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動くガンダムを作ろう! 富野氏達が語り合う「明日のロボット」

“18mの巨大ロボは技術的には非常に面白い”というロボット研究者・橋本氏

7月9日開催

会場:ベルサール神田

 「ガンダム GLOBAL CHALLENGE」の記者発表会ではプロジェクトの説明に加え、ゲストによるパネルディスカッションも行なわれた。

 パネリストは、プロジェクトの技術監修を務める早稲田大学副総長、理工学術院教授であり、早稲田大学ヒューマノイド研究所所長の橋本周司氏、LUNA SEA、X JAPANのSUGIZOさん、小説家の福井晴敏氏、サンライズ代表取締役社長及びガンダム GLOBAL CHALLENGE代表理事宮河恭夫氏の4名。そしてモデレーターは脳科学者の茂木健一郎氏が務めた。

 当初、富野由悠季氏もパネリストとして参加予定だったが、富野氏が手がけるガンダム最新作「Gのレコンキスタ」の第1話アフレコと重なってしまったため、中止となった。代わりにディスカッションの前にスピーチで、“富野節”で、ロボットへの想いを語った。パネルディスカッションと合わせて紹介したい。

ロボットに親しみを持ちながらも、理解のない現代社会。18mのガンダムは新しい風を吹き込めるか?

機動戦士ガンダム総監督・富野由悠季氏
2009年のは立像だが、この像で富野氏は「おもちゃカラーの力」を強く感じたという
残念ながらパネルディスカッションの出席はなかった。「∀ガンダム(ターンエーガンダム)」から15年ぶりのガンダムとなる「Gのレコンキスタ」はどのような作品になるだろうか

 富野氏はスピーチで自らのロボットの想いを語った。富野氏は18mのガンダムの立像をみて「おもちゃカラーの力強さ、意味」を改めて感じたという。そして“大仏的”なアイドル(偶像)としてのインパクト、存在意義を実感した。今回、“1/1を動かす”というプロジェクトは、マイルストーンとなって、これからの新しい方向性を指し示すのではないか。ガンダムを作った時は絵空事ではあったが、現在は鉄腕アトムと同じように、実際にロボットに関わる人達の目標としてガンダムの名前が挙がる。こういった夢は次世代まで伝えていく必要があるのではないかと富野氏は語った。

 しかし一方で、「ガンダムがこれほど知られるようになり、ロボットが語られる現在でも、大人は保守的だ」と富野氏は語り、それを福島の原発事故で改めて痛感したという。富野氏はこの事故で、「東京電力が極限状態で作業できるロボットを開発しておらず、開発の支援を行なっていなかった」という事実を目の当たりにした。

 また富野氏は瓦礫撤去なので活躍したロボット達がいるということを関係者から聞かされたが、それが“ロボット”だとマスコミは全く報道しなかったことに対しても衝撃を覚えたという。マスコミは重機をロボットと見なさない。絵空事でもロボットを日常的に見ている現代の我々が、いかにロボットに対して理解をしていないかを思い知らされたとのことだ。

 富野氏は、「すでに自動車や、IC部品はロボットが作り、コマツというメーカーはシステムも含めてロボットで管理している。我々の世界はロボット化が行なわれていることが多いのに、そのことに対しての視点は少ない」と語った。しかし、ロボットが広がっていく現代の状況を見ながら、富野氏自身はロボットを「看護ロボット」に特化すべきという想いを持っているという。様々なロボットが生まれて人間をサポートするようになると、ロボットは人としての能力を劣化させる物になってしまうのではないかという危機感を持っているという。

 また富野氏は、昨今のロボットの傾向に「癒やしのロボット」という存在があると指摘する。それらのロボットはどんどん人間に近く、リアルになっていくと富野氏はいうのだ。富野氏は、「リアル方向ではなく、ぬいぐるみの方向がいいのではないか、より生物に近いロボットが癒やしをもたらすかというところには疑問を持っており、リアルであれば良いとはいえない」と考えていると語った。

 さらに富野氏は、「ロボットのリアル化は、社会性と乖離し、技術の独走をもたらしてしまうのではないかという気持もある。きまじめな技術者集団、きちんとしたメンテナンスによって実現している新幹線のシステム……。昨今の技術は新幹線のような社会性と共にあるシステムから離れてしまっているのではないか?」。そういった危惧を富野氏は持っているという。

 富野氏は「これらのことをもっと話したらそれぞれで時間がかかる。こういったことも話せるようにパネルディスカッションの方々は、よろしくお願いします。ありがとうございました」と語り、会場を後にした。

【ロボット-これまでとこれから-】
富野氏のスピーチの後、早稲田大学ヒューマノイド研究所所長の橋本周司氏によって「ロボット-これまでとこれから-」というテーマでの講演も行なわれた。橋本氏は研究者の立場から、現在の実際のロボット研究を説明した。福島の事故などで研究者は“堅牢性”という新たな命題が提示されたという

ガンダム愛が炸裂したパネルディスカッション。18mの巨人は実現可能か?

早稲田大学ヒューマノイド研究所所長の橋本周司氏。これからの研究者の“夢”として「ガンダム GLOBAL CHALLENGE」をモデルにしたいという
LUNA SEA、X JAPANのSUGIZOさん。18mの動くガンダムが実現した際には、パイロットに志願したいとのこと
小説家の福井晴敏氏。クールジャパンのシンボルとして18mのガンダムをしたい。そしていつかはGアーマーと合体するガンダムをこの目で見たいと語った
サンライズ代表取締役社長宮河恭夫氏。18mの立像以上の問題も出てくると思うが、見て、楽しくて、感動できるものを作りたいと語った
モデレーターを務めた脳科学者の茂木健一郎氏

 パネルディスカッションでは、福井氏、SUGIZOさんの深い“ガンダム愛”が感じられた。ただし両氏とも「機動戦士ガンダム」は、“18mのロボットを動いている”というところが魅力の中心ではなく、福井氏は人類が人口増加のために宇宙へ“追い出される”という社会、そして人々の生活の場が宇宙に場を移したという世界観の魅力への強い思い入れを語った。

 一方、SUGIZOさんは宇宙へ人類が出て行ったことで能力を目ざめさせる“ニュータイプ”に惹かれたという。「ガンダムはこれまでのロボットアニメの枠を広げる観念的な部分と、子供が好きなおもちゃとしてのロボットの魅力が最高に“合体”した作品がガンダムじゃないかと思っている」と語った。人間の可能性、進化の可能性を見せてくれた作品としてSUGIZOさんはガンダムを評価しているという。

 橋本氏は、ロボットは“設計”から生まれるのではなく、環境を設計していくことで必要なものが見えてくるという自身の考えと、ガンダムの近さを感じているという。また、現実にロボットを作る時の議論としては、自我を持つアトムと、人間に操作される鉄人28号や、ガンダムは“違うもの”として捉えがちだが、操作した時の操縦者の意志を伝える部分ではロボットの人工知能による判断が必要で、技術的、人工知能的にはアトムもガンダムも近いものがあるのではないかと語った。

 茂木氏は「ミノフスキー粒子」という言葉もわからないほどガンダムには疎かったが、茂木氏が提示した「18mのロボットを動かすという技術は、軍事転用されるのではないか?」という質問は福井氏、SUGIZOさんが反応した。

 福井氏は、「まず人型の巨大メカであるMSは宇宙に人類が進出したからこそ生まれたもので、地上で2足歩行の兵器なんて実際には制約が多すぎてナンセンスではないか?」というロボットファン定番の“ツッコミ”をした。SUGIZOさんも「宇宙なら足いらないですよね? 地上ならやっぱりガンタンクじゃないですかね」と、こちらもガンダムファンならではの意見を出した。2人は定番のツッコミを口にしつつも、言外で「それでも2足歩行のロボットがあって欲しい」という雰囲気があった。

 2人の質問に対し、現実のロボット開発者である橋本氏は、「人間型のロボットは必要だと感じる」と答えた。机、イス、階段……この世界は“人間用”に作られている。だからこそ人間型のロボットこそ社会に参加できるロボットであるし、何よりも研究の根源のベクトルはロボットではなく、“人間”であり、人間の研究としてロボットを作っているという方向性があるという。ロボット研究を進めていくことで、改めて「人間というのは何とうまくできているんだ」と感じることが多いとのことだ。

 ただし、「18mの人間型ロボット」というのは、人間研究、人間社会に溶け込むロボットというところからは大きく外れている。しかし、技術的には非常に面白い。だからこそ、どういった答えを出すかはまさにこれからの問題だと橋本氏は語った。

 ここで福井氏はサンライズの宮河氏に「この18mのガンダムは、人が乗るんですか?」と質問をすると、宮河氏は「全く考えてない」と答えた。宮河氏達がこのプロジェクトに挑戦するのは、「ガンダムを動かす」という目標に対し、皆が力を合わせ、努力をして欲しい、その結果何かが生み出されて欲しい、ガンダムが動くことで人に感動を与えたい、それだけを追求したいと宮河氏は語った。

 宮河氏達は2009年の18mの立像に関しては、「公園に立っている、子供達が触れる、またの間をくぐれる」ということは絶対実現しようという想いで制作したという。そして18mの立像が大人気となった時、自分が見てみたいということが他の人も同じだったこと、それを実現できたことに宮河氏は感動したし、技術者が付け加えた「首が上を向く機構」を見た時、「いつか動くガンダムを!」と思ったという。2020年は東京オリンピックである。オリンピックに合わせたプランなどはないが、「世界からアイディアを集め、日本で作った作品」として、18mの動くガンダムはアピールしていきたいとのことだ。

 プロジェクトの技術監修を務める橋本氏もこのプロジェクトを「ぜひやり遂げたい」と語った。これだけのことを多くの意見を求めて実現しようというプロジェクトはないだろう。一般の人も参加できる幅広い意見からいかに想いをまとめるか、これを日本でぜひやり遂げたいと語った。

(勝田哲也)