Electronic Entertainment Expo 2010現地レポート

Turn 10クリエイティブディレクターDan Greenawalt氏特別インタビュー
「Forza Motorsport Preview」とは何なのか、2011年リリースの次回作はどうなるか、ずばり聞いてみた


6月15~17日開催(現地時間)

会場:Los Angeles Convention Center



 GAME Watch E3レポート最後のインタビューは、「Xbox 360 Media Briefing」で「Forza Motorsport Preview」なる謎のプロジェクトを発表したTurn 10 StudiosのクリエイティブディレクターDan Greenawalt氏である。

 Greenawalt氏は、「グランツーリスモ」シリーズならびに、その生みの親であるポリフォニーデジタル山内一典氏の大ファンであることを広言してはばからないが、その一方で同じレースゲームのクリエイターとしては激烈なライバル意識を覗かせ、時には大胆な発言も厭わない。

 今回は、「Xbox 360 Media Briefing」での発表をきっかけにGreenawalt氏に単独インタビューを申し込み、「Forza Motorsport Preview」とは何なのか、将来的にKinectでどこまでの操作が可能になるのか、現在ちょっとしたムーブメントになりつつある3D立体視に対する取り組み、そして2011年リリース予定の「Forza Motorsports 4」と目される次回作では、どういったレーシングを実現するのかなどについて質問をぶつけてみた。


【Forza Motorsport Preview】
「Forza Motorsport Preview」のイメージカーとしてフェラーリを選んだ理由について「フェラーリだから」というナイスな回答をしてくれたGreenawalt氏。このKinectのギャラリー機能は、スーパーカーを愛でる楽しさを大幅に拡張してくれる



■ 「Forza Motorsport Preview」は、次回作のKinect対応の一部分

Turn10クリエイティブディレクターDan Greenawalt氏
フェラーリ458イタリアで富士見峠をKinectを使って降りてゆく。デモの時点では足回りの操作がどうなっているのか気になっていたが、やはりカットされていたようだ

編: 「Xbox 360 Media Briefing」で「Forza Motorsport Preview」を発表しましたが、発表の経緯について聞かせてください。

Greenawalt氏: 「Forza Motorsport」フランチャイズで、人々にもっと車に乗りたい、エキサイティングな体験をさせたいという思いで発表しました。「Kinect」の発表は、私たち開発チームにとってとてもエキサイティングな瞬間でした。今までのレーシングゲームではできなかった事にチャレンジできるチャンスだと思いました。

 2つのエクスペリエンスと言うことでアピールしましたが、1つめは従来のレーシングのように1位、2位を競うのではなく、パッシングをしたり、友達とプレイしているような感覚でプレイできるようなものになりました。もう1つは“カーエクスペリエンス”と言うことで、リビングルームやショールームのように世界中の素晴らしい車を見ることができるというような雰囲気を出しています。

 カーエクスペリエンスを体験したユーザーは、初めての感覚を楽しむことができると思います。WEBサイトやカーショウでは得られない経験ができた、というフィードバックをもらいました。私たちのゴールは、Kinectによってステアリングやコントローラーをなくす、という方向ではなく、Kinectという新しいツールを使って、新しいドライビングやレーシングの経験を開発していきたいと考えています。

編: 今回、デモを見ることができましたが、アクセルやブレーキはどうやって操作するんですか?

Greenawalt氏: 初期の段階では、アクセルやブレーキは足で操作する方法を検討していました。6~8歳の子供にとっては、アクセルやブレーキを足で操作するという感覚はわかりづらいというのが確認できました。このため、足でアクセルブレーキという操作はなくしてしまいました。ただステアリングを操作して運転する楽しみを感じてもらいたい、と思い現在の方式にしました。

編: Kinectのデモではコクピットモードのみの走行でしたが、最終的には3人称の視点でもKinectでプレイできるのですか?

Greenawalt氏: ゲーマーの方は3人称視点を好みますが、低年齢層のユーザーにはコクピット視点の方が人気が高いため、Kinect対応についてはコクピット視点に絞った開発をしていきたいと思います。今回、デモとしては2種類のみを流しましたが、様々なテクノロジーを開発中で、車を運転するというテーマに関して、どのようなものを提供すればエキサイティングな感覚を持ってもらえるかということで、今質問にあったアクセルやブレーキ、3人称視点などもマーケットに合わせた形で考えていきたいと思います。

編: 今回のデモは、Kinectを使った走行と、Kinectによるカーギャラリーの2種類でしたが、そのほかにはどんなものを考えていますか。また、今回ギャラリーではイタリアのフェラーリ458でしたが、なぜこの車を選んだのでしょうか?

Greenawalt氏: これ以外のデモはまだ秘密です(笑)。フェラーリを選んだのは「フェラーリだから」というのが答えの全てです。とても美しい車だからです。Kinectの技術が提示されたとき、私たちは新しいプラットフォーマーゲームを作りたいと考えました。例えば「マリオギャラクシー」のように、次のステージに進めば新たな発見があるように、コーナーを曲がれば新しい発見がある。フェラーリとランボルギーニではそれぞれゲーム体験が全く異なったものになります。チームの方でもどんな車を選ぶか、ランボルキーニやフォードGTにするか、といった議論でも盛り上がりました。

編: Kinectギャラリーは全車種で実現すると期待して良いですか?

Greenawalt氏: 1台1台を開発するのにかなり時間がかかってしまうので、全車種をカバーしたいが、確実には言い切れないところもあります。車のディテールを突き詰めていくという作業はかなり大変ですし、コクピット、ダメージ表現などを考えると膨大なデータ量になります。

編: 今回のギャラリーではドアを開けコクピットの中に入ることができますが、エンジンを掛けてそのまま走り出すことは可能ですか?

Greenawalt氏: 車内に入ることはできるのですが、そこからいきなり走り出せません。あくまでギャラリーですし、プラットフォームとしてユーザーが美しい車に対してどこまで情熱を持っているかを重視しています。 編: 「Forza Motorsport」シリーズは優秀なカーカスタマイズが搭載されていますが、Kinectを使って色を塗ったり、デカールを貼ったりすることはできますか?

Greenawalt氏: これまでのシリーズでは、魔法のような効果をもたらした要素もありますし、面白くなかったところもありました。私どもは様々な者を試してみてベストな者をリリースしていきたいと思っていますので、現在はカーとドライビングのエクスペリエンス、こちらのみとなっています。



■ 次回作について。1080p/60フレームは維持。天候や昼夜の導入も検討中

Greenawalt氏は現時点の3D立体視をレースゲームに採用することは得策ではないと考えている
Kinectギャラリーでは、このように情報欄をポップアップ表示させることもできる。エンジンを掛けたりすることも可能だが、残念ながらそのまま走り出すことはできないようだ

編: 今回発表された要素は「Forza Motorsport 4」あるいは「Forza Motorsport 3.x」に実装されるものなのでしょうか。

Greenawalt氏: 詳細が伝えられないのは申し訳ないのですが、我々はKinectの要素を盛り込んだ「Forza Motorsport」シリーズの最新作を2011年に発売予定です。しかし現段階でそれがどんな製品名になるかはあきらかにできません。ただ、「Forza Motorsport 3.X」といったナンバリングタイトルになることはないです。

 

 「Forza Motorsport 3」のエンジンを使うとKinectを使って20台の車をパッシングする場合、シェーディングやエンジンのアップデートができないのです。今回提示したデモは「Forza Motorsport 3」では実現できないというのは確実です。

編: その次回作についてお伺いさせてください。次回作でレースゲームとしてトライしてみたい要素にはどのようなものがあるのでしょうか。

Greenawalt氏: 現在は発表できることはありません。ただ念頭に置いていただきたいのは、私たちはどんどん革新していく、というのを重要視しています。これまでもペイント機能や、黄色からグリーンに変わる補助してくれる機能「グリーンライン」といった要素を入れていますし、「スコアフロント」といった機能を入れたりしています。

編: 私は「Forza Motorsport」シリーズのファンで、シリーズを通してプレイしていますが、二輪バイク、天候の要素や昼夜の概念は未実装なのが残念です。また、3D立体視の対応についてはどのように考えていますか?

Greenawalt氏: レーシングゲームとして様々な要素を考えています。「他がやっているのでうちもやろう」といった声がチーム内で出ることもあります。もちろんやっていないことも実現していくのですが、最も考えている部分が「革新的であるか」です。レーシングゲームとして前進させていきたいと考えていますので、バイクの登場、天候の要素等も含めていろいろ考えてはいます。

編: 今回E3で、「グランツーリスモ5」が3D立体視への対応を表明しましたが、これに対してどういった感想をお持ちですか。

Greenawalt氏: 実際に触ってきました。私は山内一典氏のチームに対しては尊敬の念を持っていますが、考え方としてレーシングの将来を担っているという視点からは、1秒30フレームという表現に関しては疑問を感じました。体感的に気分が悪くなったところもあります。

 「Forza Motorsport 2」が出た当時、私たちも3D立体視対応を試みました。サムソンのテレビとメガネを使って30フレームでやったのですが、そのときもやはり気持ちが悪くなってしまいました。3D立体視はアイデアとしては良いと思いますし、個人的には大好きですが、やはりレースゲームでは気持ちが悪くなってしまうところがありますね。

編: つまり、3D立体視のためにフレームレートが半減するのはレースゲームとしては許容できない、3D立体視に対応するとしてもあくまで60フレームにこだわりたい、ということでしょうか?

Greenawalt氏: 気持ち悪くなる理由が、30フレームか60フレームかということが原因かはわかりません。今回の発表で、皆さんももちろん私もエキサイトしていたのですが、私自身は気持ち悪くなったので、私自身は熱心に3D立体視で遊んでみたいと思えなかったですし、それは私だけでなく多くの一般ユーザーにとってもまだ準備段階なのではないかと思っています。

編: どうやら次回作での3D立体視対応はなさそうですね。

Greenawalt氏: 現時点では何も言えません。私はKinectによりコアゲーマー以外、子供や家族にまでユーザーの幅を広げることができることが素晴らしいと考えています。私たちは車の運転を楽しんでもらうということをモットーにしています。6歳の子供がKinectでドライブを楽しんでくれれば、将来のお客さんになってくれると思っています。3D立体視対応は今後技術的な進展があれば入れたいとは思います。

編: 私は「Forza Motorsport 3」の魅力は1080p/60フレームをゲーム全編を通じて実現したことにあると考えていますが、次回作もまた1080p/60フレームのレースゲームになると期待していいのでしょうか。

Greenawalt氏: レーシングゲームにおいて1秒60フレームというのはとても重要だと思っています。例えば時速300キロで走る車を出す場合、30フレームだとシャッターを切ったような表現になってしまう。この感触は我々は「グランツーリスモ」で経験しています。そうなるとモーションブラーをかけて対応し、かなり見づらくなってしまう。我々としては60フレームから落としたくないと思います。

 その上で我々はこのフランチャイズをどこに持って行きたいかを考えていきたいと思っています。シェーダーをよくしたり、新要素として雨の表現を入れたり、車を増やしたり、Kinectの技術を入れるといった判断をしなくてはいけません。

編: 2011年に次回作が出ると言うことですが、発売時期はいつ頃を想定していますか?

Greenawalt氏: 時期はまだ言えません。今回2つのデモを持ってきましたが、実はもう1つ良いものがありました。今回お見せしたものは、ゲームエンジンやフィジックスをアップグレードしていますが、まだまだこれからだと思っています。私どもで納得できる段階までいって、それにあったゲームを考えて、発売時期を決めていきます。2011年の発売と言うところは守りたいです。

編: もう1つの良いこととは何でしょうか。

Greenawalt氏: それは言えません(笑)。順次公開します。実際の開発チームは“1.5チーム”という感じになっていまして、「Forza Motorsport 3」を出荷している最中に、デザイナー、デベロッパーは次のシリーズの開発をスタートしていました。開発中のタイトルを手掛けながらも、将来的な要素にチャレンジして開発を進めていきました。

編: 日本のレースゲームファンにメッセージを。

Greenawalt氏: ありがとう。日本の皆さんのファンタスティックなペイント、アーティスティックなアートワークを手掛けていただきました。日本の市場はヨーロッパと比べると大きなものではありませんが、活気のある市場だと思っています。今後も成長が見られると思いますので、本当にありがとうございます。

編: 素晴らしい次回作になることを期待しています。ありがとうございました。


(2010年 6月 19日)

[Reported by 中村聖司 ]