝る特別な何かを持っている作品もあると思う。秋葉原のゲームショップや家庭用ゲーム機のオンラインストアで安く購入できる過去の傑作は山ほどある。このコーナーでは、僕が愛した昔のゲームをピックアップしていきたいと思う。具体的なゲーム内容よりも、僕のその作品に対しての気持ちを伝えることができればと願っている。

悪魔城ドラキュラ
プラットフォーム:スーパーファミコン
ジャンル:アクション
発売元:KONAMI
発売日:1991年10月31日
価格:8,800円

背景のクオリティは平均以下だったと思う。ステージの不気味さを際立たせる為に、わざと地味な色が使われたとも考えられる

 ファミコンのゲームをリアルタイムで体験できなかった僕にとって初めての「悪魔城ドラキュラ」はスーパーファミコン版のこの続編だった。ちなみに、欧米版のタイトルはシリーズのナンバリングタイトルを含めた「Super Castlevania IV」だった。

 当時、カートリッジをスロットに差し込み、最初の画面を見た時の印象をまだよく覚えている。派手とは言えないグラフィックス。当時のほかのスーパーファミコン用のソフトと比べると、少し地味な印象を受けた。ちょっとだけ不安を感じながら、スタートボタンを押してみる。主人公が、大きな城を背景にムチをふる。その短い冒頭シーンはこれから始まろうとしている悪との壮絶な戦いを示唆していた。

 最初のステージ。ムチで叩くと、ハートやアイテムをくれる定番の“ロウソク”が散らばっている。敵の数が少ないように感じる。難易度も低いほうだ。骸骨が投げてくる骨をかわす程度のアクション。庭から始まる本作だが、30分ほど進むと、城の入り口まで到達した。

 「もう終わり?」と思ったら、実は城内の最初のステージが、本作の本当の始まりだった。ここからは、明らかに難易度も違うし敵も容赦しない。トラップとモンスターだらけの、お約束の「悪魔城ドラキュラ」になった!

画面の手前と奥で進むステージもあった。扉の前で上を押すと奥に行けるようになっていた怪しい壁は、必ず秘密のアイテムを隠している。ムチで叩いてゲットしよう!浮遊するメデューサの頭は、恐ろしいザコ敵のうちの1体。その動きをかわすには、リズム感が非常に大切だった

部屋が回転するというスペシャルなエフェクトに見とれ、死んだことが多々あった

 つまり、本作は前の作品とは異なり、軌道に乗るまでに多少の時間を必要としていた。最初は「なにこれ」と思ったが、ステージ5では「さすがKONAMIだ!」と感激した。「悪魔城ドラキュラ」シリーズにしては、“静けさ”が漂う冒頭パートだが、先に進んでみると前作以上の面白さ、そして難しさを合わせもっていた。

 スーパーファミコン版の「悪魔城ドラキュラ」は、矛盾の多いグラフィックスだったと思う。8ビットのゲームのような粗い背景のステージもあれば、スーパーファミコンのモード7(スプライトを回転・縮小・拡大させるスペシャルエフェクトのこと)をフルに活かしていたステージもあった。

 例えば、ステージ4では部屋ごと回転するという、当時としては画期的な特殊効果が見られた。その直後のエリアでは、回転する壁を背景に、地面が崩れていく横スクロールのステージもあった。革新的なグラフィックスの活用法で、どのステージもサプライズの連続だった。

このステージで回転する背景が、たぶん本作の最も綺麗なエフェクトだったと思うモード7はボスにも使われていた。例えば、岩でできているこのボスは、ムチで叩く度に小さくなっていった城に入って間もなく登場するのが、モード7で傾いていくこの巨大なシャンデリア。処理落ちを防ぐためだったのか、背景は真っ黒だった

 しかし、モード7の活躍で処理落ちし、アクションが遅くなるという場面が所々にあった。特に、モード7の実行中に画面に複数の敵が出現すると、フレームレートが遅くなっていた。美しさを求めるためには、何らかの犠牲が必要だったということだろう。モード7の素敵なエフェクトを楽しむためには、アクションが少し“スローモーション”になることを我慢する必要があった。

 主人公の使う武器、ムチも、面白い“エフェクト”を見せていた。本作では、十字ボタンでムチの正確な動きや方向をコントロールできるようになっていた。ムチの回転は敵を倒すために役立っていたし、さらに壁の出っ張りにムチをひっかけることで崖を乗り越え、向こう側の舞台に飛び移ることもできた。ムチを使った新感覚のアクションも、本作の大きな魅力の1つといえるだろう。

ムチは崖を乗り越える為の貴重なアイテムでもあったシリーズの伝統通り、ムチはパワーアップを拾うことで3段階まで強化できるようになっていたL、Rボタンで投げられるサブウエポンも重要な役割を果たしていた

次のステージに進む前にマップが表示され、これからの道のりが紹介されていた

 音楽も素晴らしかった。各ステージの雰囲気にマッチし、不安感や恐怖感を煽るような“不気味な楽器”で最高のサウンドが用意されていた。ゲームが普通のカートリッジではなくて、CDに収録されていると思わせるほどの高品質の音楽と効果音を誇っていた。

 結局、スーパーファミコン版の「悪魔城ドラキュラ」を超えるような続編は多数発売されてきたが、“初恋はなかなか忘れられない”とも言うだろう。もちろん、過去を懐かしく思うオールドゲーマーの気持ちも入っているが、客観的に判断しても本作を現在のプレーヤーにおススメしたい。

 リボーンを約束した「キャッスルヴァニア ロード オブ シャドウ」をプレイする前に、是非、本作の“不朽の面白さ”を体験して欲しい。

ボスは、ホラー映画の伝統からインスピレーションを受けたものが多かったように感じる洞窟ステージで遭遇するこのモンスターは、ムチで叩くと2つの小さなモンスターに分かれるという厄介な敵だったトラップも満載。緑色のプラットフォームにジャンプすると、それがひっくり返り、主人公が崖に落ちてしまう……油断は禁物!

(C) 1986 1991 KONAMI

□KONAMIのホームページ
http://www.konami.jp/
□「悪魔城ドラキュラ」シリーズ総合サイト
http://www.konami.jp/gs/game/dracula/
□VC版「悪魔城ドラキュラ」のページ
http://www.nintendo.co.jp/wii/vc/vc_ad/


■ イタヲタのレトロなゲームライフ ~ハプニング満載のオタク人生~

 このコーナーでは僕のゲーマーとしての人生を懐かしさたっぷりで語っていきたい。毎回、特定の時代をセレクトして、自分の記憶への冒険をしたいと思う。最終的には1つのストーリーになる。僕というオタクのストーリー。僕という和ゲー好きゲーマーのストーリー。文章だけでなく、クライマックスのシーンをもっとダイレクトに伝える為に漫画も使うことにした。ちなみに漫画は、今イタリアで注目の若手漫画家に描いてもらった。とにかく、日本ではありえないシチュエーションについてたっぷり語っていくので、本当に面白いコーナーになると思うぞ!

今回の時代設定:1991年10月31日
イベント:「悪魔城ドラキュラ」がローマにやってきた!
ハプニング:大ピンチ!買いたいのにお金が足りない!?

 授業の真っ最中。先生の言うことをメモする為の僕のノートが、ゲームのキャラクターたちの落書きで埋め尽くされている。今日も来週発売予定のあのゲームの主人公を描きながら、どんなすごいゲームになるのか妄想している。先生は、僕の“妄想状態”に全然気付いていないらしい。ゲームを沢山遊んでいるが、驚くことにそれが、学校の成績にまったく悪影響を与えていない。どうやら、ゲームが人の頭を悪くするという話は、嘘だったみたい……。

 今日も学校が終わった。家に帰る前に、途中にあるキオスクで好きなゲーム雑誌を買う。最新ゲームのプレビュー記事を誰よりも早く読まないと。なになに?日本では「悪魔城ドラキュラ」のスーパーファミコン版が発売された?「悪魔城ドラキュラ」。聞いたことのないタイトルだった。日本では結構有名なシリーズのようだ。ホラー映画が大好きだから、ホラーのようなこのゲームをすぐ遊んでみたくなった。しかも、メーカーはあのKONAMIだ。その瞬間、最高レベルのゲームに違いないと感じた。

 家に帰って真っ先にやったのは、全財産のチェック。財布の中には10万リラ。貯金箱の中には5万リラぐらい。トータルで15万リラ(当時のレートで約15,000円)。1つの輸入ゲームを買うには十分な気がした。所持金を確認したところで、常連客になっているゲームショップに電話をかけてみる。家からは遠いが、日本のゲームも扱っているから、いつもゲー友のクリスティアーノと一緒に通っている。

 ゲームショップのオーナーはフランコと言う名前だった。40歳ぐらいのおじさん。日本のゲームがイタリアでも出回るようになってから、そのポテンシャルに気付き、ジャパニーズゲームの専門店を開くことを決めたようだ。たった2年で“日本ゲームのローマ本拠地”と言っていいほど大繁盛し、誰もが知る名店になった。僕も常連客の1人だった。

 問題は、インポートゲームのすごい価格。国内版の倍以上していたので、学生だった僕は半年に1個という、非常に少ない頻度でしか買えなかった。ちなみに、待望の新作の発売が近付いていた時期は、ほぼ毎日電話をかけていた。今回も、「悪魔城ドラキュラ」のあまりの欲しさに、1日に数回も電話をかけていた。

「例のゲーム、届きましたか?」
「まだ。明日届くかもしれない……」

(翌日)

「届きましたか?」
「いいえ。もう週末だから、月曜日になると思うよ」

 僕はある意味、フランコの“悪夢”だった。今思えば、僕のしつこい電話は迷惑だったのかもしれない。

 月曜日に届くのか?土曜日と日曜日はイタリアの郵便が止まっているから、仕方のないことだ。待つしかない。といっても、時間が進まない週末は本当に地獄のようだった。宿題も全然はかどらない。早く月曜日になってよ!と、ゲームのことばかり考えていた。そして、月曜日に電話をかけてみると……。

「ね、フランコさん、届きました?」
「いいえ、まだです」
「そ、そうですか……」

 僕の落ち込んだ声を聞いたフランコは、「今のは冗談だよ!届いたよ、君の待っていた『悪魔城ドラキュラ』がね」と言った。

「ほ、本当ですか?今からバスに乗っていくから、他のお客さんに絶対に売らないでね!」と、無理なお願いをする僕。

「いっぱいあるから、心配することないよ!」

 全財産を急いで財布にしまう。母から来週分のお小遣いを貰っておく。隣のマンションに住むお祖母ちゃんの家へと急ぐ。「1万リラをプレゼントしてくれる?」と、いきなりお願いしてみる。説得成功!財産が増えた!今、17万リラだ。フランコには値段を聞くのを忘れたが、これで十分だと思う。

 あと、あらゆるゲーム体験を絶対に共有しなければならない、親友のクリスティアーノを呼ぶだけ。インターフォンを鳴らす。

「イスティー(愛称)、『悪魔城ドラキュラ』が届いたってよ~!レッツゴー!!」

 5階に住むクリスティアーノが、たった1分でマンションから出てきた。アドレナリンはただ今、MAX状態。オリンピックの100M走で競っているかのように、僕とクリスティアーノはバス停に向かった。

 1時間ちょっとで、フランコのゲームショップに到着した。そのすぐ近くで流れるテベレ川の夜景が綺麗だが、その素敵な姿は僕たちの目には入らなかった。なぜなら、僕たちの頭は「悪魔城ドラキュラ」でいっぱいだったからだ。

「いらっしゃいませ~」

「フランコさん!早く、ゲームを!」と、前置きをひたすら短くして、単刀直入に本題に入った僕。

「はい、これですね」と言いながら、フランコはカウンターの向こうにある棚から、僕が欲しかった箱を取り出した。

 「悪魔城ドラキュラ」。インパクトのある表紙のイラストが、僕の想像を働かせ始める。モンスターだらけの城、そして、恐ろしい吸血鬼ドラキュラとの決闘をイメージする。ゾンビの群れと戦った挙句のファイナルボスとのバトル。早く遊びたい!

「ちなみに、フランコさん、おいくらですか?」
「そうですね……これは新作なので、他のゲームよりも高いのですが……」

 その時、とても嫌な予感がした。“純粋な少年たちからお金を吸収する”という、フランコの“吸血鬼バージョン”が脳裏をよぎった。欲しいと言ったから、わざと値段を上げたのではないかと疑い始めた。

「18万リラです」
「18万?」

 普通、15万リラで買えるゲームが、3万リラも高いなんて、どういうこと?

「あの、17万リラしか持っていませんが、まけてもらえませんか?」

 フランコは悪魔的な微笑を浮かべながらこう言った。

「いや、それはダメだね」

 笑いながら“それはダメだね”だと!? ジャパニーズゲームを求めている僕たちにとって、このおっさんはとても重要な存在だが、意地悪な面もいっぱい持っていた。特に、“純粋な羊たち”には1リラもゆずりたくないという、とても意地悪な一面。

「だから、今回だけだって!」

 無意識のうちに、僕の言葉が荒くなってきた。まるでダダをこねている子供のようでもあった。と、それを見かねた寛大なクリスティアーノが僕に近付き、耳元でこう囁いた。

「僕、5千リラ持っているからあげるよ。でも、あとで僕にも遊ばせてよ」

 これで、所持金は17万5千リラになった。商談再開。

「フランコさん、これでどうですか?」と言って、すべての所持金をカウンターの上に放り出す。小銭が、まるで富士山のように積みあがっていた。

 小銭を数えているフランコが、一瞬、異国の宝石の鑑定額を見積もっている鑑定士のようにも見えた。そして、先ほどと同じ微笑を浮かべながら、フランコはこう言った。

「分かったよ。でも、今回だけだよ。次はまけないからね」

「フランコさん、本当にありがとうございます!次は全額を払えるようにもっと貯金します!」

 そのセリフを言い終えていないのに、僕達の足はすでに店から出ていた。早くバスに乗らないと。行きの記録を超える感じで、超高速で走った。夕飯の前に1時間ぐらい遊ぼうと、クリスティアーノに約束した。

 あの日から、フランコに僕たちだけが理解できるような秘密のあだ名を付けた。

「ダメだね」さん。

 ちょっとまけてくれる?と頼むと、必ずこの言葉が返ってくるから。

「それはダメだね!」

 あれからもいろいろ頼んでみたが、フランコの口癖はずっと直らなかった……。




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(2010年11月5日)

[Reported by ジョン・カミナリ ]