東京ゲームショウ2009レポート
CoFesta連動企画「クリエイターズトークショウ」
セガの名越稔洋氏、レベルファイブの日野晃博氏がゲーム作りについて語った
「クリエイターズトークショウ」はイベントステージで開催された。かなりの立ち見が出るほどの盛況ぶりで、みな熱心にトークショウに聞き入っていた |
「東京ゲームショウ2009」最終日となる27日に、日本のゲーム業界におけるトップクリエイターのトークショウ「クリエイターズトークショウ」がイベントステージにおいて開催された。同企画は東京ゲームショウ2009、日本ゲーム大賞、そしてJAPAN国際コンテンツフェスティバル2009(通称「CoFesta」)による連動企画の1つ。昨年に引き続いて開催されるもので、昨年はKONAMIの小島秀夫氏とカプコンの辻本良三氏らが参加していた。
今年のトークショウに出席したのは、株式会社セガ、CS研究開発部統括部長の名越稔洋氏と株式会社レベルファイブ、代表取締役社長を務める日野晃博氏の2名。そしてユーザーを代表する形でよゐこの有野晋哉氏、そして進行役も兼ね株式会社エンターブレインの代表取締役社長の浜村弘一氏が参加した。トークショウはいくつかのテーマに沿って進行。時折脱線しながらもお互い信念を持ってゲーム作りを続けるお2人だけにぶれない話が展開した。
まず、話題に上ったテーマは昨今のゲーム業界において語られることの多い「ゲームユーザーの広がりと変化について」。日野氏は「レイトン教授」のシリーズで多くのゲーム初心者のユーザーを獲得したと言われているが、同シリーズのゲーム作りの原点は「お母さんでもできるゲーム」だったという。これを実現するため、これまでのゲーム作りではタブーとされてきたこと……例えば「次に起こることが上画面に表示される」と言ったことも積極的に取り込んでいったという。これには「そんなことをしたらドキドキ感が無くなる」と反発する制作スタッフもいたと言うが、日野氏は「初心者は1週間経ってプレイすることもある。そのときもうこれまでなにをしたか忘れたらゲームをやめてしまうから、これは必要」と説明したという。「選択肢のでないゲーム」を作り上げることでゲームをやらない人にやってもらうようにした。しかしわかりやすいゲームは簡単なゲームではない。すぐには終らない仕掛けを作らなくてはならないという。
女性ユーザーの方が多いという「レイトン教授」に対して「『お母さんに止められるゲーム』を創っている」と切り出した名越氏は「出演者の中には『女房に止められた』という人もいた」という「龍が如く」シリーズで新境地を切り開いてきた。名越氏はタブーを扱ってきたこともあり「女性や子供には『龍が如く』というゲームをわかってもらっていない。説明に時間が掛かるゲーム」としながらも、「魅力を絞り込んでいった結果がこれ」ということで、これまでであればゲームを卒業する人たちを巻き込んでいく結果となる。その結果ユーザー層は「レイトン教授」シリーズの真逆を行き、30歳代以上の男性が7割、50歳代以上が2割という結果となる。ユーザー層の結果は真逆でも、これまでにないユーザー層を開拓したという点では、ある意味両作とも重なる部分があるといえる。2人とも危機感を持ち「ユーザー層を広げていかなければならないと思っていた」としている。日野氏は「龍が如く」のシリーズ1作目を見た時に驚いたと言い、「口コミで広がり、売り上げを伸ばしていく様を見て日本のゲーム業界は明るいと思った」のだという。
次のテーマは「これからなににこだわればいいのか?」という点。日野氏は後発なので当たり前のことをしてもダメと言い、そのために仕掛けを考えたという。それはDSというプラットフォームであるにもかかわらず映画並のクオリティのアニメだったり、電車の中で音声を切っている人が多いのに、豪華な俳優陣を使ったりといった点だった。日野氏は「ユーザーから『DSなのに超大作。超大作カジュアルゲーム』と言われ、なるほどと思った」とコメント。そしてこの方向性は、「イナズマイレブン」、「ダンボール戦記」、「二ノ国」と引き継がれ、それぞれ仕掛けが用意されていく。日野氏は「まず見てもらえること。見てもらえるというだけで素晴らしい」と言い、そのための仕掛けはゲームを作るのと同じくらい力をかけてやるのだという。
名越氏は、「コラボレーションは『龍が如く』にとっても命」と話し、ジャンルにこだわらず「龍が如く」というジャンルにしたかったのだという。ある人は「ドン・キホーテが出てくるゲーム」と言い、ある人は「裏社会のゲーム」と言う。それらみんなの感想はバラバラで繋がらないが、それなりに引っかかり気になる。そういったことが口コミに繋がっていくという。「龍が如く」ではむしろタブーを描いていくようにしたが、これは目立ちこそすれそれを昇華して高めていかなければただやりっ放しになってしまうということで、信念を持ち1作目で説明しきれなかったことをシリーズ化することで語っていくことでユーザーに向けて説明責任を果たしていこうと考えたという。名越氏は「シリーズを重ねるごとにグラフィックスやサウンドもだが、そういった部分があったからこそユーザーに『良くなってきた』と言ってもらえているのだと思う。堅い柱ができあがっていった」と語った。
ちなみにタブーという点では「タブーに踏む込んだと言われるが、ゲームがタブーに踏み込めないのだろうか?と思っていた。ゲームにないのはおかしいという想いは僕の中にはあった。しかし、僕の中にしかなかったようだ」と言い、第1作目の制作当初は反対なども多かったことを明らかにしている。
日野氏は「『レイトン教授』もシリーズを創っているし、シリーズ化を否定しないが、ルーキータイトルで1位を取る方がうれしい」といい、1年に1作はチャレンジするタイトルを創っていくようにしているという。そんな中、近く「レイトン教授」の映画が公開されるが、日野氏によれば「映画の基礎設計はゲームのスタッフでやっている。ゲームクリエイターという人たちがほかの業界にどれだけ影響を与えることができるのかと思っている。名越さんの『龍が如く』も同じ。あれだけの出演者は、ちょっとしたやくざ映画なら出演しない。『龍が如く』だから出演している」と語った。これに名越氏は「ジブリがするのには驚かされた。いつかどうやって口説き落としたのか聞いてみたい」と切り返すと、日野氏は「タネも仕掛けもない。目指す方向性を話し合って同じものがあった」と話し「幸運だと思った」とした。
最後に「クリエイターに求められているものは?」というテーマに名越氏は「いまは1人に複数の通信手段がある。通信端末も溢れ1つのハードで終らない。そういった環境をわかってない人が多い。そういったマーケティングを理解した上で、それとは別に好きな事をやって広げていって欲しい。そして最終的に売れる形にして欲しい」とエールを送った。好きなことに突き進んで欲しいという点については「ピュアな気持ちで創っていかないとダメ。僕は昔はドライブゲームを随分創っていたので『つくって欲しい』と言ってもらえるが、もっと自身のあることをやりたい」といい、純粋に創作活動として気持ちに素直に作品を制作していかなければダメだと語った。
一方、日野氏は「同業のプロに向けて、スジの通ったゲームがもっとあればなぁと思う」と言い、「龍が如く」はスジの通ったタイトルだと語った。スジの通ったゲームとは「やりたいことがパッと見てわかるゲーム、ぼんやりとしない世界観」だとか。そうやって創っていけば「シリーズ化され色々できる。今の『龍が如く』は何でもできるじゃないですか。ガツンと言いたいことがあるソフト。新しいタイトルだけど新しいジャンルになる可能性がある」と語り締めくくった。
最後に質疑応答で来場者から「新しい作品を創っているか?」の問いに名越氏は「『龍が如く』以外に新作を制作している」と明かした上で、企画が複数進行中だと語った。「龍が如く」の制作で貯まったノウハウやワークフロー、チームワークを使い「やらずにはいられない」とゲーム作りは次から次へとやめられないようだった。
□東京ゲームショウ2009のホームページ
http://tgs.cesa.or.jp/
□「CoFesta」のホームページ
http://www.cofesta.jp/2009/jp/
□「メーカー名」のホームページ
http://www.cofesta.jp/2009/jp/release/pdf/090908_event.pdf
(2009年 9月 27日)