【連載第18回】オンラインゲームの楽しさを再認識しよう!


てっちゃんのぐだぐだオンゲーコラム


ガンホー中村聡伸氏の人生を変えた「ラグナロクオンライン」
いつもの仲間との待ち合わせ場所は、ダンジョンの奥!?


 「てっちゃんのぐだぐだオンゲーコラム」では、これまで僕自身が体験してきた思い出や、作品の思い入れを語ってきた。今回は少し趣向を変え、1つのオンラインで大きく人生を変えた人の、タイトルへのへの思い入れを聞いていきたい。僕のこのコラムは、今後も様々な方向に進化させていくつもりだ。

 僕らメディアは、日頃からいろいろなゲームに触れる。それと共に、個人的に楽しみハマるゲームもある。そんな中、僕と同じ記者で、1つのゲームの思い入れで、運営側にまでなってしまった人物がいる。それがガンホー・オンライン・エンターテイメントパブリッシング部第一企画課主任の中村聡伸氏だ。

 中村氏は「ラグナロクオンライン」プレーヤーで知らない人がいない有名人だろう。ゲーム雑誌ログインの元編集者であり、オンラインゲーム担当として様々なタイトルを紹介していたが、特に「ラグナロクオンライン」に関しては、ログイン時代からギルド戦イベント「RJC」、「RWC」の解説を務めているなど、関わりが深かった。

 そんな中村氏が、出版社からガンホーへ転職したというのを聞いたときは驚きと共に、納得もあった。ある意味、「ラグナロクオンライン」との出会いが中村氏を変えたのだ。そして中村氏の「ラグナロクオンライン」への深い愛を感じた。

 僕らゲームメディアの人間は、無数の新作タイトルにふれあうという職業上のメリットがあり、その楽しさを読者に伝えるのを喜びとしているが、中村氏は今後誕生する無数の新作タイトルよりも、「ラグナロクオンライン」1本を選んだのだ。そこまで大きな意味を持つオンラインゲームの思い入れ、愛情とはどんなものなんだろうか? 今回その愛について、中村氏に「ラグナロクオンライン」への想いを語ってもらった。


■ 仲間達に合うために帰っていく場所、「ラグナロクオンライン」

ガンホー・オンライン・エンターテイメントパブリッシング部第一企画課主任の中村聡伸氏。メディアから会社へ転職する人物も多いが、中村氏は特に「ラグナロクオンライン」への強い愛を感じさせる人物である

――中村さんと「ラグナロクオンライン」の出会いって、どんなものだったんでしょうか。

中村氏: 2001年頃、韓国のGravityが日本語環境でのオープンβテストをやっていたんです。そこで仲間と共にはじめたのがきっかけですね。かわいらしい絵柄は好みだったし、「ウルティマオンライン」とちがって、PKができないために隣に人がいても安心できることが良かった。

――「ラグナロクオンライン」が出る前後って、「エバークエスト」や「リネージュ」など色々なゲームが出始め、そしてその後には爆発的なブームになって行くじゃないですか。その中で、なぜ中村さんは「ラグナロクオンライン」だったのか、「ラグナロクオンライン」であり続けたんでしょうか。

中村氏: 「ラグナロクオンライン」はイラストサイトなど、ユーザーの盛り上がりが、それまでのMMORPGとは違うものだったと思うんですよ。かわいらしいキャラクターに惹かれたユーザーさん達が、イラストやコミックを発表して、そこに興味を持ったユーザーさん達が参加してきた。僕自身は、「この世界をもっと見てみたい」と思ったんですね。最初に触って、面白いと感じたファーストインプレッションが全てでしたね。

 そして何よりも、仲間ですね。色々手助けしてくれる優しいユーザーも多かったんです。それからどんどん仲間ができてきて、いつもログインすると、友達がいる。彼等がいるから僕はゲームを続けていると思っています。

――仲間とはゲーム内で、どうやって出会ったんでしょうか。

中村氏: 色々あるんですが、印象深かったのは「ダンジョンのたまり場」ですね。


イラスト:阿佐ヶ谷帝国

街じゃなく、ダンジョンの中でみんなで集まっているんです。

当時はダンジョンの入口って、ユーザーが出口へ逃げるのでモンスターが集まりやすくて、これを退治しようと、呼びかけに応じたというところですが、そこから中までどんどん奥に入って、モンスターを叩きながら、色んな事を話しました。このプレイが楽しくて、ダンジョンの中で集まる、というのが僕らの中での「集まる場所」になったんです。

――その後、様々なゲームが出ました。特に中村さんは、仕事柄色んなゲームに触れていましたよね。それでもずっと、「ラグナロクオンライン」でありつづけていたのですね。

中村氏: やっぱり、「仲間」です。仕事でいくつものゲームをやっていましたし、やり込んだゲームもある。「エミル クロニクル オンライン」もやりこんでいますよ。他にも「シールオンライン」とか、かわいらしいゲームが好きですね。また、「信長の野望 Online」などもがんばっていました。でも、“帰ってくる場所”は「ラグナロクオンライン」なんです。ここに帰ってくると、友達がいる。それがこのゲームをプレイし続けている理由です。

――その友達というのは、最初から今まで変わらないんですか?

中村氏: そうではないですね、あの頃から一緒の友達もいますが、新しい友達もたくさんできました。時間で人は変わっていても、僕はここに居続けるみたいな。「ラグナロクオンライン」は僕にとって、生活の場であり、いつも帰ってくる場所なんです。

――それは、わかる気がしますね。昔僕の友達が、「MMOって飲み屋みたいだよね」って言ったことがあるんです。ちょっとオッサン臭いたとえですが、“馴染みの居酒屋”を持っている人達っているじゃないですか。そこにはいつも常連客がいて、何の仕事しているんだか良くわからん連中が集まってて、その人達と顔なじみで、「おかえり」とか言われちゃう。毎日のように通って、たわいないおしゃべりをして、帰る。MMOってそれに近いコミュニケーションも含んでいる気がするんです。

中村氏: いつもいる人達、メンバーの顔ぶれは変わっていくけど、その場所はあり続ける。僕にとっては、それがとても大切な場所ですね。「ラグナロクオンライン」に限らず、MMORPGって「砂場」だと思うんですよ。こっちでは穴を掘っている人がいれば、向こうではおもちゃを走らせて、あっちでは泥団子を作っている。色んな人が、自分たちの遊び方を見つけて、他の人を誘っていく。

実際に朝6時にバザーを開いているという朝市

 面白かったのは、本当にゲームの中で“朝市”をやっている人がいて、本気で朝6時にバザーを開くんです。そこでは消耗品などを販売してくれるんですけど、それに合わせて朝ログインする人がいたりとか、こういう事に楽しさを見出している人がいる。色んなアイデアを実現できるゲームなんだと感じました。

 もちろん、ゲームの世界観、グラフィックスにも強い魅力があります。どこにいっても、何らかの発見がある。難しいところを強いプレーヤーに先行してもらったり、楽しみながら強くなっていった、その仲間と重ねた時間そのものが「ラグナロクオンライン」を特別なゲームとしてくれていると思っています。

――ここからは、質問を変えて、中村さんの転職について聞きたいと思います。その「ラグナロクオンライン」にスタッフとして関わろう、というのは一大決心だったと思うんですよ。MMOのコアファンには2種類いて、「理想のMMOを作ろう」というタイプと、「好きなゲームにとことんまで関わろう」とどちらかの方向の嗜好が強くなっていくのかと思うんですが、「ラグナロクオンライン」にスタッフとして関わろう、と思ったのはどうしてでしょうか。

中村氏: まず、編集者時代、色んなオンラインゲームを記事にしよう、という企画があり、毎月紹介できるゲームとして、僕は「ラグナロクオンライン」を推薦しました。色々な遊び方を紹介していきたかったんです。結局5年以上続きました。他のタイトル記事は5年間でだいぶ変わりましたが、これだけ続いたのは、「ラグナロクオンライン」の記事だけでしたね。

 結局、今でも、「ラグナロクオンライン」の面白さをユーザーさんに伝える仕事、という意味では変わりません。ガンホーに入社する前から、どう伝えるかについて密接に打ち合わせをしていましたし、「RJC」に関しては、「俺の方がうまく解説できる」とアピールして、実現したんです。運営側とは長い付き合いで入社はその延長と言うところもあります。

――運営側、会社側にはいると、プレーヤーとしての視点が持てなくなってしまう、といったジレンマのようなものはないでしょうか。

中村氏: それはないですね。運営と、プレーヤーの意識の持ち方というのは、メディアだった頃と変わりません。メディア時代もユーザーが知り得ない情報や、先行して知っている情報があっても、その知識をゲーム内で活かすことはしませんでした。僕自身は現在でもメディアの人達の誰よりも「ラグナロクオンライン」に詳しいと思っていますし、ユーザーさん達にも知識の量で負けているとは思っていません。

 ただ、現在も、キャラクターが知り得る情報と、運営である僕が知り得る情報は別だ、というスタンスは守り続けているつもりです。ゲーム内で質問をされても、答えが違うし、僕のキャラクターは運営の人間ではなく、ゲーム内で一緒に生活している人物なので、明確に分けています。

 ゲームの中でユーザーから質問されて、答えることはありますが、それはあくまでプレーヤーキャラクターが知りうる情報、という視点は常に持っていますし、その人に合わせた答えをになっているかを十分に考えてから返答しています。

 仕事のスタンスもまた同じです。MMOって、1つのコンテンツでも、遊び方は人によって様々で、楽しいところが違う。だからこそ、色々な遊び方を提案したいと思っているんです。僕はプライベートでも、各レベル帯にキャラクターがいて、遊ぶ人に合わせてキャラクターを用意していたりしています。一方、運営側としては、どんな遊び方ができるか、色々な方法でユーザーに提示しています。このスタンスは、編集者だった頃と変わらないですね。僕の遊び方という“ヒント”で自分たちなりの違った遊び方を見つけて欲しいと思っています。

――僕のMMOのプレイするスタンスは、「1番詳しいのは、プレイしている人達だ」というものです。僕は彼等に色々なことを教わって、住人として暮らし、得た体験を読者に伝える。この世界の人達は、こうやって楽しんでいるんだというのを「取材」していますが、中村さんは「この世界の専門家」という自負を持っているんですね。

中村氏: 自分だとどう遊ぶのか、それを様々な立場で考えて、その楽しさを提供しています。こういう人にはここ、こういう人にはここ、という形で、現在運営として、アップデート情報をどう出すか、イベントやキャンペーンの名称などを考えたり、対戦時の観戦ポイントを提示したりと様々な仕事をしています。ただし、プロ意識と、プレーヤー意識を常に分け、ゲーム内では運営の自分、というのは出さないように絶対的に心がけています。ロールプレイ、というのはとても大事なものだと思っています。

 プレイスタンスとして、現在も過去も変わっていません。そうじゃないと、ゲームの中で何を楽しんでいるのか、わからなくなってしまう気がするんです。キャラクター、プレーヤーとして意識が一人歩きして、プロであり、引いている自分が面白いと感じることがあって、それは今でも変わりません。結局、大きな意識として、編集者から運営にシフトはしましたが、意識としては大きく変わってない、という極めてレアなスタンスで現在も仕事をしています。


 僕らメディアは、コンピューターゲームというユニークな文化を多くの人に知ってもらい、変化していく状況を伝えたい、触れてもらいたい、という想いで仕事している。そこから、よりよい作品とは何なのか、より面白いゲームは、どう生み出していけばいいのか、このゲームという文化を、もっともっと発展させるためには、どんな方法があるか……僕が書く記事を読んだ人が、それぞれの視点でその答えを模索して欲しい。

 オンラインゲームは、「終わらないゲーム」であり、1つの独立した世界といえる。オンラインゲームファンにとって、ゲームの世界は、「全てのゲーム」とは決定的に違う「もう1つの生活」だ。だからこそ、その世界でのメディアになりたいという中村さんの決断は共感できる。事実、中村さんが内部に入ってから、「ラグナロクオンライン」のイベントは変わった。よりわかりやすく、間口を広げたものになった。オンラインゲームには、その世界を理解し、愛し、そしてどう伝えるかを考えられるプロフェッショナルの人材は、今後もっと必要だ。中村氏のようなスタンスを持つ人達は増えて欲しいし、これからも応援していきたい。

 しかし、僕個人の思いからすれば、やはり、世界のクリエイターが、コンピューターゲームという題材にどうアプローチしていくか、ユーザーが受け止めた上で何を望むか、というところに興味が大きい。より暮らしやすい世界を望むオンラインゲームファンの気持ちとジレンマが生じる部分ではあるが、コンピューターゲームはソーシャルゲームといったようなジャンル、新ハードでのインターフェイスという視点でも、加速度的に拡散しつつある。この激しい変化の潮流の中で、どんなスタンスを持って考え、取材し、伝えていくか、問い続けたい。

 その拡散していく世界の中で、オンラインゲームは独自の進化をしていくし、さらに面白いのは、他のゲーム以上に人の生活に食い込み、独自のコミュニケーションを生んでいることだ。「その世界の代表として伝えていきたい」と決意する中村さんのような人が生まれるのは、他のゲーム以上に濃い人の関係を生むオンラインゲームだからだと思う。オンラインゲームは面白いし、そこから生まれる繋がりは魅力的だ。ゲーム文化全体を見回しても、取り上げる価値のあるものだと思う。だからこそ僕は、中村さんとは違う形だが、オンラインゲームの魅力を取り上げ、伝えていきたい。


■  てっちゃんの割とどうでもいい話 中村さんの“ファッション”へのこだわり

イベントでの中村氏。必ず同じファッションで登場する

 今回の、「どうでもいい話」はあえて、「ラグナロクオンライン」そのものではなく、中村さんに絞ってみたい。「ラグナロクオンライン」ファンにはおなじみだが、中村さんはイベントに出るとき、必ずブルーのデニムシャツと白いチノパン、そして黒いTシャツなのだ。いや、我々が取材するときもそう。彼は、編集者時代からずーーーーーーっとその格好なのである。

 今回、インタビューの際に話を聞いてみた。中村さんのあのファッションは、もう十数年も前から貫いているスタイルで、7セット以上持っているという。特に白いチノパンはクリーニングが大変とのことだ。服だけでなく、実はアクセサリーも徹底していて、袖には鈴を付けていて、手を振ると鳴るようにしている。人前に出るときは、常にこの格好で、夏も冬も変わらない。冬は上にコートなどを羽織るが、夏もデニムシャツを貫いている。

 中村さんは最初にこの服装にしたのは、「編集者は家に帰れないことも多いから、帰れず着替えていないかわからないように、同じ服装にするようにした」という。カジュアルであり、フォーマルでもあるラインを目指し、夏が暑くても、自分のファッションのために我慢する。自分のスタイルを通すための、デニムシャツのポケットは両脇に付いている、など非常に細かく規定し、それに合う服だけをチョイスしているという。このこだわりの強さも、中村さんの“独特のプロ意識”を感じさせられる。



~今回ぐだってしまったオンラインゲーム~

「ラグナロクオンライン」

かわいらしいキャラクターデザイン、充実したコンテンツが魅力だ。ユーザー層も厚くオンラインだけでなく、オフラインのイベントも積極的に開催されてる

 「ラグナロクオンライン」はガンホーが2002年よりサービスを行なっているMMORPG。開発韓国のGravity。世界観は北欧神話をベースに、SF要素も盛り込んでおり、近年のメインシナリオでは、“別の次元”が明らかになり、冒険者による探索が進められている。

 ギルド対戦のイベント「RAGNAROK ONLINE Japan Championship(RJC)」を毎年開催し、世界大会の「Ragnarok World Championship」(RWC)」も積極的に行なわれている。日本で開催された「RWC2009」では日本チームが世界一になった。「RWC2010」でも準優勝になり、2011年ソウルで開催予定の「RWC2011」での日本チームの健闘が期待されている。

 「ラグナロクオンライン」では2010年7月に3次職が実装され、システムも大きく変化した。バランスに関しては、ファンの間でも積極的な議論が行なわれており、現在もアップデートで手が加えられている。モンスターの配置変更で、キャラクター育成をしやすくするなど、既存のコンテンツも手が入れられている。スト-リー性の高い日本オリジナルコンテンツなども実装されている。


【スクリーンショット】
イベントでは、たくさんのキャラクターが集まり、エモーションでアピールする。戦闘では、エフェクトが重なる。この情報量の多さは「ラグナロクオンライン」の特徴だ

(C)Gravity Co., Ltd. & Lee MyoungJin(studio DTDS). All Rights Reserve.
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(2011年 6月 14日)

[Reported by 勝田哲也]