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【GDC 2014】Choice Awards受賞作「The Last of Us」のライティング技法

光のない世界にいかに光を届けるか。各種Bounce Lightingの取り組みを紹介

3月17日~3月21日開催(現地時間)

会場:San Francisco Moscone Convention Center

Naughty Dog Lead Lighting Artist Vivian Ding氏

 大方の予想通り、まさに満場一致といった印象で今年のGame Developers Choice AwardsにNaughty Dogの「The Last of Us」が選ばれた。濃厚なストーリー展開や、その個性的な世界観、そしてPS3プラットフォームの最後期のエクスクルーシブタイトルとしてPS3の限界に挑むリッチなビジュアル表現でゲームファンを大いに喜ばせてくれた快作だ。

 GDC 2014では、「The Last of Us」の各パートのセッションが開かれたが、本稿ではライティングに関するセッションを取り上げたい。「In-Game and Chinematic Lighting of THE LAST OF US」セッションスピーカーを務めたのはNaughty Dogでライティングチームを率いるLead Lighting ArtistのVivian Ding氏。本稿ではライティングセッションの中でもとりわけ印象的だった「Bounce Lighting」への取り組みを中心に取り上げたい。

【The Last of Us 日本プレミア版トレーラー】

【「The Last of Us」の世界観】

 「The Last of Us」のライティングは、ゲームにおける非常に重要かつ印象的な要素だ。なぜなら、同作は謎の細菌感染で崩壊した世界を描いており、人工の光源が極端に限られるからだ。光源と言えば、日中の太陽光と、フラッシュライトなど限られた人工光に限られる。そうした環境で、世界を印象的に見せるために何をすべきなのか。

 そこで彼らが着目したのが反射光(Bounce Light)だ。自然光やフラッシュライトの反射光を正しくゲーム内で表現することで、よりリアリティのある世界を生み出すことができる。これを実現するためNaughty Dogが使用しているライティングシステムを強化し、新たに「Dominant Directionality」、「Ambient Shadows」、「Flashlight Bounce Lighting」の3つの処理を新たに導入することにしたという。

 「Dominant Directionality」は、指向性や色、強度などを備えた光源データをあらかじめ焼き付けておくというもので、外部から入る強烈な光という、「The Last of Us」では定番のシーンに全面的に採用されている。これにより、パキッとメリハリの効いた印象的なライティング表現が、一定以下の負荷で実装可能となる。

【Bounce Light】
「The Last of Us」は光源が限られる世界観であるため、限られた光源を最大限に表現するために反射光に徹底的にこだわることを基本方針とした

【Dominant Directionalityの実装プロセスと最終ショット】

【Dominant Directionalityのゲーム内での適用事例】

 強化した要素のもうひとつが環境影(Ambient Shadows)となる。キャラクターや動的なオブジェクトに対して影を生成するというもので、こちらもBounce Lightを意識して本来であれば無視される光源の向かいにある壁や地面など、反射先にも、Bounce Lightとそれに対する影が生成されるのが大きな特徴となっている。

【Ambient Shadowのゲーム内での適用事例】
いずれも足元とその周囲の壁に注目。新たな光と影が生成されているのがわかる

 そして3つ目が「Flashlight Bounce Light」。これまでフラッシュライトは、向けた先にしか光が照らされなかったが、実際にはその周囲には間接光が発生する。これを実際にゲーム内で再現してみようという取り組みだ。実装にあたっては、Refrective Shadow Mapの技法を用い、Naughty DogのグラフィックスエンジニアのKe Xu氏が開発したという。

【Flashlight Bounce Light】
左がオフで右がオン。サムネイルではわかりにくいかもしれないが、オンではフラッシュライトの周囲に間接光が配置されている
ライティングテクニックを応用してフラッシュライトのバッテリーが死ぬという演出も
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(中村聖司)