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【CEDEC2013】「LIGHTNING RETURNS:FINAL FANTASY XIII」に注がれたサウンド技術
状況に合わせめまぐるしく変化する効果音とBGMはいかにして実現できたか
(2013/8/24 10:04)
「The Audio Ingenuities of LIGHTNING RETURNS FINAL FANTASY XIII」では11月21日に発売を予定しているプレイステーション 3/Xbox 360用RPG「LIGHTNING RETURNS:FINAL FANTASY XIII」で使われているサウンド効果を中心に、サウンド開発チームの取り組みと将来の展望が語られた。
登壇したのは本作のサウンドディレクターを務めるスクウェア・エニックスの矢島友宏氏と、サウンドプログラマを務めた南明宏氏。「LIGHTNING RETURNS」はこれまでの「FINAL FANTASY XIII」シリーズで培われた技術を受け継ぎつつ、様々なアイディアが盛り込まれた。
講演では「自然な音の出し方」、「よりプレーヤーの心を沸き立たせる音楽の使い方」といったアプローチ。さらにはアイディアを形にするためのサウンドデザイナーとプログラマーの将来像と言ったところも提示された。
動的に変化するBGM、リアルさを増していく効果音……様々な新技術
講演で最初に語られたのが「LIGHTNING RETURNS」に盛り込まれた新技術だ。本作はこれまでの作品に比べ広大なマップを持つ。さらに“時間の変化”という要素も盛り込まれている。本作は「時空間リソース管理」というシステムが導入されており、マップ上の様々な“音源”に近づいた音の演出を可能にしている。
今作は広いマップの音源データを1度に読み込むのではなく、いくつかのブロックに分けて音を読み込んでいる。さらに音は、時間、状況、さらにはクエストの進行など、様々な要素で変化する。特に「LIGHTNING RETURNS」ではクエストの進行での音も変化していく。講演では機能に合わせた動画が用意されており、説明がわかりやすかった。
動画では実際のゲームより早い時間で1日が進んでいった。主人公のライトニングが立っている所は街の中で、昼間は人々の声がして賑やかさが感じられる。また何人かのNPCが声を上げたりしているのも聞こえた。夜になると音の所でもがらりと雰囲気が変わる。音の存在で街の存在感が大きく増しているのが実感できた。「LIGHTNING RETURNS」では“電車”が大きく扱われており、電車に関するリソースも多いという。
2つめの要素が「シンクロナイズドエミッター」。大きな建物内の“館内放送”をイメージするとわかりやすいが、複数の離れたところから同時に声が出るという状況を再現可能にしている。AからBに移動したとき、キャラクターの移動に合わせ、AとB両方で同時に放送が流れていると言う状況を再現している。Aにあるスピーカーで「ただいま12時……」という声が聞こえBにたどり着くとBのスピーカーから「……になりました」とちゃんと繋がって聞こえる。“音の途中再生”の機能を活用して実現したという。
状況によるBGMの変化もかなり力が入っている。フィールドの状況の変化、戦闘への以降、戦闘でもピンチになったり、優勢になったり、敵が瀕死になったりするとBGMはシームレスに、そして頻繁に変化する。さらにキャラクターの声の調子も変わる。
特に戦闘時はピンチの時は声が苦しげになり、危機感がさらに大きくなる。逆に優勢時は敵の攻撃をガードした場合でも「通用するかな?」などの強気なセリフが聞ける。変化するときは「ここで攻める!」といったセリフも出る。キャラクターの声やBGMの変化はHP量などの単純なものではなく、様々な要素を絡めているという。
このように本作はキャラクターの状態、ゲームの進行にマッチした“音”を作り出している。BGMの変化も変化する度に曲の最初からかかるのではなく、途中から演奏が再開することで、なめらかな変化を実現している。また、「FINAL FANTASY XIII」シリーズで導入された、キャラクターの動きに合わせ音が生成されるMASTS(Motion-Controlled Real-Time Automatic Sound Triggering System)もさらに改良が加えられているという。
シリーズを重ねることで磨かれた技術。求め続ける“いい感じ”をどう実現していくか?
次に語られたのが、「技術向上のアプローチ」。なぜ技術を向上させていかなくてはならないのか? 既存のツールを活用するだけでは、音の表現そのものが平坦になり、特に大作といわれる作業量が膨大になる作品ではデメリットが際立ってしまう。アイディアを実現できない状況も増え、ゲームが没個性になってしまう。
逆に個人のテクニックに頼りすぎた開発では手法がブラックボックス化してしまい、スタッフが変わったときにクオリティや演出手法がその後の作品に引き継がれない。汎用性を持ちつつ、高い技術力を発揮でき、なおかつ拡張できるような開発環境こそが求められているのではないかと矢島氏は語った。
現在、スクウェア・エニックスの開発では先行して開発されている研究や試作のシステムから様々な技術を活用しながら“標準搭載される技術”を継続して開発していく。それと共に作品ごとに必要とされるようなアイディアを実現する、プラグイン型スポット技術を合わせて盛り込んでいくという開発体制が構築されている。スポット技術もハードやプロジェクト同士の互換性も意識していく。
「FINAL FANTASY XIII」では先行/試作技術が大量に導入された。自動化による効率化、大量のリソースを用いた空間表現など基礎的な部分がテーマとなった。その後、「FINAL FANTASY XIII-2」の開発が決定され、他の作品で盛り込もうとしていたアイディアを導入していくこととなった。「FINAL FANTASY XIII-2」開発の時期から、他のタイトルでもこれまで構築していった技術を活用するようになったという。
「FINAL FANTASY XIII-2」ではこれまで培ってきた技術の“質”を高めていく意識を持って開発に望んでいった。音量の定義、データの作り方、管理の仕方、クオリティの幅……様々なポイントを検討し、設定して共有化していった。スタッフ全員で表現技法の模索を行なうようになった。ボイスの強化、周囲の人々の声などもこの頃から導入された。
そして「LIGHTNING RETURNS」ではこれまでの技術を昇華して導入していった。様々なものがブラッシュアップされた。さらに効率的なメモリの使い方や、洗練された動的な処理、ツールもこれまで以上に使いやすくなった。ツールの見直しなども行なわれているという。「LIGHTNING RETURNS」では特にスタッフへの技術継承、技術レベルの向上と言うところに力を入れたとのことだ。
開発を続けていく中で問題点もよりはっきりしてきた。実際のゲームでは挙動はディフォルメされており、リアルな物理計算との乖離が目立ってきている。コンテンツが増えていく中でのデータの処理・管理も今後の課題だ。ツールなどの完成度が上がっていく一方で、発生するバグは原因が見えにくくなっている。今後も技術的な難易度が上がっていく中で、向き合い続けなくてはいけない。便利に、やれることが大きくなるほど、問題点も大きく、深くなっていくという。
そんな開発環境の“これから”はどうなのだろうか。ムービーやカットシーンなどプレーヤーが受動的に受けるものはクリエーターがより細かくこだわれるようになる。ユーザーの能動的なアクションはよりリアルに、リアルタイムで実現できるようになる。
表現できることが増えていき、洗練されていく中で、クリエイターのやりたいこと、ユーザーの受けたいことの“差”は今後さらに顕在化してくると矢島氏は語った。リアルという所では価値観を共有しやすいが、魔法の音など人によってイメージが異なる現実にないものはギャップが生じる。この調整をどう行なっていくか。
矢島氏はその調整を“いい感じ”というアバウトな表現で提示する。将来的には求められるバランスを“いい感じ”にAIでリアルタイムに調整できるのではないか、というのが矢島氏の考える未来像だ。「LIGHTNING RETURNS」では戦闘でのBGMの変化など様々なバランスは、何度も試し、検討を重ねながら作っていった。変化は動的であるが、それはデザイナーがこだわって作ったバランスであり、リアルタイムに変化するものではない。そんな多くの多くの作業を経て作り上げたバランスを、将来的にAIで“いい感じ”にできるのだろうか?
南氏はプログラマーの視点から、AIの実現ではなく、現在の技術で矢島氏が求める“未来”を実現するための自分なりの考えを語った。ムービーなどの作り込みはドライバーの機能を増やしたり、調整することでサポートし実現できるが、ユーザーが能動的に得るリアルタイムで、なおかつリアルなアクションとレスポンスは、ゲームデザイナーや、グラフィッカー他にも様々なスタッフとの調整がなければ実現できないと語った。
プレーヤーのアクションに対応するサウンドを突き詰める中では、様々なシチュエーションが求められ、それに対応するためにデザイナーにプログラマーやグラフィッカーなどの様々な分野の知識が求められる。AIをどう作るかという話ではなく、まずデザインするでデザイナーにはかなりの知識が必要とされるという点を指摘した。
その話を受け矢島氏は「FINAL FANTASY XIII」、「FINAL FANTASY XIII-2」ではできるだけサウンドチームで完結できるような、サウンドチームがやりたいことは、他の分野の人達にできるだけゆだねないような環境を目指していたと過去の取り組みを語った。しかし、「LIGHTNING RETURNS」では、音の鳴らし方にマップデザインのノウハウが必要だったり、バトルシステムと密接に連動することで生まれる演出など、メインプログラマーなど、他の分野と連携しなくては自分たちがやりたいと思うことは実現できないと考え、様々なスタッフとの協力ですすめていった。そうするなかで、「LIGHTNING RETURNS」では開発チームがお互いの分野での知識が深まったという。
「今後色々なハードをやることで色々な知識が手に入ると思います。これまではサウンドというのはどちらかというと下請けのような感覚だったが、今回からは『こういう技術使いたいからできる方法考えてよ』とやってもらっています。みなさんにも“いい感じ”を共有するためのアイディアをいただければと思います」最後に矢島氏はこう語った。
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※画面は開発中のものです