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【GDC 2013】マーベラスAQLのはしもとよしふみ氏が話すRPG開発

社内外から反対された「ルーンファクトリー」、「朧村正」が成功した理由とは?

3月25日~29日開催(現地時間)

会場:San Francisco Moscone Center

 GDCでセッションを行なうのは海外の開発者だけではなく、日本の開発者も様々なテーマで発表を行なっている。

 本レポートでは「閃乱カグラ」シリーズや「牧場物語」シリーズといったタイトルで知られるマーベラスAQLで執行役員兼COOを務める橋本嘉史氏がスピーカーを務めた「RPG Development: Inspiration and Perspiration(RPG開発:ひらめきと汗)」のセッションレポートをお送りする。

 橋下氏は「はしもとよしふみ」名義で、「牧場物語」や「ルーンファクトリー」シリーズ、「朧村正」の他、「ヴァルハラナイツ」や「グランナイツヒストリー」などのタイトルでプロデューサーを務めている人物だ。

 今回のセッションでは「ルーンファクトリー」と「朧村正」の事例を紹介しながら、自身がどのような点を意識してRPGを開発しているかを紹介した。

ファンタジーの中にリアルを取り込む事でプレーヤーを惹きつける。「ルーンファクトリー」の事例

株式会社マーベラスAQLの橋本嘉史氏

 橋下氏はまず自身がプロデューサーを務めた「ルーンファクトリー」シリーズを例に出し、ユーザーを惹きつけるための世界観の構築手法を紹介した。

 「ルーンファクトリー」シリーズは「牧場物語」シリーズのスピンオフ作品で、農作業を行なったり、町の人と触れ合ったりというほのぼの系の生活ゲーム「牧場物語」にRPGの要素を追加した作品となっている。

【ルーンファクトリー4】

 本作のコンセプトは「ファンタジー世界の中で生きること」で、RPGにありがちな「冒険」はメインテーマではなかったという。主人公は勇者など特別な存在であることが多いが、橋下氏はあえてそのセオリーを外し、「主人公は特別な存在ではないが、この世界の中でしっかりと生きていく存在」として描く事を決めたという。

 そのため様々なRPGで採用されている「モンスターがなぜかお金やアイテムを持っていて、モンスターを倒しそれを奪ってお金を貯めていく」という要素をなくし、主人公は農作物などを耕して必死に働いて生計を立てていく。この様にこれまでの多くのRPGで目を背けていた“ファンタジーの中のリアル”に注目して世界観を構築したという。

 ファンタジーの中のリアルを意識した要素は他にもある。「ルーンファクトリー」のゲーム内には四季の概念が有り、夏はキャラクターの衣装が水着に変わるのだが、橋本氏は「ファンタジーの世界にも肌を焼きたい人もそうでもない人もいるはず」という設定を盛り込んだ。

 しかし現実世界のように日焼けクリームをつけるわけにはいかないので、ゲーム内のキャラクターはタトゥーを入れることで日焼け止めになるという設定にしたという。

 ゲーム内のファッション要素も同様だという。ゲーム内の登場人物は毎日畑をいじるのでファッションなんて気にしないのではないかと言われるかもしれないが、橋下氏は農家の人から「逆に毎日同じなのでワンポイントくらいは毎日変化を持たせています」という話を聞いて導入したのだという。

 この様にファンタジーな世界観を舞台にする場合でも、プレーヤーに馴染みのある日常生活の一コマをリアルなまま取り込む。そうすることで世界がプレーヤーにもわかりやすく、リアルに感じられるのだという。

 橋下氏は「どんなに斬新なことを思いついても、それがユーザーに伝わらなければ意味が無い」と話す。スーパーヒーローの映画を見終わった時、自分が強くなった気がするという経験を例に出し「これはリアルな部分がどこかで伝わっているのでこのような感覚になるんだと思います。ゲームも映画と同じようにリアルな部分を伝えることが重要だと思います」と世界観を理解してもらうための手法を紹介した。

ファンタジーの中にリアルな要素を織り交ぜることで、世界観がプレーヤーに伝わりやすく、よりリアルに感じられるのだという。

深い時代考証を行ないファンタジーにリアルを取り込んだ「朧村正」

 橋下氏はもう1つの事例として「朧村正」を挙げた。「朧村正」は2009年にWiiで発売された元禄時代をモチーフにした和風ファンタジーアクションRPGだ。この3月にはPlayStation Vitaでも発売されている。

【朧村正】

 こちらは登場キャラクターに「徳川」や「柳生」といった、日本人なら誰でも知っているような歴史上の人物を登場させることでファンタジーの中にリアルを取り込んでいる。

 更にゲーム内のテキストにも注意を払ったのだという。本作には忍者とお姫様のという2タイプの主人公キャラクターが登場する。忍者は江戸の下町言葉の「べらんめえ調」で話し、お姫様は「お姫様口調」と、体内に宿っているもう1つの霊が話す「乱暴な口調」が入り乱れて話されるという。

 両キャラクターのセリフは日本のプレーヤーにすら難解だと言われていたが、あえてこのような口調を使うことで当時の時代背景がわかるようにしているのだという。

忍者なので江戸の下町言葉で話す
こちらのキャラクターはお姫様口調と、乱暴な口調が入り乱れて話す

 同様にゲーム内に登場する食べ物にもリアルな要素を取り込んでいる。様々な食事が登場するのだが、本作は元禄時代をモチーフにしているので、その当時の価値をゲーム内にも反映しているのだという。

 寿司を例に挙げると、当時マグロはトロの部分の価値が低く、赤身の方が価値が高かったのだという。そのためゲーム内のマグロの寿司も他の寿司に比べて安くなっているのだ。他にも元禄時代には既にタイやヒラメの養殖が始まっていたという資料があったので、ゲーム内でも誰でも手に入るが少し高いという設定にしてあるという。

 こちらの世界に関しては時代考証はしているが、あくまでファンタジーの世界。こちらにもファンタジーの中に僅かなリアルを盛り込むことでよりゲームプレイに入り込めるのだという。

西洋では“オーガ”だが、あえて“ONI”としている
お姫様口調と、体の中に別の霊が入っていて、乱暴な口調が入り乱れる。

自分自身が面白いと思ったものを自信を持って表現する

 橋本氏によると「ルーンファクトリー」の世界を企画した際は「牧場物語になぜバトル要素を入れるの?」と社内からもユーザーからも理解されず、「正直当時は辛かったです」と振り返る。だが結果は大成功でこのコンセプトは多くのユーザーに受け入れられ、続編が登場するなどビジネス的にも成功している。

 「朧村正」の場合も同様に、社内からは「“和”をテーマにしたゲームは国内でも国外でも受け入れられにくい」と反対されたそうだ。しかし橋本氏は「それでも本気で和風ファンタジーを作ろう」と決意し、社内の反対を押し切ってそのまま開発を続けたという。その結果国内はもちろん海外でも高い評価を得られたという。

 橋下氏はこれらの事象から「ユーザーが想像しないことを盛り込むことで、喜んでもらえるのではないか」と分析する。ユーザーが「期待していた通りの面白い出来です」という感想では、満足度が達していないのだという。ユーザーが思いもよらない様な、期待を上回る作品を作ることが重要だと話す。

 しかしその様に思いもよらない要素をゲームに導入すると、理解してもらいにくくなる。その様な際も橋下氏は「自分自身を信じるしかない」という。ここで迷ったり自分を信じられなければ、その面白さは伝わらないのだという。しかしその面白さが伝わると気持ち良く、それが作り手として癖になるのだという。

 橋下氏は「まだ作りたいゲームが沢山あります。せっかくゲームを作るのだったらみんなに喜んでもらえるゲームを作り、また自分もゲームを作ることでハッピーになりたいです」と話し、講演をを締めくくった。

 面白いゲームを作るためには開発者自身がゲーム作りを楽しみ、自信を持って「このゲームは面白い」と言えるようになることが重要だということが伝わってきた。面白いと思う要素をひらめき、汗をかいてそれをユーザーに伝える。橋下氏がRPG開発にかける思いがよくわかるセッションだった。

(八橋亜機)