西川善司の3Dゲームファンのための「バイオハザード5」グラフィックス講座(前編)
美形キャラに潜む“不細工な一瞬”が生み出すリアリティとは?
【著者近影】 | ||
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大画面と多画面と、そしてゲームグラフィックスを愛するテクニカルジャーナリスト。本誌では主にGPUや3Dグラフィックス関連の記事を執筆している。バイオハザードシリーズは「1」から全てプレイしているほどの筋金入りのファン。今回の取材では開発メンバーの皆様に私物の「バイオハザード5」にサインをいただくというミーハーぶりを発揮した。個人ブログはこちら |
2009年上半期の日本発の3Dゲームグラフィックスで最も大きなセンセーションを呼んだのは間違いなくカプコンの「バイオハザード5」だろう。「バイオハザード5」は、カプコンが世界に誇るゲームエンジン「MTフレームワーク」の最新バージョンによる作品であり、この作品にはカプコンの最新のテクノロジーが詰め込まれている。
今回の取材も内容盛りだくさんのため前後編でお届けするが、前編では「バイオハザード5」の基本的なグラフィックススペック、「バイオハザード5」プロデューサー竹内潤氏に伺ったハリウッドコラボの話題、そしてリアルな顔アニメーションの秘密について紹介する。
■ 「バイオハザード5」のグラフィックススペック
まずは、いつものように「バイオハザード5」(以下、「BH5」)のグラフィックスの基本情報を見ていくとしよう。
レンダリング解像度は1,280×720ドット。フレームレートは公称毎秒30コマ(30fps)としている。1シーンあたりのGPUのジオメトリレンダリングコストは300万~500万ポリゴン。これは動的な影生成のためのシャドウマップやその他のリアルタイム素材生成など、目に見えないレンダリングコストを含む値。目に見える形でのポリゴン数はシーンにもよるが、ステージ1のアフリカの村人マジニとの戦闘で、およそ50万ポリゴン程度(うち半透明が10万ポリゴン)。
【インゲームのワイヤーフレームショット】 | |
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ゲーム中の1シーンのワイヤーフレームショットとファイナルショット | |
イベントシーンのワイヤーフレームショットとファイナルショット |
【クリスとシェバのワイヤーフレーム】 | ||
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クリスとシェバのワイヤーフレームショットとファイナルショット |
1シーンあたりのテクスチャ総容量は180MB~200MB程度。ビデオメモリ予算の6~7割をテクスチャに割り当てたとしている。ゲーム中の主人公クラスの1キャラクタの総ポリゴン数は顔と身体の総計が15,000ポリゴン程度。ムービーシーンなどでは顔がアップになる関係もあって、場合によっては顔だけ4,000ポリゴン程度の高品位版に切り替わる場合もある。こうしたケースでは1キャラあたり2万ポリゴン強になることもあるとのことだ。
LOD(Level of Detail)は3レベルでの実装となっている。マジニ等のザコキャラで言うと、最も詳細なモデルで4,000ポリゴン、中間距離で2,000ポリゴン、遠方の完全なローディテールで500ポリゴンとなっている。なお、ボーン数もLODレベルごとに変更、チューニングされている。
光筋表現はスプライト(ビルボード)ベース。レンズフレアはアーティストがステージを構成したときに、特定の場所から特定の角度関係範囲の視線で太陽を見たときにエフェクトとして現われるように仕込まれている。被写界深度(DOF:Depth of Field)の表現は通常のゲームシーンでは採用されておらず、ムービーシーンでのみ挿入される。
【LOD(Level of Detail)】 | ||
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ザコ敵キャラ(マジニ)モデルに見るLODの違い。左から500ポリゴン、2,000ポリゴン、4,000ポリゴンとなっている。ポリゴン数が低いモデルほど遠方表示に用いられる | ||
「BH5」のLODシステムはポリゴン数だけでなくボーン数の切換も行っている。左から順に35関節、57関節、91関節。指関節の詳細度の違いに着目 |
【被写界深度シミュレーション】 | |
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被写界深度のシミュレーションのオフ/オン比較ショット。フォーカルプレーンからのズレに応じて大きくぼかすフィルタを適用して実現している |
物理シミュレーションはHAVOK5.5を採用。利用しているのはHAVOK PHYSICS、RAGDOLLなど。このあたりは「ロストプラネット」の頃から大きく変わった部分はない。人体キャラの地面の傾斜や凹凸への追従を制御するIK(Inverse Kinematics:逆方向運動学)については内製エンジンを利用している。
敵AIは、オーソドックスな重み付けの経路探索ベースで動作している。敵AIは、プレーヤーの姿が見えていなければプレーヤーの位置を一時的に見失うようなフェアな設計となっており、経路探索を行なってプレーヤーを捜そうとする動きを示す。
【物理シミュレーションのデモ】 |
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BH5では物理シミュレーションはHAVOK5.5を採用。破壊した樽の破片にもインタラクトできる点に注目! |
■ 「バイオハザード5」におけるHDRレンダリングは相対輝度レンジ手法を採用
Valveが実装した妥協案的リアルHDRレンダリング |
HDR(High Dynamic Range)レンダリングはRGB各8ビット(RGB:888)の通常のLDR(Low Dynamic Range)バッファに対する疑似HDRレンダリングを採用している。Xbox 360はRGBが各7e3(指数3ビット、仮数7ビット)が使えるはずだが、PS3版との見た目を揃えるためにPS3に合わせる格好となっている。
疑似HDRレンダリングは、それまでの表示フレームの平均輝度情報を利用してHDR情報を動的にトーンマッピングしながらLDRバッファにレンダリングする、いわゆる相対ダイナミックレンジ手法を採用している。例えば平均輝度が100.0だったとしたら、これは100分の1にして1.0とするというようなイメージだ。この手法だと完成したフレームにはHDR情報が欠落してしまっているが、平均輝度をシステム側で抑えているので、LDR(0~255)に落ち込んだ結果のうち、ある敷居値以上(例えば240以上)を高輝度部としてブルームなどのHDRエフェクト処理を適用することになる。
なお、HDRレンダリングをトーンマップしながらレンダリングし、高輝度部分に対するブルームやグレアといったポストプロセスはLDRバッファについて行なうという実装は、Valveの「ハーフライフ2」(HL2)でも採用された手法だった。
PS3のGPU「RSX」はNVIDIAのGeForce 7800 GTXをベースにした設計であるため、FP16-64ビットのリアルHDRバッファに対してMSAAが利用できない制約も受け継いでしまっている。「HL2」や「BH5」の手法だと、ブレンディング、MSAAなどがLDRバッファで行なえるため、RSXにも都合がいいのだ。
【HDRレンダリング】 | ||
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「BH5」におけるHDRレンダリングは相対輝度レンジによるもの |
【光筋表現】 | |
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光筋表現のオフ/オン比較。意外にもこの表現はスプライトベースによるもので、HDRレンダリングのポストプロセスによるものではない |
【レンズフレア】 | |
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左がオフ、右がオン。レンズフレア効果も同様で、スプライト効果による |
■ “一瞬の不細工”が生み出すリアルな表情描写とは?
カプコン第二グラフィック制作室デザイナーの平林良章氏 |
カプコン技術研究室プログラマーの石田智史氏 |
「BH5」のグラフィックスで、プレーヤーがまず最初に感じるのは、やはりキャラクタ達の顔面の演技の突出したリアルさではないだろうか。前述したようにムービーシーンも含めて、「BH5」の映像は全てリアルタイムレンダリングで実現されており、これまでの和製3Dゲームのキャラクタ描写とは違った、「異質なリアルさ」というものがある。
リアルタイム3Dゲームグラフィックスの範疇のキャラクタ描写において、人形っぽく見えてしまうことが多かったのは、表情の変化というものを「目の開き具合」、「眉の角度」、「口の開閉や口角の傾き」といった基本的な顔パーツの動きだけで行なわれていたためだ。これではちょっと出来のいいマリオネットやマペットで実現できる表情表現どまりである。
自分の顔を鏡で見たり、友人や家族の表情を注意深く観察するとわかるが、現実の人間の場合、顔面の筋肉の動きはかなりダイナミックであり、笑うだけで鼻は上下するし、何気ない表情でも頬の筋肉も動くし、眼球の周りや額のシワの動きだけでも、かなり多彩な表情を表現する。
また、映画のDVDなどを見ていて一時停止をしたとき、演技中の俳優が、たまたま、とても不細工な表情で止まっていて思わず笑ってしまったというような経験があるはずだ。どんな美男美女でも表情変化の最中の一瞬一瞬では不細工な状況があるのだ。一方、3Dゲームグラフィックスなどの美形キャラクタでは、あまりこうした表情の瞬間がない。
これが原因の全てとはいわないが、3Dゲームにおける人間キャラクタの顔演技のリアリティを一段上げる要因となっているのは、「表皮のシワを正確に表現すること」、「一瞬垣間見られるそうした不細工な表情の追加」にあるのではないか。こうした、サブリミナル的に挿入されている一瞬のシワの動きや不細工な表情にこそ、込められた感情や想いというものが乗ってくるのではないか。筆者はそんなことを考えていたことがある。
「BH5」のキャラクタ達の顔の動きを、注意深く観察すると、瞬間瞬間に結構きわどい表情をしていることがある。女主人公シェバなどは、感情を込めてしゃべっているときに、あからさまに鼻の頭が大胆に上下しているので気にしてみているといいだろう。開発スタッフによれば、こうした「不細工な瞬間を含むリアルな表情変化」は、「BH4」の時から実装を考えてはいたものの、当時のゲームキューブやPS2などではハードウェア能力的に難しく見送ったと振り返っている。
平林良章氏「それまでの3Dゲームグラフィックスの顔表現では、顔面の表皮をどれだけダイナミックに動かしたとしても頂点だけが変位するだけで、各頂点の法線ベクトルが変わらなかったんです。顔の上をまるでゴムが滑っているようなとでも言いましょうか。どこでつっぱっていて、どこで止まっているのかが見た目として見えてこなかったんですね。まぁ、どんなに大胆に動かしても、あまり醜くならないで美形が維持できるという、よい意味での副作用もあるにはあるんですが、リアルな表現の方向としては弊害だったんです」
これまでの3Dゲームグラフィックスにおけるキャラクタの表情表現では、たとえ顔面の頂点が動いても、その歪みが陰影として見えてこなかったというわけだ。顔面の筋肉が動いたことによる陰影が出なかったことが問題なのだから、正しい陰影が出るように改善すればいいということになる。顔面の陰影それは単純に言えばシワだ。
ちなみにシワ表現手法の定番に法線マップによるシワ表現があるが、これはディテール表現としての「小じわ」表現には向いているが、顔面のジオメトリが変化して生じる大きいシワの表現をやるには無理がある。
石田智史氏「演技によって顔面上のある頂点が動く場合、その動いた頂点の更新された法線ベクトルを周囲の頂点達の法線情報から再計算する仕組みをエンジン側でサポートしました。これを現状(DirectX 9~10世代)のGPUだけでやるには難しいんですよ。着目している頂点の周囲の頂点情報を参照しなければならないですからね。従ってこの計算はCPUで行なう実装になっています。負荷としてもそれなりに高めなので、CPU負荷が低めなムービーシーンに限定して活用するようにしてもらっています。目安としては、この処理を適用できるのは顔面3つまでとしました」
【法線情報の再計算】 | |
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左が法線情報の再計算なし、右があり。ジオメトリレベルの大きなシワの有無に着目したい |
【法線情報の再計算のデモ】 |
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上段が法線情報の再計算なしのもの、下段が法線情報の再計算ありのもの。後半の会話シーンの表情に注目したい |
「BH5」におけるキャラクタの顔面表現には最新のフェイシャルキャプチャー技術が用いられている。46個のドットマーカーを顔に貼り付けた人間のアクターに顔面演技をしてもらい、ドットマーカーのアニメーションデータを取得し、これをCGキャラクタに適用するというのが大ざっぱな流れになるが、「BH5」では、さらにマーカーでは取得できない目線、唇の巻き込み、舌の動きまでのアニメーションを加えたリアル仕立ての演技を作り出している。
これは長編フルCGアニメーション映画などで用いられる手法であり、制作コストも高くつくことから、ゲームへの導入例はまだ少ない。その意味で、「BH5」は、本格的なフェイシャルキャプチャー技術をリアルタイム3Dゲームグラフィックスに持ち込んだベンチマーク的存在でもあるのだ。
【フェイシャルアニメーション】 |
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マーカーを付けたアクターの動きをCGキャラクタのクリスに適用したデモ映像 |
アニメーションとして後付けされる目線の動きのデモ |
アニメーションとして後付けされる唇の動きのデモ |
アニメーションとして後付けされる舌の動きのデモ |
「BH5」の表情アニメーションは、リアルタイム3Dグラフィックス処理的な見地だけからみれば、そのフェイシャルキャプチャー技術をベースにして作られたアニメーションデータで顔面上に仕込まれたボーンを動かして表皮をスキニングしているだけだ。新要素なのは、スキニング後の各頂点の法線ベクトルを再計算している部分になる。たったこれだけのことなのだが、見た目としては、ここまでリアルに見せられるようになるのである。
フェイシャルキャプチャー技術の導入は開発コストが余計に掛かるのでどのプロジェクトにも気軽に使えるものではないかもしれないが、この法線ベクトル再計算はコストパフォーマンスの高いテクニックであり、今後、広く応用が進みそうな予感がする。
この他、「BH5」ではキャラクタの眼球の表現がリアルだが、これは目の濡れた質感をスペキュラマップで表現し、眼球のハイライトは環境マップと眼球用のスペキュラーライトで与えているだけで特に変わったことはされていない。目に力を感じるのはやはり、表情演技に起因しているのだろう。
今作は主にアフリカが舞台となるために、様々な人種の人物キャラクタの登場が目立つわけだが、その肌の質感もとてもリアルだ。これも特別な新シェーダーによるものではなく、拡散反射と鏡面反射を組み合わせ、フレネル反射の制御でそれっぽく見せているだけだとのこと。ただし、適切に見えるように光源の置き方には工夫がなされている。
【キャラクタモデル】 | ||
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左上から順に素ポリゴンの状態、ベーステクスチャのみを貼り付けた状態、これに法線マップを適用した状態、さらにスペキュラマスクを適用した状態、さらに環境マップを適用したファイナルショット |
【テクスチャサンプル】 | ||
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左から順に黒人キャラクタのベーステクスチャ、スペキュラマスク、法線マップ |
■ 【特別企画】プロデューサー竹内潤氏に聞く「バイオハザード5」開発裏話~開発後期に決定した協力プレイとハリウッドコラボ
「バイオハザード5」プロデューサー竹内潤氏 |
今回の取材ではプロデューサーの竹内潤氏も同席頂けたので、本連載では珍しいことだが、プロダクション関連の話題についても聞かせて頂いた。まず、「バイオハザード5」(「BH5」)の特徴的なゲーム性となっている協力プレイシステムの実装経緯について聞いてみた。
竹内氏「これは驚かれるかも知れないんですが、『BH5』開発全4年間のうち、かなり後半、それも2年半あまりが過ぎた頃の仕様変更で協力プレイが決定しました。開発側からは『やめて欲しい』という声も多々ありましたが(笑)、プランナーとディレクターとのミーティングを重ねていく中で、見通しが立ちまして、実装に踏み切りました」
協力プレイの突然の実装決定。これには様々な理由があるとのことだが、最も大きな理由として、前作の「バイオハザード4」(「BH4」)が名作として高い評価を受けたことで、「BH5」に掛かる期待が予想外に大きいことを実感し、「前作越え」を確実にするための新要素としてたどり着いたのが「協力プレイ」だったと竹内氏は振り返っている。
オンライン協力プレイが実装された「バイオハザード」シリーズといえば「バイオハザード・アウトブレイク」シリーズがあるが、「BH5」はプラットフォームもエンジンも違うため、コードレベルの流用はない。それでも協力プレイのネットコード開発に際して、アウトブレイクシリーズ、モンスターハンターシリーズといった自社製オンライン協力プレイ実装作品に携わったチームの経験は継承、活かされているという。
竹内氏「信じられないかも知れませんが実は2人目の主人公シェバの追加は、この協力プレイ要素の緊急追加の折に設定されたものなんです(笑)。開発側は大混乱でしたが(笑)、でも、この方針の大転換で、「BH4」の続きを作っているという意識から、完全新作の『』バイオハザード』を作っているという意識に変わって、開発の士気がよい方向に高まった感じはしました」
なんとも開発の現場に同情したくなる話だが、とはいえ、この判断が「BH5」のゲームプレイを数倍面白くするほうに効いたことはプレイした経験があるユーザーならば100%納得するはずだ。
そして今回の取材で個人的にどうしても竹内氏に聞いてみたかったのが「BH5」の操作系についてだ。TPS(Third Person Shooter)系ゲームを多くプレイした人は「BH5」の非常に特徴的な操作系に驚いたかも知れない。筆者もその1人だ。
「BH5」では、平常は左スティックで前後移動と方向転換を操作し、右トリガーを引いて戦闘モードにすると左スティックが照準操作に切り替わる操作系を採用する。一方、右スティックは移動方向には影響しない視線をニュートラルからずらす補助的な操作に割り当てられている(デフォルト時)。
竹内氏「TPSライクなラン&シュート(移動しながら撃つ)の実装については、開発初期に最も検討した部分で、実は開発初期はTPSライクな操作系も実験的に実装していました。今回の『BH5』のゲーム性でTPS系の操作系を実装してしまうとテンポアップが著しくなってしまい、本作のコンセプトに合わないと判断したのです。こういった『BH5』独特な操作系を採用したことについては責任を感じていますから、現行のゲームパッドである限り、『バイオハザード』シリーズの操作系として継承していきたいとは思っています」
なお、竹内氏は、この個性的な操作に熟練していくことも「バイオハザード」の面白さであるということであり、今作はTPSではなく「バイオハザード5」として楽しんで欲しいということを強調していた。また、昨今のゲームで3人称視点のTPSスタイルのゲームでは、プレーヤー側が強過ぎる傾向があり、あまりプレーヤーが死ななくなってきている。「BH5」はそうしたTPSゲームの潮流へのアンチテーゼ的な意味合いもあるとのこと。
なお、あまり知られていないが、ゲームオプション側で操作系タイプをA、B、C、Dから変更できるようになっており、デフォルトのタイプAに対し、タイプCがTPSライクな操作系になっている。右トリガを押し込むと左スティックが照準操作になってしまうシステムは同じだが、左スティックで前進と平行移動ができ、右スティックで旋回と視界操作ができるようになっている。TPS操作系を好む筆者はこれでベテランモードで最後までプレイ出来ている。「BH5」の操作系に馴染めなかった人は、あきらめる前にタイプCの操作系を試してみて欲しい。
ところで「BH5」を購入した人はメイキングビデオはご覧になっただろうか。PS3版はゲームディスクに同時収録されており、Xbox 360版はゲーム起動後のマーケットプレイスから無料ダウンロードが可能なので是非見て欲しい。
【フェイシャル・キャプチャー】 |
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ハリウッドとのコラボで生まれた最先端の顔表現。あえていっておくが、顔のモーションデータは事前取得データだが、映像はリアルタイムレンダリングによるもの |
このビデオではハリウッドの映画向けCG製作スタジオとのコラボが行なわれている様が描かれている。これはいわゆる映画向きの、オフラインでレンダリングされるCG制作のプロセスと、カプコン側のリアルタイム3Dゲームグラフィックスとを融合させる試みでもあり、非常に興味深い。詳しくは後編で触れるが、結論からいうと、ゲーム中に挿入されるムービーシーン(カットシーン)の全てはリアルタイムレンダリングの映像である。わざとフィルムグレイン風味のノイズエフェクトを挿入しているため、素人目にはプリレンダーCGかと思ったユーザーも多そうだが、全てリアルタイムである。
プリレンダーCGかと思ってしまうのは映像フレームの仕立て上げだけでなく、シーンで描かれているキャラクタの演技があまりにもリアルだからという部分もあるだろう。このムービーシーンで描かれるアクションやカメラワークは、このコラボによって実現されているのだ。こうした新しい試みはいつから計画されていたのだろうか?
竹内氏「まだ誰も見たことがないようなハイクオリティな映像を実現するためには、もう、ハリウッドしかないだろう、と考えていたんです。実際に動き始めたのは、協力プレイの仕様が確定して、主人公が2人になることが確定して、シナリオがリライトされてからですから、結構直前です(笑)。」
平林良章氏「2007年7月ですよ!(笑)。最初はジョージ・ルーカスのILMで作ってもらうくらいの気構えで行ってこいと命令されて、大慌てでハリウッドのスタジオをしらみつぶしに巡りました。契約を行なったスタジオの1つであるyU+co.は、『300』、『ハルク』などの映像製作にも携わっている実力派のスタジオです。モーションキャプチャースタジオはVICONのHouse of Movesと契約しています。ここは『パイレーツ・オブ・カリビアン』、『スパイダーマン』などの著名大作映画での採用の実績もあるところです。実際にムービーシーン制作の実作業に入ったのは2007年の10月末からです(笑)。普通はあり得ません」
竹内氏「いや、自分はハリウッドの映画制作プロセスを知っていたので元々勝算はあったんですよ(笑)。毎年膨大な数の映画を制作しているハリウッドでは映画用の映像製作を数カ月というスパンでこなすのが当たり前ですから。日本ではお金を積んでも断られてしまうような制作期間でも、彼らはハイクオリティで仕事をこなします。」
このハリウッドとのコラボで使用された予算はここでは伏せるが、一般的なPS3、Xbox 360向けゲームソフトの1本分、いやそれ以上に相当する金額が用いられている。「MTフレームワーク」というカプコン自社製のユニバーサルなゲームエンジンを開発したことで制作費の高効率化を目指したはずなのに、映像製作にここまでの予算を割いたのはなぜなのか。
これは単純にハイクオリティなアクションシーンを撮る上での経験値と技術がハリウッドの方が優れていたからだという。モーションキャプチャーにしても、スタジオ内でバイクを走らせて、しかもそのバイクがジャンプしたりといったダイナミックな動きをシームレスに取れるスタジオは日本国内ではそう多くはない。また、今回は監督、技術スタッフ、アクションアクターをハリウッドスタッフで起用することで、トータルなハリウッドの実力、そしてそこで使われていた技術をカプコン側が吸収したいという狙いもあったと思われる。ハイエンドゲーム1本分の制作予算によるハリウッドとのコラボは、竹内流/カプコン流の将来への投資と言ったところなのだろう。
ハリウッドの映画向けCGスタジオは、確かに映画クオリティの映像を制作することに慣れており、彼らが取り扱う映像は基本的にはオフラインレンダリング(プリレンダー)の映像だ。彼ら自身はカプコン側のMTフレームワークの表現力についてはどういう感想を持ったのだろうか。本稿の本筋からは脱線するが興味深いポイントである。
平林氏「一般公開された最初期の予告映像は完全自社内製のものでした。これを持ってハリウッドスタジオを廻ったわけですが、いくつかのスタジオは『うちはオフラインしかやらない(リアルタイムはやらない)』というところもありました。yU+coさんを初めとするいくつかのスタジオはMTフレームワークの映像を見て『リアルタイムでここまでの表現ができるのか。ならば逆にどこまでできるのか興味がある』と言ってくれました」
「最終的にはMTフレームワークを使って、リアルタイムな映像作品を作りたい」という意見までも述べられたというから、これはカプコン側としては、そのグラフィックス技術力/表現能力を間接的にハリウッドに認められたことでもあるわけで、とても誇り高く感じられたに違いない。
【フェイシャル・キャプチャー その2】 |
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バイオハザード5ではゲームでは実導入例の少ないフェイシャル・キャプチャーを取り入れた。これらの映像はバイオハザード5へこの技術を導入するにあたっての実験映像だ。フェイシャルキャプチャーでは取得できない舌の動き、唇の巻き込みなどは後付けがなされる |
(C)CAPCOM CO.,LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
□カプコンのホームページ
http://www.capcom.co.jp/
□「バイオハザード5」のホームページ
http://www.capcom.co.jp/bio5/
(2009年 5月 29日)