IGDA日本、第5回iPhone/iPod touchゲームセミナーを開催

ハドソンが「ネットジャン狂!」でアイテム課金を開始
CRIはCLOUDIAの無償版をリリースへ


12月18日 開催

会場:アップルストア銀座



 国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)は12月18日、「ハドソンの挑戦」をテーマに、第5回iPhone/iPod Touch Game Devシリーズセミナーをアップルストア銀座で開催した。第1部では株式会社ハドソンの柴田真人氏が基本プレイ無料の麻雀アプリ「ネットジャン狂!」を発表。第2部では株式会社CRI・ミドルウェアの幅朝徳氏も交えてパネルディスカッションが行なわれ、同社が提供するクラウド型カタログエンジン「CLOUDIA(クラウディア)」について、新たに無料版も提供されることが明らかになった。

 本セミナーはiPhoneゲームアプリの開発・販売がテーマだが、長年モバイル事業を牽引してきた柴田氏だけに、話題はAndroidやFlashなどにもおよび、さながらコンテンツプロバイダーから見た新規プラットフォーム事情といったものになった。またディスカッションでは時節がら1年の総括と来年の予測も交えるなど、1年間の総決算という内容だった。会場は例によって満席となり、縦横無尽の展開に聴衆も深く聞き入っていた。




■ 3年後にはスマートフォンが主役になる!

ハドソン執行役員 新規事業本部本部長の柴田真人氏

 ハドソンは日本の大手ゲームメーカーの中でも、いち早くiPhoneに参入し、精力的にゲームアプリをリリースしてきた。それも「ボンバーマン TOUCH」などの自社タイトルだけでなく、フィンランドの独立系デベロッパであるKloonigamesが発表したPC用パズルゲームを、iPhone向けに「クレヨン・フィジックス Deluxe」としてリリースするなど、ラジカルなタイトル投入が続いてきた。

 そんな同社でiモードの初期からモバイルビジネスを立ち上げ、推進してきた中心人物が柴田真人氏だ。8月には新規事業本部本部長に就任し、執行役員として経営面にも携わる一方で、iPhoneやブラウザゲームなどの新規プラットフォームを開拓している。その活躍ぶりは「日本のiPhoneゲームアプリ界のラスボス」(IGDAの新氏談)と呼ばれるほどで、本誌でも何度かインタビュー記事を掲載している。現状を語る上で最適な人物だ。

 そんな柴田氏は「日本だけ事情は違うが」と前置きをした上で、「今後3年で世界の携帯電話はスマートフォンが中心になる」と予測した。中でも主力となるのがAppleのiPhoneとGoogleのAndroidだ。柴田氏によれば、これにより世界規模で「モバイル勝手サイト」ビジネスが拡大するという。その一方で国内企業としては「ローカライズ・カルチャライズの品質向上」、「(iPhone以外での)海外における課金モデルの確立」、「日本らしいアイディアを具現化できる開発力の強化」が課題になるとまとめた。


世界的に従来のケータイが低迷し、スマートフォンが急成長している。ここから3年後には日本を除く世界でスマートフォンが主流になると柴田氏は予測する。主役はもちろんiPhoneとAndroidだ

 この理由として挙げられたのが、海外(北米・欧州)の携帯電話事情の変化と、それに伴うスマートフォン市場の伸びだ。しばしば「日本の携帯電話は世界のガラパゴス」などと揶揄されるが、その背景には日本の通信環境が海外に比べて圧倒的にリッチで、高機能で付加価値の高い携帯電話が浸透している点にある。課金システムについてもキャリア主導で整備されており、それに加えて広告モデルによる勝手サイトビジネスもあるほどだ。これに対して海外では、課金システム自体が未整備な国・市場もまだまだ多い。

 これが海外でも近年、やっと快適にモバイルインターネットが可能になってきた。iPhone自体が昨年8月の「iPhone 3G」で、ようやく3G(第3世代携帯電話)に対応したのも、記憶に新しいところだ。またiPhoneの登場で携帯電話が再定義され、iTunesという世界共通の課金・配信プラットフォームが使えるようになった。その結果、ようやく昨年から世界規模で「モバイルコンテンツ」のビッグバンが始まった。直接課金以外に広告モデルやアイテム課金なども始まった。やっと世界が日本に追いついてきた、というわけだ。
 
 こうした中でハドソンは、すでにiPhoneで27タイトルをリリースしており、AndroidやWindows Phoneなどにもタイトルを供給している。ちなみにiPhoneで最も成功したのが、有料版が10万ダウンロードを達成した「ボンバーマン TOUCH」で、「ケーキマニア3」、「麻雀刑事」などがそれに続く。さらに直近タイトルとして、11月にリリースされた「AQUA FOREST2 -morning dew-」も紹介された。水滴を操作するパズルゲームの第2弾で、本体を傾けて遊ぶ直感的な操作性と、水滴の質感にこだわった映像が特徴だ。


究極の水滴表現にこだわったという「AQUA FOREST2 -morning dew-」。2D物理エンジンには「OctaveEngine Casual」を採用し、「PUZZLE」モードと「ENDLESS」モードがある。バージョンアップで世界ランキングの追加も予定されている

 ただしApp Store全体で激しい価格競争が起きており、ゴールドラッシュは続いているものの、年々「大当たり」の確率が下がってきているのも事実だ。これに対して同社では「フリー版からの誘導」、「広告の追加」、「SNS対応」などの施策を打ってきた。

 もっともフリー版については、重要な告知プラットフォームではあるが、それだけでは厳しいという。広告については、モバイル広告ネットワーク最大手の「AdMob」によるバナー広告を17タイトルで導入しており、一般的なウェブ広告程度の効果は得られるとした。SNS対応についてはアプリにチャットルームやアチーブメント(実績)機能などを手軽に盛り込めるソリューション「OpenFeint」が「ボンバーマン TOUCH」で実装されており、今後も対応タイトルを増やしていく方針。ユーザーの囲い込みやゲームのライフタイム増加が目的だ。

 ただし、これらを組みあわせても、まだまだ決定力に欠けるのも事実だという。そこで柴田氏が満を持して紹介したのが、アイテム課金モデルの麻雀アプリ「ネットジャン狂!」だ。

 ゲームはCPU対戦、ローカルでの4人対戦以外に、オンライン対戦で遊べる。オンラインでは1日1回だけ半荘を無料で対局でき(リリース後1カ月は3回までに増量)、それ以上遊びたい場合は、課金が必要というスタイルだ。課金は別途購入したポイントを消費する形式で、1回の半荘で30ポイント(1ポイント1円)が必要となる。アバター要素はないが、メダルアイテムをかけてプレイできたり、定期的な大会の開催なども予定されている。


片手で遊べるように縦画面でデザインされている麻雀ゲーム「ネットジャン狂!」。プログラムは、1983年発売のPC用「ジャン狂」や、1984年発売のファミコン用「4人打ち麻雀」(任天堂より発売)と同じ、社内の超ベテランプログラマーが手がけた。実はiPhone版「麻雀刑事」も同じプログラマーが担当しているそうだ

 柴田氏は「企業の強みは運営面」と述べ、今後はアプリ内課金モデルのゲームに軸足を移していく方針を明らかにした。「ネットジャン狂!」は早ければ年内リリースの予定。このほか2010年3月までに、アイテム課金型のアプリを2タイトルリリースする予定だという。

 さらに「リリース後はネトゲ廃人(オンラインゲームにはまり込んでしまう人)が続出してしまうかも?」と自負する大作タイトルを、2010年4月以降に投入することを明らかにした。ハドソンが開発し、株式会社ゴンゾロッソが運営しているWindows用MMORPG「Master of Epic」がヒントだそうだが、それだけではないという。いずれにせよ、iPhoneアプリの可能性をさらに広げるタイトルになりそうだ。

 ちなみに海外での売れ行きについては、日米欧で約30%ずつ、残りの10%がその他の地域という比率だという。もっとも「クレヨン・フィジックス Deluxe」のように欧州で高い人気を集めるタイトルがある一方で、「エレメンタルモンスターTD」は国内人気が中心と、タイトルでばらつきがみられる。

 柴田氏は、「日本市場はiPhoneの販売台数の割にアプリの売り上げが高く、ユーザーのアプリ平均購入単価が他の地域より高いのではないか」と分析した。また海外向けマーケティングについては、「一通りの施策はしているものの、効果に乏しい」とコメント。「他社タイトルを見ても国産タイトルが海外で通用するのは明らかで、より一層のローカライズやカルチャライズが求められるのではないか」という見解を示した。




■ コンソールとiPhoneでは心拍数が違う?

 イベント後半ではCRI・ミドルウェアの幅朝徳氏も加わり、パネルディスカッションとなった。本セミナーでは講演者2名の後に議論が始まり、駆け足で終わるのが常だが、今回は講演者が1名だったことから、1時間以上にわたって、たっぷり議論が行なわれた。トピックもiPhoneにとどまらず、スマートフォン全体、さらにはゲーム市場の動向など、縦横無尽に議論が展開し、これまでにない濃密なやりとりが行なわれた。


パネルディスカッション風景CRI・ミドルウェアの幅朝徳氏柴田氏からは本音トークが連発

カタログエンジン「CLOUDIA」

 初めに幅氏から、同社が展開するカタログエンジン「CLOUDIA」の現状報告が行なわれた。これは第2回セミナーでリリースされたもので、タイトルのメニュー画面などに、自社の他のアプリカタログなどが組み込めるというもの。クラウド型のサービスで、各企業はブラウザ上で宣伝データを自由に変更でき、アップルの審査が不要で迅速に差し替えができる点が特徴だ。これまでβサービスが続いていたが、12月より正式サービスが始まり、カプコンの無料ゲームニュース表示アプリ「CAPCOM News」などから採用が始まっている。

 リリース後の反応として、服飾系や出版系など、ゲーム業界以外から問い合わせが多く寄せられたという。また各社の要望により、有料版に加えて無料版のサービスも開始することが発表された。機能は限定されるが、中核となる「カタログエンジン」部分は無料版でも活用できるという。さらにアプリ内課金への対応も予告された。アプリ内に追加コンテンツのカタログを表示させ、そこから直接購入できるようにするという。

 続いてのディスカッションはトピックが多岐にわたったが、ここでは特に印象に残った内容を紹介しよう。

 まず柴田氏、幅氏の双方が強調したのが、iPhoneをとりまく環境の急変ぶりだ。この半年間だけでも、6月にiPhone 3GSが発売され、OSが3.0にバージョンアップ。10月には無料版アプリからアプリ内課金が可能になった。さらに11月には前述の「AdMob」がGoogleに7億5千万ドルで買収されたニュースが関係者を震撼させた。少し視野を広げると、同時期に米Electronic Artsが1,500人規模のリストラを行なった一方で、ソーシャルゲーム大手のPlayFishを3億ドルで買収している。

 こうした動きについては柴田氏は「えーっ、というくらい早い。アプリ内課金もいつかはやると思っていたが、予想より半年以上も早かった。日本のモバイルビジネスのやり方を、相当研究しているようだ」とコメント。もともとコンソール向けにミドルウェアのマーケティングを行なっており、1年ほど前からiPhoneに移ってきた幅氏も「象とネズミで心拍数が違うように、モバイルに移ってきてから、激しい動悸を感じるようになった」と、本気とも冗談ともつかない発言で会場を沸かせた。


柴田氏が講演中で紹介した「エレメンタルモンスターTD」の北米向けプロモーションビデオ。タワーディフェンスを回転寿司に例え、ナマズ好きのキャラクターが1人で食べてしまう、という内容になっている。「クレヨン・フィジックス Deluxe」のムービーがネットで非常に好評だったことから企画された。ただし北米での評判は今ひとつだったとか
YouTube動画

 ちなみに柴田氏によると「iPhoneの開発はトライアスロン」なのだそうだ。これは「アプリ開発で水泳をして、やっとリリースという対岸が見えたら、次は容赦ないユーザーレビューにさらされ、アップデートという自転車競技が始まる。それを走り終えても、今度はマラソンが待っている」という意味合いだ。アップデートで褒められることもあれば、叩かれることもあるが、最も辛いのはレビューがつかない場合だとか。ちなみにユーザーレビューの酷評ぶりは日本も海外も変わらないが、海外ではゲーム内容の点で、日本ではアプリが落ちることに対して批判が多いという。

 また大手メーカーにとって死活問題となるコスト削減について、柴田氏は全体的なアプリの品質が上がっていることもあり、「我々のような規模の企業ではコスト削減にも限界がある」とコメント。そのためアイテム課金などの新しい収益手段が必要だとした。一方で幅氏は「(コスト削減には)ミドルウェアを導入してください」とかわしつつ、「法人が収益を考えていない個人と同じ土俵で戦っていても勝てないのは事実」と指摘。その上で「広告モデルやアプリ内課金など、さまざまな課金モデルが次々に出てくる。まだまだ新しいマネタイズの方法論が出てくるのでは」とコメントした。

 このほかiPhoneのアキレス腱ともいえる、Flashへの完全対応についても議論された。現在iPhoneに標準搭載のブラウザ「Safari」はFlash Liteのみで、Flashに完全対応していない。仮にFlashに全対応すると、WEB上のFlashゲームがSafari上で遊べてしまい、App Storeを中核とした現在のビジネスモデルと競合する。「モバゲータウン」のヒットで公式アプリの重要度が下がった日本のモバイルビジネスと同じ轍を踏んでしまうのだ。しかしAndroidやWindows Phoneといった競合が出現する中で、Safariで参照できないWEBサイトがあるというのは、大きな課題となる。


iPhone版「エレメンタルモンスターTD」
ハンゲーム版「エレメンタルモンスターTD ~ギルドガーディアンズ~」

 一方コンテンツプロバイダー側からすれば、Flashでゲームを作れば、機種に関係なくWEB上でコンテンツを供給できる。実際にFlashの開発元であるAdobeでは、Flash Playerをあらゆるデバイスで同じように動作させる「Open Screen Project」を進めている。「エレメンタルモンスターTD」もFlashで開発されており、ハンゲーム向けにブラウザゲーム「エレメンタルモンスターTD ~ギルドガーディアンズ~」として供給されている。柴田氏は「Open Screen Project」は歓迎で、他のスマートフォンにも展開していきたいと述べた。

 これに対して幅氏はFlashが使えない場合の次善策として、同社の動画再生システム「CRI Sofdec for iPhone/iPod touch」を紹介した。大手では「産経新聞iPhone版」Ver 2.1.1より実装されており、アプリ内の任意の位置に、任意のサイズ・解像度で動画が埋め込める。ピンチアウトなども可能だ。実証実験では記事中で動画広告を表示させ、広告終了後にGPS機能を用いて最寄りの店舗を表示させるなど、立体的な活用が試された。幅氏は、「これにより新しいアド(広告)ゲームが生まれる可能性もある」とした。いずれにせよ来年もまた、さまざまな変化がiPhoneを中心に期待できそうだ。

 次回のセミナーは2010年1月15日で、株式会社バンダイナムコゲームスの「RIDGE RACER ACCELERATED」、「ACE COMBAT Xi Skies of Incursion」、「のびのびBOY」の開発担当者によるメイキングが予定されている。「のびのびBOY」では開発者の高橋慶太さんも登壇予定だ。


(2009年 12月 21日)

[Reported by 小野憲史]