CESA Developers Conference 2009現地レポート

モバイルゲームセッションレポート その1

オンラインゲーム、アグリゲーター、SNSと幅広い話題が展開


9月1日~3日 開催

会場:パシフィコ横浜



 今年のCEDECは例年に比べて、モバイルゲーム関連のセッションがかなり多くなっている。3日間にわたって、ほぼ常時、何かしらのモバイルゲーム関連セッションが開かれているような状況だ。割り当てられているセッションルームは100席強ほどの比較的狭い部屋だが、それでも満席のセッションがいくつもあり、人気も上々だ。

 この変化には、ここ1年のモバイルゲームを取り巻く環境の大きな変化が影響していると思われる。目立つのはiPhoneやAndroidといった新しいモバイルゲームプラットフォームの存在だが、他にもモバイルオンラインゲームやSNS連動ゲームといった新たなジャンルも、ここ1年で急激に勢いを増している。一口にモバイルゲームといっても、その中身は非常に幅広いものになっている。

 本稿では、初日に開催された5つのセッションを一挙に紹介する。




■ iアプリ用オンラインRPG開発手法 ~HTTP通信とメモリ制御を中心に~

上原光晶氏

 株式会社ゲームズアリーナの上原光晶氏、町田純専氏、鶴田剛史氏によるセッション「iアプリ用オンラインRPG開発手法 ~HTTP通信とメモリ制御を中心に~」では、同社が配信中のiモード用MMORPG「双剣舞曲オンライン」の開発で採用された手法が紹介された。

 まず上原氏が、本作の開発ではサーバーを含めてJavaを採用していることを明らかにした。C++ではない理由として、「アプリはJavaで作るので、ソースレベルで共有可能」、「最近は最適化が進みC++と遜色ない速さで動作する」といった利点を挙げた。ただし、GC(Garbage Collection)によってメモリコントロールを完全に制御できないという欠点もあるとした。GCは非常に大きな問題のようで、解決法について後述された。


町田純専氏

 次に町田氏から、HTTP通信で作るオンラインゲームの問題と解決法が示された。本作の通信においては、リアルタイム通信に向いたTCP/IPではなく、HTTPを採用している(TCP/IPはまだ対応端末が少ないため、といった理由はあるはずだが、今回は語られていない)。携帯端末におけるHTTPはTCP/IPと比較して、サーバーからの通知(プッシュ型通信)ができないことや、2~4秒の通信ラグが発生するといった弱点がある。

 しかしそれ以上に、携帯端末そのものの問題として、通信が簡単に切れてしまうというものがある。地下鉄などで電波の圏外になるだけでなく、電話着信や操作ミス(3キーを押そうとして電源キーを押すなど)でも通信が切れる。また通信の途絶は、端末からサーバーにデータが届かなかったのか(上り途絶)、サーバーから送られたデータが端末に届かなかったか(下り途絶)で、異なる再送処理が必要になる。これを考慮しないと、操作が反映されなかったり、再送されたデータを2重に実行したりしてしまう。

 これらの対策として本作では、1通信で複数コマンドを発行するチャンク構造を採用している。プレーヤーの操作はチャンクとしてメモリ上のキューに逐次追加され、一定タイミングでたまったチャンクを送信する。そして送信されたデータがサーバーから送られ、それを受け取るまで、次の送信処理を行なわないことで、サーバーでの実行を保証する。

 サーバー側では、送られたチャンクの一部が切れていることも考慮し、チャンクが最後まで受け取れていることを確認するまで処理を行なわない。また下り途絶による2重実行を防ぐために、前回のサーバー処理結果を保存しておき、受け取ったチャンクごとに再送なのか未実行なのかを確認する。再送の判断には、通信1回ごとにクライアントがIDを発行し、そのIDの処理結果が格納されているかをサーバーがチェックしている。これらの手法により、少ない通信回数と、2重実行のない通信をHTTP上で実現し、MMORPGを動かしている。


モバイルゲームは通信が切れやすいので、その対策を十分に施さないと処理に異常が発生してゲームが成立しなくなる
サーバー側で2重実行を行なわないようにするプロセスを加えて対処している

鶴田剛史氏

 続いて鶴田氏が、クライアントのリソース管理について説明した。本作は基本無料で提供されているため、ユーザー登録の障壁を排除する狙いから、SDカードを使用していない。結果的に、街と戦闘に分けられた2つのアプリで、いずれも500KBのスクラッチパッドでやりくりしている。リソースは必要なときに適宜サーバーから取得する。UIやゲームデータなどは起動時に常駐し、500KBをキャッシュ代わりに使う。

 キャラクターの画像も適宜取得するが、装備が15,000ファイル以上、キャラクターの同時表示数も最大100以上というゲームで、どうやってもスクラッチパッドに入らない。この解決策として、装備の画像はパーツごとに取得するのではなく、サーバーでキャラクターに合成した画像を取得することで、通信量を減らし、メモリの許す限り読み込んでいく。さらにこの手法だと、装備品のバリエーションがさらに増えても負荷が増すことはない。

 フィールドでのキャラクター表示については、画像が取得されないキャラクターはシルエットだけが表示される。画像がなければ100体程度の情報をメモリに保持するのは問題ないという。ただし画像も表示する場合は、1体で33KB程度としており、100体だと3~4MB使用してしまうため、簡単にはいかない。また端末によって性能がまちまちで、どこまで快適に表示できるかも異なるため、最適な設定を自動で探すのは難しいと判断し、ユーザーが設定できるオプションを用意して対応している。

 最後に町田氏が、サーバーのリソース管理について紹介した。前述のGCについて、GC動作中は全てのJavaスレッドが停止するため、AIなどゲームの定期動作も数秒止まるという問題を挙げた。処理時間はメモリ1GB当たり1秒程度だそうで、メモリ量に比例して長くなっていくという。実際にこの対策をせず実行してみたところ、GCを原因とした3~5秒の全スレッド停止が発生し、プレーヤー側は通信ラグも合わせて10秒程度操作不能になる状況が発生したという。

 この対策として、コンカレントGCを採用した。これはGC関連処理をスレッドを使用して裏で実行するというもので、全スレッド停止の時間が短くなる代わりに、全体的なスループットが低下する。これを採用したところ、クライアント側ではGC停止時間を感じなくなり、スループットの低下も許容範囲に収まった。結果としてプログラムの変更も必要ないまま、GCの問題はほぼ全て解決したという。


キャラクター画像はサーバー側で装備を合成したものを作って送ることで、データ量を軽減まちまちな端末性能に対応するため、PCゲームのようにコンフィグ設定を設けている
キャラクターの表示は、近くのプレーヤーから順次、メモリが許す限り読み込まれていく。位置情報に関してはメモリに格納できるため、シルエットのみのキャラクターも多数見える



■ ケータイオンラインゲーム対戦の可能性 ~「対戦☆ボンバーマン」を例に~

吉田慎氏

 株式会社ハドソンの吉田慎氏と杉山楠知氏は、同社のオンライン対戦ゲーム配信サイト「対戦☆ボンバーマン」をテーマに、モバイルオンラインゲームの現状と、運営のポイントについて語った。

 まず吉田氏は、成功するモバイルオンラインゲームサイトの運営におけるポイントとして、「大会の開催やガチャガチャ(アイテム販売)の定期更新を行ない、サイト運営に力を入れてユニークユーザーを増やす」、「ランキングや称号の付与でモチベーションを維持して会員継続動機を作る(コミュニティ形成が常套手段だが、公式サイトではフリーワードでのやり取りが厳しく制限されており、非現実的)」、「無料アプリなどをキャンペーンで配信し、ユーザー数を確保する」という3点を挙げた。

 続けてオンラインゲーム開発において、対応端末とキャリアレギュレーションの違いを理解する必要があるとした。現在は主要3キャリアでTCP/IPによる通信が開放されているが、キャリアごとに通信頻度やパケット量、接続継続時間などの仕様に違いがある。またキャリアによって言語やプログラムを変更する必要があり、開発コストがかさむ。さらに通信品質はキャリアや地域によって差があるという。なおTCP/IPでの通信は、BREWで標準対応となるauで9割以上、ソフトバンクモバイルでは8割程度の端末が対応している。NTTドコモは2008年末から登場したiアプリオンライン対応端末で利用できる。


モバイルオンラインゲームサイトの運営のポイント。モチベーションを保って長く遊んでもらうというのは通常の月額課金サイトと同様だが、アプローチはオンラインゲームならではのものだ

杉山楠知氏

 杉山氏からは、「対戦☆ボンバーマン」の展開についての説明があった。TCP/IP対応の「ボンバーマン」アプリは、2004年にauでローンチされ、2007年8月にリニューアルしてボンキャラ(サイト内で利用できるアバター)の販売を開始。その後はキャリアのTCP/IPの対応に合わせて展開し、2009年9月1日からキャリア越えの対戦アプリを順次リリースするという。

 プロモーション展開においては、全国都道府県対抗ゲーム大会や、中野腐女子シスターズやRIZEといった有名人との対戦イベントやボンキャラの配布などのコラボレーション企画を実施しているという。これは集客効果はそれほどでもないが、既存会員の同時接続数を上げる効果は大きいという。

 モバイルオンラインゲーム運営におけるまとめとして、「現在のトレンドは非同期型のWEBゲームや釣りゲームが人気。制作や運営も比較的楽で、これから立ち上げるならこれがオススメ。ただし差別化が課題」とした。では「対戦☆ボンバーマン」のようなリアルタイム対戦はというと、「技術的ハードルが高く制限も多いため、儲けにくいジャンル。だがかつてのゲームセンターや家庭内で対戦ゲームで盛り上がった感覚に近い、他にはない魅力がある」としている。

 講演後の質疑応答でも面白い受け答えがあった。「通信回数はどの程度?」という質問には、「秒間数回程度で、少ないと秒間2回。リアルタイム対戦として十分とはいえないが、ゲームのルール的に、爆弾の爆風が当たって倒されることさえ守れば納得できるので、比較的遊べる。ただしキックやパンチのように爆弾を動かすのは無理」と答えた。

 ビジネスモデルについては、現在は月額課金と従量課金の両方を採用したハイブリッド課金となっているが、課金のトータル比率は月額のほうが高いという。また「1プレイ10円の従量制といった課金モデルは検討したか?」という質問に対しては、「さまざまな形を検討はしているが、このコンテンツについては今の形がいいと思っている」と返答した。


有名人と対戦できるイベントなどを開催し、話題を提供するのもオンラインゲームならではの手法といえる。RIZEの対戦イベントの様子を撮影した映像はYouTubeで配信されている



■ 年収1,000万円超を稼ぐモバイルゲームのつくりかた

山田元康氏

 スパイシーソフト株式会社代表取締役の山田元康氏は、同社が展開しているモバイルゲーム配信サービス「アプリ★ゲット」について紹介した。

 講演の最初に山田氏は、「ある意味、ゲーム会社がなかったとしても、クリエイターが活躍できるプラットフォームがあればいい」と同社の基本姿勢を端的に説明した。山田氏は1999年にスパイシーソフトを立ち上げ、PCソフトの開発に着手するも失敗。「なぜインターネット上のサービスではなかったのか。ベンチャーや個人はフロンティアに行くべきだった」と当時を振り返った。

 その後PCソフト開発をやめ、当時Javaアプリの登場がアナウンスされていた携帯電話に事業をシフトした。そこではまず、Javaアプリを開発してNTTドコモに公式サイトを提案したが、「数人のベンチャーが提案しても箸にも棒にもかからなかった」と、門前払いの扱いを受けたことを語った。その後誕生した「アプリ★ゲット」は、「打倒iメニュー」を目指したものだという。

 携帯電話事業においては、「自分にコンテンツを作るセンスはないと感じていた」といい、コンテンツを作るのではなく、ベンチャーや個人の作品を世の中に発表する場を作ろうと考え、コンテンツを集めて配信するモバイルゲームアグリゲーターとして、「アプリ★ゲット」を2001年に立ち上げる事になった。その後、キャリアの1つだったJ-PHONEが、個人で開発したアプリを配信できる場所を求めており、2002年にアプリを審査して配信する「Jアプリ★ゲット」の展開を始めている。

 「アプリ★ゲット」では、「チャリ走」を始めとした個人作品で、大手ゲーム会社のヒット作を凌ぐほどの大ヒット作品が登場している。しかし広告は打っていないそうで、高校生などの“ネイティブ携帯ユーザー”に受け入れられて口コミで広がり、そこから若者向けのメディアで頻繁にとり上げられているという。

 さらに山田氏は、最近のモバイルゲームの傾向として、「勝手サイトはSNS連動、大手は移植や大作ゲームという傾向がある」と分析した。ではそれしか売れないか? というと、「そんなことはない」と言い切る。前述の「チャリ走」の成功例を挙げながら、「ワンキーで、直感的で、短時間で遊べるゲームがヒットの秘訣」と語り、さらに口コミで広がるプラットフォームがあったことで大きな成功を収めたとしている。


「チャリ走」、「糸通し」といった作品が人気になっていることから、ワンキー、直感的、短時間で遊べるという3点がヒットの秘訣だという

星野裕太氏

 ここで「チャリ走」の作者である星野裕太氏が登場し、山田氏がゲーム開発について質問する形で話を進めていった。まず「チャリ走」を作ったきっかけについては、「『スーパーマリオ』が好きで、こういうものを作ろうとしたら同じようなゲームになってしまった。そこで緊張感を出すため強制スクロールにした。さらに人を歩かせたり、車を走らせたりしたがぱっとせず、自転車なら身近にあるものだしいいのではと思い作った」という。

 「チャリ走」は、auのオープンアプリコンテストに出され優勝しているが、その際、ゲームと関係ない業界の人は「グラフィックスが弱い」という月並みな評価だったが、ゲーム業界関係者からは、「ゲーム性が素晴らしく可能性を感じる。グラフィックスが弱いのも、ゲームを引き立たせるため」と非常に高い評価を得たという。

 星野氏は当時大学生だったが、その後も「チャリ走」のアレンジ版などを作成し、年収1,000万円超を稼ぎ出した。現在はスパイシーソフトと資本を出し合い、LIRENEO SOFT(リアネオソフト)という会社を立ち上げる準備をしているという。この会社について山田氏は、「星野さんがやりたいことをやってもらうため。革新的なゲームの開発はお願いするが、BREWへの移植など面倒なものは代わりにやる。そういう場所を提供する」と狙いを語った。

 ちなみに現在、「アプリ★ゲット」で専業クリエイターとして動いているのは、全部で10人程度だという。山田氏は、「年収1,000万円を超える開発者が500人はいてほしい。その中でスーパークリエイターが出て、世界で活躍して億単位を稼ぐ人がいてほしい。そういう個人が活躍する場を用意したい」と、あくまでプラットフォームの提供にこだわる姿勢を示した。

 質疑応答では、「個人作成だと著作権に絡む作品もあるのでは?」という質問が出された。これに対して山田氏は、「作品は全てチェックしている。もし苦情があれば取り下げるが、何が問題なのかということを相手に確認してクリエイターに説明する。逆にこちらで人気の出たタイトルを真似て、公式サイトに提案する企業があるので、その対応ができる仕組みを整えようとしている」と答えた。


「チャリ走」でヒットした星野氏は、その後も続編を作り続けている。現在はグラフィックスも向上し、新しい要素も追加されている



■ モバイルゲームの新潮流 -コミュニケーションとエンターテイメントの融合

田中良和氏

 グリー株式会社代表取締役社長の田中良和氏は、同社が展開しているSNS「GREE」の紹介と、その中で展開しているSNS連動型ゲームの方針について語った。

 同社は、それまで個人運営だった「GREE」の運営会社として2004年12月に設立された。「GREE」はサービスを始めてから1カ月で1万人、10カ月で10万人のユーザーを集めた。「10万人の会員となると、趣味とはいえ社会的責任もあると感じ、会社にしないと続けられないと思った」というのが設立の理由だという。現在は東証マザーズに上場し、社員数108名の企業に成長している。

 同社のサービスはSNSとSNS連動型ゲームの2本柱で、SNSでは広告収入、SNS連動型ゲームでは有料アイテム販売を行なっているのが大きな収入源だという。田中氏は「この両方を同じ会社がやっていて、両方で収益を上げている企業は、世界でも珍しいのでは。両方にシナジーを出していくところに強みがあると思う」と述べた。

 「GREE」のSNS連動型ゲームは4つしかないが、「増やせばいいというものでもないと思っている。あくまで友達と使うゲームなので、あまり多くても友達と遊びにくい。サイト規模に合わせた数が必要だ」という。

 具体的なタイトル紹介として、まず最初に提供が開始された「釣り★スタ」については、チームで対戦する機能を開発中だという。これには、「1人だと飽きてしまうが、友達が釣っているから遊ぶ」という狙いがあるという。このほかにも、大会やツアーなどのイベントは毎週のように行なわれており、「イベント施設を運営しているつもりでやらないと続けられない。普通のゲームとは違う発想やプロセスでやっていく必要がある」と語った。

 続いてペットゲーム「クリノッペ」については、基本的にはペットを育てるゲームだが、友達と一緒に育てるのがポイントだという。ペットは他のユーザーにつつかれると成長し、誰がつついたかは「つつかれ帳」にデータが残り、その人のプロフィールなどに繋がるという形で、ソーシャルなゲームにまとめられている。


SNS連動アプリの数は4タイトルと少ないが、1つ1つが長く遊べたり、友人と協力する前提だったりといったソーシャル性が盛り込まれている

 「GREE」は現在、モバゲータウンやmixiを上回り、月間のユーザー純増数ナンバー1になっているという。その数字も極端な変動はなく、毎月コンスタントに伸びている。累計ユーザー数も上位2つに近づいており、「モバイルでは数カ月で日本最大になると思われる」という。

 利用者は全国にバランスよく分かれている。「地方に行くとPC所有率が下がるため、日常的にSNSを使うにはモバイルしかない」という狙いが的中した格好のようだ。男女比は半々で、年齢も30代以上が約4割と多い。「日本の人口は10代は少ない。20代、30代を取っていかないと大きなサービスにならない。モバイルサービスが若年層向けだというのは全く違う時代になった」と田中氏は語っている。またゲームでの課金ユーザーを見ると、10代は圧倒的に低く、30代が牽引する形になっているという。

 収益モデルには、ゲーム内広告的な手法を取り入れている。例えば、ローソンの飴をペットにあげると、背景がローソンになるという形の広告がある。「ゲームに取り込んでいくことで、普段バナー広告を見ない人にも広告を認知してもらえる」という。

 田中氏は講演のまとめとして、「モバイルへの仮説」を挙げた。2006年当初に、2010年のビジョンと仮説を立て、5年先の未来のユーザーに向けて作ることを意識したという。例えば、「2010年にはPCでのインターネットはマイノリティになり、モバイルが主流になる」と仮説を立てているが、これは当時、田中氏がニンテンドーDSを遊んでいて、「据え置き機で大画面を見てやらなくても面白いし、これで十分だという人が世の中にいっぱいいた。実際にDSやPSPのほうが売り上げを牽引していて、家で遊ぶゲーム機はマニア向けだと認識されていることも知った」ということから、「インターネットで同じことが起こらないはずがない(携帯電話で十分だという人が大多数を占めることになる)」という発想に至ったのだという。

 田中氏は当時それほど携帯電話を使っておらず、よく使う人になぜ使うのかと質問したところ、「携帯のほうがシンプルで情報量が少ないから理解しやすい」、「家のPCは居間にあるから家族のいるところでメールなどを使いたくない」、「ベッドで寝転びながら気軽に使いたい」といった答えをもらい、大いに納得したという。それらは特別な発想ではなく、ごく一般的な考え方なのだと気づいた田中氏は、「GREE」をモバイルにシフトさせていった。

 ゲームデザインについては、「短時間でも長時間でもできる」、「初心者もヘビーユーザーも楽しめる」、「1人でも複数でも楽しめる」、「無料でも有料でも楽しめる」、「全年齢、性別に受け入れられるようにする」、「何千万人が使えるシンプルなものにする」といった要素を挙げた。中でも、無料でも楽しめるという点については、「SNS連動ゲームは、より多くのユーザーに使ってもらわないと面白いサービスにならないというのが基本にある。無料から始めて有料に流し込むのも狙いとしてはあるが、それだけを考えているわけではない」としている。

 同社は今後も、プラットフォーマーでありながらキラーアプリも作るという体制を続けるという。田中氏は、「任天堂のように、キラーアプリはプラットフォーマーが作らなければいけないと思うし、だからこそ成長すると思う」と語っている。また今後の展開は、モバイルだけでなくPCやiPhoneなどを含めたクロスプラットフォームへと向かい、ゲームを中心にさまざまなソーシャルアプリへ分野を拡大するとしている。


利用者は首都圏に固まることなく、日本中にまんべんなく散らばっているユーザーの年齢構成は、30代以上のユーザーも約4割いる。徐々に高い年齢層が増える傾向にあるゲーム内広告の手法を取り入れ、広告メディアとしての効果・収入も高めている



■ Android Marketで配信するアプリを開発するコツ

西岡光治氏
遠藤大介氏

 株式会社ハドソンの西岡光治氏と遠藤大介氏による講演では、Android端末でのゲームの配信と開発についての話題が展開された。

 まず西岡氏から、ビジネス面での概要が紹介された。アプリケーションを配信するAndroidマーケットのスキームは、iPhoneのApp Storeとほとんど変わらず、売り上げはアプリ配信元とGoogleで7:3の配分となる。iPhoneと違うのは、価格設定が登録した国で決められる点。例えば日本で500円と設定して配信すると、米国ではドル、欧州ではユーロの、その時の為替レートでアプリの価格が表示される。iPhoneでは、0.99米ドルは115円といったように、Appleが設定したレートで固定されている。

 アプリの配信では、ブラックジャックやクロンダイクといったカジュアルなゲームを無料で配信している。これらは数十万ダウンロードを記録しているという。有料アプリは「ボンバーマン道場」と「ネクタリス」を配信しているが、「市場はiPhoneに比べてまだ小さいと感じる」ということで、まだ大きなインパクトを感じるには至っていないようだ。

 Androidマーケットは現状、有料アプリと無料アプリが同一カテゴリーに入っており、有料アプリが埋もれる傾向にあるという。この問題はGoogleも認識しており、分けるといっているそうだ。また配信においては、iPhoneはPCのiTunesからもApp Storeにアクセスできるが、Androidマーケットには携帯端末からしかアクセスできないため、容量を5MB程度までに抑えるのが一般的なのだという。

 Androidへの期待としては、Androidマーケット以外への横断的な展開があるという。iPhoneアプリはApp Storeでしか配信できないが、AndroidはAndroidマーケット以外で課金システムを用意して配信しても構わない。「自社展開もできるし、他社にものせられる。そういった展開が広がることを期待する」という。

 さらにAndroidは、携帯端末以外にもネットブックなどにも展開する予定があるほか、Android OS向けに書かれたアプリケーションはPCでも動かせるのが魅力だという。西岡氏は、「そこを見据えて色々なコンテンツを考えていくのがビジネスのコツではないか」と述べた。

 続いて遠藤氏が、プログラムソースを見せながら、開発の基本的な形を紹介していった。こちらは専門的な内容となるため記事での紹介は控えるが、紹介されたソースはCEDEC事務局の承認を得れば公開可能ということだったので、後日どこかで公開される可能性はありそうだ。


AndroidマーケットはApp Storeと同じく、売り上げの7割を受け取れる無料アプリは数十万ダウンロードと好調有料アプリは、まだiPhoneほどの勢いは感じられないという

(2009年 9月 2日)

[Reported by 石田賀津男]