IGDA日本、第2回iPhone/iPod touch ゲームセミナーを開催

CRIがマーケティングツール「CLOUDIA」を発表
「SPACE INVADERS INFINITY GENE」開発秘話も


9月14日 開催

会場:アップルストア銀座



 国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)は、アップルストア銀座で9月14日、セミナーイベント「iPhone/iPod Touch Game Devシリーズセミナー(2)」を開催した。イベントでは、株式会社CRI・ミドルウェアの幅朝徳氏と、株式会社タイトーの石田礼輔氏が登壇した。

 幅氏はiPhoneアプリ向けマーケティング支援サービス「CLOUDIA」を発表。石田氏はApp Storeで配信中のシューティング「SPACE INVADERS INFINITY GENE」のメイキングについて語った。会場は80席の座席が早々に埋まり、立ち見であふれるほどの盛況ぶりで、参加者の関心の高さを印象づけた。




■ インラインアプリPRに対応するには?

CRI・ミドルウェアの幅朝徳氏

 国内ミドルウェアメーカーの雄として約2,000作品、ディスクにして約2億5千万枚もの供給実績を持つCRI・ミドルウェア。今年からモバイル向け新ブランド 「CRIWARE mobile」を立ち上げ、全社員にiPhone 3GSを配布するなど、iPhone/SmartPhone市場の取り組みにも力を入れている。すでにムービー関連で「CRI Sofdec」、オーディオ関連で「CRI ADX」、ファイル圧縮管理で「ファイルマジックPRO」など、iPhone/iPod touch向けのミドルウェアも展開してきた。

 しかし同社が行なった意識調査によると、ゲーム開発者の約9割がiPhoneアプリ開発に興味があり、さまざまな可能性や魅力があるものの、課題も多いことがわかった。特にビジネス面での「国内ユーザー数が少なく、海外前提になる」、「アプリ数が膨大で、すぐに埋もれてしまう」、「プロモーションや海外マーケティングが難しい」といった点は、大手から個人開発者まで、誰もが共通して抱える悩みだろう。なお、この報告書は同社の公式サイトから無料でダウンロードできるので、興味のある方はチェックして欲しい。


iPhoneアプリ開発の関心度は高く、据え置き型・携帯ゲーム機・携帯アプリと部門を問わず開発されている。開発的には携帯機やタッチパネル、ビジネス的には市場の大きさが魅力だが、さまざまな課題も浮き彫りになった

 ここで幅氏は、iPhoneプラットフォームにおける、インラインアプリを用いたプロモーションの重要性について指摘した。これはアプリ内で自社タイトルの宣伝を行なうPRスタイルで、中にはアプリを広告プラットフォームの1つととらえ、他社タイトルの宣伝まで行なう例もあるほどだ。ただし、実際には画面がバナー広告で溢れるのをユーザーが嫌がったり、汎用的なインラインアプリ環境の構築が難しかったりと、多くの課題がある。広告の入れ替えだけでアプリを再ビルドし、App Storeで配信するのも大変だ。そもそも、そこまで手が回らないという小規模のチームが多いのも現状だろう。

 そこで発表されたのが、ヴァルアップテクノロジ株式会社と共同開発したマーケティング支援サービス「CLOUDIA」(クラウディア)だ。これは名前のとおりクラウド型のPRエンジンで、あらかじめアプリにCLOUDIAを組み込んでおけば、リリース後もブラウザベースによる作業だけで、誰でも簡単に広告部分を差し替えられるというもの。ローンチ時点での告知スタイルは「汎用バナー」、「カバーフロー」、「カバーセル」の3種類で、テキストによるアプリ解説、App StoreやYouTube、外部サイトへのリンクも埋め込める。バナーのタップ数やダウンロード数などの計測データも、ブラウザ上で閲覧できる。


CLOUDIAはクラウド型のPRエンジンで、まずは3種類の告知スタイルでスタートする。作業はウェブベースで完結し、プログラマーの手をわずらわせずに行なえる

 実演デモによると、「カバーフロー」や「カバーセル」は、フリック操作を生かしたグラフィカルな内容で、iPhoneユーザーの嗜好にも適しているように感じられた。広告部分の差し替え作業についても、ブラウザ上でスタイルを選択したり、バナー画像を選んだり、解説文をテキストで入力するだけの簡単なもので、洗練されているように感じた。テキスト部分を変更すれば、多言語対応ができる点も魅力だ。幅氏は「PRのためにプログラマーを用意する必要はない。極端な話、未経験のアルバイトでも作業ができる」という。


「汎用バナー」はいわゆるバナー広告のスタイル。タッチでApp Storeなどにリンクさせられる「カバーフロー」はiPodのアルバム選択操作などと同じく、画面下のバナーを左右にフリック(指をスライド)して選択する「カバーセル」はカバーフローと同じ操作だが、こちらはバナーが円形に配置され、左右に回して選択する
それぞれの告知ページには、テキストによる説明ページもリンクできる会場ではβサービスの募集も行なわれ、個人・法人問わず応募を受け付けるという

 幅氏はアップデートの予定についても明らかにした。告知スタイルやエンジン部分、解析機能の強化のほか、「アプリランチャー機能」、「アップデート告知」、「App Storeランキング連動」などを検討中だという。ユーザーにお勧めのアプリを教えてくれる「リコメンデーション機能」や、バックグラウンドでPR動画などをダウンロードしておき、必要に応じてiPhone上で再生する機能も盛り込む考えだ。さらに、いわゆる「実績機能」や、Facebookなどのオープン型SNSとの連動、Android携帯などマルチプラットフォーム展開を盛り込んだ「CLOUDIA NEO(仮称)」の構想も明らかにした。

 価格体系については、いわゆるSaaS(Software as a Service)スタイルのサービスなので、これに準拠するとしつつも、「法人と個人で異なる付加価値をつけ、価格を切り分けたい」として、個人開発者もフォローする考えを示した。近日中にβテストの開始や、CLOUDIAを搭載したアプリのリリースも予定している。

 幅氏によると、ランキングの上位100位に顔を出すような人気メーカーは、1社あたり約9.8本のアプリをリリースしているそうで、このブランド化や相互PRは、どの企業にとっても課題となっている。特に中小デベロッパーにとっては、注目のソリューションだろう。




■ 幾重にも「進化」を織り交ぜたシューティング

タイトーの石田礼輔氏
タイトーの小塩広和氏

 セミナーの後半では、タイトーの石田礼輔氏が、自らディレクター兼グラフィックスデザイナーとして制作に携わったiPhoneアプリ「SPACE INVADERS INFINITY GENE」のメイキングについて講演した。内容がサウンド面にも及ぶと、タイトーのサウンド集団ZUNTATAの一員で、本作でもサウンド全般を担当した小塩広一氏も加わり、シンセサイザーで実際に音楽を鳴らしながら、トークを繰り広げた。

 石田氏は2000年にタイトーに入社後、主にモバイルゲームの開発を続けてきた。「トランスピンボール」、「スピカ★アドベンチャー」、「ニジイロエンソク」などを手がけた後に、上司から「『スペースインベーダー』の30周年にあわせて、iPhone向けに新作アプリを造って欲しい」という打診を受けた。大の「スペースインベーダー」フリークだったという石田氏は、ふたつ返事でこれを了解した。


自らインフィニティポーズを取る石田氏は、自作「トランスピンボール」、「スピカ★アドベンチャー」にもインベーダーのイメージを散りばめるほどの「スペースインベーダー」フリーク小塩氏は作曲からプログラムまで幅広い立場でサウンド制作に携わってきた

 もっとも、かつて社会現象を引き起こした「スペースインベーダー」といっても、今の世代にとっては、なじみが薄いものになっているのも事実だ。これは同作が切り開いた、シューティングゲームというジャンルについても同じことがいえる。そこで石田氏はゲームのコンセプトに「進化」を掲げた。若いゲーマーに「進化した」スペースインベーダーをプレイしてもらい、ブランドの認知度向上を図るとともに、ゲームを遊ぶことで「シューティングの歴史も体験できる」ものにしたいと考えた。

 未プレイのユーザー向けに本作の概要を説明すると、本作はステージクリア型の縦画面シューティングだ。1ステージは数十秒でクリアでき、テンポよく進んでいく。開始直後のステージ1-1は往年の「スペースインベーダー」だが、パワーアップアイテムで武器の強化が可能。さらにステージが進むにつれて武器が選べるようになったり、左右だけでなく前後にも移動できるようになったり、敵の攻撃やステージ構成も変化していく。ステージ2-1からは縦スクロールシューティングとなり、次第に「レイフォース」のようなロックオンレーザー攻撃が可能になったり、画面に収まらないほど巨大なUFOが登場したりもする。名作シューティングのオマージュも散りばめられ、シューティングファンならニヤリとする仕掛けが満載だ。


最初は「スペースインベーダー」だが、ステージが進むにつれてパワーアップしたり、ゲーム内容が変わっていく。6面ごとに中ボスステージがあり、クリアすると内容が劇的に変わる。ステージ2-1からは縦スクロールシューティングとなり、「レイフォース」、「ダライアス」といった名作のオマージュもふんだんに取り入れられている

 石田氏は、ゲームプレイを通した「進化」体験をどのように表現するか、非常に悩んだという。そもそも「進化」は、ある条件にもとづいて、さまざまに展開が変化していくという、いわゆる「分岐」をイメージしやすい。リリース後もユーザーから「もっといろいろ、展開が変化しないんですか?」と聞かれることが多いという。ただし分岐要素を盛り込むと、時には意思に反した進化をさせられたり、テンポが悪くなったりと、わかりやすさが削がれてしまう。そこでステージクリア型のアンロックシステムを基本とした、現在の方式に割り切られた。その上でシューティングの歴史を体験できるように、ステージデザインなどに、さまざまな工夫がなされた。


ゲームのコンセプトは、「ゲームの進化の歴史を追体験」だったが、それはあくまでゲームプレイを通して得られなければならなかった。また分岐要素は自然分岐、選択分岐ともに一長一短だとして、最終的に省略された

 また、石田氏が講演中に何度もキーワードとして上げたのが「口コミ効果」(バズマーケティング)をいかに広げるか、だった。「ウリがひとことで表現できる」、「印象に残るビジュアル」、「誰にでもわかる」……これらは、いずれも口コミ効果を広げる上で不可欠な要素だ。操作方法についても、本体を傾けたり、タップした場所に自機が移動するようにしたりと、何種類かの方法が試されたが、結果的に画面を指でスライドすると、動きにあわせて自機が移動するという今のスタイルが、最も遊びやすいとわかった。そこでユーザーを混乱させないために、あえて他の方式を省略した。

 このほか「白と黒を基調に、幾何学模様を配置する『クールで、ビミョーに違和感のあるデザイン』」、「ステージ上にあからさまな安全地帯を設ける」、「ステージごとに武器の有利不利を際だたせる」、「メニューを進化系統樹風にして、ユーザーによって変化するようにする」、「iPhone内の音楽トラックを選ぶと、それによってオリジナルステージが遊べる『ミュージックモード』の搭載」なども、口コミ効果を狙ったものだ。そこにはモバイルゲームでダウンロードコンテンツを中心に開発してきた、石田氏ならではの配慮が感じられた。


キービジュアルは当初地味すぎるとして、色をつけたり光らせるなどの試みもあったが、逆に平凡になるとして、元に戻された。その一方で昔のモニターの走査線を疑似再現するなどして、レトロフューチャー感を演出している

 もう1つ、石田氏が心がけたのが、プレーヤーの感情を意識的に高揚させるような演出を、できる限り排除するという点だ。テキストやストーリー性ではなく、純粋にゲームプレイを通して、プレーヤーに「進化」を伝えたい……。その思いはグラフィックスやサウンドにも及んだ。インベーダーはアイコン以上の意味を持たず、サウンドもデジタルで硬質なものに限定。現代的なシューティングでは、「ダライアス」、「レイフォース」をはじめ、メロディアスで聞いているだけで高揚するようなサウンドが主流だが、これとは正反対の内容とするべく、何度もリテイクが重ねられた。

 小塩氏は石田氏とのメールのやりとりを披露しながら、当時のエピソードを披露した。初めに企画内容から、自分なりにイメージを膨らませてデモサウンドを作ったところ、熱いメールが返ってきた。「ポップでダンサブル過ぎて、本作には合わない」とダメ出しされたのだ。その後もベースライン1つとっても「できるだけフラットで、感情的でないもの」という石田氏の指示に、「感情的って何だ」と小塩氏が疑問に感じ、夜中まで激論が続いたこともあったという。

 こうした「殴り合いの日々」を経て、徐々に互いの理解も深まり、アプリのリリース後に急遽、iTunesでサントラが発売されるほどの人気サウンドが完成した。小塩氏は「iPhoneは音がいいので、つい贅沢をしたくなるが、チープさを生かすことで、『スペースインベーダー』のレトロ感を表現できた。このゲームを作って、ZUNTATAも進化できた」という。最後に石田氏は喉を手で叩きながら、インベーダー風に声を潰して「コレカラモヨロシクオネガイシマス」と講演を結んだ。

 次回のセミナーは10月16日で、携帯コンテンツ開発のテクノードと翠猫館が講演する予定。


講演では小塩氏が「レイフォース」のBGMや、本作のメニューサウンドを演奏する一幕もみられた。セミナー終了後は会場内で名刺交換などが行なわれた

(2009年 9月 15日)

[Reported by 小野憲史]