ROBO-ONE「第2回ヒューマノイド・ヘルパー・プロジェクト」開催

遠隔操作ヒト型ロボットで「おもてなし」


2月20日、21日開催


 2月20日と21日、二足歩行ホビーロボットのロボコンを主催する「ROBO-ONE」委員会による「第2回ヒューマノイド・ヘルパー・プロジェクト」が開催された。通常の「ROBO-ONE」は二足歩行ロボットによるバトル競技大会だが、「ヒューマノイド・ヘルパー・プロジェクト(HHP)」は、将来人の役に立つロボットの実現を目指して立ち上げられた大会で、以前は「お手伝いロボットプロジェクト」と呼ばれており、商業施設での「お買いもの競技」が行なわれていた。

 今回は「ヒューマノイド・ヘルパー・プロジェクト(HHP)」と名前を変えて2回目。住宅展示場の「ハウススクエア横浜」内のキッチンを舞台に「おもてなし競技」が行なわれた。NEDO技術開発機構や産総研によって研究されているロボットの実証実験の場としても使われたことのある「住まいの情報館」1階キッチンを使って、ロボットを遠隔操作して、お客さんをもてなすという競技だ。

 この競技の大きな特徴は、2つある。1つ目は実際に人が使えるキッチンで動きまわるため、ロボット本体にもそれなりの大きさが必要となること。そしてもう1つは、ロボットを操縦する選手は、操作対象であるロボットを直接見ながら操作はできないということ。ロボットにカメラを付け、無線LAN経由で、その映像を頼りに操縦しなければならない。

 初めてのフィールドでの初めての試みが多く、出場したロボット数も3体と少なかったが、優勝した「CAP Project」チームはロボット「THKR-4」を使い、遠隔操作で冷蔵庫から羊羹を出して相手に渡したり、熱いお茶をポットから茶碗に注いで相手に差し出すことになんとか成功。賞金50万円を獲得した。だが「CAP Project」チームは「ROBO-ONE発展、参加者増のために使ってくれ」と賞金を辞退した。

優勝したロボット「THKR-4」。腰部分と頭部にカメラ。肩幅は狭い後ろから。身長140cm程度、重量はおよそ15kg頭部は一つ目
出場した3体

 出場したロボットは、「THKR-4」(チーム名 CAP Project)、「ドカはるみ」(チーム名 ドカプロジェクト)、「MUSASHI」(チーム名 MARU Family)。「ヒューマノイドヘルパープロジェクト」は次回も同じ場所、同じルールで開催予定だ。参加者増を期待して、本誌でも大会の様子を主に動画でレポートする。

 大会は3競技からなる「予選」と2競技からなる「本選」から構成されている。予選競技は、「ペットボトルのフタを開けて、コップに水を注ぐ」、「お菓子に見立てたピンポン玉が乗ったお皿をお盆で運ぶ」、「30分耐久レース」の3つ。そして本選は「ファッションショー」と「おもてなし競技」だ。

 まずは予選から。予選では遠隔操作といっても、同じ空間内で行なわれた。ただし操縦者はロボットを直接見ることはできない。ロボットに搭載したカメラを使ってなんとか操作しなければならない。これがなかなか難しい。まず視野が狭いからだ。広角レンズを使えば視野は広くなるが、画像がひずむため、ただでさえ把握しにくい奥行き感がさらに掴みにくくなる。

 また、ヒューマノイドロボットにとってはペットボトルもかなりの重量物である。重たいものを握って把持しようとすると、腕の先にモーターが必要となるが、そうなると先端に重りをつけた棒を扱うのが難しいのと同様に、手先を精度良く操作することがかなり難しくなる。

 各選手は、ロボットの頭部だけではなく操作対象に近くなる腰部分にカメラを入れたり、マスタースレーブなど独自の操作方法を使ったりとそれぞれ工夫しながら、なおかつ趣味のロボット製作としてのヒューマノイドへのこだわりを感じさせるデザインのロボットで、この難しいミッションにチャレンジしていた。

 単純にペットボトルのふたを開けるだけなら、専用の治具を使えばもっと簡単なはずだが、敢えて人間らしい手を作ってみたり、頭の上に第三者視点を提供できるカメラを付けたりはしないのは、これらが趣味のロボットだからだ。

 遠隔操作で動かされるロボットの動きは、成功しそうでなかなか成功はせず、見ているこちらも非常にじれったくなった。

【動画】ドカプロジェクト「ドカはるみ」の水汲みチャレンジ。ペットボトルの栓を回す指先の動きに注目。選手はステージ左側の袖で遠隔操作する【動画】「ドカはるみ」の水汲みチャレンジ2回目。コップではなくレフェリーのバケツに水を注ぐことに【動画】CAP Project「THKR-4」の水汲みチャレンジ。マスタースレーブで上半身を操作、腰部分にカメラ。見ているこちらもじれったい
【動画】MARU Family「MUSASHI」の水汲みチャレンジ。同じくマスタースレーブ。自分自身に水をかけてしまったりと悪戦苦闘【動画】「MUSASHI」の水汲みチャレンジ2回目。こぼれはしたがなんとか注ぐことに成功【動画】歪みゲージを使って持ったものの重量を計測し、規定量を注げる。定速ではなく、最初は勢い良くだんだんゆっくりすることもできる
【動画】「ドカはるみ」のピンポン球運び。なかなか歩行が安定しない【動画】「MUSASHI」のピンポン球運び。いきなり球をお盆から落としてしまい、結局運べなかった【動画】「THKR-4」のピンポン球運び。規定のお皿からはピンポン球は外れてしまったが、それを拾い直してポイントをゲット
【動画】「THKR-4」のピンポン球運び2回目を別の角度から【動画】「THKR-4」のピンポン球運びにおけるマスタースレーブ操作の様子【動画】30分耐久レースの様子。ひたすら歩き回る。成績は「THKR-4」が4周、「ドカはるみ」が3周、「MUSASHI」が6と3/4周
【動画】「ドカはるみ」のファッションショー。ウィッグやエプロン、服等は通販で購入したとのこと。骨格はカーボンファイバーで身長155cmながら重量12kg【動画】「THKR-4」のファッションショー。入力した音声に変換をかけて女性らしい声で出力するはずだったのだが本番ではうまく動かなかった【動画】「MUSASHI」のファッションショー。やはり音声は聞き取りにくかった。服(エプロン)は奥さんが普段実際に着ていたもの

 本選の「おもてなし」は、キッチンスペースで行なわれた。操作者は別会場からの操作となり、ロボットや状況を直接見ることはできない。ここは大学や研究機関によるロボットの実証実験にも使われた場所で、ユニバーサルデザインを考慮した造りとなっている。床は平坦だし、冷蔵庫や電子レンジなどにも、ロボットにも高齢者にも開けやすいハンドルなどがついている。歩行能力においても、感覚能力においてもまだまだ制限のあるロボットにとっても、通常の家庭に比べれば比較的やさしい環境のはずだが、実際にはまだまだ厳しいことは言うまでもない。

 遠隔操作ロボットで「おもてなし」されるのは「ROBO-ONE」の司会を務める三条恵美さん。ロボットに水をぶっかけられることも想定して、着替え一式を持参してきたという。

 「MUSASHI」はファームウェアが飛ぶ故障にみまわれ、「ドカはるみ」は無線トラブルで悪戦苦闘。結局、別室からではなく、同じキッチンスペースからのトライとなった。無事に成功したのは「THKR-4」のみだった。もてなす相手に呼びかけて手伝わせる「ROBO-ONE」ならではの技を使っていた。

【動画】「THKR-4」のおもてなしチャレンジ。冷蔵庫から羊羹を取り出し、昆布茶を急須に入れてポットからお湯を注いで相手に渡した。【動画】「ドカはるみ」のおもてなしチャレンジ。ネットワーク接続トラブルで同室からのチャレンジとなった。
今回の出場選手たち

 このほか、要素技術紹介や、エキシビジョンマッチなども行なわれた。「ROBO-ONE」の西村輝一委員長は、ホビーでロボットを製作している人たちは安くてうまい方法を考えることや、ヒューマノイドロボットならではの人間とのやりとりにおいては長けていると語る。大学で進められているような研究と、ホビーの人たちのやり方がうまくマッチングできると良いのではないかと考えているという。

 西村氏は最後に「トラブルもあったが1台は動いたのでご勘弁頂きたい。次回はテーマは変えないので、もう少しレベルをあげていきたい。神奈川県ロボットビジネス協議会からも協力を得ているので、場所もここで行なう」と挨拶し、イベントを締めくくった。

 今回のプロジェクトは初めての試みばかりだったのでトラブルもあったが、次回はきっと、より優れたデモンストレーションを見せてくれるだろう。参加者は早速、撤収作業をしながら次のデモや出場ロボットの設計コンセプトについて話に華を咲かせていた。

 各地方大会からの選抜大会として行なわれる第17回「ROBO-ONE」は3月21日に、その次の第18回は8月の終わり頃に新潟で行なわれる予定。

(2010年 2月 24日)

[Reported by 森山和道]