ネイロ平井武史氏に聞く、アクワイアのPS Vita新作「orgarhythm」の全貌

脳科学をゲームデザインした「能動的なリズムゲーム」に挑戦!


6月5日~7日開催(現地時間)

会場:Los Angeles Convention Center



SCEAブースに出展された「orgarhythm」

 株式会社アクワイアが8月9日に発売予定のPlayStation Vita用「orgarhythm(オルガリズム)」。タイトル発表からしばらくが経過したが、ゲーム内容についてはこれまで「ミュージック×ストラテジー」というジャンルしか明かされていなかった。

 その謎のゲームが、米ロサンゼルスで開催された「E3 2012」にてプレイアブルで登場した。筆者は早速そのゲーム内容を知るべく、会場でプレイしてみた……のだが、困ったことに、触ってみてもよくわからない。タッチパネルでリズムを刻むことと、キャラクターを動かすストラテジー要素があることは何となくわかるのだが、その仕組みやゲームの目的がさっぱりわからない。

 これは困ったなと筆者が頭を抱えていると、本作を開発したネイロ株式会社の代表取締役社長で、本作のディレクターを務めている平井武史氏に声をかけられた。平井氏はこれまで、「スペースチャンネル5」や「Rez」、「メテオス」などを手がけてきたクリエイターだ。これ幸いと、本作についてあれこれ質問してみた。




■ ゲームの基本となるストラテジー要素を学ぶ

試遊台に書かれたガイドはこれだけ。よくわからない……
神が民を引き連れて進んでいく

 まずは何より、「これはどんなゲームなのか」ということを理解しておきたい。画面中央にいるのが主人公で、神として存在する。後ろについてきているのは、神である主人公を崇拝する民だ。

 主人公は移動の操作をすることなく、勝手にどんどん前に歩いていく。しかし前方からは敵が現われ、主人公を攻撃してくる。そのまま放っておくと神である主人公も倒されてしまうので、民に攻撃の指示を出して撃退せねばならない。

 民を動かすには、まず主人公を直接タップ。すると赤、青、黄のアイコンが出てくるので、動かしたい民の色をタップする。続いて拳と弓のアイコンが現われる。民に近接攻撃をさせたければ拳を、遠距離攻撃をさせたいなら弓を選ぶ。そして民を動かしたい場所をタッチパネル上にラインを引いて示す。これで民が指示通りに動く。ゲームの操作はこの3回タップと1回ライン引きでほぼ完結する。

 民と敵には、赤、青、黄の3属性が存在する。赤は黄に強く、黄は青に強く、青は赤に強いという3すくみの相性がある。敵の色を把握して、相性のいい民を戦わせるのが基本戦術となる。




■ ストラテジーにリズムゲームの要素を加える

画面のアイコンをリズムに合わせてタップ

 上記を理解すれば、ゲームの進め方は把握できたことになるが、遊びとしてはリズムゲームの視点が抜けている。「ミュージック×ストラテジー」のミュージック部分も本作においては忘れてはならない要素だ。

 主人公やアイコンをタップする際、BGMのリズムに合わせてタップすることで、ExcellentやGood、Badといった評価が出る。Excellentを連続で出すと、少ない属性の民が1人増える。また左上に表示されたレベルが最大で5段階に上がり、民が強くなる。タイミングよくタップすることでゲームが有利になっていくという仕掛けだ。レベルが上がるごとに音楽も1トラックずつ増えていく気持ちよさもある。

 指示は連続で出し続ける必要はなく、プレーヤーの好きなタイミングで構わない。ただし何もしないで放っておくと、民を動かすためのラインが一定時間で消えて民が戻ってくるのだが、すべてのラインが消えた時点でレベルが1に戻ってしまう。またタイミングを完全に外してBadを出すとレベルが1下がる。最初のステージは低レベルでも進めるが、後半のステージは高いレベルを保ちながら、相性を合わせて使っていかないと、なかなか敵を倒せないようになっている。

 そして各ステージの最後にはボスが登場する。ボスまでの道のりでは、主人公は勝手に歩いて進んでいくので急ぎようもないが、ボスをいかに早く倒すかがタイムアタックになる。途中、できるだけ民を増やしてレベルを上げておくのが攻略のコツになる。

 ボスを倒せばステージクリアとなり、スコアが表示される。スコアの計算には、クリアタイム、味方の残数、敵を倒した数というストラテジーの要素と、どれだけ連続でタイミングよくタップできたかというMAXコンボ数、タップの成功率、タップのスコアというリズムゲームの要素が複合されており、ハイスコアを狙うには両方で優れたプレイが求められる。


タイミングよくタップし続けるとコンボになり、レベルも上がるステージ最後のボスを倒せばスコアが表示される。ストラテジーとリズムの両方を採点



■ 先のステージで奥深さが見え始める

最初のステージはボス戦も簡単だが、先に進むと徐々に難しくなっていく

 ストラテジー的な指示と、リズムゲーム的なタイミングの2つが、このゲームの柱となる。それらを覚えれば、このゲームの基本は理解したと言えるが、ゲームはここがスタートラインだ。

 先のステージに進むと、曲のテンポが早くなったり、転調したり、5ビートになったりする。最終ステージは音のガイドがなかったり、ギターがすべて裏拍で鳴っていたりして、プレーヤーをさらに惑わせる。リズムを取るのが苦手な人はレベルを上げるのもままならない状況が発生する。

 ストラテジー的にも難度が上がる。近距離攻撃が届かない柵の向こうや、高所から攻撃してくる敵が現われるので、柵の向こうを狙える弓や、高所を狙える投石器を適切に選ぶ必要がある。さらに毒ガスなどステージ上のギミックも現われるので、民がそこを通らないようにラインを引いて移動させたり、ギミックの元を断つといった指示も求められる。

 また行動を指示した民は、ラインが消えるまで他の指示を受け付けない。動かす民の数はラインの長さで決められるので、適切な属性と兵科、数と場所を考えながら動かす。後半のステージでは、1つの属性が同時に2つ以上求められる状況もあるので、動かす数をマネージメントするか、同属性や不利な属性でも数で対処するかを素早く判断せねばならない。本体裏面を4回タップすると全ての指示をキャンセルできるが、ラインも全て消えるのでレベルが1に戻ってしまうというペナルティがある。

 指示には3属性以外にもう1つ、白いアイコンがある。これは神の支援行動で、引いたラインを通過した民の攻撃力アップと防御力アップさせるものや、敵の速度を低下させるもの、体力を回復させるものを選べる。便利な機能だが、それだけ考えることが増えてくるということでもある。




■ 目指したのは、勝ち負けのある能動的な音ゲー

 本作は操作はシンプルでも、考えることがとても多い。平井氏は本作を開発するに当たり、脳科学を意識したゲームデザインを行なっている。

 人間の脳は、右脳は直感的なものを、左脳で論理的なものを処理する。ゲームではまず音に合わせて主人公をタップする。これは単純にリズムを追うだけの右脳の処理だ。しかし2回目のタップでは属性を、3回目には兵科を考えねばならないので、論理的な思考をする左脳も働いてくる。そうすると、右脳におけるリズムの集中力が乱され、タップのタイミングがズレてしまう。ゲームデザインで操作のミスを誘発しているのだ。

 同様のことは車の運転にも当てはまる。教習所に通い始めた頃は、運転に集中していて他のことができない。しかし運転に慣れてくると、運転しながら他のことを考えられるようになる。平井氏はそういうものをこのゲームに取り込み、「その動作が当たり前になった時、考える行動をリズミカルにできれば面白いのではないか」ということに挑戦した。

 その結果として生まれたのが、能動的なリズムゲームだ。過去の音楽ゲームは、決められたリズムで押さねばならないという受動的なものだった。これに対して、平井氏がこれまでに携わった「Rez」や「Chil of Eden」は、自分が選んだ行動に対してリズムのほうが合わせてくれる能動的なゲームだった。それらを経験した平井氏は、次に能動的なリズムゲームを目指した。ゲームに指示されるまま押すのではなく、自分の好きなタイミングで押せて、なおかつリズムが重要になっている、という音楽ゲームだ。

 平井氏は本作について、「勝ち負けのある能動的な音ゲーを目指した」という。アドホック通信による対戦モードを搭載しており、シングルプレイと同じ仕組みで他のプレーヤーと戦える。

 対戦ではお互いのキャラクターは画面内に見えているので、攻撃のタイミングや、属性と兵科の選択、動かす民の数を、相手の行動や残存勢力を見て考え、それと同時にレベルが下がらないようにタップ3回とドラッグを繰り返す。早く攻撃したい気持ちが働き、リズムが合わなくなると、ますます戦いが不利になっていく。

 目指したのは「RTSユーザー対音楽ゲームユーザー」だという。平井氏によると、「最初はRTSユーザーがうまいと思うが、後半に進むほど音楽ゲームユーザーが勝てるものにした。音のガイドがなくなるステージでは、リズム感のある音楽ゲームユーザーはリズムを刻めても、RTSユーザーには大変なはず」だそうだ。画面ではそう見えなくても、味付けはあくまで音楽ゲームなのである。




■ 技術屋ならではの数々のこだわり

 平井氏はゲームシステムの他にも、本作の技術的なこだわりのポイントを語ってくれた。

 音楽ゲームと言えば、何度もプレイしてタイミングを覚えていくもの。しかし本作ではそれを否定している。ゲームAIについて日本の第一人者として知られる三宅陽一郎氏がアドバイザーとして協力し、Influence MapとHeatmapと呼ばれるAi技術を採用した。簡単に言うと、敵が倒された情報をAIが覚えており、その内容に応じて次回のプレイ時に敵の動きが変化する仕組みだ。「1度たりとも同じプレイは発生しない。敵がどんどん強くなっていくので、自分もどんどんうまくならねばならない」という。なお、このAI機能はoffにもできる。

 サウンドは全てクオンタイズされ、量子化して16分のタイミングで鳴る。リズムがズレてBadのタイミングでタップしてもリズムがズレた音は鳴らず、耳に届く音は常にリズミカルで心地いい。

 グラフィックスにもこだわっている。トイボックスフィルタを使い、画面をタップしたところにフォーカスが合い、そこから離れた場所がぼやけたように見える。中央を見やすくし、リズムに集中しやすいようにしている。

 CPUとGPUはギリギリまで使い切っている。シャドウマップですべてのキャラクターに影を付けつつ、敵味方合計100体が登場しても処理落ちしないものを目指している。キャラクターが小さくて見えづらいが、セルフシャドウでキャラクター自身に影も落ちている。エンジニア出身の平井氏ならではのこだわりだ。

 プレイ中にレベルが上がると、キャラクターのアクションが激しいものに変化し、高揚感を高める。このキャラクターアニメーションは、マライヤ・キャリーやウィル・スミスの振り付けを担当しているダンスユニット「Elite Force」をモーションキャプチャしている。キャプチャの際にはヤマハの「TENORI-ON」を使い、リズムビートを常に刻んだ状態のものを用意して、これに合わせて踊ってもらうことで、ダンスのタイミングが4分、16分に合うよう作られている。

 そして注目すべきはインターフェイス。「新しいデバイスには何でも対応できるようにする」というこだわりのもと、操作にはタッチパネルしか使っていない。ゲームのポーズすら左下にタッチで用意している。平井氏は「今後は他のプラットフォーム展開も楽しみにしてもらいたい」と語った。

 ゲームは全12ステージで、難易度が3段階あるので、計36ステージとなる。今後はDLCも販売予定で、「有名アーティストの楽曲で遊べたりするかもしれない」という。ゲーム自体は100ステージ以上のDLCに対応できるよう作ってあり、今後も増やしていきたいそうだ。




■ 「orgarhythm」とは何なのか

 ひととおり話を伺った後、平井氏に1つ大事な質問をした。「orgarhythm」というタイトルの意味だ。平井氏はこう語ってくれた。

 「私の中でリズムゲームとはこうあるべきだ、というのが答えです。今までのリズムゲームは、楽器を弾いてもできます。そうではなく本当のリズムゲームというのは、こういうゲームだろうという思いがあり、この作品で私の中でのリズムゲームの原点を目指したかったのです。Origin(原点)なリズムゲームで、『orgarhythm』と名づけました。他にも組織・機関といった意味のOrgan、楽器のオルガン、セクシャルですが気持ちよさの伝わるものという意味も込めて、こういう造語になっています」。

 最後に、日本のゲームユーザーに向けてのメッセージをいただいた。

 「リズムゲームを能動的に遊べる初めてのタイトルに仕上げられたと思っています。私がこれからも目指して作っていきたいのは、ゲームデザインのすばらしさです。昨今のゲームは、よく似たようなゲームが出尽くしている感があり、日本のゲームはこんなもんだろうと思われているところがあります。日本人の発想力はまだまだ続くんだということを証明したいですし、ゲームが能動的に遊べるところをいろんなジャンルで証明していきたいと思っています。その第1弾が『orgarhythm』です。これからもそういった精神を大事にゲームを作っていきたいと思っていますので、ご期待ください」。

 本作は米国のE3で初公開となったが、今後は発売に向けて、日本でも体験イベントを検討しているということだった。おそらくこの記事を見ても、実際のゲームを見ないとピンとこないところは多いと思うので、ぜひ機会があれば1度体験してみていただきたい。「こんな画期的なゲームを、まだ日本から出せるんだ」という、筆者の喜びを共有してもらえるはずだ。


(C) 2012 ACQUIRE Corp. XSEED JKS, INC. Published by ACQUIRE Corp.
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(2012年 6月 11日)

[Reported by 石田賀津男]