「Back in 1995」レビュー

Back in 1995

“あの頃”のアクションアドベンチャーを再解釈。不便さを新たなゲーム体験に昇華した作品

ジャンル:
  • アクションアドベンチャー
発売元:
  • メディアスケープ
開発元:
  • Throw the warped code out
プラットフォーム:
  • Nintendo Switch
価格:
980円(税込)
発売日:
2019年5月23日

 もし今までのゲームに関する記憶を持ったまま1995年にタイムスリップしたらどうなるだろうか。

 「Back in 1995」はあの頃……つまりタイトルの通り1995年付近に発売されたアクションアドベンチャーゲームに強いリスペクトを感じる作品だ。かなり前の記憶だが筆者も当時発売された「アローン・イン・ザ・ダーク」や「バイオハザード」はプレイしてきた。

 最新の作品と比較すると、ローポリゴン、解像度の低いテクスチャ、不自由なカメラワーク、そして上下キーで前後に移動、左右キーで回転する通称“ラジコン操作”など、見劣りするところが多かったが、当時は3Dを使った表現力や演出には興奮した記憶がある。

 さて、それでは数々のゲームをプレイしてきて、数々のゲームの進化を目の当たりにしてきた我々“今”のゲーマーが“あの頃”のゲームをするとどうなるのだろうか。そんなチャレンジをしたのが本作「Back in 1995」である。

 ほぼ個人で開発したという本作、当時を再現したグラフィックスや操作感を今のゲームエンジンで再構築している。プレイ時間は想定で約2、3時間程度と昨今のインディーゲームの中でも比較的コンパクトな部類になる。

 だが本作のゲーム体験はゲームプレイ時間に全く比例しない。一見ネガティブに見えるグラフィックスや操作感をポジティブに生かしたゲーム体験はインディーらしい尖り具合を感じさせ、そして多数の謎を投げかけることでプレーヤーをゲームの中にグイグイと引き込む。そして最後の最後にあらゆるものを巻き込みすべての謎を解決するというゲーム体験は非常に濃厚なものだった。

 今回はSteamにて2016年4月から配信を開始した「Back in 1995」の移植作品のNintendo Switch版を使用したレビューをお送りする。

【Nintendo Switch Back in 1995】

とにかく謎だらけの展開。一気にプレーヤーをゲームの世界に巻き込む

 ゲームは主人公の「ケント」が、暗闇の向こうに見える「タワー」に向かって独り言を呟いているシーンから始まる。「過去を清算するため」にタワーにたどり着かなければいけないのだという。

 リッチなムービーによるキャッチーな導入パートや、丁寧なチュートリアルなどは存在しない。さらに言えばBGMもほとんど無く、効果音も最小限だけ。本作はあえて謎だらけでほとんど説明がない舞台に主人公とプレーヤーを放り込むという手法でプレーヤーをゲームの世界に引き込むという手法を使っている。そしてその狙い通りに筆者も一気に飲み込まれた。

 このパートだけでも「主人公が『過去を清算する必要がある』とタワーとは何か」、「そもそもここはどこなのか」、「主人公は一体何者か」、「世界はどういう状況になっているのか」などなど謎だらけの展開で、頭に複数のハテナマークが浮かんだ。プレーヤーは主人公と一緒にこれらの謎を解くためにゲームを進めていく。

 ゲームを進めると少しずつ情報が明らかになっていく。どうやらこの街には正体不明の怪物が現われて、生き残った人々はビルの中に立てこもっている、そして主人公がいるビルは病院なのだという。だが明らかになる情報よりも謎の方が増えるペースが速い。まるでミステリー小説を読んでいるかのような感覚だ。

暗闇の向こうにそびえ立つ「タワー」。主人公はそこを目指すが「過去を清算する」とは……?
状況が掴めないが主人公が今いるのはビルの中にある病院のようだ

不便さを逆手にとって新しいゲーム体験へと昇華

 ストーリー体験に重きを置いているためか、ゲーム的な部分での進行は基本的に大きく迷うことはないようになっている。マップ全体も小さめで、極端にルートから外れる行動はできないようになっている。ただ一本道というわけではなく、探索やちょっとした謎解き、モンスターとの戦闘は発生する。

 そしてこの部分で荒いテクスチャ、不自由なカメラワーク、非直感的なラジコン操作が上手くスパイスになっているのが面白い。

 例えば本作にはどう見ても行き止まりに見えるところがある。だがある程度近づくと急にカメラの位置が変わり、実は直角に曲がっているだけだったというような演出がある。現代のゲームであればカメラをぐるぐると回してルートを見つけることができるところを、あえて不便なシステムを使っている。

 ほかにも目的地がわかっていてもラジコン操作でモタついてしまったり、いわゆるダッシュ移動がないため移動に時間がかかってしまったりする。

 こういった今では不便に感じる当時の仕様を活かし、それを今の常識で考えると新鮮なゲーム体験へと昇華させているのだ。

ゲームの進行に迷うことは殆どないが、不自由なカメラワークと、直感的ではないラジコン操作がゲームの難易度にスパイスを与えている

 こうして主人公とプレーヤーを手のひらで転がしながら、謎を絡めていくのだがゲームの終盤に一気に数々の謎を巻き込んでそれらをすべて解決させる形でゲームは終わりを迎える。ゲーム終盤のスピード感はまさに怒涛。素直に筆者の気持ちを記すと「なるほど、そう来たか」という展開だった。この展開は動画や記事などで済ませるのではなく、ぜひゲームをプレイして“体感”してほしいと思う。

 クリアまでのボリュームは2,3時間程度と記載したが、エンディングまで見たあとの満足感というか驚きの展開過ぎた虚無感は長時間プレイした別作品とも変わらないほどに重い。正直この原稿を書いている今も思い出しながらまた心の奥に重いものをを感じているほどだ。

 パッと見た時ははレトロなグラフィックス、ゲームシステムを今のテクノロジーで再現したという話題先行の作品に見えたのだが、本作はそんな浅いものではなくゲーム体験的にはヘビーな作品だ。

 Nintendo Switch版、Xbox One版は現在配信中でプレイステーション 4/PlayStation Vita版は6月に発売が予定されている。

【スクリーンショット】