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【GDC 2013】色々あったけどやっぱり気になる「シムシティ」 Part2
中心人物たちが語るポストモーテム ~ゲームデザイン編~
(2013/3/31 09:52)
ファンの期待を受けて、10年ぶりの完全新作として蘇った「シムシティ」。奇抜でユニークなゲームを生み出し続けたゲームスタジオであるEA MAXISならではの、強烈な理想と個性を感じられるタイトルだ。
もちろん、発売当初はサーバートラブルでまともに遊べなかったりと、超現実的な部分でつまづきはした。それでも、そのゲームアーキテクチャにおける理想主義が、遊び手に対して“未知への遭遇”とでもいうべき種類のワクワク感を与えてくれたという点で、良くも悪くも、鮮烈な印象とともに記憶されるゲームになったことは間違いない。
GDC 2013では、その「シムシティ」を作り上げた3人の主要人物がそれぞれの立場からスピーチを行ない、本作の開発を振り返っている。本稿では、リード・ゲームデザイナー&クリエイティブ・ディレクターのStone Librande氏、リード・ゲームプレイエンジニアのDan Moskowitz氏の講演を通じ、本作のゲームデザインがいかにして生まれ、実現されてきたのかをお伝えしていこう。
コンセプトを1枚にまとめろ! 未踏のゲームデザインを現実化した企画ノウハウ
リード・ゲームデザイナー&クリエイティブ・ディレクターのStone Librande氏は、“Simulationg a City, One Page at A Time”という講演を行ない、「シムシティ」のゲームデザインプロセスの秘訣を披露。その中で、ワン・ページ・デザインという考え方を紹介した。
ゲームデザイナーは、ゲームの内容を考案して、それを実現できるように開発チームを助けることが任務である。そのためには、自分で考えたり、みなで相談したゲームのコンセプトやしくみを、企画書・仕様書・イラストなど、なんでもいいから人が読める様式にすることが必要だ。
その中で、「シムシティ」のようにユニークなアーキテクチャのゲームでは、ゲームを構成する多くの部分で前例やコモンセンスに頼ることができないという問題がある。「戦闘は○○(ゲーム名1)みたいな感じで、成長システムは××(ゲーム名2)っぽくて……」というような、ディティールを想像に任せる横着が許されないわけだ。
そういう、想像のつかないものをきちんと作り上げるには、目指すコンセプトや仕組み明確に伝える方法が必要だ。そこでそこでLibrande氏が実践したのが、ワン・ページ・デザインという方法である。
これは、簡単にいうと、ゲームのコンセプトや、構成する個別のメカニクスのひとつひとつについて、1トピックの情報を1枚の書類にまとめるというルールである。
紙ペら1枚なら印刷して目立つように張り出すことができ、ひとめで把握できる。一部をつまんで誤解を招くようなことがないし、また、1ページで説明できないような概念はドキュメンテーションの段階で刈り取られるので、ゲームに不必要な複雑性が入り込むことを防止できるという効果もある。
もちろん、ゲームを構成する全情報が1枚に収まるわけではない。ゲームデザインドキュメントは全体としては何百枚も必要だ。しかし、すくなくとも、そのうちの1枚を取り出したら、ゲームのある要素について、過不足無く記述してあるということが重要なのだ。
Librande氏は本公演で、実際に「シムシティ」の開発のために作成されたドキュメントを多数披露した。どれもイラストレーターできれいに清書されたものだ。図版を最大限に活用し、言葉での説明を最低限に抑えつつ、アイディアを明確に伝えるものになっている。
このようなドキュメントが何百枚も存在するなかで、最も最上位に位置するのは、「シムシティ」全体のグランドデザインを記述したドキュメントだ。リージョナルプレイ、都市シミュレーション、建物のシステム、特化、交易など、ゲームを構成する最も重要なコンセプトが網羅されている。これを見れば、「シムシティ」がどんなゲーム構造なのかわかるという、スゴい1枚だ。
そこに記述されている各項目に対応するデザインドキュメントもそれぞれ存在する。例えば、都市シミュレーションの項目。「Glassbox」シミュレーションエンジンのアーキテクチャが1枚の紙ペラでシンプルに表現されている。
その詳細を補完するように、「Glassbox」のコア・アーキテクチャを記述したドキュメントが1枚。それらの構成要素がどのように世界を動き回るかを記述したドキュメントが1枚、シムの教育と生活程度の関連について1枚、シムの仕事パターンについてが1枚……、と、ひたすら1枚完結型のドキュメントが続いていく。
もちろん、ゲームの詳細は必要に応じて変更されるし、それにドキュメントの更新が追いつかないこともある。実際、セッション中で披露されたドキュメントの多くは、現在のシムシティとはやや異なる部分も少なくなかった。
特に、「特化」まわりの違いが興味深い。収集・精製・加工・輸出という工業特化メカニクスの例として、当初は材木がらみの生産チェーンが想定されている。それに並んで自動車という工業製品があったり、ウラニウムなんて資源も想定されており、今日のシムシティに至るまで沢山のアイディアが検討され、捨てられたことがよくわかる。しかしながら、メカニクスそのものは全く変わっていないことがさらに面白い。
Librande氏は、この手法はチームがゲームのコンセプトを共有し、明確なイメージを持って開発を進める上でとって非常に大きな利益があったと語っている。
しかし万能というわけではなく、文章によるドキュメントも必要だった。そこで、「シムシティ」の開発では、Wikiシステムをつかったテキストベースのドキュメントも平行して整備されている。その2つが相互に補完しあって、開発チームをユニークなゲームの完成に導いたというわけだ。
「Glassbox」。シンプルで、複雑で、楽しいサンドボックスを目指して
リード・ゲームプレイエンジニアのDan Moskowitz氏は、“Exploring SimCity: A Conscious Process of Discovery”という講演にて、「シムシティ」の開発を経て得ることができたという、サンドボックス系ゲームにおける開発の教訓を披露した。
Moskowitz氏はそこで、サンドボックスゲームを次のように定義している。「ゴールなき試行錯誤を通じ、ゲームの仕組みがどのように働くのかを発見することを楽しむゲーム」。だから、サンドボックスゲームには、奇抜なルールや仕組みと、シンプルな構成要素が必要だ。
「シムシティ」もそのように作られている。建物や、シム、乗り物など、個別の構成要素はとても簡潔な存在だ。それぞれのものは、情報の運び手(エージェント)を通じ、大変シンプルなルールで相互作用をする。それが非常に大きなスケールでダイナミクスを構成し、多彩な興味深い現象が起きる。
「Glassbox」では、そのようなコンセプトを実現するために様々な試行錯誤が行なわれたという。
ひとつは、ゲームで取り扱う情報の粒度についての問題だ。何を最小単位にして、どこまで詳しくシミュレートするべきか。例えば建物のカスタマイズ機能。当初は本体の建物に追加できるパーツが細かい機能別にたくさんあり、細かすぎて非常に面倒くさいものであったようだ。そこから、本当に必要な機能に絞りこみ、追加設備をワンクリックで追加できる“ソケット”インターフェイスを考案して、現在の形に至っている。
Moskowitz氏はさらに、ルールをシンプルに維持しつつ、ゲームに豊かなダイナミクスを与えるための秘訣を披露した。いわく、「機能するパターンを再利用せよ」というものだ。
例えば「シムシティ」では、建物やエージェント間で情報が伝播する仕組みは基本的に2つしかない。「エージェントが情報を運ぶ」、「同心円状に情報が伝播する」、である。このパターンがほとんど全てのシミュレーションに再利用され、豊かな複雑系が構成されているのだ。
例えば火事のシミュレーション。燃えている家では定期的に繰り返すカウントダウンが駆動して、タイミングが来るたびに同心円の判定が広がり、近隣の建物に火が燃え移るかどうかの判定が行なわれる。燃え移ると、中にいた人口はシムエージェントとして路上に飛び出し、周囲に「不幸」を撒き散らす。
このような按配で、一見複雑に見える現象も、とてもシンプルなルールの組み合わせなのだ。プレイをしながら、無理なくその原理を発見することができる点がキモである。そこがサンドボックスゲームの楽しさだ。それと同時に、シンプルさを保ちながら、ゲームの世界がより広がっていくということにもつながる。
このようにMoskowitz氏は、このセッションを通じてゲームデザインとエンジニアリングの間にまたがるトピックを幅広く遊弋していった。そして、最後におもしろいまとめをしている。
いわく、サンドボックスゲームは、開発が進むと勝手に複雑化していくもの。だから、最初から複雑さを求めると、大失敗する羽目になる。無駄な複雑さは余計な開発・デバッグ・イテレーションを発生させるので、実装前の段階で複雑さを検討し、削ることも重要だ、ということだ。
こうして「シムシティ」は、とてもシンプルな仕組みで、複雑なダイナミクスを持つゲームになった。プレーヤーの皆さんも、本作を遊ぶうちに自然と、ゲーム内部でどのようなシミュレーションが行なわれているのかが見えてきて、いっそうワクワクした経験がおありだろう。その発見が新しい作戦の考案につながって、楽しいトライ&エラーが繰り返されるのだ。