★PSPゲームレビュー★
瀬戸を舞台に繰り広げられる、海と青空が紡ぐ夏休み 忘れられない少年の日々を疑似体験! 「ぼくのなつやすみ4 瀬戸内少年探偵団『ボクと秘密の地図』」 |
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少年時代の夏休みを疑似体験する郷愁ゲームとして知られる「ぼくのなつやすみ」シリーズ。第1作目はスタンダードな田舎、第2作目は漁村、第3作目は北の大地が舞台となっていたが、最新作は1980年代の瀬戸内海で夏休みを過ごすことになる。大林信彦監督が手がけた映画「尾道3部作」。その雰囲気をそこはかとなく漂わせた瀬戸の島々を舞台に、忘れられない夏休みが幕を開ける。
■ 虫取りに励むか、泳ぎまくるか!? 少年時代の1日は長い
本作は好奇心旺盛な小学4年生の「ボクくん」になって、親戚の家で8月1日から31日までの夏休みを過ごす、少年時代仮想体験アドベンチャーである。ゲームにはとくに決まった目的は設定されておらず、物語が展開する1カ月間、自由気ままに夏を満喫できるのだ。倒すべきモンスターもいなければ、救うべきプリンセスもいない。そこにあるのは青い空と海と島々のみ。どんな過ごし方をするかはプレーヤー次第。日がな1日釣りを楽しむもよし、海に潜ってアイテム探しをするもよし、真っ黒に日焼けするまで島を徘徊するもまたよし。好き勝手に過ごした夏休みが、そのまま本作のストーリーになるのだ。
大まかな行動方針として、「瀬戸内海で活躍した村上水軍が残した財宝のありかを示した“5枚の古地図”を集める」という目的はあるものの、行動に制約はほどんとなく実に自由度が高い作品となっている点が魅力といえよう。
■ 朝はラジオ体操とともに始まり、絵日記とともに1日が終わる
ゲームはリアルタイムで進行するのではなく、マップを移動することで時間が進むようになっている。ひとつのマップに留まり続ければ時間は進まないものの、友達と一緒に遊んだり、昆虫採集をするためにはマップ間の移動は不可欠。自由に遊び回っているとあっという間に時間が過ぎていくのは、まさに少年時代の夏休みさながら。
1日の流れを追ってみると、朝は6:30に起床し、お約束のラジオ体操に参加。7:00には一家揃っての朝ご飯(まんが姉ちゃんは起きてこないのだが)。ちなみに、島波家は純和食派なので、朝食にはいつもご飯と味噌汁、海の幸に加え、ハムエッグや昨夜のカレーなども並ぶ。食卓のグラフィックスも日々細かく変わるので、献立をチェックするのもなかなか楽しい。
8:00以降は待望の自由行動の時間。ご近所や海の探検、友達との秘密基地ごっこに興じたりできる。「こんなに遊んでばかりでいつ宿題やるんだよ!」というツッコミは忘れて、自由気ままな夏休みライフを満喫するのが本作の正しい遊び方だ。なお、18:00になると、叔父が「ボクくん」の居場所をサーチして「おう、ご飯だぞ!」と強制的に連れ戻されてしまうのはご愛敬。
夕飯を食べたあとも自由時間があり、夜にしか姿を現わさない虫を採集することもできる。しかし、夜更かしが過ぎると次の日のラジオ体操に遅刻するので、小学生らしく早めの就寝を心がけたいところだ。
島の1日はラジオ体操から始まる。ところで最近の小学生はラジオ体操に参加しているのだろうか? | ご飯のあとは歯磨き。朝、昼、晩で3回しっかり磨くと、「はみがきカレンダー」にマーキングされていく | 島でいろいろなイベントに遭遇すると「絵日記」が更新される。いかにたくさんの絵日記を残せるかが本作のキモである |
■ 個性豊かな登場人物たちが、夏の思い出に彩りを添える
本作の魅力は自由度の高さと作り込まれた箱庭世界の細緻さにあるが、そのほかにも「愛すべきキャラクター」たちが多数登場するというのも見逃せないポイントといえよう。シリーズ最大のライバルキャラクターと言っても過言ではない、島波家の熱血長男・太陽。主人公と同じく、夏休みの間に島波家で共に過ごすことになる親戚の勝ち気な女の子・キミコ。このふたりは、特に主人公と近しい存在として描かれ、共に掛け替えのない夏の思い出を紡いでくれる。
さらには秘密基地に集う島の子供たち、島で唯一の商店の気さくなオヤジや、都会から帰省しているワケありのお姉さんなどなど、個性的な人物たちが「ボクくん」の夏休みに花を添えるのだ。「基本的に悪人がいない」というバックボーンを有した住人たちは交流をしていて実に気持ちがよく、昭和の人情をそこかしこに感じさせてくれる。
彼らの中でも特に個性的なのが、島波家の長女であり「漫画ねえちゃん」のニックネームを持つ島波のあ。大阪の芸術大学に通う女子大生であり、部屋には漫画やアニメのポスターが山積みにしてあるなどのマニアックな趣味を持っている。この時代にはまだ珍しいVHSデッキを持ち、アニメ番組を細かく録り溜めるといったこだわり(?)の設定がなされており、周りの人々を呼称する代名詞にも「おたく」という言葉を使っている。
1980年代中期といえば、現在のオタク文化を支えるクリエイターたちが青春時代を過ごした時代でもあり、当時の大阪芸術大学には現在のアニメシーンを牽引する若き英才たちが多数集っていた。本作でのあが「自主製作映画の制作に参加して、怪獣役をやってる」と劇中で述べているのは、大阪芸術大学在学中の庵野秀明氏や赤井孝美氏が中心となり、樋口真嗣氏や貞本義行氏なども参加していた「DAICON FILM」の活動を彷彿させるものがある。こういう「その時代ならではの熱気」を細かく再現しているのも、本作の特筆すべき点だ。
主人公が1カ月お世話になる島波家。朝と晩は全員そろって「いただきます」が鉄則。おじとおばだけでなく、トボけた味わいのばあちゃんも存在感抜群 | 主人公のライバル的存在で1番の近しい存在の島波太陽。この写真では服を着ているが、いつもは上半身裸が多いワイルドな自由人 | 「まんが姉ちゃん」こと島波のあ。一緒にお風呂に入るというCERO「A」の限界を突破したイベントもある |
■ 夏の定番、昆虫採集と虫相撲に熱くなれ!
今や子供の娯楽と言えば携帯ゲーム機やトレーディングカードなどなど枚挙にいとまがないが、昭和の夏休みの娯楽の代表格は、やはり「昆虫採集」に尽きる。本作には、全部で150種類以上の昆虫が登場し、その採集に奔走するだけでもかなり楽しめる。採集した昆虫は虫かごで飼うことができ、虫メガネを使って生態観察も可能。
そして、昭和のリアル虫キングたちが熱く燃えた「虫相撲」は本作でも健在。以前のシリーズにはなかった「団体戦」や「トレーニング」が採用され、おもしろさに深みを増している。虫相撲に出場できるのはカブトムシ、クワガタ、ハンミョウやカマキリといった強面の昆虫たち。育成して能力を伸ばすこともできるが、在野には最初から強力な身体能力を有している猛者もいるので、虫相撲にこだわるなら採集に精を出すのもいい。
虫は虫網で捕獲するのが基本。ブロックの下に隠れていたりすることもあるので、こまめにブロックをひっくり返すのが重要だ | 捕獲した虫は虫かごに入れて持ち歩ける。ルーペを使って拡大表示することも可能となっている | 秘密基地で行なうことができる虫相撲。スタミナや押す力、思考速度などを鍛えて、最強の横綱へと育て上げるべし |
■ コレクター魂を刺激する「モンスター消しゴム」を集めろ!
1980年代を象徴するホビーと言えば、「ウルトラ怪獣消しゴム」、「スーパーカー消しゴム」、「キン肉マン消しゴム」といった、消しゴムトイの収集。本作にも「モンスターチョコ」なる、ゲームオリジナルの食玩が登場し、それに付属する「モンスター消しゴム」というアイテムを収集できる。この通称「モン消し」は商店で購入するほかにも、島の至るところに落ちているので、怪しそうな場所を細かくチェックして収集するのがコンプリートへの近道。
ちなみに、モン消しはトントン相撲の勝負で勝っても入手できる。強いモン消しを入手したら、練習試合ではなく賭け試合に参加して、対戦相手からモン消しを奪い取っていくと効率がよく集められる。トントン相撲でオススメのモン消しは、抜群の安定感を誇る「アドベンチャー南極」。四脚が誇るバランスの良さはほぼ無敵の強さなので、トントン相撲での4番バッターとして活躍してくれるだろう。
ビックリ○ンチョコ+ロボダ○チ+ネク○スの要塞÷3といった趣のモンスター消しゴム。昭和を意識したデザインはかなり秀逸。というか実物が欲しい | 秘密基地で遊べるトントン相撲。賭けなしの「練習」、負けたら没収の「本番」のふたつのルールで遊ぶことができる | トントン相撲でのオススメは「アドベンチャー南極」。ラッキーにも入手できたら、どんどん賭け試合に出そう |
■ 海は宝の宝庫! 釣りと素潜りでマリンレジャーを満喫!
本作は瀬戸内海に浮かぶ島が舞台になっているだけあって、周囲の「海」も重要なファクターとなっている。海では釣りを行なえるほかに、実際に海中に入って泳ぎ回れる。最初は長い間潜水することはできないものの、海の中に落ちているビールびんやジュースびんを拾い集めていくことで、徐々に肺活量がアップ。長時間の潜水が可能になっていくのだ。なお、回収したビールびんなどは店に売って換金することができるので、じゃんじゃん潜って回収し、駄菓子やモン消しの資金源として活用するといい。このあたりの金策手段も、昭和を彷彿させるいいギミックとなっているのではないだろうか。
島の周囲で釣れる魚は30種類。中には、釣り上げた後に食卓に出せるものもある | 海中は3D視点で移動。左の体力メーターが呼吸ゲージとして機能する。これがゼロになってしまうと、溺れてしまい強制帰宅になってしまう | 海中にはビールびんやジュースびんなどが落ちている。中には、モン消しも落ちているので、いろいろな場所に潜ってみるといい |
■ 駄菓子屋ゲームに夏祭り、ミニゲームも多彩!
無計画にスローライフを送っていても楽しい本作だが、もっと「達成感のある夏休みにしたい」という人には、本作に登場する各種ミニゲームをオススメしたい。ひとつは島の商業活動を一手に担う吉田商店の前にあるゲーム機。筐体にはタイトーが1981年に発売した名作アクションパズル「QIX」が入っており、実際にプレイできるのだ。ただし、1クレジットに50円かかるため、ちょっと熱くなると貴重なおこづかいがあっという間になくなってしまう。まさか、あの日の後悔を追体験することになろうとは……。
もうひとつのミニゲームは、8月中旬に開催される夏祭り。そこで太鼓櫓を使ったリズムゲームを楽しめるのだ。これは期間限定のミニゲームだが、手軽に遊べるリズムゲームに仕上がっているので、気楽にしてチャレンジしてみてほしい。
吉田商店の前に置かれている、懐かしのテーブル筐体。1プレイ50円となっているので、あらかじめ所持金を50円玉に両替しておこう | タイトー往年の人気作「QIX」をほぼ完全移植。陣取りゲームの先駆けとなった作品で、パズルとアクション性が高いレベルで融合した傑作だ | ライバルの太陽に負けないように、うまく太鼓を叩けるか!? お盆に流れる曲は盆踊りで有名な曲の「炭坑節」などがある |
■ 細緻に描き込まれた箱庭世界に注目
自由度の高いゲーム性もさるものながら、やはり特筆すべきは「1980年代の空気感」を見事に再現したクオリティの高いグラフィックス。お茶の間にあるブラウン管テレビや、まんが姉ちゃんの部屋に張ってある1980年代チックなアニメポスター、商店の前に置かれているテーブル筐体といった細かな描写から、立ち上る入道雲や瀬戸の海を鮮やかに染める夕焼けなどの自然描写も実に見事。
グラフィックスのほかにも、虫や海鳥の鳴き声や波打ち際の音、さらにはいくつか用意されている夜のラジオ放送などの音効にも力が入っており、島を何となく歩いているだけでも、瀬戸の島々へとトリップさせてくれる。PSPの小さな画面の中に、高純度で凝縮された「1980年代の夏」は、すべてのプレーヤーを別世界へと誘ってくれるだろう。
■ 終わらない夏がここにある。30代のユーザーには特にオススメ
虫の鳴き声に混じって聞こえてくるラジオの音。ドキドキしながら開ける食玩、みんなで作った秘密基地――本作には、1980年代に少年時代を送ったユーザーにとって直球ド真ん中のギミックが満載されている。特に秘密基地に入る際の合言葉などは、1980年代テイストが色濃く出た感涙ものの演出。「あべし」→「ひでぶ」や「スカイラブハリケーン」→「立花兄弟」、「ぴぴるまぴぴるま」→「どりりんぱ」と言った、1980年代ボーイズ&ガールズの中枢神経を直撃するワードが用意されているのも心憎い。1プレイクリアまでの時間は、しっかり遊んで20時間ほど。ゲーム内の時間の流れはコンフィグで変更できるので、繰り返しのプレイも苦になることはないだろう。
生まれた年代に関わらず、プレイした人間すべてに「少年時代の夏」を思い起こさせてくれるのが本シリーズのいいところ。少年時代に帰りたいとまでは思わなくても、遠いあの日は、確実に「今」の自分の血肉として息づいている――そう再確認させてくれる、宝物のような1本と言えるだろう。
(C)Sony Computer Entertainment Inc.
QIXは、株式会社タイトーの登録商標です。
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□ミレニアムキッチンのホームページ
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□「ぼくのなつやすみ4 瀬戸内少年探偵団『ボクと秘密の地図』」のホームページ
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(2009年 8月 21日)