iPhone/iPod touchゲームレビュー

人気作“FIFA”がiPhone/iPod touchで先行リリース
サッカー好きの心を掴む、丁寧に構築された“リアル”

「FIFA 10」

  • ジャンル:サッカー
  • 配信元・開発元:エレクトロニック・アーツ
  • 価格:1,200円
  • プラットフォーム:iPhone/iPod touch
  • 配信日:10月2日(配信中)

 10月22日、プレイステーション 3、Xbox 360、Wii、プレイステーション 2、PSPの5機種で、サッカーゲーム「FIFA 10 ワールドクラスサッカー」が発売された。シリーズを重ねるごとに新たな魅力を見せてくれる本作は、北米と欧州では日本に先駆けて10月2日に発売されており、初週発売本数170万本という驚異的なセールススタートとなった。

 その同日となる10月2日には、iPhone/iPod touch版となる本作がリリースされている。こちらは世界同時配信となるため、日本でも10月2日からダウンロードできた。世界中のゲームファン、フットボールファンを魅了する最高峰のサッカーゲームが、iPhone/iPod touchという“フィールド”で、どんなパフォーマンスを発揮しているのか、しっかりとお伝えしたい。




■ 海外サッカーファンの欲望に応える、充実の実名チーム&選手数

VfLヴォルフスブルクの長谷部誠、VVVフェンローの本田圭佑など海外組もバッチリ登場

 本リーズならではの魅力は何より、FIFA公認を受けて実在のリーグやチーム、実名選手が豊富に収録されていることだ。本作には実在する30リーグ、570チーム、12,620人の選手が登場する。収録されるリーグは「FIFA 09 ワールドクラスサッカー」から、さらにイタリアのセリエA、スイスのスーパーリーグ(Axpo SL)が加わった。プレミアリーグ(バークレイズ PL)、リーガ・エスパニョーラ(リーガBBVA)など有名なリーグはもちろんのこと、下部リーグや日本ではあまり馴染みのないトルコやチェコ、アイルランドのリーグまで収録している。

 代表チームは計41チーム。コンシューマー版同様にオランダ代表も実名で登場し、世界各国を網羅している。これほど多くの実在リーグ、実名チームが登場するのは本作ならではだ。カップ戦もドイツのDFBポカル、イングランドのF.A.カップなど実名の表記がされている。細かいことだが、やはり思い入れが一段と増す。

 なおシリーズのファンなら予測済みかもしれないが、やはり本作にもJリーグや日本代表は収録されていない。“大人の事情”と言ってしまえばそれまでだが、収録数が充実すればするほど「日本代表ぐらいは居てくれても……」と思ってしまうのも事実だ。

 本作をプレイすると、「実在・実名の力は偉大だな」と感じずにはいられない。キャラクターやチームに対する感情移入度が大きく違ってくる。特に海外サッカーファンにとってはかなり重要な要素だ。筆者は本シリーズをプレイするようになってから海外サッカーに興味を持つようになった1人だが、「あのチームを、あの選手を操って戦いたい!」という欲望を、真正面から受け止めて叶えてくれるのがうれしい。


【スクリーンショット】
オーストリア・ブンデスリーガ、イングランドの4部リーグに相当するコカ・コーラ・リーグ2など、コアなサッカーファンでないと知らないようなリーグ、チームも
ギリシャのAEKアテネやアルゼンチンのボカ・ジュニアーズなど、リーグとしては収録されていないが単体で登場する強豪チームもある



■ ピッチで戦う選手の感覚を味わえる“Be A Pro”も装備

 本作は、11人全員を操作する従来のサッカーゲーム的な“クラシックコントロール”と、選手1人のみに固定して操作を行なう“Be A Pro”の、2つのプレイスタイルを搭載している。

 “Be A Pro”は他のサッカーアプリと一線を画するスタイルだ。自分以外のチームメイト10人はAIで動く。ある時は、相手の裏を突く“オフ・ザ・ボール”の動きを工夫して、仲間に「パスを出してくれ」と要求する。またある時は味方フォワードの動きに目を凝らし、スルーパスを蹴ってフィニッシュを託す。守備の場面では、味方とラインを意識しつつ、相手をマークする。“Be A Pro”は、1人の選手“しか”操作できないという不自由さを作って、逆に“リアリティ”と“サッカーをする楽しさ”に変換している。

 パスすらままならないAIのチームメイトの動きにヤキモキするときもあれば、偶然に生まれる見事なプレイに感心するときもあって、団体球技の機微までもがうまく再現されている。まさに選手になりきってピッチを駆け巡る感覚が楽しめる、魅力的な操作方法だ。

 手放しでほめたい“Be A Pro”なのだが、気になった点も記したい。まずカメラワークの悪さ。“Be A Pro”専用の視点は、ピッチのどこにボールがあるのかとても把握しにくい。どの方向にボールがあるのかは示してくれるが、距離がわからず、レーダーにも表示されない。ボールの動きがわからないので、自分もどう動いていいか判断しにくく、ゲームの楽しさを下げてしまっている。コンシューマー版では状況に応じてカメラの寄り引きを切り替え、ボールが画面外にならないように設計されているが、現時点では本作にそういった機能はない。ぜひともバージョンアップでの改良を願う。

 もう1点は、AIがあまり賢くないことだ。特に守備をしているときの味方AIに不満を感じる。驚くほど消極的なディフェンスで簡単にゴールエリアに侵入させてしまうのを見ていると、残念な気分になってしまう。せっかくのリアルさを失わないためにも、AI選手の行動を現実的にしてほしいと思う。


【スクリーンショット】
“Be A Pro”は自分がピッチ上で戦っているような感覚や感情を高めてくれる
仲間との連動が重要。飛び出しのタイミングを間違えてオフサイドになってしまったマークする相手は見失わないよう、ぴったりと身を寄せる
“クラシックコントロール”の画面。サイドライン、エンドライン、ブロードキャストなど6つのカメラアングルを選択可能



■ 1人の監督や選手として数年間を送る、シミュレーション的モードも

 本作は1試合だけのエキシビジョン以外に、一定の期間を通してプレイする「マネージャーモード」、「Be A Pro」のゲームモードがある。

 「マネージャーモード」は監督として5年間チームを率い、名監督としての名声を得るのが目的だ。毎年フロントが提示してくるチーム目標を達成すると得られる名声ポイントを、期間内にどれだけ獲得できるか目指す。強いチームを作るためには、トレードによるチームの補強、選手やシステムの選択などが不可欠だ。

 「マネージャーモード」では、試合はクラシックコントロールで行なうが、監督に専念したい場合はAIに試合を任せ、経過や結果だけを見ることもできる。自分で操作して最強チームを目指すのか、試合は選手に任せて監督としての苦労を楽しむのか、自分の好みで遊び方を選ぼう。


【スクリーンショット】
「マネージャーモード」の画面。負け続けて、名声ポイントがマイナスになったままシーズンが終了すると解雇になるので、注意が必要だ
優秀な選手を獲得するのもマネージャーの務め。資金に応じた相手を選ぼう
試合をAIに任せた場合、結果だけを確認する“クイックシム”か、文字で試合経過を伝えてくれる“ビジュアルシム”を選択する


正しいポジションを指し示す矢印が表示される。矢印を追うことで、自然にポジショニングが身に付く

 ゲームモードとしての「Be A Pro」では5年間、既存の選手または自分でクリエイトした選手になって、所属するチームで活躍する。試合の結果によって経験値を獲得し、選手のステータスを向上させていく。経験値を獲得するためには、個人の技術とチームプレイの両方が重要になる。パスやシュート、タックルなど個人技の成否だけでなく、敵選手へのマーク、ポジショニングなど、試合中のすべての行動が評価され、それに応じた経験点が付与される。

 実際に評価を意識しながらプレイしてみると、漠然と試合をしたときと比べて、さらにリアルな手触りに変わるのが面白い。勝つことだけを考えるなら、ポジショニングを無視したり、強引な突破をしたりといった“ゲーム的なサッカー”に偏りがちだ。しかしそれでは評価があまり上がらないので、自分の役割に応じた行動をするようになる。結果、プレーヤーは“現実的なサッカー”を自然に意識させられ、リアリティを高めている。

 憧れのスーパースターになるもよし、自分を投影したオリジナル選手で活躍するもよし。知る人ぞ知る、いぶし銀の選手になってみるのも面白いかもしれない。この楽しさは、ほかのサッカーアプリにはない、独自の魅力だ。

 上記以外に、カップ戦を戦う「トーナメント」や、「PK戦」、「トレーニング」、「キックオフ」といったメニューを搭載している。「キックオフ」は1試合のみをすぐにプレイするモードで、“クラシックコントロール”でも“Be A Pro”でも遊べる。


【スクリーンショット】
オリジナル選手の作成画面。能力値や外見、ポジションなどを設定できる試合後に、活躍に応じて経験値をゲット。レベルアップすると選手を強化するポイントが得られる
各国のクラブによるカップ戦を楽しむことができる「トーナメント」は、“クラシックコントロール”でプレイするゲームモード選択画面。トレーニングやPK戦などもここから選ぶ



■ オーソドックスな操作方法は改良の余地あり

 スポーツゲームにとって重要な要素である、操作方法についても確認しておこう。本作は選手を動かす方向キーと、パスやシュートなどの動作を行なうA・Bボタンを、タッチスクリーン上に表示するソフトウェアキー方式を採用している。iPhone/iPod touchの他のサッカーゲームでも、ほぼ同様の方式が採用されており、オーソドックスなインターフェイスと言えるだろう。サッカーゲームに慣れたユーザーなら直観的に理解できるのが長所だ。

 さらにA・Bボタンをスライドさせたり、フリック(弾くような操作)したりすることで、スルーパスやトリッキーなフェイントなど高度な動きも可能。操作方法は「ヘルプ」メニューから、いつでも確認できるのがありがたい。


【スクリーンショット】
ゲームの初回起動時にはチュートリアルとして、操作方法を表示してくれる
フリーキックやPKはボールにタッチして方向や威力を調整する
データの読み込みの間には操作方法のTipsを表示トレーニングで、いろんな操作をマスターしよう


 プレーヤーの入力に対して、本作のキャラクターは非常にリアルなモーションで応えてくれる。方向転換やダッシュ、キック、タックル……ひとつひとつの動きが、全身の隅々まで丁寧に表現されており、“人間”らしい重みも感じさせる。相手選手にぴったりマークしたときに、肘を使って位置取りを争う動きなどは、選手のぶつかり合う音や息遣いが聞こえてきそうなほど。反面、動きがもったりした感もあり、これを「リアル」と評価するか「爽快感がない」と思うかは、好みによって分かれるところだろう。

 本作のインターフェイスについては気になった点もある。本作の方向キーアイコンは画面に占める割合が大きく、位置が中央寄りにあると感じた。そのため、自分の指で画面が隠れてしまうエリアも広くなり、プレイに支障が出ることもしばしば。アイコンのサイズは「ゲームプレイ設定」で変更できるが、筆者の場合は「小さい」に設定しても、まだ大きいように感じられた。

 またソフトウェアキーは、ハードウェアキーにある凹凸などの手触りがないため、「どの方向にキー入力しているのかわかりづらい」という欠点があり、本作も同様だ。だが他社のサッカーゲームでは、方向キーの位置を固定せずに指を置いた場所をニュートラルとして、スライドさせた方向を判定するという改良を加えて、欠点をカバーしているものもある。iPhone/iPod touchの特性を理解したアイデアが先に出ているだけに、比較するとどうしても本作の操作性には不満を感じてしまう。本作が平均点を下回っているわけではないが、もう1歩踏み込んだ工夫や配慮が欲しかった。

 なお本作には加速度センサーを使用し、iPhone/iPod touchを傾けて選手の移動を操作する方式も用意されている。しかしサッカーのような複雑な操作には適しているとは言えず、リアリティに繋がっているわけでもない。あくまでおまけ程度にしかなっておらず、iPhone/iPod touchの特性を活かすアイデアとは言い難い。


【スクリーンショット】
体を張って厳しくチェックする様子。細かな腕の動きがリアルだ操作設定の画面。HUD(ソフトウェアキー)のボタンや透明度も変更できる
傾けた方向に選手が動く、加速度センサーでの操作。方向キーの代わりにあるCボタンを押すとダッシュする



■ 惜しい点もあるが、積み重ねによる繊細なリアリティは見事

 シリーズが培ってきた長所や魅力を、iPhone/iPod touchで再現しようとした本作。美しいグラフィックスやモーション、豊富に収録されたチーム・選手、魅力的なコンセプトはさすが“FIFA”を冠するだけのことはある。他のサッカーゲームが、おいそれとは追いつけない高みにいる。“リアルなサッカー”を構築するために、あらゆるアイデアや工夫を積み重ね、非常に繊細なリアリティを作り上げたのは、流石というほかない。

 にも関わらず、本作に対しては“惜しい”という気持ちが芽生えてしまう。個性的で革新的なシステムやモードがある一方で、ユーザーインターフェイス、特に操作方法に関してあまり工夫や独創性が感じられなかった。iPhone/iPod touchというプラットフォームにどうやって“FIFA”を押し込むのかを優先し、プラットフォームの魅力を生み出そうという配慮が感じられない。工夫の見られないソフトウェアキーや、見づらいカメラワーク、その他小さな数々のバグは、その一端ではないだろうか。

 しかし“FIFA”がこの程度で終わるはずがない。常に先進的なことにチャレンジし、停滞を恐れたからこそ、世界最高のサッカーゲームになったのだ。恐るべきポテンシャルを秘めた本作がより素晴らしいゲームとなるには、より深くiPhone/iPod touchという“フィールド”を理解すべきではないだろうか。その結果がバージョンアップによる改良か、次回作になるのかはわからないが、ぜひともこの目で確かめたい。シリーズを重ねる度に進化し続けてきたからこそ、“FIFA”は多くのファンを魅了してきたのだから。


【スクリーンショット】
リアルなグラフィックスや、細やかな演出もリアルを構築するための大切な要素
プレイ実績によってアンロックされる要素などもあり、プレーヤーに対するサービス精神は感じられる
「クリエイトした選手の名前表示がおかしい」、「“Be A Pro”で勝手に選手が動きだす」など、すぐにでも修正してほしい点がいくつかある


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(2009年 10月 22日)

[Reported by 山科明之進]