CESA Developers Conference 2009現地レポート

モバイルゲームセッションレポート その2

大手4社の代表者が現状を暴露したパネルトークなど4講演


9月1日~3日 開催

会場:パシフィコ横浜



 CEDEC 2009では、2日目もモバイルゲーム関連セッションが続いている。モバイルゲームといってもセッションの内容は相変わらずバラバラで、この日はFlash Lite、AR(拡張現実)、3Dグラフィックス、パネルトークとなっている。本稿ではこれら4講演を一挙にお伝えする。

 中には専門的な知識を必要とする内容もあったが、概要程度であれば概ね理解できるものになっていた。モバイルゲームセッションレポート その1に続いて統一感のない内容になるが、モバイルゲームの今を知るための重要な情報も多数発表されているので、開発者のみならず、モバイルゲームに興味のある方はぜひお読みいただきたい。




■ モバイルゲーム・パネルトーク ~その無限の可能性を体感する60分~

バンダイナムコゲームスの近藤貴浩氏
カプコンの手塚武氏
ハドソンの柴田真人氏
ゲームズアリーナの岡本征史氏

 CEDECでは例年、携帯キャリアの代表者が一堂に会したパネルトークが行なわれてきたが、今年は情勢を反映してか趣向を変え、モバイルゲーム大手4社の代表者によるパネルトークが行なわれた。

 パネリストは、株式会社バンダイナムコゲームス NE事業本部 第2コンテンツディビジョン NE第1プロダクション マネージャーの近藤貴浩氏、株式会社カプコン MC開発部部長の手塚武氏、株式会社ハドソン 新規事業本部 執行役員 本部長の柴田真人氏、そしてモデレーター役を兼任した株式会社ゲームズアリーナ 東京開発部部長の岡本征史氏。講演中、来場者からメールで質問を受け付けるというスタイルで、いくつかの質問についてそれぞれのパネリストが回答していった。

 まず「携帯電話でのビジネスモデルの現状を教えてください」という質問について、手塚氏は「マイクロビリング(小額決済)で経験値を売るなど、新しいものが出てきている。課金システムこそゲームビジネスという韓国のオンラインゲーム会社があったが、無料で遊べてアイテム課金にしないと売れないという仕組みは蔓延している。それをモバイルに取り入れて、どう成立させるかを柔軟に考えていきたい」と述べた。続いて柴田氏はそれに補足して、「無料で遊べるものはお客様も望んでいると思うが、それが合わないものもあるので、ハイブリッド型の課金など幅広い決済方法が必要。ただ最近、決済の仕組みがわかりにくくなってきているので、シンプルになってほしい」と語った。

 次はお金の話つながりということで、「儲かりますか?」という直球の質問が。近藤氏は「503iの頃のように、サイトを立てればお客さんが来るという時代ではない。継続的に機能を追加するなどして、コンテンツに毎月300円払ってもいいと思えるような形にゲームの拡張をしている」と答えた。手塚氏はサイトの見せ方について触れ、「サイトで見せる文言も重要。硬い文章より柔らかい文章のほうが、親しみやすくて買ってくれる。杓子定規に図書館のように並べても買ってもらえない」と述べた。他の人からも、ゲームそのものよりも、運用の重要性を説く言葉が多かった。

 「iPhoneなどの新端末で盛り上がっている海外の様子をどう思うか」という質問には、柴田氏が「iモードの黎明期に似ている。みんながiPhoneにおける新しいビジネスモデルを必死に模索している」と回答。手塚氏はiPhoneでのビジネスの現状について、「ランキング100位以内に入らないと全然ダウンロードされないなどビジネス的に難しい部分もあるが、全世界に売れる面白さはある。日本は北米ほど端末が出ていないとはいえ、購買意欲は高く、日本人に向けてアプリを作ってもそれなりに何とかなる気がしている」とした。

 次に「ユーザーが勝手サイトへ流れる傾向をどう思うか?」という質問が寄せられた。柴田氏は「何度かやろうとしてくじけたが、やりたいとは思う。今後は公式サイトと勝手サイトの境目があいまいになって、より“インターネット的”になると思う」と述べた。近藤氏は別の視点から答え、「バンダイナムコゲームスが勝手サイトをやると、『ガンダムはあるだろう』といったイメージがついてくる。そこが不利だと感じる」と、大手ならではの悩みも明かした。

 「モバイルならではの開発の工夫は?」という質問には、近藤氏が「携帯電話は進化が早く、どこがボリュームゾーンなのか見極めが難しい。トップを尖がってやるとビジネス的に厳しいところがあるので、最先端の端末に合わせるのではなく、1~2世代前のものに合わせることで、3キャリア同時配信や共通化もしやすく、収益も最大化される。コンシューマーでゲーム機の性能ギリギリを狙うようなことはしない」と回答。手塚氏も「新機能や新機種が出たとき、本当にお客様に受け入れられるか、どのくらいの台数が出るのかは見極めないといけない」と、最新の技術や端末への対応の難しさを覗かせた。

 「これからモバイルゲームはどうなる?」という質問では、近藤氏が「確実にMO、MMOのブームが来る。日本のオンラインゲームは韓国から買ってくるものが多く、日本独自のものが少ない。モバイルからイノベーションを起こさないと、日本のオンラインゲームは立ち行かない」と、モバイルに留まらない期待を寄せた。オンラインゲームについては岡本氏も触れ、「オンラインゲームをやるのに、座ってPCを立ち上げてソフトを起動して、というのは大きな障壁。モバイルは手軽だし、24時間手の中にある。そういったエンターテイメントが生まれる土壌は既にモバイルにあると思う。おそらく早い者勝ちでいけると思う」と語った。

 「デバッグが大変では?」という質問は、大量に存在する発売済みの端末で動作テストが必要になるモバイルゲームの状況を見てのもの。これについては柴田氏が、「デバッグにかかる労力は下がっている。今はパケット定額もあるし、端末もSIMカードを差し替えればいい。画面サイズも統一されてきたので楽になった」と答えた。岡本氏は「アップデートできる環境がある」と、こちらもポジティブな点を見せた。

 「狙っているユーザー層は?」という質問では、近藤氏は「20代後半から30代。なるべく男性をガッチリ取るのと、女性は入ってくれると継続率が高いので、女性ユーザーも捕まえられるよう加味した企画を用意している」とした。柴田氏は普通とは逆の発想で、「よりピンポイントに層を狙う。30代、レキジョ、既婚者、とか。1万人が楽しめる、ものすごい濃いゲームを作る、というのもセグメントを取りやすく、やりやすいかもしれない」と語った。

 質疑応答の時間には、「普段ゲームを遊ばないような女性が、なぜモバイルだけでは遊ぶという人がいるのか」というユニークな質問が寄せられた。これについてはそれぞれの視点で分析があり、岡本氏は「メールがライフツールとなり、常に端末を見ているうち、だんだんとネットリテラシーが上がってきて、ゲームにアプローチできたのでは」、近藤氏は「弊社で1番女性が多いのは『ZOO KEEPER』というサイト。女性がやっていても恥ずかしくなく、可愛い、他の人に見せたいと思えるゲームに注力したことがある。持っていてステータスになるようなゲームを心がけている」、手塚氏は「ゲームに興味がない人にゲームを伝えるメディアがなかったが、iメニューで無料ゲームを薦められ、『今持っている端末でできるなら』という流れで、敷居が下がったのだと思う」と語っている。どれが正解といえるものではないが、モバイルゲームでは欠かせないユーザー層だけに、貴重な答えと言えるだろう。

 他にも一問一答のような形で、多数寄せられた質問に答えていった。別段テーマもなく、何かしらの結論を出すような内容でもなかったが、業界の最新動向をまとめて聞ける場所としては非常に価値があった。来年はさらにブラッシュアップして、ぜひまた開催してもらいたい。




■ ライトユーザー市場を狙え! 携帯向けFlash Liteゲームの企画立案方法

南治輝氏

 株式会社ORSO 取締役 事業開発部長の南治輝氏の講演では、Flash Liteによるゲームの企画立案についての取り組みが紹介された。ORSOはFlashのコンテンツを専門的に手がける企業で、昨年は代表取締役社長の坂本義親氏が講演している。

 まず南氏は、PCのFlashとモバイルのFlash Liteの違いについて説明した。まず欠点は、容量の制限があること。最新のFlash Lite 3.1で最大500KBまで扱えるようになったが、対応機種の普及状況などから一般的には150KBが最大で、100KB程度に収めるのが主流だという。また端末の処理能力で劣ることから、複雑な演算や負荷の高い描画処理には不向き。
プログラム言語のActionScriptも、Flash Lite 3.1でバージョン2.0対応となったばかりだが、PCのFlashでは既にバージョン3.0が動いている。

 逆に利点としては、携帯電話の小容量に適したベクター画像を利用でき、特にVGAディスプレイで高い表現力を実現できる。またブラウザ上でシームレスに動作するので、サイト遷移の中でFlash Liteのコンテンツを楽しませることができる。さらにJavaなどのモバイルコンテンツと比較して、一般的に短期間で制作できるのも特徴で、同社では実際に「婚活」が流行したときに「ガッツけ! 婚活ボウル」というFlashゲームを、制作期間1カ月ほどで作成している。

 次にモバイルコンテンツのサービスにおいての重要なポイントとして、「循環型のサービスが必要だ」と述べた。ただゲームを遊んで終わりなのではなく、必ず結果をサーバーに送信し、ランキングやコミュニティに紐付けすることで、コミュニティを活性化し、再びゲームを遊ぶモチベーションを高めるという手法を指している。

 これを踏まえた上で南氏は、既存のコミュニティサービスの上でアイテム課金型サービスを企画する際のポイントを5点挙げた。まず1点目は、サイト属性にあったサービスやコンテンツ企画を提供すること。同社が手がけた育成ゲーム「モリっぴー」は、F1層(20~34歳女性)が多いポイントサイトでの提供だったため、子供っぽくない程度に可愛らしくしたという。またSNSとの連動ではないので、グリーティングカードなどを実装してゲーム内でコミュニティの循環が生まれるようにしている。

 2点目は、「キレイ・カンタン・スグデキル + ハプニング」。「キレイ・カンタン・スグデキル」は同社のゲームのコンセプトで、Flashの美しさと、説明なしですぐ遊べる手軽さを示したもの。ただアイテム課金型のゲームで同じ遊びが続くと飽きるので、運要素を絡めたり、ワクワク感を盛り上げる演出を加えることで、飽きさせないよう配慮する必要があるとしている。

 3点目はコミュニティとの連携。釣りゲーム「釣りゲータウン」では、インラインSWFを使用して、動く画面を日記に貼り付けられる機能を持たせている。元々Flash Liteで動いている釣りゲームで、その成果を動く絵で他人に伝えられる形にすることで、「一瞬にして人に教えたくなる」という狙いがある。これもコミュニティの循環に大きく寄与するという。

 4点目はサイトのアクティブティを高めるイベントを行なうこと。アクティブ率が低いユーザーに対しては、イベントを行なうことでサイト訪問率を高め、定期的にサイトを訪問する習慣をつけるきっかけを作る。既にアクティブなユーザーには、期間限定イベントや限定アイテムなどを用意して限定感を出し、課金の意欲を高めている。

 5点目は、安心して課金してもらえる環境づくり。現実世界に形のない、いわば得体の知れないものに対してお金を使うという不安を取り除くため、有料アイテムの効果を視覚的にわかりやすく表示したり、購入遷移で詳細な画像を表示し、購入するアイテムのイメージを持たせるのが重要だという。

 南氏は最後に、「携帯電話の使われるシーンにあったサービスの提供が重要。携帯電話はゲーム機なのかWEB端末なのかという使い方は、ユーザーによる。寝転がりながら、通勤中、昼休みなど状況も違う。コミュニティも、現実世界と直接繋がるものや、オンラインだけのものもある。そういったシーンを想像することが重要だ」と述べた。


PC用Flashと携帯端末用Flash Liteの違い。やはり容量や処理能力の違いが大きいカジュアル向けと思われているFlash Liteだが、Javaアプリに勝る点もあるミニゲームの循環型サービスイメージ。ハイスコアなどを見せることで、コミュニティとゲームへ循環させる
今回の講演の主題となったアイテム課金型コンテンツの企画でも、ターゲットを見極め、循環型サービスを作るといった基本的な部分は、ミニゲームなどと変わりない。ただイベント企画や安心して課金できる状況作りなどは別途必要になる



■ 最新モバイル3Dグラフィックプログラミング入門

香田夏雄氏

 株式会社ヒュージスケールリアリティ代表取締役 技術統括の香田夏雄氏は、携帯端末における3Dグラフィックスの最新情報と、技術的なアプローチを紹介した。同社はモバイル向け3D描画ミドルウェア「AREM」を開発・提供しており、発表内容はそこでの研究データに基づいている。

 まずモバイル向けのGPUの最新動向として、現状は「PowerVR MBX」がデファクトスタンダードになっているという。性能は2万ポリゴンで10~15fps程度と、「そこそこ高速」なものになっている。

 続いて次世代主力GPUとして、3つのGPUが紹介された。1つ目は前述の「PowerVR MBX」を発展させた「PowerVR SGX」で、iPhone 3GSに採用されている。2つ目はNVIDIAの「Tegra」で、性能はGeForce 6シリーズレベルだという。3つ目はQualcommの「Snapdragon」で、こちらはAndroid端末の「HT-03A」に搭載されている。これら3つのGPUは、いずれもOpenGL-ES 2.0をサポートしている。

 香田氏は現在のモバイルGPUについて、「競争が激しくなり、倍々ゲームで性能が向上している」という。またOpenGL-ES 2.0でプログラマブルシェーダーが使用できるようになったことについて触れ、「2001年ごろPCの世界で起こった変化が、今のモバイルにも来た」と述べた。

 ちなみにOpenGL-ESというのは、OpenGLの「Embedded System」という意味だが、香田氏は「OpenGLでできる大抵のことは、OpenGL-ESでもできる」という。OpenGL-ES 2.0については、「プログラマブルシェーダーに対応するが、固定機能シェーダーは非対応。ただ1.1をシミュレーションする機能によりiPhone 3GSでは対応している」といった話題を出しつつ、「現時点でOpenGL-ES 2.0対応の端末は少ない。開発ターゲットは1.1で、少しだけ2.0も考えていくといいのではないか」とした。

 続いて、実践的なモバイル3Dグラフィックスのプログラミング手法が順番に紹介された。ソースコードを出しながらの内容だったのでここでは省略させていただくが、この中でiPhone系端末の3Dパフォーマンスについて触れられている。実際に、約3万トライアングル程度の3Dグラフィックスを、iPhone 3G、3GS、iPod touchの3機種で動かしてみたところ、iPhone 3GSが最も高いfpsを出し、次いでiPod touch、iPhone 3Gという順番になっていた。iPhone 3Gは、iPhone 3GSの半分程度のfpsしか出せておらず、香田氏は「同じように見えても処理速度が違うので、開発には注意が必要だ」と語っている。


モバイル向けGPUの現状について、概要をまとめたもの。モバイルGPUの進化はめざましく、今後も急激に伸びていくと予想されるiPhone系端末の3D描画性能を比較したもの。iPhone 3GSはGPUが異なることもあり、高い性能を発揮している



■ ケータイというインタフェース: メガネでもあり、マゴノテでもある……

忍頂寺毅氏

 株式会社NTTドコモ サービス&ソリューション開発部の忍頂寺毅氏は、通信キャリアとしてのゲームへの取り組みではなく、NTTドコモがAndroid端末「HT-03A」で試験サービスを行なっているソフトウェア「直感検索・ナビ」についての発表を行なった。

 「直感検索・ナビ」は、ARを利用したロケーションベースサービス。GPSや電子コンパスを使って端末の位置情報を取得し、カメラに移った風景に店舗情報などをアイコンとして重ね合わせ、タッチパネルで操作して情報を検索できるというもの。ただしこのサービスは、対応端末がHT-03Aしかないこともあり、まだ商用化は決まっていないという。

 UIにはコンセプトがあり、まず片手で使えることを重視したという。マルチタッチに対応したiPhoneでは、2本の指を開いたり閉じたりするピンチ操作が直感的で便利だが、片手で端末を持つ必要があり、結果的に両手を使わないといけない。日本の携帯電話は片手で使えるので、それを重視したのだという。またUIにはアイコンを多用している。これには画面構成を統一的にするほか、直感的で他の言語に対応しやすいことも考慮しているという。

 操作においては、端末の角度による変化をつけている。端末を地面に水平にする(カメラを下に向ける)と地図が出て、垂直にする(カメラを前に向ける)とカメラの映像が出る。使う状況を考えての配慮で、なかなか好評だというが、中には「ビルの中で使用した際に、上や下の階の情報を出して欲しい」といった声もあるという。

 このソフトにはもう1つ面白い機能として、「投げメール」というものがある。現在使われている電子メールは、相手のメールアドレスを指定してメールを届けるのだが、「投げメール」はメールに位置情報を持たせて、ある場所に「置いておく」感覚で使えるというもの。メールを書いて、端末を投げるような感覚で振ると、その動きを端末のセンサーで感知し、強さや方向に応じてメールが飛んでいく。投げられたメールは、このソフトのユーザーが近くに来れば、拾って読めるようになっている。もちろん、投げる、拾う、というのは仮想世界での行為で、まさに現実を拡張したARを体現したサービスだ。

 とてもユニークなサービスだが、現在は問題点も多いという。まず測位をGPS依存にしているので、屋内で使えない。また、どこにでも投げられて、誰でも見られることから、迷惑メールや出会い系を助長させる可能性があるため、現在はホワイトリスト形式で提供されている。横に振ると近くの人全員にメールを飛ばすといったような発展的アクションも考えたそうだが、上と同じ理由でできないという。

 「直感検索・ナビ」そのものにも課題がある。カメラで撮影した画像を元にするサービスということで、常にカメラを構えている様子は盗撮をイメージさせたり、プライバシーの侵害になる可能性もあることから、「かざして見る行為にまだ社会的合意が得られないのではないか」と危惧しているという。

 このサービス自体はゲームではないが、現実の位置情報を使用して遊ぶ「ロケーションベースゲーム」に通じるところは多いし、ゲームではないとはいえエンターテイメント性は高い。それをNTTドコモが、Android端末を用いて研究しているというのがなかなか面白い。


サービスそのものはゲームではないが、ゲームに活かせるアイデアも多く、また「投げメール」などエンターテイメント性の高い要素もある。ちなみにこの試験サービスは一般参加も可能だったが、早々に定員が埋まり、現在は残念ながら参加者の募集は行なわれていない

(2009年 9月 3日)

[Reported by 石田賀津男]