2019年5月21日 12:00
1987年より、30年以上にも渡って展開されている日本ファルコムの「イース」シリーズ。赤い髪の冒険家アドル・クリスティンの冒険譚を描いた物語は、ナンバリングで8作品、外伝やリメイクなどを含めると20作品以上にも及ぶ長大なシリーズとして、現在も根強い人気を誇っている。
今回取り上げる「イース セルセタの樹海:改」は、2012年にリリースされたPS Vitaタイトル「イース セルセタの樹海」をPS4にてHDリマスター化したものとなる。過去に他社から発売された「イースIV」に該当するタイトルを、本家である日本ファルコムが新作として開発を手がけ、後の「イースVIII」や今年発売予定の「イースIX」のシステムの礎となった作品だ。
アクションRPGとしても高く評価されたPS Vita版をPS4へとHD移植された本作のレビューをお届けしていこう。なお文中のボタン表記はデフォルト設定にもとづいたものだ。
探索のモチベーションが上がる、セルセタの樹海の地図作り
「イース」ほどの長いスパンで展開されているシリーズにおいては、ファンがどの作品で初めてシリーズに触れたのかは、世代によって異なると思われる。Windows普及前のPCからスタートした初期シリーズなどは、後に様々なハードに移植されていて、その完成度も異なったため、どのハードで遊んだかで印象もずいぶん変わるのではなかろうか。筆者が初めて「イース」に触れたのは、1989年発売のPCエンジン版「イースI・II」で、ドラマチックに演出されたストーリー展開とクオリティの高いサウンドに心躍らされた同世代のユーザーは多いのではなかろうか。
その時代から比較すれば、この「イース セルセタの樹海」はゲーム内容も大きく進化し、アドルらキャラクターのデザインも現代風になっているが、実はストーリー的には「イースII」から続く時系列に当たる。主人公となるアドルが「冒険家」と名乗るきっかけになった物語が描かれ、筆者のようなオールドファンが挑むにおいても入りやすい設定だ。
ゴールドラッシュに沸くロムン辺境の街「キャスナン」にどこからか現われた赤毛の青年。自分がなぜここにいるのか、そして自分が誰なのかも思い出せないでいる彼は、自分のことを知る男デュレンと出会い、記憶を失った原因となる魔の領域「セルセタの樹海」へと足を踏み入れていくこととなる。アドルが記憶を失っている設定により、その後彼が少しずつ記憶を取り戻していく展開に心を惹かれる。
最初に仲間となるデュレンとともに失われた記憶を取り戻す旅に出るアドルは、ロムン帝国の総督グリゼルダの依頼により、セルセタの樹海の地図作りを請け負うこととなるわけだが、これが本作の探索のゲームシステムに直結している。
アドル達が挑むセルセタの樹海は広大なダンジョンのようであり、足を運んだ場所はタッチパッドボタンを押すと開くマップが少しずつ開放されていく仕組みだ。また画面右上にあるミニマップも踏破していないところは黒いモザイクのようなエフェクトがかかっているので、その方向を目指して移動すればマップが開いていくようになっている。
全体マップに関連するシステムも非常に親切で、一定時間前から現在までの移動ルートが表示される他、「地図作成率」の表記や開放した範囲の素材が取れるポイントや宝箱の位置、クエストの目的地やアドルの記憶が秘められた「光の塊」などがゲームの進行によって記されていくので、それらを目標に進めることで物語を体験しつつ、自然にマップが完成していくというバランスとなっている。
これは探索のモチベーションアップにも繋がっていて、マップの情報が詳細なことで、後の素材収集など、ゲームをある程度進めてからのやり込みにも役立つはずだ。
フィールドは画面切り替えはあるものの、基本的に地続きなので、回避アクションを交えて素早く移動することにより、敵とあまり戦わずに進んでいくこともできる。ただしRPGなので、調子に乗って進みすぎると思わぬところで痛い目に遭うはず。道中には回復・復活・ファストトラベルを行なえる「石碑」があり、これを上手く使うことで、自身の強さに敵した場所でのレベル上げやアイテム収集ができるのが上手い設計だと思った。
テンポがよく戦略的なアクションとして作り込まれたパーティバトルが展開
道中の敵との戦闘は、「Ys SEVEN」の仲間キャラクターとのパーティバトルをさらに昇華させ、後のシリーズにも影響を与えたテンポのいいアクションを構築している。エンカウントの演出などはなく、敵がいれば移動中からそのまま戦える仕様で、○ボタンで装備している武器によるコンビネーション、△ボタンでガード、×ボタンで回避が行なえる。攻撃はボタン連打によるコンビネーションや、攻撃の手を一旦止め力を溜めてから攻撃する溜め攻撃などがあり、状況によってこれらを使い分けて戦うのである。
また攻撃手段にはSP(スキルポイント)を消費して繰り出す強力な「スキル」も用意されている。これは事前に対応する4つのボタンにセットしておいて、戦闘中にR1ボタンを押しながらセットしたボタンを押すと繰り出せるもので、通常の攻撃とはまったく違った性質の攻撃を繰り出せるのだ。
例えばアドルの「ライジングエッジ」なら、敵を打ち上げて無防備にした状態で追撃できるといった攻撃手段の他に、オズマの「地龍壁」なら自身と周囲の仲間のDEF(防御力)を一定時間上げるといったサポート的な力を持ったものもある。これらのスキルは、レベルアップなどとは別に強敵と戦ったときに閃くという独自の取得方法なので、積極的に強敵に挑んでいくことが後の戦いを有利にする結果となるのである。
ジャンルはあくまでアクションRPGなので、調子に乗って攻撃ばかりしていると、いつの間にかダメージを受けてやられてしまうこともある。ガードや回避は敵の攻撃に合わせてタイミングよくボタンを押すことで、「フラッシュガード」(ダメージ無効+SP&EXTRAスキルゲージ追加+一定時間クリティカル発生)や「フラッシュムーブ」(一定時間無敵+敵がスローに)という、圧倒的に有利になれる状況を作り出せるので、攻撃のモーションがわかりやすい敵やボスなどを相手にしているときは、積極的に狙っていく価値がある。
こうした攻防が繰り広げられる戦闘は、仲間に加えているパーティメンバーとともに行なうものだ。ゲーム中はキャラクターの1人を操作し、それ以外のキャラクターは「攻撃優先」と「回避優先」の2種の指示に従って行動するようになっている。キャラクターのAIはかなり賢く構築されているようで、操作キャラが対応できない範囲の敵への攻撃や的確なスキルの使用、また素材の収集やドロップアイテムの回収なども行ってくれる。
筆者がプレイした範囲では、勝手に敵に突っ込んで戦闘不能になってしまうようなこともなく、毒などの状態異常にだけ気を配っていれば、非常に頼りになる存在だ。それぞれの装備武器と敵との相性などもあるので、キャラクターの切り替えなども含めた臨機応変な戦略の組み立ては、本作の大きな醍醐味といっていいだろう。
なおゲームはEasy、Normal、Hard、Nightmareの4段階の難易度が用意されていて、Easyならば、アクションがそれほど得意でなくても進められる程度に難易度が抑えられているので、先にストーリーを進めたいという人にも楽しめるはず。一方のNightmareは、敵からの受けるダメージがかなり大きくなり、攻防における戦略をしっかり意識しないと難しい、高難度のモードだ。難易度はゲーム中に低い難易度への変更が可能なので、最初は高い難易度を選んでみるのもいいかもしれない。
本作を踏まえて、9月発売のシリーズ最新作へと挑みたい
日本ファルコムの新旧タイトルはサウンド面が非常に優れていることが挙げられ、本作もその例に漏れず、PS Vita版から高い評価を得ていた。特にメインとなるフィールドやダンジョンの楽曲は、戦闘時のスピード感にもマッチし、聴いていて飽きない曲が揃っている。今回はPS4での発売ということで、音響設備が整った環境でプレイする機会も増えるはずなので、ぜひ楽しんでいただきたい。
一方、ゲーム画面のグラフィックスに関しては、元々がPS Vitaのタイトルということで、HDリマスターされているとはいえ、近年のPS4オリジナルのタイトルのそれと比較した場合、イベントシーンなどでキャラクターが大映しになるときなどに若干見劣りする印象もある。とはいえ、ゲームのメインとなるのはアクションで、総合的な完成度も高いので、プレイしているうちにあまり気にならなくなるはず。イベントによっては2Dの止め画とボイスによるシーンなども挿入され、演出的にも飽きさせない展開なのでじっくりと楽しんでみてほしい。
筆者としては久しぶりに触れた「イース」シリーズだったが、アクションRPGとしての手触りのよさとクオリティの高いサウンド、引き込まれるストーリー展開など、全体的に満足度の高い内容であった。集めた素材を使用しての武器の強化や、モンスター図鑑の作成など、やり込み要素もあり、ボリューム的にもかなり遊び込めそうである。
前後のストーリーを知らなくても入りやすい内容なので、初めてシリーズに触れる人や、久しぶりに触るという人にも向いている。本作を踏まえて、今年9月発売予定の最新作に挑んでみるのもいいかもしれない。