ニュース
【GDC 2013】大人気セッションBlizzard、「Diablo III」ポストモーテム
いかにして“ポーションがぶ飲み&クリックゲー”からの脱却を果たしたのか!?
(2013/3/31 14:03)
2月のプレイステーション 4のカンファレンスで、PS3およびPS4に移植されることが発表された「Diablo III」。「Diablo」シリーズはネームバリューは抜群のタイトルだけに、1本でも多くキラータイトルが欲しいSCE陣営としては喉から手が出るほど欲しかったタイトルだろう。
一方、Blizzardとしても、この開発に10年近くの歳月を掛けた大作をリローンチしたいという気持ちがあるはずだ。なぜなら、2012年5月の発売直後から、ログイン集中によりサーバートラブルが頻発して、まともに遊べない状況が長く続き、Blizzardが謝罪する事態にまで発展してしまったからだ。
その意味ではいまだ現在進行形といえるタイトルだが、GDC 2013では「Diablo III」に関して2つのセッションが実施された。「Shout at The Devil: The Making of Diablo III」では、「Diablo III」のゲームデザインを解剖し、「Through The Grinder: Refining Diablo III's Game System」では主にイテレーションのプロセスが公開された。
共に異なる視点からのセッションだったが、語られた内容は奇しくも驚くほど似通っており、それはいかに「Diablo II」という過去の栄光から脱却し、時代にあったゲームを生み出せるかというものだった。実績のある作品の続編を作る重圧のようなものが感じられたセッションだった。さっそくご紹介したい。
「Diablo III」のコアピラーとは何か?
講師を務めたJay Wilson氏は、「Diablo III」のディレクターを担当した人物だが、以外にも過去の「Diablo」シリーズの開発には携わっていないという。このため、柔軟な発想で最新作を作る機会に恵まれていたはずだが、話はそんなに単純にはいかなかったようだ。それは自身がシリーズのクリエイターではないため、これが「Diablo」だと自信を持って押し出せない弱みと、膨大な「Diablo」シリーズのファンの声だ。ファンと化したユーザーは身勝手なもので、「Diablo II」の再現を望む声もあれば、それではダメで完全に変えることを望む声もある。
そこでWilson氏は、本来の「Diablo」シリーズの柱となる魅力、コアピラーを抜き出し、そこから現代の技術やトレンドに当てはめて肉付けしていくことにした。
セッションで大きくクローズアップしていたのは「Approachable(親しみやすさ)」だ。「Diablo」シリーズはマウスとキーボードだけで誰でも簡単にプレイできるのが魅力。しかし、それはシンプルさや浅さとは意味が違う。誰でも簡単に遊べながら、それでいて長時間プレイに耐える深みがなければならない。しかもそれは複雑だったり、煩雑なものであってはならない。
Wilson氏は、「Diablo」シリーズのウリである、膨大なレアアイテムを例に説明してくれた。「Diablo」シリーズには無限のバリエーションのレアアイテムが存在し、その組み合わせは膨大で、各種性能の底上げ、あらゆる特殊効果の付与、クラス限定、セットアイテムなどなど非常に複雑怪奇だが、プレーヤーはそのシステムについてすべて理解する必要はなく、装備すれば機能を発揮してくれるようになっている。これがWilson氏の考える親しみやすさと深みの両立ということになる。
しかし、せっかくのレアアイテムシステムも使われなければ意味がない。逆にシンプルかつ浅くなりすぎて失敗した例として「Diablo II」のソーサレスを挙げた。「Diablo II」のソーサレスは、攻撃はすべてレンジアタックで、防御はほとんどテレポートでかわすことができ、移動もテレポートで最速移動ができる。マジックスキルを伸ばしていくだけで強化が可能で、アイテムの依存度が極端に低い。ソーサレスは「Diablo II」でもっとも遊ばれたクラスになったということだが、これでは浅すぎる。
そこでWilson氏は、「Diablo III」では、すべてのクラスはアイテムに依存する設計とし、攻撃ダメージを武器によって決まる仕様へと変更した。これにより、「Diablo III」がトレジャーハンティングゲームとして正常に機能するようになるというわけだ。
「Diablo III」におけるポーション連打ゲーからの脱却
もうひとつの要改善要素がポーションだ。「Diablo」シリーズは別名“ポーションがぶ飲み”ゲームと揶揄された。ポーションを連続使用することで、敵から受けるダメージを相殺して一方的に攻撃し続けられるという、ポーションがぶ飲みこそが最強の防御スキルになっていた。
今から考えるとバトルバランスも、ジョブバランスもあったものではないが、“ハック&スラッシュ(たたき切る&切り裂く)”を重視するあまり、攻防の駆け引きより、いかに敵に対して止めどもなく攻撃を撃ち込めるかが重視され、結果としてこのようなゲームデザインを許容することになってしまった。皮肉にもこのゲームデザインは、Blizzard信奉の厚い韓国では一時期“聖典”のように扱われ、どのMMOもポーションがぶ飲みシステムを採用していたほどだ。
言うまでもなくこのゲームデザインは誰にとっても“不幸”であり、「Diablo III」では、これを完全に改める方向で調整が行なわれた。基本的にはポーションの使用にクールタイムを設け、連続使用できなくする一方で、ポーションがぶ飲みを前提としないバトルバランスへ刷新された。
ここの解説は、もうひとつのセッション「Through The Grinder: Refining Diablo III's Game System」がわかりやすかった。このセッションでは、BlizzardのWyatt Cheng氏から、短時間で繰り返し検証し、改良を重ねていくイテレーションのプロセスが公開された。ここでのメインテーマも“ポーションがぶ飲みバトル”からどう脱却するかだった。
ユーザーを“ポーションスパム”から開放する理由はただひとつ、「Diablo」のバトルに、ハック&スラッシュの爽快感に加えて、戦術要素を導入することだ。「Diablo III」では“一撃死しなければポーションがぶ飲みでなんとかなる”という、無茶苦茶なバランスではなく、プレーヤーは状況を見極め、適切な行動を採るという、当たり前のバトルバランスへの実現に向け、バトルシステムそのものの大胆な再調整が行なわれた。
まず、同じポーションの使用を30秒に1回に制限し、ランクの異なるポーションの並行使用も、2回目以降は本来の性能より効果が下がるように調整した。これにより、プレーヤーはポーションを節約して、より戦術的に戦ってくれると考えたようだが、そうは上手くいかなかった。HPが減るとポーションを使いたいと考えるのは自然なことであり、プレーヤーは逆にポーションのことばかりを考えるようになってしまったという。
そこで、非戦闘時にリジェネ効果を付与することにした。こうすることでポーションへの依存を軽減し、HP満タンで次のバトルに望めると考えたわけだ。しかし今度は、アクションRPGなのに、非戦闘を待ち望むことになり、ゲームとしてのテンポが悪くなってしまった。
第3案として、最後に被ダメージを受けてから3秒が経過するとHPが回復する仕様を採用した。これにより、戦闘時、非戦闘時を問わず、ダメージさえ受けなければ、常にHPはフルを保てるようになった。しかし、ダメージを受けてしまうタフな敵が相手な場合は? むしろ「Diablo」シリーズではそういう局面の方が多いはずだ。
そして最終的に「Health Globes」という新アイテムが導入される。これは敵のラッシュを乗り越えたリワードとして敵がドロップするHP回復専用アイテムで、スタックはできずその場で効果を発揮する。これにより、相手が多少手強い相手でも、ポーションに頼らずに連戦が可能になり、なおかつハック&スラッシュの醍醐味は維持されるというわけだ。
こうした改良は、イテレーションのプロセスを経なければ分からなかった部分であり、ゲームメカニクスの改良にイテレーションが大きく効果を発揮した一例と言える。2人の講師が共に語っていたのは、ゲームメカニクスの改良は、ゲームの世界観やゲーム性を損なわずに行なうべきであるということで、これは確かに頷ける話だ。
そしてもうひとつのバトルの大きな問題“クリックゲー”からの脱却
そして2人のセッションでのもうひとつの大きな話題は、“クリックゲー”からの脱却だ。Wilson氏は「Click」の文字が100個以上書かれたスライドを見せ、クリックゲーに対する苛立ちをあらわにした。
Wilson氏は、「Diablo」シリーズにおけるこの問題を解決するためには、そもそものインターフェイスや、スキルシステム、コンバットメカニクスにメスを入れる必要があると説く。要するに「Diablo」シリーズのバトルシステムに根本的な問題があるといいたいわけだ。
これについてももうひとつのCheng氏のセッションがわかりやすかった。“クリック連打ゲー”になってしまう最大の要因は、1度に1アクションしか実行できない「Diablo」のコンバットメカニクスそのものに問題があるという。つまり、攻撃を行なうのに、モーション開始から終了まで複数のフレームが存在するが、プレーヤーは実はもっと多くの攻撃をしたがっている。これが結果として“連打”という現象を生むことになるわけだ。連打そのものは本質的な問題ではなく、プレーヤー側のコマンド入力にスタックが発生し続けていることが問題なのである。
そこで、まず1つ目のアクションの途中に、別の2つ目のアクションを挿入できるように改良した。格闘ゲームにおけるコマンドキャンセルのコンボ技のような考え方だ。Cheng氏はウィザードのスキル「Magic Missile」と「Arcane Orb」を例に、2つのレンジ系スキルを相互に連続して撃てるデモを行なった。「Magic Missile」は「Arcane Orb」に比べてエネルギー弾の移動速度が速く、「Arcane Orb」より早く着弾する。これをうまく組み合わせることで、2つのスキルを重ねるような形で攻撃できるわけだ。
ちょうど「Ultima Online」でいうところの発動に時間の掛かるExplosionに、即時発動のEnergy Boltを重ね合わせ、ほぼ同時着弾にしてDPS(Damage Per Second)を跳ね上げる。あとはハルバードなり、クォータースタッフで殴り合いに移行する、という流れに似ている。この試行錯誤がバトルを格段におもしろくする。「Diablo」にもようやくこの点について試行錯誤する余地が生まれたのだ。
このシステムの弱点としては、先述したように、DPSが跳ね上がるため、バトルバランスを採ることが難しくなること、そしてプレイスキルに依存する部分が出てしまうことだ。これは「Diablo」のコアピラーである「Approachable(親しみやすさ)」とコンフリクトしてしまう。
そこで、キューの概念を取り入れ、2つ目のアクション入力を可視化してわかりやすくした。キューは1つまでで、複雑さに歯止めを掛け、わかりやすさを重視している。このこだわりはさすがBlizzardといった印象だが、このシステムは「Diablo III」では思いの外うまく機能しているようだ。
「Diablo III」スキルシステムの変遷
最後に、「Diablo III」のスキルシステムについて紹介したい。前作「Diablo II」のスキルシステムは、レベルアップの度にポイントを割り振るシステムで、それが上位スキルの解法条件になっていた。このシステムはこのシステムで、後の多くのゲームが模倣をした優れたシステムだったが、一度ポイントを振ると戻せず、最強を求める余り、結果として誰もが同じようなスキル割り振りとなり、スキルの硬直化を招いていた。
さらに、レベルによって解放されるスキルを一気に強化するため、条件を満たすために最小限のスキルポイントしか使わず、指定のレベルに達するまでポイントを貯め続けるというシステムを逆手に取ったテクニックまで生み出された。しかし、「スキルポイントは使わないと楽しくない」とWilson氏はいう。そこで「Diablo III」のスキルシステムでは、カスタマイズ性を強化し、より多くのスキルを使えるように改良を加えることにした。
ここでもイテレーションのプロセスが非常におもしろい。Cheng氏のセッションでは、「Diablo II」のスキルシステムをスタート地点にして、その進化をプロセスをプロトタイプのスキル画面を見せながら説明してくれた。そこには涙ぐましいほどの試行錯誤のプロセスが見え隠れしている。
特に問題になったのはルーンだ。「Diablo III」では、「Diablo II」の拡張パックで導入されたルーンの要素を、スキルシステムに盛り込むことになった。当初の計画では10種類の効果のあるルーンを導入し、任意のスキルにはめ込むことで追加効果を得ることができていた。これによりスキルの効果に多様性を持たせ、スキルを使ったバトルにバリエーションをもたらすことができるというわけだ。しかし、その導入方法を誤ると、「Diablo II」以上のスキルシステムの硬直化を招いてしまう。
Cheng氏は、プロトタイプに存在したルーンシステムの発展系となる「Rune Stone System」をわざわざデモしてくれた。「Rune Stone System」では5種類のルーンストーンが用意され、スキルの種別により、違った効果を付与できる、ちょうどいまのソケットアイテムに装着するジェムの仕様に近い。マジック系のスキルだと、はめ込むルーンストーンにより、効果範囲まで異なっている。ずいぶん今の仕様とは異なる。
しかし、最終的にこのシステムは完全に破棄された。理由は単純に面倒であり、ユーザーが望む効果が発揮できるとは限らず、なんと言ってもインベントリーがルーンまみれになって、アイテム管理が破綻してしまうからだ。
最終的には、ご存じの通り、各スキルに対して、Skill Runesという要素を持たせ、レベルによって誰でも習得でき、かつ状況や好みに応じて、いつでも付け替えられるというシステムに落ち着いた。
このシステムはこのシステムで、レアリティが皆無であり、個性化がまったく図れないという点で問題があるように思うが、Cheng氏によれば、スキルは使ってナンボであり、スキルの硬直化を防ぎ、多くのスキルを経験させることのほうが重要だと判断したようだ。
おそらく、彼らの判断に対して異議を唱えたい「Diablo」ファンは多いはずだ。筆者自身もそうで、あらゆる角を削り取ってしまった結果、今のような恐ろしく無個性で、主張の薄いゲームになってしまったと思わざるを得ないからだ。
その一方で、世界的な国民的ゲームは、有形無形のプレッシャーから、こうならざるを得ないのかもしれないとも思えてしまう。これは「マリオ」シリーズの最新作が「New スーパーマリオブラザーズ U」なのと、本質的に同じ問題なのかもしれない。歴史が長くなればなるほど、多くのファンを獲得すればするほど、大胆なチャレンジが困難になってしまう。
現在、「Diablo III」の退屈さに耐えかねて、あえて「Diablo II」に手を出す「Diablo」ファンが増えているという。「Diablo II」の“ポーションがぶ飲み”は本当に“問題”だったのか。ゲームの楽しさとは何なのか。ゲームのおもしろさの本質について考えさせてくれる非常に貴重なセッションだった。