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【特別企画】フィギュアの革命、「ねんどろいど」その歴史と未来
前編:他のディフォルメが追いつけない“かわいらしさ”の確立
(2014/3/18 00:00)
ねんどろいどは大きな頭に小さな身体というディフォルメ体型で様々なキャラクターを表現している。アクションフィギュアとしての側面もあり、多彩なポージングが可能で、さらに顔パーツを交換することで表情が変わる。そして小物である。カバンや椅子、楽器などそのキャラクターならではの付属品により、プレイバリューはさらに広がる。フィギュアとして飾るだけでなく“遊ぶ”楽しさも大きいのがねんどろいどの特徴だ。
今や“ねんどろいど化”という言葉でも通じるほどにホビー業界ではディフォルメフィギュアの代名詞となり、シリーズは400を超えた。他社からもディフォルメフィギュアがでているが、ねんどろいどはその追随を許さないかわいらしさと、プレイバリューを実現している。その秘密とは何なのか?
今回、ディフォルメフィギュアを発展させたねんどろいどの歴史と、進化はどのようなものなのか? 作り手達はどのような想い、こだわりで作品を生み出してきたのか? 開発者にインタビューを行ない、その秘密に迫ってみたい。
前編である本稿では、ねんどろいどの最初の作品から、ターニングポイントとなった作品をピックアップしていくことで進化の歴史を見ていきたい。インタビューにはグッドスマイルカンパニー製造部リーダーの月山氏、制作部原型チームディレクターのめすか氏、企画部ホビーチームのカホタン氏に行なった。なお、後編ではねんどろいど制作の上での思い出や、特に印象に残っている作品など、作り手の想いによりフォーカスしていく。こちらも楽しみにして欲しい。
2006年、“ネコアルク”からスタート! “涼宮ハルヒ”で独自デザインに
――最初に皆さんのお仕事の役割を教えてください。
カホタン氏: 私は企画部ですが、今は主に公式のブログ(カホタンブログ)の担当をしていまして、ニコニコ生放送の番組の司会など、広報的な役割も多くなっています。
めすか氏: 私は元々工場へ指示を出すための見本となるモデルを作る原型師ですが、最近は他の原型師に指示を出したり、企画から出てくる要望を実際のフィギュアで実現可能なところまで調整して具体的なものにするといった仕事もしています。
月山氏: 私は開発製造を担当しています。まず、企画の意図を形にした原型、及び「デコレーションマスター」と私たちが呼んでいる彩色原型をもとに、工場と二人三脚で商品の設計、サンプル試作を行なっています。また実際の生産ラインでは、商品のクオリティコントロールや、納品スケジュールの管理などをしています。商品は1種につき数千体から多いものだと数万体に及びますが、それらを管理しています。
――ねんどろいどに関して、まず、一番にお聞きしたいのは「なぜ“ねんどろいど”という名前なのか?」というところです。名前だけ聞くと粘土のように柔らかい素材で作っているのかなと。
月山氏: ねんどろいどの第1弾は「ねんどろいどネコアルク(換装!謎のジェット飛行編)」で、2006年に発売されました。ねんどろいどは“ねんどろん”という原型チームが作っているからその名前がつきました。
ねんどろんはソフビ製のディフォルメフィギュアをその前にも手がけていましたが、その際のモチーフは映画の「エイリアン」や「プレデター」などでした。
めすか氏: 原型の時点では柔らかい素材で作ることもあるんです。空気に触れることで硬化していくのですが、粘土のように柔らかい合成樹脂を手で整えてねんどろいどの原型を作る場合もあります。
――先ほどグッドスマイルカンパニー社内を見学させていただきました。イラストを元にCGで3Dデータを起こし、そこから3Dプリンターや光造形で原型を起こすという方法を拝見しましたが、手で作る方式もあるんですね。
めすか氏: そうです。色々な方式をやっています。3D造形も増えていますが、今のところ原型師が手で作るというのが半分以上ですね。パテのような柔らかい樹脂をやすりや刃物で整えていく方法で、手で作っています。パテにも何種類もあり、粘土のようにこねて作ったり、刃物で削っていったり、原型師の好みによっても、作り方は様々です。3Dプリンターもそのうちの道具の1つという感じです。
――原型の前に、イラストがあり、原型師はそのイラストを元に作るという形ですか。
カホタン氏: イラストがないものもあります。第1弾の「ねんどろいどネコアルク(換装!謎のジェット飛行編)」は「MELTY BLOOD」という作品のディフォルメキャラクター「ネコアルク」をフィギュア化したもので、こちらに関しては原作イラストを元にしています。
現在のねんどろいどは「2.5頭身」というバランスになっていますが、最初はそういう意識は固まっておらず、公式イラストのバランスを重視していました。「ねんどろいどネコアルク(換装!謎のジェット飛行編)」はギミックに関して差し替え表情、サンマなどの小物、パーツの交換ギミックなどは盛り込まれていますね。
月山氏: 当時は特に後のシリーズを意識して入れたというわけではなく、キャラクター表現を考えた結果です。顔を交換することでフィギュアの表情をがらりと変えることができますし、手のパーツを変えることでより繊細な表情の変化を演出できます。改めて見るとねんどろいどのシリーズの共通仕様に繋がっていく要素がすでに盛り込まれています。色々なシーンを再現する様に設計していますね。
今でこそパーツの差し替えや、表情の変化ギミックが固定ポーズのフィギュアにも盛り込まれていますが、特にディフォルメフィギュアでは2006年はまだそういう流れは多くなかったと思います。
――そしてねんどろいどは公式のディフォルメキャラクターから、オリジナルのディフォルメ化を行なっていくんですね。
月山氏: 2007年の「ねんどろいど涼宮ハルヒ」では「ねんどろいどイラスト」を初めて描き起こしています。これ以降、グッドスマイルカンパニーのねんどろいどに関して、イラストが必要な場合は、イラストレーターさんの手によって描き起こされています。今は作り方が多少変化していて、イラストが必要な場合は描き起こしますが、原型師によってはイラストなしでも作れる、という場合もあります。
めすか氏: 現在は月に数体ねんどろいどが発売されるような状況になり、色々な原型師が作業するようになりました。このためクオリティや、ねんどろいどとしての雰囲気に統一感を持たすためにイラストが必要という状況も多いです。イラストがあると制作しやすい場合も多いです。
月山氏: 「ねんどろいど涼宮ハルヒ」が後のねんどろいどに与えた影響は大きかったです。ねんどろいど独自のデザインアレンジ、キャラクター表現などがこのフィギュアには盛り込まれています。腕章、拡声器などの小物や、表情パーツも充実しています。この商品で盛り込まれるギミックが整理されたという感じですね。
ハルヒと共に「ねんどろいど長門有希」も人気を博しました。メガネ着脱ギミックも盛り込み、猫の小物など、エピソードを再現する要素を盛り込みました。また、パイプ椅子に座るというシーンも再現できるようにしています。
――ねんどろいどは手足が短いですよね。椅子に座るとなるとバランスが変わります。そういった変更の判断はどのようにしていますか?
めすか氏: チームで話し合いながら、試行錯誤です。座る姿は差し替えで行なっていますが、通常のものとの整合性がとれなくなります。バランスは設計時だけでなく、実際に作りながら、見た目が崩れない程度に足を長くするなどして調節していきます。
――ディフォルメは服をシンプルにするなど極端に情報を少なくして行なうというイメージがありましたが、「ねんどろいど涼宮ハルヒ」をはじめとしてねんどろいどは服装もとても細かくデザインされています。このディテールのこだわりはかなりのものですよね。
めすか氏: スケールフィギュアに比べると、ある程度のディテールは削っています。しかし細部を感じさせる要素が入っていないと、“リアルなキャラクター”を感じられなくなります。だからこそ、どの辺りまでディフォルメするのかという点にはこだわりを持っています。例えば、胸の大きなキャラクターは胸の下あたりにちゃんとしわを入れたりしています。
――ねんどろいどの小さな上半身で胸の大きさを表現するのは難しいですね。
カホタン氏: 実は結構いますよね。おっぱいの大きいねんどろいど(笑)。
めすか氏: 何体もこなしていくことでの技術の蓄積はあります。巨乳キャラの胸の表現もその1つです。造形技術の進化で、できるようになった表現もあります。ねんどろいどという、ずっと同じサイズでやれることで学べることも多いのですが、気をつけなくてはいけないのは「やり過ぎてしまうこと」です。ディフォルメしすぎるとオリジナルからかけ離れたり、気持ち悪くなってしまう。このバランスも考えています。